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『婚約破棄された瞬間、全員の本音が吹き出した件』(連載版)  作者: くろめがね


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7/8

第七話 『沈黙は、敗北ではなかった』

第七話です。

三日後、茶会が開かれた。


主催は、王子側に近い有力貴族。

招待状が届いたとき、私は少しだけ考えた。


行くべきか。

断るべきか。


本音が、浮かぶ。


(来るかどうかで、彼女の度量が分かる)

(来なければ負け犬)

(来たら来たで、見世物)


……なるほど。


つまり、

どちらにしても、私は物語に組み込まれる。


なら。


私は、出席の返事を出した。



茶会は、いつも通り優雅だった。


笑い声。

甘い菓子の香り。

薄く張られた緊張。


私が入った瞬間、

会場の空気がわずかに波打つ。


(来た)

(やっぱり来た)

(強いわね)

(空気読めないのかも)


私は微笑み、

いつも通りの挨拶をする。


騒ぎにはしない。

気まずさも作らない。


それが一番、

相手を困らせる。


やがて、話題は自然に――

いや、不自然に――

“あの件”へと向かっていった。


「最近、色々とお騒がせがありましたわね」


主催の令嬢が、

あくまで世間話の顔で切り出す。


(さあ、どう出る?)

(泣く?怒る?)

(ここで態度が決まる)


視線が集まる。


私は、紅茶を一口飲んだ。


「ええ」


それだけ。


ざわめき。


(それだけ?)

(弁解しないの?)

(王子の悪口は?)


令嬢は、少しだけ身を乗り出す。


「ご心痛、お察ししますわ」


(さあ、どう返す?)


私は、カップを置いた。


「いいえ」


静かに、はっきりと。


「私は、傷ついておりません」


会場が、一瞬だけ凍る。


本音が、爆発的に揺れる。


(嘘)

(強がり)

(かわいそう)

(なんでそんな顔できるの)


私は、視線をまっすぐ令嬢に向けた。


「婚約は、契約です」


ざわり。


「双方が合意できなければ、解消される。それだけのことです」


(冷たい)

(怖い)

(でも、間違ってない)


「私に至らぬ点があったのかもしれません」


(認めた?)

(いや、曖昧だ)


「ですが、王子にもまた、至らぬ点があったのでしょう」


空気が、変わる。


誰も、王子を直接は責めない。

それが、この城の暗黙の了解。


でも私は、責めていない。

ただ、“同じ高さ”に置いただけ。


令嬢の本音が揺れる。


(これ以上踏み込めない)

(私が悪者になる)


彼女は微笑みを保ちながら、

話題を変えようとする。


そのとき。


会場の奥で、

小さな声が漏れた。


「……王子様、最近苛立っておられるそうよ」


(婚約破棄の後から)

(思ったより評判が悪いらしい)


ざわり、と空気が波打つ。


誰も私を見ない。

でも、全員が私を意識している。


私は、静かに立ち上がった。


「本日はお招きありがとうございます」


頭を下げる。


「皆様が穏やかにお過ごしになれますよう」


それだけ言って、

私は席を離れた。


背後で、本音が爆ぜる。


(逃げた?)

(いや、勝った?)

(なんであの人、揺れないの)

(こっちが悪いみたい)


廊下に出た瞬間、

胸の奥が熱くなる。


私は揺れていないわけじゃない。


怖い。

孤独だ。

不安だ。


でも。


感情を見せないことが、

 今の私の武器だ。


背後で、茶会の空気が崩れていくのが分かる。


噂は、形を変える。


「可哀想な令嬢」から、

「動じない令嬢」へ。


そして――


「王子の方が、焦っているのでは?」へ。


私は何もしていない。


ただ、

泣かなかった。

怒らなかった。

縋らなかった。


それだけで、

物語は、ゆっくり反転する。


階段を降りながら、

私は初めて、小さく笑った。


――沈黙は、敗北ではなかった。


沈黙は、

相手の焦りを映す鏡だ。


そして今、

焦っているのは、私ではない。


短くなりがちです。

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