《19》強面皇帝と女神の祝福
「医者はどの部屋だ?」
「……へいかの寝室です……」
「は?私の寝室??……なぜだ!?」
「申し訳ございません。陛下がお怪我をされたのでは、、と勘違いをしてしまい……まして、、」
歩みを止めたマクシミリアンは神妙な表情で固まってしまった。
数分の沈黙の後……
「……いや、よい。詳細を伝えなかった私が悪い。……寝、室は、、も……も、問題ない。行くぞ。」
マクシミリアンは再び歩き始めた。その歩きはどこかぎこちない。
《え?……えっ?!マークの部屋で問題ないと言ったのか?寝室を共にと許可したってことは、、皇帝の女としてみられても良いってことだぞ?いいのか……?本当に?神殿にはどう説明する?愛妾にするのか?そもそもあの娘はどこの家の令嬢だ?ランナは正妃候補から外れて自由になれるってことか?それは願ってもない好機だが……》
隣に並んでいたレックスの心の声が漏れている。
冷静を装い同じ部屋でいいと発しながらも瞳が泳ぎ動揺している。女嫌いのマークがうっすら頬を染めて、、照れてる。なんだか嬉しそうである。
レックスは全身全霊でその愛を応援しますと熱いオーラを放っている。
勿論、フローレンもその気持ちはあるのだが、現実を考えると厳しい。不安しかない。
兎にも角にもその女性がどこのだれか教えて欲しい。一抹の望みに賭けるしかない。
「陛下、しばしお待ちを………。それで、、あの、、陛下そちらの女性のことをお聞きしても……よろしいでしょうか?」
「あぁ。彼女はリリィーだ。私の攻撃を直に受けてしまった。私に責任がある。彼女が完治するまで面倒を見ることに決めた。お前のことだ、別の心配をしているのだな。心配ない。私の側に置くことは考えていない。あくまでも治療の為に城に滞在するだけだ。回復するまでの一時的なこと。深く考えるな。いいな。さぁ早く医者にみせよう。」
明らかに恋情が溢れているが、マクシミリアンが問題ないと言っている。レックスも真剣な表情で頷いている。
マクシミリアンはそもそも恋だの愛だのに疎い男であり、女性に抱く情というものを知らない。その胸の高鳴りの正体は何かを一ミリも理解していなかった。初めて触れた女性に対して、ただ緊張しているからだと思っている。
そのことを自分自身で自覚するのはまだまだ先のことである。
フローレンとレックスはマクシミリアンに抱えられている意識のない金の色を持った得たいの知れない女性に瞳をおろした。
その場にいた皆も““リリィー””と呼ばれる女性に目を向けた。ハラリと揺れる金糸のような細く長い髪に釘付けになる。
《《《う、美しい……》》》
誰もが見惚れるほどの美しさであった。
顔を覗きこもうとする者もいたが、マクシミリアンの腕の筋肉に遮られ見えない。チラリとのぞく白雪のような肌。鼻筋はピンっと高く、真っ赤な唇。輪郭はスゥーっと通っていて、醸し出される雰囲気は高貴な華を纏っている。微かに甘い花の香りが鼻をくすぐる。
我らの主の腕に抱かれる小さく弱々しい女性は陽光に照らされ、キラキラと光る神秘的な金の髪を風で揺らし、甘い匂いを放っている。まるで、上等な酒を喰らっているかのような気分で酔いそうになる。嫌な感じではなく心地が良い薫り。
それに、何故かその女性をみていると体がポカポカと暖かく気分が上がっていくように感じた。
野次馬の花屋の店主が持つ花束が生き生きと生命力が溢れだし輝きだした。さっきまでしなしなに干からびた廃棄確定の品物だったのに、何故か店先の売り物の花よりも質がいい。
農業を営む農家の男性は見上げた空に驚いた。いつもどんよりと雲がかかっていて、作物の育ちはあまりよくない。少しでも陽が射せばいいのに……と祈りを捧げているほど農業関係者悩みの種だった。
しかし、どう言うことだろうか。先ほどから見たこともない透き通るブルーが空一面に広がっている。日照時間の短い国なのに燦々と太陽が帝国全体を明るく照らしているのだ。
これまた野次馬の鍛冶屋の親父さんが「あれ、腰の痛みがねぇ。」と発している。他にも「膝の痛みがなくなった。偏頭痛が……腹の痛みが……古傷が……薄毛が……あれ?お前、髪生えてきてねぇか?!……」などなど不調を訴えていた者が不思議な現象に首をかしげた。
外野がざわついているのに気付かないマクシミリアンは、スタスタと急ぎ足で城内に歩みを進めた。
フローレン、レックスも後に続き城内部に姿を消した。
その場に残った大臣や騎士、その他諸々の人達は、未だに自分の身に起きている状況をどう捉えたらいいのかわからず、固まったまま動けないでいた。
ふと誰かが「………っ!お、おい!おい!!あれ、見てみろよ、なんなんだこれはー!!?」と空を指差し更なる驚きを発した。
その言葉に反応して、一斉に空を見上げる。
そこには、色とりどりの野鳥、蝶など見たこともない空を舞う生き物が集まっていた。
そして、地上には小動物や普段現れることのない珍しい大型の動物が列をなしこちらへ向かってくる。先頭を白い大型の狼らしき動物。馬車付近までやってくると、先程から馬車のそばでくつろいでいた大鷲が『『キィーー!』』と1度鳴く。
それを合図に一斉に城に向かって頭を垂れた。
「こっ……これは!……女神の祝福ではないか!!」
一人のご老人が高らかに声を張り上げた。
「聞いたことあるぞ!」
「数百年に一度現れるといわれる自然界の女神の化身だろ。」
「天使さまじゃないのか?!」
「おれは聖女だってきいたぞ!」
「祝福を受けた女人の住まう国や世界は明るく、実りのある平和な世になるっていう、昔話、あれのことか?」
「この痛みが消えたのも、古傷が治ってるのも、空が明るいのも女神の祝福のおかげなのか!?」
「皇帝陛下のお連れになった女性が女神の化身であり、天使さま、聖女さまってことか!すげー!!!」
「マジかよ!」
「「「流石、我らのマクシミリアン皇帝陛下!」」」
「「「一緒、あなた様に付いていきまーす!!」」」
「「「マクシミリアン皇帝陛下ばんざーい!!」」」
「「「我らが女神様!天使様!聖女様!ばんざーい!!」」」




