《20》強面皇帝と魔術師団団長1
(困ったことになった……。)
帝国筆頭魔法師団団長はこの騒がしい広場をどのように収めようか悩んでいた。
(マーク兄さんのために僕がなんとかしないと……)
◇◇◆◆◇◇
帝国筆頭魔法師団団長。
それが、僕の役職。
僕はステファン・ルクセンロズ。
ルクセンロズ公爵家の次男である。
父は前宰相。兄は現宰相。母は前帝国魔術師団団長。
団長職を退いた母の後釜として、僕は現帝国魔術師団団長になった。
団長を引き継ぎ、歳も二十三と若すぎると前団長の母は相談・指導役として魔術師棟に籍を置いている。
完璧主義者の母から鬼のような厳しい指導を受ける日々である。
当初、母は週のうち二日だけ登城し指導する予定であったが、気が付けば三日となり……五日、六日と増えていき……今では七日……毎日現れる。お陰さまで僕には休みが無い。
更に、母のことが大好きな父が離れたくないと駄々を捏ねた結果、二人で登城するようになった。
初めは団長室に母と僕の二つの執務机を置いていたが、現在は父の執務机も置かれている。
数年前、母の引退を期に父も宰相職を兄に譲った。
母といたいから……という理由だけで辞する父って……
本来なら、皇帝の側で兄の補佐役として王城の執務室にいるはずなのにあちらには寄り付かず……ちゃっかり魔術師塔に自分の部屋を作り、僕の執務室に荷物を運びこんで悠々と茶菓子を食べ、愛する妻を熱い眼差しで眺めのんびり寛いでいる。
僕の執務室に入り浸りの父は、激務の宰相職から辞したことで今までもらえなかった休暇をまとめて取ることにした。しばしの休養が必要なんだと皆を説得し長期休暇に入った。
その後、あまりにも長い休暇により領地の仕事が溜まりに溜まって公爵家の側近、文官からの苦情の嵐……ということで父も一緒に執務に励んでいる。
父よ、勘弁してくれ。母に執着しずきだよ。二三にもなって親子三人同じ執務室って……周りからのあたたか〜い眼差しが注がれている現実、、息子として恥ずかしい。
優秀な兄は相談役を置かずとも淡々と職務を全うしている。
フロー兄さんは冷酷な人間だと思う。
公爵家の嫡男、宰相の息子、時期宰相というプレッシャーから、人一倍勉学に励み自分を律してきた。
面白味のない真面目すぎる男になってしまったんだと思う。
『ひとを頼るな、自らの力で解決を導きだせ』それが口癖。
自分のことは自分で解決がモットー。人を頼ることは己に負けたことを証明しているなんて言う。常に先を読み、利己的で冷淡に物事を解決していく。
幼いころから積み重なって、僕たち兄弟の間に分厚い壁が何枚も何枚も作られている。この壁は死んでもそのままだろう。
マーク兄さんの害になるような人物を裏で排除してきたのもフロー兄さんだ。
一つだけ意見が合うのは、マーク兄さんを心の底から心酔していて、自分を犠牲にしても守り抜く覚悟は一致している。
誰よりもマーク兄さんを優先するフロー兄さんを陰ながら尊敬している。面と向かって言わないけどね……
兄弟ではなく、上司、部下みたいな関係でもいいと思っている。
幼い頃の記憶を思い起こしても、フロー兄さんに遊んでもらったことは一度だってない。
武術も魔術も様々な遊びを教えてくれたのはマーク兄さんだ。実の兄より兄らしく、昔から僕のことを可愛がってくれる大大大大大好きな兄さんだ。
勉強も魔法も生きるすべも大切なことは全てマーク兄さんが教えてくれた。優しくて頼りになって、何より最強!カッコいい!!本当の兄さんだったらよかったのに。
強くて優しい、心の温かい大好きな頼もしいひと。僕にとって特別な存在である。
恋人のランナと婚姻が結べるようにと尽力してくれているのもマーク兄さんだ。
国と教皇と交わした密約。その中の一つに皇帝の婚姻がある。とても厄介で縛られた婚姻。
まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
会う度に、『ごめんな。ファンが必ずランナと結ばれるようにするから……』と謝られる。
もしも、ランナがマーク兄さんに嫁ぐ日がきてしまっても僕は恨みなんて抱かない。寧ろ臣下として全力で支えようと決めている。
大好きな二人が国を治めたら、きっと国も民も豊かで幸せに暮らせる。そんな未来しかみえないから。
でも、僕の心の底の底の方ではランナを求めている。マーク兄さんも罪悪感を抱き続ける政略的結婚ではなく、気持ちの重なった相手と一緒になって欲しいと願っている。
あと三年。
皆が幸せな未来が来ることを密に願って天を見上げた。




