【重い一日】
館では時間に対する感覚がかなり違う。
当然と言えば当然の理由さ。自分に当てはめて考えてごらんよ。
時計は無い。
外の様子は見えない。
あらゆる部屋はいつもまぶしいほど明るい。
これで時間がどうのと考えるのが土台、無理な話さね。
だから自然、頼りは体内時計ってことになる。
しかし、これも完全じゃない。
今言った通り、館はどこも常に明るいからね。
体内時計ですら、ほぼその役目を果たさないだろうよ。
というわけで、結果としては漠然とした尺度に依ることになる。
空腹さ。
食事一回ごとの間隔がおおよそ六時間。
眠ったら、これまたおおよそ八時間。
目分量ってやつだね。
これに風呂、トイレ、食事をとる行為自体の時間なんかを含めて大体、一日の二十四時間を計算してる。
三度の食事と睡眠で一日って考えだよ。
そんなわけだから、実のところはアナトールたちがこの館でどれだけの時間を過ごしたのか。
そこんところは正確には分からない。
とはいえ、しょせんは単なる誤差だよ。
ちょいと簡単な計算をしてもらおうかね。
例えば、もし一日二十四時間と考えていた時間の経過が、実際は三十時間だった場合だ。
一日に六時間の誤差が均等に三百六十五日あったと仮定した場合、その誤差は実に二千百九十時間。
日数に変えれば、九十一と四分の一日さ。
だがこれをアナトールが過ごしたという四年に割り振っても年数での誤差はわずか一年。
そう、ぴったり一年だ。
これじゃあ、シャミッソーはともかく、アナトールとカゾットをフィリオ、フィリアともに知らない謎を解くには弱い。
さて、少々無駄話に時間を割いたのにはちょいと理由がある。
悪いが、今日はもうほとんど話すことが無いんだよ。
カゾットが怒ってどっかに行っちまってから、この日はほんとになんにも無かったんだ。
アナトールの半ば説教にも似たいくつかの説明のあと、フィリオとフィリアはアナトールと一緒に、今度は昼食の用意された部屋に行った。
でも分かるだろう?
この日ときたら、朝はドアの先に見えた真っ黒い霧に肝を冷やし、アナトールを呼ぼうとしたらカゾットが現れて、よく分からないが機嫌を損ね、やっとアナトールに会ったら、シャミッソーと話せなくなったときたもんだ。
加えて、アナトールとカゾットの大喧嘩だよ。
とても食事なんてする気が起きようはずもないさ。
アナトールもフィリオもフィリアも三人仲良くほとんど食事に手をつけず昼食を終えた。
夕食もご同様だよ。
そして、昼食にも夕食にも、カゾットもシャミッソーも姿は出さなかった。
ああ、なんとも素晴らしいね。
一分一秒なんて、時計が無きゃ分からないものだけどさ、それがとてつもなく長いんた。
ふたりじゃなくても思ったろうね。
(どうか早くこの一日が終わってください)ってさ。
しかし残念ながらそれだけは無理だよ。
嫌なことほど長く、終わりが見えない。
こいつは人生においてもっとも厄介な現実のひとつだ。
気の毒には思うが、どうしようも無いことのひとつ。
そう、ままならないもんなんだよ。人生ってのはね。




