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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【ふたつの変化】

「……カゾット」

突然アナトールに呼ばれて、一瞬びくっとしちまったよ。

あのカゾットがさ。

それぐらい、今のアナトールは怖かったんだ。

もう、完全にどうかしちまったようで、ゆっくりと揺れるようにカゾットのほうへ歩いていった時なんて、カゾットは傍目にも分かるぐらいおびえてたよ。

だがある意味では自業自得さ。

真実を求めるあまり、人ひとりぶっ壊しちまった。

でも心配はいらないよ。

どのみちこの館にいれば、遅かれ早かれ壊れていく。

まあ、館の意思からすれば、それは壊してるんじゃなく、造ってるんだろうがね。

「君の質問については申し訳ないが、私は憶測でしか答えられない。それで承知してもらえるかい?」

目の前まで迫ってきて、色メガネ越しにも狂気が滲んで見える相手に、イエスかノーかと尋ねられる。

もはやそれは質問じゃないよ。

イエス以外に答えなんてあるわけないからね。

本心はどうだか分からないが、カゾットは肩をちぢませて二度ほど小さくうなずいたよ。

「ありがとう。では、私の知っている範囲の事柄を総合した推測を話させてもらおう」

そう言うとアナトールは壁に背をつけたカゾットへ顔を近づけて、また話し始めた。

「私がシャミッソーから聞いていた(変化)とは、ここにたんとある通り、口の無い黒い獣への(変化)。実際、私もシャミッソーも、この館に来てから髪と目玉が真っ先にこんな具合に変わってしまった。だからそれが当然だと思っていたよ。例外無くみんな黒い獣に変わるんだろうってね。黒くて大きな口無しの獣……ああ、そうさ。それしか思い当たらなかったんだよ……」

遠巻きにアナトールとカゾットの様子……まあ、主にアナトールのだが、そいつを見てたフィリオとフィリアも、気が気じゃなかったよ。

なんせどう見たってアナトールが正気じゃないんだからさ。

次に何が起きるのかと、ひやひやしながらふたりを見てた。

が、一番びくついてたのは当然ながら、カゾットだ。

下手打つと、歯でもカタカタ鳴らしちまいそうだったよ。

いつもとはあまりに違うアナトールの様子にね。

と、突然、

バンッ!!

でかい破裂音みたいなのが部屋に響いた。

出来事自体は単純さ。

アナトールがえらい勢いで、右手をカゾットのもたれてる壁に叩きつけたからだよ。

「本当に馬鹿もいいところだ……この部屋をシャミッソーに始めて見せてもらった時も、私は妙な違和感を覚えてたはずなのに、その可能性を考えようともしてなかった……結局は、みんなを気遣ってるつもりがどれもすべて的外れだ。まったく、私ってやつはどうしようもない役立たずだよ……」

自分に向けられていないとしても、全身から狂気と怒りを溢れかえらせてる人間が目の前でブツブツとこんなことつぶやいてたら、お前さんはどう感じる?

少なくとも、カゾットは震えてたよ。

組んでた腕を解いて、胸のあたりを交差させた手で抑え込むようにしてね。

限界まで身をちぢめて、哀れなもんさ。

「ここには黒い獣だけでなく、数こそ少ないが銀髪の女性も何体か存在する。これを私とシャミッソーは元々備え付けのものとばかり思っていた。私やシャミッソーが取り囲むための軸。中心。柱の主要な装飾。だがカゾット、君の(変化)を見ればその考えが間違いだったことにすぐ気づく。ふたつあるんだ。この館の(変化)は。絶対数こそ少ないが、なんらかの基準でどちらかに選別される。大多数は私やシャミッソーのように黒い獣。そして少数だが君のような(変化)。銀の乙女さ。そう、銀の乙女が優しく笑う。君自身は望んじゃいなかったろうが、館はそれを望んだ。結果がこれだ。一体どうすればいい? どう償えばいい? 君に真実を伝えられなかった私は、何をして君に詫びればいいんだ!!」

怒鳴り声にも似た声張り上げてアナトールが叫んだ次の瞬間だよ。

カゾットが崩れ落ちた。

壁とアナトールに挟まれて、滑り落ちるみたいに床に尻をついてさ。

膝を曲げて、両手で頭を抱え込んで。

ああ、まるで子供みたいに泣いてたよ。


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