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figlio figlia  作者: 花街ナズナ
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【いくつかの質問】

フィリオとフィリアが明らかにおびえてるのに気づいたからかね。

アナトールは努めて口調を優しくして、ふたりに言葉をかけたよ。

「別に怒ってるわけじゃないよ。むしろ、無事でよかったと思ってるくらいさ。ただもう間違っても自分たちだけでドアを開けたりしてはいけないよ。約束だ。いいかい?」

ふたりとも、無言で何度もうなずいたよ。

どっちも半泣きの顔してね。

で、まあその様子からして、今言ったことが破られるってことは無いだろうとアナトールも安心したんだろう。

ふと、頭に浮かんだことを口にしてみた。

「で、ちょっと好奇心から尋ねるんだけど、開けたドアは一体、どんな部屋につながってたんだい?」

フィリアは話題が移ったことをこれ幸いって感じでさ、カゾットのいた部屋の話をしようとしたよ。

「えーと……大きい噴水が部屋の真ん中にあって、そこにカゾットさんが……」

「いや、そっちの話じゃない」

お気の毒さま。

都合よく話をそらしたかったろうがね。

アナトールも馬鹿じゃない。

「カゾットを呼びにいったのは、恐らく私に話の催促をするために助力を願おうとして向かったろうことは察しがつく。だが、初めてドアを開ける理由がその目的では、いかんせん動機が弱すぎる。少なくとも一度、もっと大きな動機でドアを開けていなければ、とてもその程度の目的ではドアは開けられない。最低でも二回。私の考えが正しければ、君らは少なくとも二回は自分たちだけでドアを開けたはずだ」

フィリアは自分の背中からサーッと血の気が失せるのを感じたね。

しかしさ、別にそこまで怖がる必要も無かったんだよ。

アナトールは確かに利口な男だ。

でも、同時に決して厳しいわけでもない。

どちらかっていえば、優しい部類の男さ。

「繰り返すけど、別に私は君らを責めようとしてるんじゃない。単なる質問だ。聞きたいのは最初に開けた時のドアの先。そこがどんな部屋だったか。それだけだよ」

相変わらず色メガネの中からこっちを見つめてるアナトールにフィリアはこれ以上、下手な口先を使う気は失せてたね。

すべてお見通しのアナトールへ、さらに無駄な抵抗をする理由はもう無いわけだしさ。あとは素直に事実だけを話したよ。

「黒い……真っ黒い霧がいっぱいの部屋でした……」

「……ふむ」

落ち着いたアナトールの返事を聞いて、ようやくフィリアは気が抜けた。

なんせ張りっぱなしだったからね。

緊張の糸が。

実際ひとりっきりなら、そのまんま膝ついて床に倒れてたかもしれないよ。

「まあ、想像通りかな。やはり君たちはよっぽどこの館から出たいと思ってるようだね」

そっから少しばかり、アナトールの説明が始まった。

今までの勿体ぶった態度はどこへやらさ。

よっぽど、カゾットの激昂した様子がこたえたんだろうね。

聞きもしないのに、やたら詳しく話してくれたよ。

「その部屋はね、(霧の部屋)だよ。君たちが望んだ通り、この館の外へと通じる唯一の部屋さ。入った人間は自然、館の外へ出る。文字通りの出口だ」

これを聞いたフィリオとフィリアは、顔には出さずとも心の中で飛び跳ねて喜んだよ。

特にフィリアは自分の思った通りだったってこともあって、格別うれしかったろうね。

だがね、希望ってのは小さなロウソクについたちっちゃい炎みたいなもんさ。

ほんのひと吹きでさっと消える。

「ただし」

そしてそのひと吹きは、案の定というか、当然というか、アナトールの一言だったよ。

「言わなくても分かるだろうね。この館からはひとりしか出られない。つまり、もしもそこへ君らのどちらか一方が入っていたなら、残ったひとりはもうここから出られなくなっていたところだったんだよ」

ロウソク消すどころじゃなかったね。

ふたりしてまた軽く背筋が凍ったよ。

危うく取り返しのつかなくなるところだったわけだ。

怖いで済む話じゃあないさね。

それにしても、ほんとにフィリアにゃ感心させられるよ。

ちょいと聞きたいんだけどさ。

普通ここまでの流れを考えて、なおアナトールに質問をする余裕なんてあるもんかね?

悪いが私だったら、アナトールの質問が終わった時点で、さっさと寝室なりなんなりに引き上げるだろうよ。

ま、恐怖心より好奇心が勝るのが子供らしいっちゃあ、子供らしいのかもしれないがね。

「あの……」

「ん?」

「アナトールさんに、ちょっと質問なんですけど」

質問してた側のアナトールは、急にフィリアに質問されて、少しばかり意外そうな顔してたが、それでもしっかりフィリアの質問に耳を傾けてた。

「カゾットさんて……女の人じゃあないんですか?」

この質問については、フィリアの気持ちもよく分かるよ。

いくら明日になったらすべて話してくれると分かっていても、この疑問は今日、飛び抜けて強くなった疑問だったからね。

現実問題、この質問はフィリアのものであり、フィリオのものでもある。

ふたりには噴水の部屋で見たカゾットの姿は、どう考えても男性とは見えなかったんた。

ここは解消しないと、今晩ぐっすり眠れる自信は無いってのが本音だったよ。

が、だ。

期待した答えの代わりに返ってきたのは厳しさの戻った、おっかないアナトールの視線だった。

さらに一言。

「……彼は男性だよ。そう、間違いなく男性だ。疑問に思う部分があるのは分かるが、その点については明日まとめて話そう。加えて、そのことに関しては君たちは一切口にしちゃいけない。それはカゾットに対して決して言ってはならない話題。禁忌の類だ。話す時は私が話す。彼の怒りを買うのは、私ひとりで十分だ」

返事もさせない絶対的な威圧感さ。

フィリオとフィリアはこの日、改めてアナトールとカゾットを怖いと認識し直したよ。


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