52. 間章:とある男の行く末・4
「1列に整列! もし順番を抜かしたらお代わりはナシだからな。」
兄貴の行方が分からなくなり、怪しい男の誘いに乗ってから今日で2週間。
私は今、小さな集落にて炊き出しを行っている。
あの夜、『ブラー』と名乗った男に誘われたのは『真ナル救世ノ会』───『真救会』と呼ばれる秘密組織だった。
その目的は女神『ガリワディード』を殺し、彼らの崇拝する神───『ガディス』をこの世界の中心に据えた新しい世界を創ることだ。
とはいえ、言うのは簡単だが神殺しなんていう大それた所業がそう簡単に成せるはずもなく。
このボランティア活動は、そうした計画のための人材確保やら何やらを狙った地道な活動の一環なのだ。
料理道具を片付けつつ遊び回っている子供達を眺めていると、2つの影が近づいてきた。
「クロスさんお疲れ様です! 各家庭への配給終わったっすよ!」
「道具の片付け手伝います!」
「2人ともありがとう。それなら……そこにまとめてある食器を洗ってくれ。」
「うっす!」
「分かりました!」
この2人は『真救会』の表の顔である『心救会』に所属している、言わば表の人間だ。
「ちょっと、もっと丁寧に洗わないと皿割れちゃうでしょ!」
「うっせー! そういうお前は汚れ落としきれてねーじゃん!」
炊き出しはいくつかのグループに分かれて各地で行われており、この2人とはよく一緒のグループになる。
最初の頃は仲裁に手を焼いたが、もはやこの光景にも慣れたものだ。
「……喧嘩するほど仲が良い、か。」
「「仲良くないっす(です)!」」
思わず口から零れた呟きを耳聡く聞きつけた2人は、声をぴったり合わせて反論した。
……そういうところだ。
「この度はありがとうございました。」
集落の長が代表してお礼を告げ、全員から頭を下げられる。
去り際に『心救会』の名前を出したり、さりげなく『ガディス』のことを匂わせて、集落を後にする。
この活動を始めて初めて知ったことだが、案外こういった町から外れた場所にある集落というのは多い。
女神教の教義では「全ての民に救いの手を差し伸べる」と謳っているが、実際にはこのように零れ落ちている者も少なくない。
ある程度の規模であれば教会が置かれるが、逆に言えばそれに満たない小さな集落は見落とされている。
まぁ、そのおかげで『ガリワディード』に対する信仰も薄く、仲間に引き入れやすいという側面もあるのだが。
「そういえば、2人はどうしてこの活動をしているんだ?」
町へ帰る道中、なんとはなしに話しかける。
「ガキの頃にこの炊き出しで助けられたことがあって。その恩返しって訳じゃないっすけど……まぁそんな感じっす。」
「私もよく『心救会』のお世話になっていたので、大きくなった今は今度は私がやらなくちゃって思って。それで参加してます。」
「うーわ、真似されたわ。」
「はー? 真似てないし、順番が逆だったらあんたが真似してる方なんですけど?」
「はぁ、全く。」
またしても言い争いを始めた2人を見て溜息を吐く。
それはそうと、この子らが言うように『心救会』の活動歴は長い。
聞いた話では少なくとも10年程度は経っている。
表での活動がそれくらいということは、裏で動き始めたのは一体どれほど前なのだろうか。
その執念深さと計画性は賞賛に値する。
そうして長い時間をかけて表・裏の人間を集めていき、つい先日には『ガディス』がこの世に降臨するというところまでこぎつけたとか。
が、これは女神からの妨害に遭い、失敗してしまったらしい。
女神にこちらの存在を知られてしまったのは痛手どころの話では済まないと思うのだが……。
まぁ、私が気にすることでもないか。
そういう難しい判断は上の者に任せ、平組員である私はその指示に従うのみだ。
そんなことを考えながら歩いていると、見慣れた門が近づいてきた。
2人を家まで送り届けた後、帰宅した私は茶を淹れて一息つく。
「……本当にどこへ行ってしまったんだ。」
最近の口癖になりつつあるこの言葉は、もう何度呟いたか覚えていない。
PTの中心だった兄貴がいなくなり、私も他のことで忙しくなった結果、BランクPT『スリースターズ』は解散した。
そもそも全員が兄貴に惹かれて入ったため、それも当然の結末と言えるだろう。
「……いつの間にかこんな時間か。」
ふと時計を見れば帰宅してから数時間が経っていた。
……ダメだな、最近は特にこうして時間を無駄にしてしまうことが多い。
「支度をしなければな。」
組織では定期的に各部門の長による会議が行われている。
そして、今日はその会議の日なのだが、何やら大事な話があるとの事で平組員の私も参加するようにと伝えられていた。
目を深く瞑って思考を切り替え、身支度を整える。
外へ出ると夜風が強く吹いていた。




