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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【急転】

半狂乱っていう言葉があるね。

平静を失って取り乱す。

アナトールの部屋へドアを吹き飛ばすような勢いで入っていったフィリアの様子はまさにそれだったよ。

ドアを開ける音がでかかったせいもあるが、もしもこれがいつものように静かに開けていたとしても、アナトールはベッドから跳ね起きてたろうね。

それぐらい神経が過敏になってたからさ。

そこに加えて、飛び込んできたフィリアの顔が冷や汗で濡れた青白い顔してるんだ。

最悪の事態まで予想してベッドから出たアナトールはフィリアに近づきつつ、真剣な顔して質問したよ。

「何があった?」

アナトールの質問は簡潔だった。

だから普通なら、答えに困るってことは無いはずだ。

しかし、フィリアはその簡単な答えを口から出すのにえらく苦労した。

ああ、冷静さを失うと人間ってのはこんな単純なことすら満足にできなくなるのさ。

とはいえ、最終的には少し間を置いただけでフィリアは言葉を発せたから、他の子に比べれば多少は上等と言うべきかね。

「カゾットさんが……」

ここまで言って、ひとつ呼吸を整えて、

「目を覚まさないんです……」

言い終えたか言い終えないかだった。

すごい速さでアナトールはフィリアの横をすり抜け、開いたままのドアを抜けてカゾットのいる部屋へ飛び込んだ。

覚悟はできてても、きついものはきつい。

起きた事柄を細かく理解してるわけじゃない。

が、ベッドのカゾットを見つめてるフィリオの様子を見て、それが自分の想像した通り、最悪の事態だってのは確信できた。

別にフィリオは変わった様子じゃなかったけどね。

不思議だよ。異様な空気ってのは伝わるらしい。

フィリオは相変わらず生気の無い目でカゾットを見つめてるだけだったが、全身からなんとも形容しがたい雰囲気を醸し出してた。

言葉にするのはえらく難しいよ。

ただ……そうさね。

絶望に絶望を重ねたみたいな空気とでも言うのかい?

そんな感じさ。

アナトールですら声をかけるのに躊躇するような空気。

でも質問しないわけにもいかない。

アナトールは部屋に入ってきた時とはまるで別人みたいに、ゆっくりとベッドへ向かって歩いていった。

勢いだけで飛び込める空気じゃなかったってのが正直なところかね。

しかし幸か不幸か、耐えがたく重たい空気を押しのけて質問をする手間はフィリオが省いてくれた。

うつむき加減でベッドのカゾットを見つめながら、横まで来たアナトールに目も向けずに話し始めたよ。

「……起きないんですよ……」

気のせいかね。

その声は少しばかり笑ってるみたいにも聞こえた。

「呼びかけても、揺すっても、全然起きないんです。お姉ちゃんが心臓の音を聞いたら、(心臓が動いてない)って……これ、なんて言うんですかね。死んじゃったなんて、そんなことってあるんですかね……」

話半分くらいを聞いたところで、アナトールはカゾットの片手をベッドから引き出すと、脈をとったよ。

なるほど、確かに脈が無い。

普通に考えると、これは(死んでる)と判断すべき事実だ。

だが、ちと事情が特殊さ。

ここは館の中。

外の常識ではものを計れない。

もちろん、それを良いほうに思うか、悪いほうに思うかは個人の考えによるだろうがね。

「いや……」

脈を確認したアナトールは、静かに口を開いた。

「これは死んでるんじゃないよ。前にも話した(時期)だ。しかし……本当にひどいな。カゾットがあれだけ嫌がっていたのも分かるよ。自分の意思を失っても、少なくとも自分の足で(館の腹)へ向かうのならまだいいが、飾り付けを人任せか……いや、恐らくそれは私の仕事なんだろうな……罰のようなものなんだろう。私がこうしたのだから最後まで責任を持てということか……」

言い終えると、アナトールはそのままドアに向かったよ。

自分の部屋にフィリアを残したまま、ドアを閉め、おもむろに再びドアを開ける。

行き先は、

(館の腹)。

ドアからわずかに見えるその光景だけで十分トラウマが再燃する。

ここに及んでフィリオはショック療法的な効果からか、いくばくか正気を取り戻したようで、開いたドアの向こうを見て冷や汗流したよ。

でも、状況はそうのんびりしたもんじゃなかった。

ドアを開けたまま、またベッドまで戻ってきたアナトールは、カゾットを抱き上げると、そのままドアに向かって歩き始めた。

はっとして声をかけたさ。

フィリオが。

「ア、アナトールさん、それ一体……カゾットさんをどうするつもりなんです?」

「どうする、か……それは私にも分からないな。とにかく待つよ。ただ待ってみる。じき私も最後だ。その時、私は私の意思でなく館の意思でカゾットをどうにかするんだろう。だからどうなるかまでは分からない。でも、それはもうどうだっていいことだ。もう最後は目の前さ。ならせめて静かにその時を待ちたい。これは……私のわがままかい?」

止める気があったわけでもないが、フィリオはそこまでアナトールの言葉を聞いて、あとは見送ることしかできなかったよ。

またぞろ傷の治ってない足を乱暴に扱ったせいで、傷の開いたアナトールが、血の足跡を残してカゾットを抱き、(館の腹)へ向かうのを。


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