62. この体って結構夜目が利くんだよね。
「毛皮、鉤爪、腕の骨、魔石……とこんなところかな。」
あちらこちらに散乱していた素材を全て回収し、マジックバッグに収納していく。
「ハクレシアー、終わったよー。」
少し離れた場所で観戦していたハクレシアにそう呼びかけると、彼女は不機嫌そうな表情を浮かべながら近付いてきた。
……あれ、なんか怒ってる? 何故?
原因に心当たりがなく困惑していると、ハクレシアが口を開いた。
「……足が遅いって言ったのは嘘だったんだね。」
「……? ───あ。」
最初は何のことか分からなかったが、少し考えて数時間前にした会話のことを思い出す。
『───俺AGI遅いからさ。道中で魔物と遭遇すると逃げ切れないんだよね。』
これは、ハクレシアが魔法陣を発見してもすぐに合流せず、そのことを指摘された時にした言い訳だ。
こっそりレベリングしていたのを隠すために吐いた嘘だったが、まさか覚えていたとは。
今の戦闘を見れば、あれが嘘だったことは火を見るよりも明らかだ。
どうしてあんな戦い方をしてしまったのかという後悔に襲われるが、時すでに遅し。
「……ごめん!」
一瞬、「MPを節約したかった」と更に言い訳を重ねることも頭を過ったが、流石にそれは悪手だろうと思い直し、すぐさま腰を90度に曲げた最敬礼で謝罪をする。
「…… …… ……。」
「…… …… ……。」
互いに言葉を発さないまま数分が経つ。
先に口を開いたのはハクレシアだった。
「───ま、良いけどさ。」
その言葉を聞いて、俺はゆっくりと顔を上げる。
ハクレシアの表情はまだ少し不機嫌そうではあったが、少なくとも怒りの感情は消えているように見えた。
「……誰にだって言いたくないことがあるのは、分かる。私だってそう。だから……クロトが言いたくないなら、無理に言わなくていい。」
「ハクレシア……。」
「……でも、嘘を吐くのだけはやめてほしい。言いたくないことは言わなくていいけど、嘘だけは、絶対に。……トラウマ、だから。」
昔を思い出したのか目に涙を浮かべたハクレシアを見て、俺は胸が締め付けられたように痛む。
(ハクレシアは今、「トラウマだから」と言った。普通、会って間もない人に自身のトラウマを打ち明けるようなことはしない。にも関わらずそれをしたということは、嘘を吐かれるということがそれだけハクレシアにとって辛いことだってことだ。)
……もしかするとハクレシアがソロで活動をしているのは、そのトラウマが原因なのかもしれない。
「……分かった。これからは絶対に嘘を吐かないって約束するよ。」
力強くそう答えると、ハクレシアは涙を手で拭いながら嬉しそうに頷いた。
「よし、それじゃあ一件落着したってことで帰ろうか! もうすっかり暗くなっちゃったし。」
そう言ってハクレシアの背後にある魔法陣へ歩き出し───
「───ま、待って!」
直後、ハクレシアの慌てたような制止の声。
「どうしたの? まだ何か言いたいことあった?」
そう聞くと、ハクレシアは「あー」とか「うー」とか唸りながら言葉を濁し始めた。
「えーっと……そう。どうしてあの時クロトはすぐに合流しなかったのか、理由を聞いてない。」
「え゛。でも、言いたくないなら言わなくてもいいってさっき───」
「───それはほら、これから先はってことだから。でも、アレに関しては嘘を吐いた罰として白状してもらう。」
「えぇ……。」
ハクレシアの唐突な要求に、思わず眉をしかめる。
……いやまぁ、絶対に言いたくないって訳ではないけども。
どんな反応をされるか分かったもんじゃないから、できることなら言いたくないんだよな……。
そこでふと、脳裏に先程のハクレシアの姿が蘇る。
「……はぁ。まぁいっか。……レベリングしてたんだよ。」
「……え?」
「いや、だからレベリングだって。」
正直に答えたのに聞き返されたため、恥ずかしさを我慢しながらそう答える。
「……えっと、それだけ?」
「……そうだけど。」
ぶっきらぼうにそう言うと、ハクレシアは一瞬呆けた表情を見せた後、「はぁ~」と大きな溜息を吐いた。
「……なんだ、もっと大層な理由があるのかと思ったのに。気遣って損した。」
安心したような、がっかりしたような声音のハクレシア。
「いやいやいや。レベリングしてて合流遅れましたって言うの結構恥ずいからね?」
その言葉に少しムッとした俺は負けじと言い返す。
だが、当のハクレシアには全く効いていないようで───
「……はいはい。それじゃ大した理由もなかったってことで、早く帰るよ。」
と、あっさりと流されてしまった。
その声音には先程までの弱々しさはなく、いつも通りのハクレシアに戻っていた。
(ま、元に戻ったようで良かったか。……でもそれはそれとして、一方的に辱められたままで終わるのは嫌なんだよね。)
死なば諸共、一緒のPTを組むってことは一蓮托生ってことだよなぁ!
「そうだね、帰ろうか。……ハクレシアの涙の跡もそろそろ消える頃だろうし。」
「───なっ!」
ハクレシアの言葉に同意しつつ最後にボソッと呟くと、彼女は今までで一番デカい声を出して固まってしまった。
みるみる赤くなっていく顔を横目に、俺は内心でガッツポーズを決めた。




