ep.19 中華街的款待
いつも人で溢れ返っているチャイナタウンは、今日は港の花火大会がある事で浴衣姿も多く見られ、ますます賑わっていた。
占いや屋台の呼び込みも多く出ており、チャイナ服姿の子たちが華やかさを増していた。格闘ゲームキャラのミニスカチャイナ服の子たちなども、楽しそうに呼び込みをしていた。
ボギーは食べ歩きをしている男たちに声を掛けた。
「ねーアンタたち。俺、ロクに案内頼まれたんだけどさ、アンタたちだよね」
彼らは顔を見合わせた。
「──誰それ。知らないけど。あんたこそ誰?」
「俺、元野良」
それを聞いて彼らの顔がパッと明るくなった。
「何だ、焦ったよ。ID欲しがるやつは他のブローカーからも狙われるって聞いてたからさ」
「他のとこ行ったら高い金払わされるし、体にチップ入って無いと外国人に思われて、下手したら売り飛ばされるって言うし」
「お前もタダでIDもらったんだろ?」
「うん、まあ、そうだね」
「すげーよな。俺らの救世主だわ、ロクさん」
「こっち」
ボギーは彼らを連れて、チャイナタウンの中でも高級店の一つであるお店に入って行った。
階段を上がり個室のドアを開け、ボギーは彼らを先に中に入れた。
部屋の中央の円卓では、辨野が黙々と北京ダックを食べていた。
「あっ!」
一瞬で理解し、青ざめる彼らは逃げようとドアに向かったが、すでに場地とビリーがドアの前に立っていた。
「お前──騙したのかよ」
4人がボギーを睨んだ。
「クソっ! あとちょっとだったのに……何で邪魔すんだよ! 別にあんたたちには関係ないじゃん。あんたたちに迷惑かけて無いだろ!」
「まあまあ、とりあえず座んなって」
辨野は箸を置いた。
一人の男が、ビリーを見て驚いた顔をした。
「……見た事あると思ったら、ビリッケツのビリーか」
「久しぶり、センパイたち」
ビリーはただ冷静に彼らをじっと見つめていたが、
「僕はお店の人を遠ざけてくる。ドアの外で見張ってるから」と、個室を出た。
「クソッ! 何だよ! コソコソ生きてくなんてウンザリなんだよ! あんなとこで生まれたばっかりに! たまには遊びに行ったりは出来るさ。カラオケ行ったり飲みに行ったり、短時間はな。かあちゃんたちだって、あそこで生まれなきゃあんな苦労すること無かったんだ。野良で生まれなきゃ、何の苦労もなく、学校行って、働いて、好きなだけ外で……あと……」
彼は言葉が詰まって、何も言わなくなった。
辨野はお茶を一口飲んで言った。
「あー俺ね、お前らを説得しようとか無いから」
ボギーは『そうなの?』って顔をした。
「ID欲しかったら貰ってくればいい。ただお前らに、今までIDを手に入れた野良がどうなったかを教えてやんなきゃと思ってな」
「堂々と外歩いて、飯食って、普通に働いて、やりたい事をやれると思ってるんだよ最初は────だが知らない奴の命が犠牲になってるって事実は消えないし、自分は犯罪者だから結局堂々と出来ない、しんどい、だとさ。
大体の奴が戻ってくるか、自ら──そんなのばっか見せられて来たんだよ。
どこで生まれたかとか、自分の力で変えられないものはしょうがないから諦めろ。
自分が持ってる手札を全部、目一杯使って必死で生き残るのは、どこで生まれようが一緒一緒」
辨野はまたお茶を一口飲んだ。
「堂々と外歩いて、やりたい事をやりたい放題やれるように、俺たちもいろいろやってるからさ。だからもうちょっと待ってろって」
辨野が呼び鈴を鳴らすと、ビリーが戻って来た。
「料理の続きを出してもらうから、お前ら全部食ってけよ。ビリーたちもな。俺たちの仕事はこれで終わり。あっちは警察が動いてるから放っておけ」
辨野はそう言って個室を出た。
階段の下には配膳係の女性と初老の男性が立っていた。辨野に気づいた男性は、すぐさま声をかけて来た。
「お久しぶりです、辨野様。今日は直斗様とご一緒では無いのですね」
「お久しぶり、支配人。今度は直ちゃんと一緒に来ますよ」
「お待ちしております」
「あ、料理の続き、出していただいてオッケーです」
辨野にそう言われ、配膳係の女性は
「かしこまりました」と言って厨房に向かった。
静まり返った個室の中、場地が口を開いた。
「もうロクのところに警察が到着するんだよ」
場地はため息をついた。
「“普通“の客だったらブタ箱か、まあそんなんで済むけど、野良だったらどうだ?」
意気消沈していた4人は、今度は恐怖で青ざめた。
「何でベンさんも肝心なとこ言わないかね。やっぱり説得したかったんだよ、あの人」
そこでドアがノックされ、料理が運ばれて来た。
「ほら、食うぞみんな」
場地もビリーも席につき、勝手に食べ始めた。
「ねえ、ベンさんはどこに行ったの?」
ボギーは場地とビリーを交互に見た。
「…………まあ、気にすんなよ」
「…………」
場地もビリーも、素知らぬ顔をして食べ続けた。
ボギーが慌てて駐車場に戻ると、辨野の車が無かった。




