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60. ゲームキャラの三半規管凄いよねって話

 森の奥深くに進むにつれ、おぼろげに見えていた影が徐々に鮮明になっていく。


 体は茶色の毛皮で覆われ、細い手足は胴体の倍以上。


 少し離れた木の裏に身を隠してそっと様子を窺ってみると、まだ気付かれてはいないようで、『ビッグ・モンキー』は子分の『レッサー・モンキー』と枝の上で暢気に木の実を食べていた。


「今の内に───《ファイヤーアロー》」


 不意打ちの初撃で大ダメージを与えるべく、最大まで溜めた『ファイヤーアロー』を放つ。


「ウギッ!?」


 狙い澄ました矢は『ビッグ・モンキー』の眉間に突き刺さりクリティカルヒットになったものの、絶命までは至らなかった。


「ウギッ! ウギーッ!」


 細い枝の上で器用に地団駄を踏む『ビッグ・モンキー』子分の『レッサー・モンキー』達に指示を出し、自身も動き出す。


 長い手足を使った移動はアクロバティックかつ素早く、木々の間を縦横無尽に動き回るため狙いがつけづらい。


「そこだ! 《ファイヤーアロー》」


 なんとか1体の『レッサー・モンキー』を撃ち落とすことに成功するが、それが限界だった。


 気が付けば頭上をサル達が囲んでおり、暫しの睨み合いが続く。


「……仕方ない、こうなったら接近戦か。」


 ひとまず魔法は諦め、右手に片手剣を構える。


「さぁ、どこからでもかかってこい!」


 言葉が通じたのかは定かではないが、その言葉を皮切りにレッサー(・・・・)達が四方から攻撃を仕掛けてくる。


「魔法だけだと思ったら大間違いだ───『回転斬り』!」


 新しく習得していた片手剣のスキルを使い、その場で一回転して飛び込んできたレッサー達にカウンターを浴びせる。


 俺のSTRじゃ大したダメージにはならないが、それでも安易に近づくと反撃されるというのはこれで理解したはずだ。


「ウキ!?」


「ウキキ!」


「ウキキキ!?」


 すると俺の思惑通りレッサー達は頭がパンクしたのか、甲高い声で鳴きながらあたふたし始めた。


「よしよし、これなら魔法が───」


 そのうちの1体に狙いを定め、左手を向けたその瞬間。


「───ウガアアァァァ!」


 リーダーであるビッグ(・・・)が咆哮のような鳴き声を上げたため、思わず耳を塞ぐ。


 その効果はてきめんで、あんなに慌てふためいていたレッサー達は我に返ったようにピタリと動きが止まり、ビッグの身振り手振りに応じて動き始めた。


「ま、そう簡単にはいかないか。……なるほど、今度は動き回って攪乱しようって作戦ね。」


 その動きはさっきまでのバラバラさとは打って変わって統率の取れたものだった。


 俺から着かず離れずの距離を維持し、剣では攻撃が届かないし魔法は撃つ前に相手の攻撃が届くようなそんな絶妙な間合い。


 この場面、こちらとしては焦れた相手が攻撃してくるのを待ち、それにカウンターを合わせれば簡単に勝てるだろう。


 もしくは、動き回っていればいつかは相手のスタミナが切れるので、それまで待つでもいい。


「……でもそれじゃあ時間がかかるし、何よりつまらないよな。」


 それに、そもそも1人で戦わせてほしいといったのは俺だ。


 イキった挙句、「有効打がないので持久戦をします」だなんて恥ずかしすぎる。


 もう一つのAGI(敏捷)を上昇させる支援魔法(バフ)───『シルフィードダンス』を自身に付与する。


「あ、どうせなら同じように立ち回ってみるか?」


 思い出すのはハクレシアの戦闘風景。


 短剣を両手に持ち、自慢のAGIを活かして手数で殴るというのがハクレシアの立ち回りだ。


 この世界に来てからというもの、ボスとの戦闘は魔法ばっかりで近接戦とはほとんど無縁だった。


 今度ハクレシア流をちゃんと教えてもらおうかな、なんて考えつつ片手剣をマジックバッグにしまい、代わりに短剣を2本取り出して構える。


「いくぞ!」


 掛け声とともに勢いよく踏み出すと、近くの木の幹を蹴って三角跳びの要領で跳躍し、目の前に現れたレッサーへ短剣を振るう。


「ウキキッ!?」


 突然速く動き出した俺に反応できなかったのか、確かな感触が腕に伝わる。


 当然、俺の低いSTRでは倒しきることはできないが、そこそこのダメージを与えることはできた。


 先程の『回転斬り』のダメージと合わせると、レッサーの方はあと3、4撃といったところか。


 慣性のままに横を抜けながら、空中で体を反転させて木に着地(・・)すると、再び幹を蹴って加速する。


 縦横斜め、まるで狭い空間でスーパーボールが跳ねるかのように色々な方向へ無茶苦茶に跳びまわり、隙を見せたそばから剣を振るっていく。


 ここで大事なのは特定の相手に向かって行かないことだ。


 この速度で動き回っていると複雑な挙動はまずできない。


 そのため、狙いを定めてしまうとどうしても直線的な動きになってしまい、相手からすれば回避しやすくなる。


 俺はビッグもレッサーも関係なく、ただ無差別に間合いに入った瞬間から剣を振るっていった。




 そんなことを1分程続けていると、1体、また1体と光に還っていく。


(ボスの体力は大体半分くらいか。でも、そろそろ時間なんだよな。)


 今の俺のこの速度を実現しているのは2種類のAGIバフがあってこそだが、これの効果時間は3分。


 さっき使ったばかりの『シルフィードダンス』はともかく、『AGIブースト』の方は戦闘前から使っていたため、もうそろそろ効果時間が終わってしまう。


 どこか適当なところで地上に戻ってバフを掛け直したいが……さて、この状況でどう速度を落としたものか。


 一番簡単なのは地面に転がることだが、生憎とここは森の中。


 そんな広いスペースは当然なく、もしやったならほぼ確実に木に直撃するだろう。


 となれば……アレをやるしかないか。


 ……そのためにはまずは両手を空けないとな。


 体内時計でタイミングを見計らい、残り10秒を切ったタイミングで残っていたレッサー2体に両手の短剣をそれぞれ投げつける。


(よし、両方命中っと。)


 光に変わるのを横目で確認しながら、空いた両手で目の前の木の枝を思いっきり掴む。


(ぐぉぉぉぉ。勢いやべぇぇ!)


 さながら鉄棒の大車輪のようにグルグルと体を回し続け、徐々に速度を落としていく。


 そうして握力が限界に近付いてきた時、ようやく体が上に上がらなくなった。


「ふぅ、何とかなってよかった。……にしても、あんなめちゃくちゃな動きをしたのに三半規管が無事なのマジか。」


 最後の高速大車輪だけでなく、その前のスーパーボール挙動も現実でやったら間違いなく吐く自信がある。


 いやまぁ、この世界も現実ではあるんだけど。


 因みに、何回転したかは数えていないので分からない。


 10回を超えるくらいまでは数えていたが、全然止まる気配がなくて割と必死だったからな……。


「……さてと。これで邪魔な子分たちはいなくなって1対1って訳だ。かなり暗くなってきたし、ちゃっちゃと終わらせようか!」




できることなら週2更新したいんですが、仕事や諸々でとりあえず8月中は厳しそうです……。


因みにレイダースは一段落しました。カスタマイズの幅が広くて超面白かったのでまだの方はぜひ。

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