《22》強面皇帝と魔術師団団長3
ランナと僕の関係がマーク兄さんに知られてしまった時、あの悲しそうな傷付いた表情は忘れられない。
気の許せるランナが皇后になってくれるならとマーク兄さんは密約にそって婚姻しようと思っていたはずだ。
たとえ妹ぐらいにしか思っていなくとも婚姻したら大切に慈しみ、幸せしようと考えていただろう。
それからというもの密約解除に力を注いでくれていた。
神殿から否と言われても諦めることなく動いてくれている。
フロー兄さんがある時言ったんだ。
「深くなるまえにランナと別れろ、マークを苦しめるな。ランナに対する気持ちを清算しろ」って。
密約破棄出来ず婚姻となるのなら、前皇帝に皇位の返上を考えている、もしくは皇帝に相応しい後任を立てるって。
マーク兄さんが皇帝として治めているから、帝国に平和が続いているんだ。
僕もフロー兄さんの言う通りだと思う。別れるべきなんだ。
そう決めたのに、今も別れの“わ”の字も発せられない。
マーク兄さんも「二人が幸せになれるように、必ずなんとかするから心配いらないよ。堂々と恋人として過ごしなさい。君たちの兄として心から祝福する。」と僕たちに言ってくれた。
僕にランナがいるように、マーク兄さんの傍らにも愛する女性が現れて支えてほしい、幸せにしてあげてほしいと願っていた。
それが、今……!!!マーク兄さんの腕の中に金色の美しい女の子がいる。
マーク兄さんの幸せそうな、蕩けるような雰囲気に自分のことのように、それ以上に喜びで溢れている。
溢れそうになる涙を袖で拭いて気持ちを落ち着かせる。
マーク兄さんとフロー兄さんの二人の会話に耳を傾けた。拡音増聴魔法で離れていても会話が僕たち三人に聞こえていた。
リリィーと呼ばれる女の子。
マーク兄さんの攻撃により巻き込まれて空から落ちてきた女の子。
マーク兄さんの部屋に運び治療を施し、完治するまで保護するということ。
わかったのはこの三つだけである。
城内に姿を消したマーク兄さんに思いを馳せていると、広場からざわめきが聞こえた。
「「………っ!お、おい!おい!!あれ、見てみろよ、なんなんだこれはー!!?」」
空を指差し更なる驚きを発している。
その言葉に反応して、一斉に空を見上げる。
そこには、色とりどりの野鳥、蝶、見たこともない空を舞う生き物が集まっていた。地上には小動物や普段現れることのない珍しい大型の動物が列をなしこちらへ向かってくる。
マーク兄さんの愛馬の側にいる謎の大鷲が突然『『キィーー!』』と鳴いた。
それを合図に動物達が一斉に城に向かって頭を垂れた。
と同時に厚く覆われた黒い雲が去り、光が我が国を照らしている。
晴れ渡るような青々とした空はまるで皇帝の瞳の色。
その神秘的な光景を目の当たりにして、所々から『女神さま……天使さま……聖女さま……』などと聞こえてくる。
いち早く状況を把握した両親は「これは大変ね、対策をしないと。」「騒ぎが拡がる前に手を打たねばならないな。」と言う。
その声に我に返った僕は力強く頷いた。
フロー兄さんが立ち去る際に、僕に向けた鋭い視線。
『この場を任せる』と言っているようだった。
(困ったことになった……。マーク兄さんのために僕がなんとかしないと……)
悩み抜いて出した結論。合っているだろうか。
隣にいる母の瞳を探るように見つめた。
「ねぇ母様、どう思う?」
魔法の師であり、前魔法師団団長である母の知識は底知れない。
「そうね、彼女は聖女だと思うわ。微力ではあったけど清らかな気があの女の子から読み取れたわ。それにこの天候やあの動物達の行動も言い伝えの通りよね。」
「……聖女さまだと!?神殿が知ったら……国が荒れるぞ。まずいな。」
父は腕を組み目を閉じて何かを考えている。その瞳はとても険しい。
「さぁ、ステファン団長!あなたならどう収める?意見を聞かせてちょうだい。」
緊迫した状況でも母は落ち着いている。弟子を指導する師匠の顔だ。
「……そうだねー、一気に忘却変換魔法が手っ取り早いかな。」
「ふふ。合格。私たち二人なら可能ね。流石私の子!正解よ!それにしても、フローは相変わらず勘の鋭い子ね。こうなることを予想していたのかしら?」
「どうだろうね。フロー兄さんも予想外だと思うよ。まさか聖女が帝国に降臨しました!なんて絶対信じないよ。頭堅いしね。何処の誰だかわからないって聞いたときの不快感隠せてなかったし!さっきの情景は保存してたから、あとで兄さんにみせよう!驚愕の表情がみれるかもね、楽しみだね〜♪」
フロー兄さんの驚きに見開かれた目ん玉を想像すると楽しくなる。僕の気分が最高潮なのは別の理由もある。
「じゃあ母様、お願い、協力して!!」
「えぇ、そうね!」
手を繋いで魔力を最大限まで高めて忘却変換魔法を広場全体にかけていく。淡い紫色の光に包まれていた。
動物達が集まってきたことは忘れさせて……。
金色の美しい髪を持っていることも頭の中から消え失せさせて……。
降り注ぐ天からの光は皇帝の初恋の光に置き換えて……。
「女神さま」=皇帝の愛する女性
「天使さま」=皇帝の婚約者
「聖女さま」=皇帝の伴侶、未来の皇后陛下
と変換するように魔法を掛けた。
最後に漏れがないか厳密に確認していく。
母さんの「完璧!!」の声に安堵の息をはいた。
これで、聖女云々に関して外に漏れることはない。
心の中の靄が晴れ、軽快な足取りでマーク兄さんたちのいる場所へ向かえそうだ。
見上げた空には珍しくどんよりとした雲が一つもない。晴れ渡る空はマーク兄さんの瞳の色。僕の大好きな青色。
マーク兄さんに『おめでとう!幸せになってね!』と言える日がすぐそこまできている。そんな期待に胸を膨らませていく。
誰一人として不幸にならない結末とランナの弾けんばかりの笑った顔を想像すると心が踊る。蓋をしていた想いが開放された気分だった。
次は僕がマーク兄さんとあの女の子を守る番。
あの女の子が聖女だと知れば、神殿が身柄を寄越せと圧力をかけてくるだろう。それどころか、教皇の妃に……と求めてくるばずだ。
マーク兄さんの愛しいひとは僕にとっても大切なひと。
神殿に振り回される人生なんてもう我慢ならない。
絶対に護ってみせる。
もう一度スカイブルーの空を目に焼き付けて、自らの心に固く誓った。
「父様、母様、さぁ行こうか!!!」
二人の手を再び握ると転移魔法で皇帝執務室に向かった。




