53. 間章:とある男の行く末・5
投稿遅れてすみません!
気付いたらやたらと文章が長くなっていた(当社比)んですが、切れる場所もないしそもそも本編を早く再開させたいので最後まで書ききりました。
眠気と戦いながら書いたので不自然な場所がないか不安です。
町を出て月明かりのない夜道を歩くこと半刻。
私はとある木の前で立ち止まる。
一見すると周りに生えている木々と何ら変わらない、普通の木。
だが、木の根元をよく見てみると、ここにだけ小さく土が盛られている。
知っている者にしか分からない秘密の目印だ。
姿勢を軽く整え、以前教わった合図を頭の中で思い描く。
もしミスでもしようものなら大変面倒なことになるため、失敗は許されない。
「……よし。」
まずは3回、一拍空けて2回、再び一拍空けて4回。
その後、5秒以上空けて独特なリズムで計6回ノックをする。
すると、周囲の音が遠ざかっていく感覚があり、辺りには明らかに普通ではない重圧がのしかかる。
「『真なる救済はガディス様にあり』」
思わず膝を屈してしまいそうになるのを意志の力で耐え、最後の合言葉を唱える。
その瞬間、目の前の木がぐにゃりと曲がったかと思えば、中心に向かって吸い込まれるように渦ができた。
「……ふぅ、上手くいったか。」
額に浮かんだ汗を拭いつつ、安堵の溜息を吐く。
渦の中心は夜闇のように深い黒で満たされており、向こう側がどうなっているか見通すことはできない。
片手を渦の中に入れて自由に動くことを確認し、再度溜息を吐く。
「コレは未だに慣れないな。」
意を決して渦の中に頭を入れ、そのまま転がるようにして全身を投げ出す。
内部は上下左右の方向感覚が鈍くなる特殊な空間になっており、最初の内は落下している感覚があったが、今ではどの方向に向かって進んでいるのか全くもって分からない。
そんなお世辞にも心地良いとは言えない環境に暫く耐えていると、次第にある一方からの力が強くなっていることに気が付く。
「ようやく着いたか。」
力を感じた方向に足を向けると、その直後に頭上から殴られたような衝撃が全身に走り、思わず目を瞑る。
地に足が着いたのを確認しながら目を開けると、そこには『ネゴノーバ』の町に負けずとも劣らない、沢山の住宅が建ち並んでいた。
ただ一つ違う点があるとすれば、天井があるということだろう。
頭上に目を向けると、数十メートル先の天井には無数の照明が取り付けてあり、この巨大な地下空間を昼間のように明るく照らしていた。
ここは『真ナル救世ノ会』の本拠地───神都『テスガルド』だ。
複雑に入り組んだ道をするすると進み、数十分後、目的の場所へと到着した。
この『テスガルド』の最奥にある一際大きな建物で、漆黒の外壁には爛々と輝く深紅の線が走り、殺風景なこの空間においては異彩をこれでもかというほど放っている。
扉に近づくと、武装した門番もこちらに気が付き、顔が険しくなる。
「失礼ですが、何用でこちらに?」
「私はクロス。本日はブラー殿に招待され、罷り越しました。」
「これは失礼いたしました。お話は伺っておりますのでどうぞお入りください。」
話が通っていないのかという考えが一瞬頭を過ったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「どうもありがとう。」
そうお礼を告げて軽く会釈を交わし、次いで重厚な扉を両手で押し開ける。
建物の中は入ってすぐのところに大きな階段が鎮座しており、左右と奥にそれぞれ廊下が続いていた。
今日招待されたのは各部門長が集まる定例会議で、これは1階奥にある大会議場で行われているらしい。
階段の横を通り過ぎて廊下を進んでいくと、突き当りにこれまた立派なドアがあった。
「───失礼します。」
コンコンとノックして扉を開けると、大きなテーブルを挟むようにして既に4人かが座っていた。
「やぁクロス。キミの席はこっちだぜ。」
そう言って手招きをするのは、いつぞやに兄貴の死を知らせ私を『真救会』に誘った男───ブラーだった。
そんなブラーを一瞥しつつ、上座に座っている『ナイグ』さんに確かめるような視線を向けると、彼は私の意図を察して頷いてくれた。
……はぁ、そういうことなら座るしかないか、一応は上司に当たる訳だしな。
「ちょっとちょっと、ボク信用されてなさすぎない!?」
そのやり取りを見ていたブラーがすかさず抗議の声を上げた。
もっとも、そう言ってくるだろうと思っていたので反論の用意はできている。
「普段の行いだ。それに最終的にはここへ座ったのだから別にいいだろう。」
「ちぇー。」
ブラーはそれ以上何かを言うつもりはないらしく、拗ねたような声を出した後、他の人と談笑を再開した。
……それにしても見知った顔が少ないような気がするな。
この組織に入った際、一度各部門の長全員と顔を合わせたことがあるのだが、今この場にいるのはナイグさんとブラーのみ。
もうそろそろ開始の時間だが、残りの4人はまだ来ないのか?
そう疑問に思っていると、扉がノックされ、白い狐面を着けた女性が入室してきた。
彼女───『ハク』は私がブラーと話していた際に乱入してきた女性で、『ガリワディード』への強い思いを受けて私と同じタイミングで組織に入った、いわば同期のようなものだ。
「あら、私が最後でしたか。お待たせしたようですみません。」
……最後だって?
そう思ったのも束の間、ナイグさんが立ち上がり、全員の顔を見回した。
「いや、時間ぴったりだから問題ないさ。それでは、これより色上会議を始める。」
「はいはーい、その前にクロっちが何か不思議そうな顔をしていまーす。」
会議の始まりを宣言したナイグさんだったが、その直後にブラーが会議の場にそぐわないお茶らけた声で発言し始めた。
すると全員の視線が一瞬ブラーを見たのち、俺に向けられる。
(コイツ、いきなり何を言い始めるんだ!? しかもこれじゃあ私が中断させたみたいじゃないか!)
「クロス君、何か聞きたいことがあるなら何でも言ってくれて構わないよ。答えられる範囲でなら何でも答えてあげよう。」
気を使って微笑みながら優しく声をかけてくれるナイグさんに内心で感謝しつつ、何かしら言わないと先へ進まない気がしたため、素直に疑問を口に出すことにした。
「ありがとうございます。それなら……各部門の長の皆さんがいらっしゃらないみたいですが、もう会議を始めてしまうのですか?」
すると、ナイグさんは得心がいったように何度か頷き、口を開いた。
「もしかしてその様子だとクロス君はブラーから何も聞かされていないのかな? 今回の会議は新しく長になった君たちへのオリエンテーションみたいなものなんだ。」
「新しく長に……? え、私がですか?」
「そうそう! 前の4人はスパイの可能性があったから一掃しちゃってねー。あの事件の後に入ったキミ達なら安心して任せられるってことさ」
あの事件とは、恐らく先日の女神による降臨妨害事件のことだろう。
……ちょっと待て。
「一掃した」ということはつまり、ここにいない前任者4人はもう……そういうことなのか。
……私はこの組織を甘く見ていたのかもしれない。
この組織は……彼らは目的のためならば一切の容赦もなく粛清できてしまうのだ。
「経緯は今ブラーが言った通りさ。クロス君には表の顔を使って勧誘活動を行う『緑組』のリーダーをやってもらうことに決まったから、よろしく頼むよ。」
以前垣間見たブラーの強さは私よりも遥か上。
そして、トップであるナイグさんはそれよりも更に強い可能性が高い。
万に一つもそんなことはないのだが、もし私がスパイだと怪しまれた時、果たして私は生きていられるのだろうか?
……いや、こんなもしもの話を考えても仕方ないか。
私にできるのは怪しまれないように自身の役割を全うすることだけだ。
それに、見方を変えればそれだけ彼らは女神殺しに対して本気であるということだ。
兄貴の復讐を果たすのに、組織のトップが簡単に折れるようでは困る。
───そうだ、私は兄貴の復讐をすると誓ったんだ。
そのためなら、たとえ『心救会』の子供たちであろうと、使えるものはすべて使わなくてはならないのだ。
「───承知しました。女神ガリワディードを殺すため、その任拝命いたします。」
「うん、いい目だ。今のクロス君になら任せられる。宿願を果たすため、共に頑張ろう。」




