第2話 人間の都市
パーティーの所有物“だった”オフロードカーに乗り込み、都市に向かう。
戦利品というか、アイツらの遺品と土産を乗せている。
「……どうして、生かしてくれたの?」
「殺した方が良かったか?」
後部座席に、縛られたまま横たわっているパリスがそう聞いてきた。
「ち、違う!ただ……」
俺の顔色を伺いながら、言葉を詰まらせている。
「生かすも殺すも、奪う側の自由だ。お前が言ったろ、なんでもするって」
俺の根底には、絶対の決意があるが、笑い合った仲間を殺して何も感じないわけじゃない。
「……」
パリスはそれから黙りこくっていた。
その様子を見るたび、やはり思い出してしまう。
俺も、かつてはそうだったからだ。
奪われて、ただその事実を受け入れて従うしかない。
ショックも大きいのだろう。パリスはアルスを慕っていた。
恐らく計画はアルスが企てた。探焉者としてのランクは俺がCで他がD、4対1なら負ける事はないと思ったのだ。
最年少の俺がリーダーになれたのは、このランクのおかげであり、不満の元でもあった。
「パリス、俺はお前を信用できない」
「……っ」
ミラーに映るのは、怯えるパリスの姿だった。
「パーティーを作り直す、正直言ってお前は必要ないんだ」
「ま、待って……おねがいっ!」
「あぁ、だからお前には、俺専用の情報屋になってくれないか?」
「……へっ?」
俺の言葉が拍子抜けだったのか、パリスは雰囲気にそぐわない気の抜けた声を出していた。
コイツは既に諦めていたのだろう。それでも、どこかで救いを求めていた。
だから、俺は手を差し伸べた。
「情報屋だ。探焉者を辞めて、俺から離れて自由に行動して、俺が欲しい情報を持ってくる」
あまりにも突飛な提案に、まだパリスは戸惑っていた。
無駄に期待させるのは良くない。現実的な提案をしようか。
俺はパーティーで依頼に行く際、必ず持っていくボイスレコーダーを再生した。
「……っ!」
流れてくるのは、俺以外の4人がスポンサーの意思に背き物資を横領しようとする発言や、俺を裏切った際の音声。
コイツは愚か者だが馬鹿じゃない。少し考えれば、分かるだろう。
「都市に着くまでに決めろ、依頼の報告でハルドさんの所にすぐ行かないとだからな」
新米の俺たちと契約を結んでくれたスポンサーであるハルド。
都市と都市を繋ぎ、物資の流通網を確立している商人だ。
ハルドは俺たちに資金の援助を与える。俺たちは旧文明の都市を探索し、物資を提供する。
それがDランク探焉者パーティー『明星』とハルドの関係だ。
他の奴らを全員殺そうが、この音源があれば心配ない。奴らが生きていた方が損だったからな。
「おい、ってお前らか」
「いつも門番ご苦労様でーす」
「まて、人数が合わないぞ」
「死にました、俺とコイツ以外は」
門番は「そうか」と、淡々と頷き通してくれる。この世界では何一つおかしくない事だからだ。
意外だったのはパリスだ。一騒ぎくらいすると思っていたんだが、案外素直だな。
後ろを見ると、パリスはただ縮こまるだけ。なんともなザマだ。
「……」
この馬鹿デカい壁に覆われた都市『グランティ』、俺たち人間の都市である。
壁は二重になっていて、外側の壁と内側の壁の間が、大抵の人間の居住区となっている。
今では魔法種たちや獣人もそれぞれの都市に点在し、共生をなしているが、かつては殺し合った仲だという。
「とりあえずハルドの所まで行く、お前は付いてくるか?」
返事は無かった。呼吸を少し荒げて、傷を抑えていた。
「……はぁ」
まずは医者かよ。流石に都市内で死なれちゃ困るし、最寄りは……
ふと、考えていると天まで届きそうな高い、それはもう高い壁が眼前に聳え立っていた。
壁の向こうから漏れる光が、まだ昼だというのに見えてくる。
「……今日も今日とて楽しそうなこった」
都市を守る外壁、その内側にはもう一つ大きな壁がある。
その壁の向こうには、華々しい桃源郷が広がっているらしい。
内壁と外壁、その間にあるのが俺たちの居住区だが、俺たちも内側に行ける。
中央支部を利用できるのは、Cランク以上の探焉者だけだ。
そして、その先には内壁の向こうに本拠を置く、最高峰の探焉者たちが集う『クラン』という存在がある。
中央以外の各支部なら、ランク制限はない。俺はパーティーに合わせていたが、中央で再出発が今の最善だろう。
いずれはクランに、自分たちが支部そのものを運営する。
俺の頂点への道は、ここにある。
俺は内壁を見つめ、ただ一つの覚悟を確かめた。




