第1話 奪う側
昼から少し騒がしい協会で、俺は1人でパーティーメンバーを待っていた。
この騒がしさは、正直癒しだ。
死を忘れて、馬鹿騒ぎする連中を見ると、まだこの世界にも救いがあるみたいで。
「……にしても遅いな」
特注品の拳銃を整備しながら、かれこれ30分は待っている。
「よぉリタ、今日もお綺麗な顔だな」
「遅れといて軽口か? 汚ねぇ目で俺の顔を見定めんな」
ようやく来たか、このデカブツが俺のパーティーメンバーの1人、ミクズだ。
「他は?」
「まだだ、お前らは歳の割に時間の計算もできないのか?」
「俺はまだ早い方だろ」
俺は呆れて言葉も出なかった。
そういう普段の緩みが、いざという時の致命的な弱点になる。
俺は俺自身に、こう言い聞かせている。
『常に奪う側で在れ』
そうなる為には、他者に隙なんて見せるわけにはいかない。
このパーティーのリーダーは俺だが、年齢で言えば1番下だ。
そういう点で、舐められているのは言うまでもないだろう。
圧倒的な実力がいる。
誰も文句のつけようのないリーダーになるためにはな。
そうしている内に、残りの3人も教会に揃い、俺たちは依頼のため出発した。
◇
「で〜? 今回のクエストは?」
「……話を聞いてなかったのか?」
悪びれる素振りも見せず、俺の後ろを歩く長い赤髪の女、パリスが聞いてきた。
「はぁ、地区12A、そこの廃墟群にある物資量の調査だ」
「調査だけ〜? 取っちゃダメなの?」
「今回はスポンサーの依頼だぞ? 安心しろ、しばらくすれば、俺たちも自由に探索できる」
「お堅いね〜」と気怠げに言い、またアルスとの会話に戻る。
正直、このパーティーにとって邪魔でしかない。
いや、どこに行こうが変わらないだろう。
チームの要であるアルスを、取り巻くパリスとシュラ。ミクズも俺と同じ意見だろうな。
「おっ、見えたぞ」
ミクズが不意にそう言うと、渓谷を抜けた先にビル群が見えた。
既に全域調査済みだと思われていたが、地下に新たな空間が発見されたらしい。
「やっとです? もうクタクタですよ……」
「シュラ、少し荷物を分けろ」
「あっ、ありがとうです」
小柄なシュラは、何故か他の奴より荷物が多い。
……まぁ、その小さな体に見合わないほどの食い意地で、荷物の殆どが食料だがな。
「ねぇリタ、少し水分補給でも挟まない?」
もう少しで着くというところで、アルスが水筒を差し出してきた。
俺は素直に水筒を受け取った。
「……あぁ、そうだな。ついでに用を足してくる」
「うん、分かった」
アルス達に背を向けて、水筒を飲みながら、俺は物陰まで行き《《用を済ませた》》。
◇
「……こりゃスゲェな」
地下空間に着いて早々、ミクズがそう声を上げた。
その気持ちも分かる。目の前に広がる光景は、まさに宝の山だ。
「これ見て! 欲しかった服〜!」
「こっちには綺麗な……何かがあるです!」
俺たち人間は、既に過去文明を超えた技術力を持っている。
だが崩壊した世界では、どうしても再現出来ないものや、枯渇する材料がある。
そのため、旧文明の衣服や製品は価値が高い。
流石に魔法種の素材には敵わないけどな。
「こっちはなんだ? 携帯機に似ているな」
「その通り携帯機だ、マキナの核と同じ部品が使われているらしい」
『機械じかけの獣』は、化け物だ。アレを討伐するくらいなら、こうやって廃墟を漁った方がいい。
「へぇ〜、これは?」
「それは……どう見ても下着だろ、一々聞くな」
「こういうの童貞は厳しいよね〜」
「……お前ら、これは依頼だ。信用のためにも数個にしておけよ」
「……うん、そうだね」
アルスのその返事に、どこか違和感を覚えたが、俺たちはそのまま奥へ進んだ。
「ねぇリタ、ちょっと良い?」
「どうした?」
かなり進んだ所で、俺はアルスに呼び止められるまま振り返った。
「……どういうつもりだ?」
「ごめんねリタ、僕もこんなことしたくないんだけど」
俺の違和感は正しかったみたいだ。
言葉とは裏腹に、相変わらず下品な笑顔で笑いやがる道化が目の前にはいた。
パリスは何も言わずに、俺の額に拳銃の銃口を押し当てている。
「これは明確な裏切りだぞ。しかも自分の手は汚さないと? お前は相変わらず玉が小さいな?」
俺は、わざとらしく笑って見せた。
「……賢い君なら、状況は理解できるだろう?」
そう言ってアルスは、シュラに何か合図を出した。すると、シュラは懐から一つビンを取り出した。
「活性剤、ねぇ……」
「そうとも、混ざり者の君には辛いだろ?ほら、そろそろ……」
恐らく水筒に仕込んでいたのだろう。活性剤とは、体内の魔力を文字通り活性化し、魔法の行使に影響を与えるもの。
本来人間には何の効き目もないソレは、俺のような存在には毒となる。
「……っ! がっ!くそッ……おまえ……!」
「あはっ!聞いてきたァ?」
俺のすぐ側にいたパリスが、ニタニタと気色悪い笑みを浮かべる。
「リーダーになれて嬉しかったぁ? 張り切って仕切ってくれたせいでさ、私たち最悪なんだよね」
お前らの小物らしい不満は知っている。依頼に従順、そして報酬の良いきな臭い依頼はしない。
お前らドブねずみにとって、俺という存在は異分子でしかなかったろう。
……あぁ、本当に哀れだな。
「なんとか言ったらぁ?」
「おいパリス、やるなら早くしろ」
何も言わず、後ろで腕を組んでいたミクズが、怪訝な目をパリスに向けた。
「ちょっとくらいお楽しみあってもいいでしょ?こういう可愛い顔の男ぐちゃぐちゃにすんの、大好きなんだよねぇ」
悪いけど、お前らを待つのはお楽しみなんかじゃない。
蹂躙だ。
「早くしてです。帰って報告してから、他の連中が寄ってくる前に漁り尽くさないとですよ」
「そうだぞ。探焉者たるもの、行動は早めに、だろ?」
「―――はっ?」
静かな地下空間に、一発の銃声が鳴り響いた。
最優先はパーティー最強のミクズから、距離は空いてたが、やはり俺は腕が良い。
悪いが、俺は裏切り者には容赦しない。それが、その日雑談をした相手でも。
「……えっ、え?」
「何をしてるッ!?早くアイツを殺せシュラァ!」
「おっと、動くなよドブねずみ共」
「あぐっ!?」
思考が止まっていたのか、パリスを拘束するのも容易だった。
「お前、なんで活性剤が効いてない……!」
「あんなの飲むわけないだろ、演技が下手すぎる。俺を見習ってみたらどうだ?」
普段は欲がないみたいな顔して、お前が1番の利己主義者だった。
他者に与えると言うことを知らないお前が、俺を気遣うはずがない。
「あっ、えっ、どうしたら……」
「クソッ!良いから撃てッ!役立たずがッ!」
「……おぉ、マジかよ」
周囲の柱や地面を跳弾する無数の銃弾。表面積はできるだけ小さくして走る。
「イ"ッ!?」
パリスを盾にしながら、店舗らしき場所に逃げ込む。
俺は運が良いことに無傷で済んだが、パリスは足に一発もらったらしい。
「このッ!クソ野郎、なんてこと……!」
「黙れ。この状況も、その傷も、元々はお前らのせいだろ?」
少し睨みつけただけで、体がすくみ怯んでしまう。
惨めすぎる。昔の自分を見てるみたいで、吐き気がする。
「動くなよ」
俺は一言、パリスに言い残して店の外へ。
柱に背を預け、状況を整理する。
恐らく柱を交差するように、シュラとアルスの射線が通っている。
「お〜い!遺言なら今のうちにな〜」
「黙れイカレサイコがッ! 早くそこから出てこい!」
アルスの声は、柱を背にして左から聞こえてくる。
どこかの店から顔を出しているのだろう。
……うん、簡単だな。
かからなくとも囮にはなる、煙幕と一緒に使えば……
「ほら、プレゼントだ」
「なっ!?」
柱の裏から投げたのは、球体状の捕縛機と煙幕。
捕縛機は対象にぶつかる衝撃によって、縄が伸縮し捕らえるという代物。
それと同時に反対方向に飛び出して、シュラを狙う。
コイツを殺せば、後は処理作業でしかない。
「ぎゃッ」
「随分と可愛い声だなシュラ?」
「ちょ、ちょっと待つです!じ、実は私はリタの事が―――」
銃声がまた一つ、地下に響き反響する。
すぐさま振り返り、煙幕の向こうにいるアルスを警戒するが……
「くそっ!なんで、外れない!」
……ブラフ、てわけでもなさそうだ。
「やぁドジっ子ちゃん、気分はどうだ?」
「お前ッ!早く外せ!コレが都市に知られれば、お前は終わるぞッ!」
「あぁ、だからここで殺すんだろ?」
「ヒッ!」
逃せばこの事は言いません、そんな言葉を信用する人間はいない。
「ま、待ってくれ! この計画はアイツ、アイツだよ!パリスが―――」
「……はぁ」
大きく息を吸い込んで、また吐いた。
手の震えは拳銃にも伝わり、カチャカチャと音を鳴らしている。
全て聞こえていたのか、店に戻るとパリスは従順にそこに突っ伏していた。
「逃げなかったんだな?」
「に、逃げたら、ころすでしょ……?」
「あぁ、正確には逃げなくても殺す、だけどな」
ミクズに一発、シュラに一発、アルスに一発、拳銃に入っている残りの弾は、九発。
パリスを殺すには、十分すぎるな。
「ち、違うの! わ、私なら役に立てる!」
「なんの役に? また裏切ってくれるのか?」
「……違う、違います!り、リタの……リタ様のためになんでもします!」
生きるために全力を尽くす、まさに人間という部分だ。
「悪いが、俺は潔癖症だ。ネズミは飼えないな」
弱者は、ただ奪われる。
それがこの世界の真理であるなら、俺は常に……
奪う側であると、決めている。




