ep.16 魔界のヒーロー(仮)
悪魔たちは虎視眈々と
人間を誘惑する機会を伺い
闇に落とし腹を満たす
「動けません……」
夕飯時になってもまだベッドから出て来ない辨野に、ボギーは飯を食えと催促していた。
「ベンさんの好きなやつなのに〜」
ダイニングでは、誰も気にせず食事を終わらせていた。
「いつもの事だから気にすんな」と、場地が言った。
「那羅延天様のバトルの時は、いつもこうだから」とビリーも言った。
「ところで」とボギーはソワソワしながら、ビリーに話しかけた。
「さっきじーちゃんたちに聞いたんだけどさ、ビリーさんに頼みがアリマス」
「?」
先日のナリタのバトル後、ボギーの体から離れたケルベロスは、意識の中でも会えるようコツを教えて消えて行った。
帰りの車中で、何故イズモに受け入れてもらえないのか辨野に聞いたボギー。
「だって“仲間”としては問題ないって言われたんでしょ? 何でイズモの結界に入るのは駄目なん?」
「いや……イズモは問題ないんだ。多分お前側……楽器屋の方が耐えられないだろうって事」
「うぇ?」
「魔物が耐えられない領域みたいなもんがあるんだよ。そういう意味でイズモと……まぁ、行く事は無いだろうが、イセは別格ってやつなの」
「ふーん、なるほど。じーちゃんたちに聞いてみる」
楽器屋の姿で現れたケルベロスは、皆、相変わらず穏やかだった。
《俺たちを眠らせたら、イズモとやらにも入れるかもしれんな》
《寝てる間は知らんから》
《眠る方法はあるんだが、自ら口には出来ないんだよ》
《そういうルールなんだ。すまんなぁ》
3人の顔ははっきり見えていたが、暗闇で体は見えない。クロスロードで会った時もそうだったとボギーは思い出した。
「そっか! 体は一つだったのか! じゃなくて、その眠る方法を教えてくれそうな人、誰かいない?」
《うーん……ああ! サリエルの目を持ってる奴がいたな。そいつの守護神なら知っているかもしれん。聞いてみるといい》
「という事でした。オネガイシマス」
ソワソワお願いして来たボギーに、ビリーは少し笑って言った。
「わかった。聞いてみるね」
ビリーはいつものソファーに座り、少しの間黙って目を閉じた。
誰か教えて。ボギオは神の領域には入れないの?
ビリーが目を開けると、背中の白い羽を大きく広げた能天使の1人が、目の前に立っていた。
《──やはりケルベロスを眠らせるしかないだろうな。仲間として受け入れたとしても、領域に踏み込むというのは、日本の妖怪たちとはわけが違うだろう》
「眠らせる方法があるらしいんだけど……」
ビリーは静かに会話を続けた。
《うーん、そうだな──ああ、そいつ、何か楽器をもらってないか?》
「ギターを渡されてる」
《ならそれだ。自分たちの暴走を止める時のために、オルフェウスのハープをギターに変えて用意していたんだろう。そのギターを弾くとあいつらは眠る。3体とも寝てる間なら、イズモにも入れるかもしれない》
「……そんなアイテムだったんだ」
《あと暴走を止めたい時は焼き菓子がいい。甘い焼き菓子があれば、ケルベロスの暴走は一時中断する》
「……そ、そう」
《焼き菓子はともかく、ギターを使えるのは多分そいつだけだ》
いつの間にか皆が集まり、黙ったまま一部始終を聞いていたが、ボギーが沈黙を破った。
「じーちゃんたち、結構チョロかったね」
皆が“コイツ言いやがった”という顔をした。
「あんまりナメない方がいいっての」
「まあ、策があるなら良かったな」
「お前はとっととギターの練習しろ」
「ついでにクッキーも焼いとけ」
皆があれやこれや言ってる中、天使が話し始めた。
《あと余談だが……悪魔たちの様子を知りたいか?》
そう言った途端、皆の目が好奇心で鋭くなった。
無数の悪魔が蠢いている闇の中から聞こえてくるのは、低い呻き声と悔しそうな怒声。
魔界は憤懣に満ちた会話が続いていた。
「──ハデスの番犬が、抜けがけしやがった」
「クソ、あいつら……大人しく潜伏して何してやがると思ったら、人間のガキを使って暴れてんのか」
「人間使って機械ぶっ壊せるのか?」
「俺もちょっと人間脅して体を借りて……」
「それが出来ねーからつまんねーって言ってんだろ」
「そのガキ、俺も召喚してくんねーかな」
「俺らも使える人間を物色しに行くか」
「逃げられてエクソシストにまっしぐらってオチだわ」
「お前の見た目じゃな」
「お前もな」
「長い間、善良な人間が増え過ぎたせいなのだ。私たちの発散場所がない」
「俺を召喚しろ! ガキ!」
「何でたった数百年の間で、こんなにいい子ちゃんになってやがるんだ、人間のくせに」
「ケルベロスの野郎、楽しんでやがるぜ絶対」
「クソが。ムカつく」
「羨ましい」
「ケルベロスは持ち場にいなくていいのか」
「ハデスは腹いっぱいで腹が痛いって、サタンにぼやいてたらしいからな。番犬の仕事も暇なのさ」
「罪悪と悪人を食い過ぎたって? それも羨ましいわ」
「俺らが食える分の罪人がいないのはそのせいじゃねーのか」
「いや、今までは食っても食っても湧いて出たのが罪人だ。人間が面白くなくなったんだよ。機械に囲まれてっから人間も機械みてーになったのさ」
「くそー、俺と契約しろ! 小僧!」
「序列順なら俺が先だ」
「俺が先だ! 俺を召喚しろ人間!」
《──こんな感じで、七十二柱の悪魔たちが騒いでいる》
「……ありがとう。でも、どこ情報?」
《我々パワーズは、アークエンジェルと共に堕天使連中と関わりが深い。この悪魔の中にも元同僚がいる》
淡々と説明をする天使を前に、皆が再び無言になった。辨野がコーヒーを啜る音だけが響いた。
「お前、悪魔界隈でヒーローなんじゃね」
「……あんま嬉しくない」
「上手くなったっしょ!」
ボギーがリビングでギターを弾いていると、ソファーでだらけている双子が、
「ド下手」
「寝れねーよ」
スマホから目を離す事なく酷評していた。
「辛辣〜」
気にせず練習するボギーに、場地が声をかけた。
「そうだ、言ってなかったな──まぁ、お前は平気だと思うけど」
「何が?」
「イズモはリアル百鬼夜行だからな」
『ギターの悪魔とクロスロードで契約した』
というロバート・ジョンソンの伝説を使わせてもらってます。歌詞も悪魔っぽいのがあって好きです。
チューニングしてくれたギターを渡されたら契約、らしい。




