66. 相手の癖を見抜く時、相手もまたこちらの癖を見抜いているのだ
すみません、更新遅くなりました……
先に戦っていたハクレシアが十分にヘイトを稼いだことを確認し、3分遅れで俺も戦闘に参加した。
相手は、二本足で立つと3メートルを超える大きな熊───『ジャイアント・ベアー』。
遠くから見てた時でも分かってはいたが、実際に近くで見ると迫力が違う。
この大きさのボスは『ロックストンダンジョン』のボス───『ロックストンゴーレム』以来だ。
「お待たせ! このままボスの相手継続できそう?」
「……大丈夫、問題ない。『ステップスラッシュ』」
ここまで一切被弾せずに戦っていたが、念のために聞いてみたところ、このような返事が返ってきた。
「本当に頼もしいね!」
そういうことなら援護射撃に専念するとしよう。
「《ファイヤーアロー》……《ファイヤーアロー》……《ファイヤーアロー》!」
『ファイヤーアロー』は発動までに若干時間がかかるためソロでは使いにくい魔法だが、前で攻撃を引き受けてくれる仲間がいるならその弱点はあってないようなもの。
ハクレシアが次に動くであろう場所を予測しながら、的確にボスにだけ攻撃を通していく。
そうして、俺が戦闘に加わって1分が経とうかという頃。
俺はふとハクレシアの動きに違和感を覚えた。
(……何だろう。元気がないというか……さっきと比べて大人しいな。)
1人で戦っていた時はスキルを多用し、縦横無尽に翻弄するような動きを見せていたのだが、今ではその活きの良さは鳴りを潜めている。
どこか調子が悪いのだろうかとハクレシアの方に目を向けると、一瞬ではあるものの目が合った。
(え、今絶対目合ったよな? 戦闘中にどうして後ろを……あぁ、そういうことか。)
少し観察していると、その理由はすぐに分かった。
(俺の攻撃が当たらないように動いているんだ。……うん、冷静に考えたらそりゃそうだ。いくらフレンドリーファイアをしないからって、後ろからの攻撃を一切気にせずに戦うなんて無理だよな。)
何度も言うが、ここはゲームではなく現実の世界だ。
ゲームのように、戦うのがゲーム内のアバターならば味方からの被弾を気にせずに戦えるが、現実ではそうもいかない。
いくらダメージがないとは言っても、攻撃に当たりたいと思う人はいないだろう。
ましてや、ソロ経験の長いハクレシアのことだ。
今までは背後から飛んでくる攻撃は全て敵のものだったのだから、無意識的に反応してしまっているのかもしれない。
……うーむ、これはどうしたら克服できるだろうか。
そもそも、2人で共通の敵を相手にするってことが今までなかったからな……。
回数さえこなしていけば多少はマシになるだろうけど、それだといつになるか分からない。
なまじハクレシアのソロでの立ち回りを見た後なので、半分程度の実力しか出せないまま時間をかけるのは凄くもったいないと感じてしまう。
それに……さ。
(仮にアレをされてもちゃんと攻撃を通せるようにイメトレはしてたんだよね。舐められてるとまでは言わないけど……俺だってPSにはちょっと自信があるんでね。)
恐らく、熊の残りHPはあと3割程度。
このままいけば数分で決着がつくだろう。
……荒療治感は否めないけど、他に思いつく方法もないし仕方ない。
「ハクレシア! ここからは遠慮しないで1人の時みたいに動いてみて! 絶対に攻撃を当てなって約束するから!」
俺がそう言うと、ハクレシアは一瞬だけこちらに目を向けた。
そして、少し間を置いて口を開いた。
「……本当に? 本当に攻撃を当てないって約束するの?」
「あぁ! ……そうだ、もし攻撃を当てたら今日の晩御飯を奢るってのはどう?」
俺がそう答えると、ハクレシアは再び間を置いてから口を開いた。
「……分かった。できるものならやってみて。その代わり、その約束忘れないでよ?」
「勿論!」
「……それじゃ───『アクセルエッジ』」
俺の返事を合図に、ハクレシアの動きが目に見えて変わった。
スキルを多用して頻繁に立ち位置を変え、熊の周囲を駆けまわるハクレシア。
一見すると予測不能な立ち回りのように見えるが……俺には視える。
『トリワル』が大好きで色々と攻略情報を暗記しているが、そもそも俺の本領は対人戦。
短時間の内に相手のスキル・魔法構成を理解し、それに対してどう立ち回っていくかを判断する。
前世ではずっとそういう世界で戦ってきたのだ。
これまで数日一緒に過ごし、近くで3分間じっくりと観察することができた。
ハクレシアの取ってきそうな行動や癖は大体理解していると言ってもいい。
「ここ───《ファイヤーアロー》!」
引っかき攻撃をサイドステップで避けるハクレシア。
その一瞬空いたスペースを見逃さず、熊の腕を火矢が射貫く。
「まだまだ! 《ファイヤーアロー》……《ファイヤーアロー》……《ファイヤーアロー》!」
俺自身も常に動き、ハクレシアの回避行動に合わせて攻撃を重ねていく。
肩、胴、眉間と次々に火矢が刺さり、熊が一瞬こちらを睨む。
すると、それを見たハクレシアも負けじとギアを一段階上げ、動きが鋭さを増す。
そうしてお互いが張り合うように攻撃していくと、熊のHPはこれまでにない速度で減少していった。
「これでトドメだ! 《ファイヤーアロー》!」
熊の背後に回り込み、無防備な胴体を狙って弓を引く。
放たれた矢は一直線に飛び、残り僅かのHPを削らんと迫る。
「───『刹那一閃』」
しかし、矢が命中する直前、ハクレシアの声が戦場に響いた。
これまでに一度も使っているのを見たことがない、ハクレシアの新しいスキル。
それはスキル名の通り、刹那の内に敵を切り裂く技だ。
矢の速度とは比べるまでもない神速の一撃が、熊のHPを0にする。
HPが無くなった生物は、等しく光に還る。
するとどうなるか。
「……あ、攻撃当たっちゃったなー。」
火矢は消えていく熊の体を貫通し、その背後にいるハクレシアの防具に当たって空気中に溶けるように消えていく。
そこには、セリフと表情が一致しないハクレシアが勝ち誇ったように立っていた。
「……じゃ、夕飯よろしくね。ドラゴンの焼肉、一度食べてみたかったんだよね。」
そう言って、よだれを拭く仕草をするハクレシア。
「いやいやいや! それはちょっとズルくない!? っていうかドラゴン肉ってめっちゃ高い───」
「───あれれ? クロトって自分から言ったこと曲げるんだ? まぁドラゴン肉って高いもんね。奢れないんじゃ仕方ないかぁ。」
不正を咎めようとして口を開くと、ドヤ顔で近付いてきたハクレシアに肩をポンポンと叩かれる。
その瞬間、頭の中で何かが切れた。
「おーおー、言うようになったね。そんなに食べたいなら奢るよ。男に二言はないからね。」
「……え、いや冗談なんだけど。第一Dランク冒険者がそんな大金持ってる訳───」
逆に狼狽え始めたハクレシアをよそに、俺は魔法陣へと歩く。
5本の指に入るとも言われる超高級食材か……面白い、食べてやろうじゃないか!
その夜、スライムゼリー2週間分のお金が一瞬で吹き飛び、翌朝に途轍もない後悔に襲われるのだが、この時の俺には知る由もなかった。




