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61. 初見殺しが強いのは初見だけ

 子分の「レッサー・モンキー」達を全て倒し、残るは30階層のボス───「ビッグ・モンキー」のみ。


 先程投げ飛ばした短剣を回収し、両手に構えながら相手を観察する。


 毛深い体にはいくつもの短剣による切り傷があり、息は荒く興奮状態。


 ボスのステータスや自身の攻撃力から推測するに、恐らく残りのHPは半分程度だろう。


「ウガー! ウガ、ウガガ!」


 ビッグ・モンキーは子分達を殺されたことに文句を言っているようだが、攻撃してこないなら幸いと、俺はポーションを飲んでMPを回復させる。


「ウゥ……ウガァ!!」


 暫くして、何を言っても通じないと悟ったビッグ・モンキーはお喋りをやめ、木々の間を縫うように素早く距離を詰めてきた。


「自分から来てくれるのはありがたい!」


 長い腕から繰り出される引っかき攻撃をクロスさせた短剣で弾く(パリィする)と、その流れのまま右足で大きく踏み込む。


「『二連乱舞』」


 ジャストパリィを受けて隙を晒したビッグ(・・・)に、スキルでの追撃を叩き込む。


 やがて仰け反り状態から復帰したビッグが慌てて距離を取ると、再びの膠着状態が続く。


「それなら、今度はこっちから行かせてもらおうか。《AGIブースト》」


 もう一度AGIに二重のバフを掛け、駆ける。


 そうして一瞬でビッグのぶら下がっている木の下に辿り着いた俺は、勢いよく地面を蹴って跳躍した。


(まずはその機動力からだ!)


 高速で振り上げられた短剣が枝を掴んでいる左手首を捉え、確かな手応えを感じながら振り抜くと、ビッグが苦悶の鳴き声を上げる。


(よし、まずは片方!)


 深手を負ったビッグはすぐさま逆の手で枝を掴み逃走を試みる……が、左手に全体重が乗った瞬間、痛みに耐えきれなかったのか手を放してしまった。


(猿も木から落ちる、ってね!)


 数メートルの高さから地面に激突したビッグはそのままダウン。


 当然そんな隙を見逃すはずはなく、後を追って着地すると、まずは右手にも切り傷を与えて逃走の手段を完全に排除する。


 続いて左手の短剣をマジックバッグに収納し、魔法の詠唱を行う。


「《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》《ファイヤ───っと危ぶない危ない。」


 残りHPが2割を切るあたりまで削ることに成功したが、ダウンから復帰したビッグが噛み付こうとしてきたため、魔法をキャンセルして回避行動を取る。


 腕をだらんとさせ、よろよろと近付いてくるその姿はさながらゾンビのよう。


「とっとと倒された方が楽になれるんじゃないか? 《ファイヤーアロー》」


「ウガッ」


 狙い澄ました一射は胸の中心に深々と突き刺さり、ビッグはその場にバタリと倒れた。


「やったか? ───なんてね。」


 ピクリとも動かなくなったビッグを見て思わず呟く。


 この世界では、死んだ生物は一部の特別な例外を除いて皆等しく光に還る。


 にも関わらず、倒れたはずのビッグは光になっていない。


 ───つまり、アイツはまだ死んでないということだ。


「お前が死んだふりをしてくることはもう知ってるんだよ。」


 そう声をかけてみるも、反応はない。


「死んだふりは初見殺しだし強いかもしれないけどさぁ……遠距離攻撃持ち相手にそれをやったってしょうがなくないか?」


 そうぼやきながら脳裏には苦い思い出が蘇る。


 あれは俺がトリワルを始めて1か月が経った頃。


 今と同じようにビッグを倒したものの中々光にならず、バグかと思って近付いたその時だった。


 今までピクリとも動かなかったビッグが起き上がったかと思うと、反応する間もなく首を掴まれ、数秒の苦しむ演出が入った後に画面が暗転したのだ。


 やられた直後は何が起きたのか分からなかったが、調べてみると『ビッグ・モンキー』は瀕死になると死んだふりを行い、その最中に近付いてきた者は首を掴まれて即死(・・)すると書いてあった。


 この即死攻撃に何とか抗えないかと何人ものプレイヤーが検証に乗り出したが、結局方法は見つからず、遠距離攻撃で残り僅かのHPを0にするというのが対処法になった。


 首を掴むという都合上、この悪あがきは最大で2人にしか通用しないので3人(トリオ)以上のPTなら確実に勝つことはできる。


 が、逆に言えば、1人(ソロ)もしくは2人(デュオ)の場合は最後の最後で全滅しかねない最悪のトラップでもある。


 俺がここのボス戦を1人でやりたいと言い出したのは、ハクレシアに頼りっきりなのが嫌というのも勿論あったが、コレによる事故を防ぎたいという意図もあった訳だ。


「ま、動かないなら外す心配がなくて良いんだけど。《ファイヤーアロー》」


 そんなこんなでトドメを刺し、しっかりと光に変わったのを確認して素材を回収しに向かうのだった。




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