56. VSホーンラビット
笛の聞こえてきた方向へ向かうと、音を聞きつけて集まった魔物達とハクレシアが戦っていた。
「お待たせ! 手伝うよ。」
1人でも問題なさそうだったが、時短のために援護に入る。
すると、1分と経たずに片が付いた。
「……ありがとう。」
「どういたしまして。それじゃ、次の階層へ《転移》」
ハクレシアに短く言葉を返し、魔法陣を起動させる。
2階層も1階層同様に木が1本もない開けた草原だった。
因みに、このダンジョンでは風景が変わるのは10階層ごとのため、最初のボス階層まではずっと同じような草原が広がっている。
さて、2階層に到着してもやることは変わらない。
二手に別れて魔法陣を探し、発見したら笛で知らせる。
今回見つけたのは俺だった。
反射的に笛を鳴らそうとして、寸前で自身の状況を思い出す。
今使っている『エア・フロート』という魔法は本来この世界には存在しない、オリジナルの魔法だ。
不要なトラブルを起こさないためにも、魔法を作れるということは出来ることなら秘密にしておきたい。
まぁ、仮に見られたとしてもハクレシアは魔法に詳しくはなさそうだし誤魔化せるとは思うが……。
「何にせよ、まずは地上に戻るところからだな。」
いくらステータスのある世界とはいえ、10メートルの高さから着地をミスれば大怪我に繋がる可能性は否めない。
MPを多めに消費して足場のサイズを気持ち大きくし、足を滑らせないよう慎重に一段ずつ降りていく。
そうして、飛び降りても問題ない高さになったところで魔法を解除し、無事に地上への帰還を果たす。
着地の後は消費した分のMPをしっかりと回復して魔物の襲撃に備え、いよいよ笛を吹く。
吹き方は短時間の内に2回。
これが1回の場合は緊急事態を知らせる合図となる。
笛を吹いて数秒後、早くもガサガサという音が聞こえてきた。
複数箇所から聞こえることからしても、これがハクレシアではないのは明確だろう。
右手に剣を持ち、周囲への警戒を強める。
どこから来ても対応できるように身構えていると、少しして、今まで聞こえていた音がピタリと止まった。
だが、これは魔物がどこかに行ったのではなく、寧ろその逆。
突進の前の溜めに入ったのだと、ゲームでの経験が警鐘を鳴らす。
そしてその直後、右前方、左前方、左後方の3箇所からほとんど同時に影が飛び出してきた。
それぞれをA、B、Cとし、頭の中で瞬時に対処ルートを思い描く。
まずは右前方のホーンラビットAに向かって距離を詰め、腹の下に潜り込ませた剣を掬い上げるように振り上げる。
突進の速度は中々のものだが、所詮は小柄な兎。
ステータスという名の加護で強化された膂力により、ホーンラビットは軽々と吹き飛ばされた。
吹き飛ばしたAはひとまず放置し、左側から攻めてくるBとCに向き直る。
……想定していたよりも距離を詰められているな。
右手は振り抜いた直後で防御に戻すには時間が足りず、開いている左手も今から魔法を撃つには間に合わない。
結果、後ろに振り向いた際の勢いのまま半身になり、スレスレのところで突進を回避した。
特に、Bが通り抜けたのは数瞬前まで左半身があった場所であり、その狙いの正確さに思わず感心する。
お互いに体勢を崩す形で最初の攻防が終わったが、2手目はこちらの方が早かった。
「《ファイヤーボール》」
「キュッ!?」
後隙から復帰中のBへ魔法を放つと、短い鳴き声を残して光の粒子に変わっていく。
……大ダンジョンとはいえ、序盤の魔物なら一撃か。
体勢を整えながらもう一度『ファイヤーボール』を唱え、ホーンラビットCもすぐさま光に還る。
「さて、あとはアイツだけだな。」
最初に吹き飛ばしたAの方へ視線を向けると、Aは威嚇をするように前歯を剥き出しにして睨み付けてきていた。
それから、顔を上に向けて「キュイキュイ」と鳴き声を上げた。
「あらら、仲間を呼ばれたか。」
ガサガサと草むらが揺れ、新たに3体のホーンラビットが姿を現す。
一体一体が弱いのでこの程度ならば対処は容易だが……ここが2階層であることを考えると『ロックストンダンジョン』と比べて明らかに難易度が上がっているな。
新しく出現したホーンラビット達は俺を囲むように散開する。
が、草むらからの不意打ちならともかく、姿が見えている状態では狙ってくださいと言っているようなものだ。
「《ファイヤーボール》《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》」
真正面で突進の準備をしていたホーンラビットへ火球を放ち、周囲を動き回るホーンラビットには弾速の速い火矢を放つ。
そうして、呼ばれたホーンラビット達を一瞬で倒すと、残されたホーンラビットは消えていった仲間を探して不思議そうにしていた。
「これ以上呼ばれても面倒だし、悪いけど倒させてもらうよ。《ファイヤーボール》」
最後のホーンラビットを倒して一息吐くと、背後からまたしても足音が聞こえた。
また魔物かと思いながら振り返ると、しかし、そこにいたのはハクレシアだった。
「……お待たせ。」
「おぉ、ナイスタイミング。ちょうど今、魔物を倒し終わったところだよ。」
そんなやり取りをして、俺達は魔法陣へと向かう。
そんなこんなで俺達はこの後も効率重視で攻略を進め、昼頃には10階層に辿り着いたのだった。
前話で章を新しく作ったんですが、その際に予約投稿してたのが即投稿されて焦りました……。
ですが、そのおかげで更新後すぐに読んでくださる熱心な方がいるということが分かったので結果的にはプラスでした。
皆さんありがとうございます!




