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『婚約破棄された瞬間、全員の本音が吹き出した件』(連載版)  作者: くろめがね


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6/8

第六話 『正しいことを言う人ほど、嫌われる』

6話です。

その噂は、突然だった。


「あなた、昔から言い方がきついって、皆さん仰ってますよ」


昼下がりの回廊。

通り過ぎるはずだった令嬢が、

わざわざ足を止めて言った。


声は穏やか。

表情も優しい。


けれど、その上に浮かぶ本音は、

驚くほど鋭かった。


(今なら言っても大丈夫)

(彼女、もう守られてないし)

(前から気に入らなかったのよね)


――ああ。


始まった。


婚約破棄のあと、

人は二種類に分かれる。


本当に心配する人。

そして――

今なら石を投げても安全だと思う人。


私は足を止め、

静かに彼女を見た。


「そうですか」


それだけ。


怒りもしない。

反論もしない。


その態度に、

彼女の本音が少しだけ揺れる。


(あれ…効いてない?)

(もっと反応すると思ったのに)


周囲の空気がざわついた。


回廊の端に立つ数人の令嬢たち。

彼女たちの本音が、

一斉に浮かび上がる。


(言っちゃった…)

(でも事実よね)

(正論ばかりで怖かったし)

(王子様が疲れるのも分かる)


――そう。


彼女たちは、

私を悪人にしたいわけじゃない。


ただ、

“納得できる理由”が欲しいだけだ。


婚約破棄という出来事を、

理解しやすい物語にするために。


「あなたは、いつも正しいことばかり言っていた」


令嬢が続ける。


「でもね、正しさって、

 人を疲れさせることもあるのよ」


その言葉の上に、

別の本音が重なる。


(私は間違ってないでしょ?)

(誰か共感して)


私は、ゆっくり息を吸った。


……昔の自分なら、

きっと反論していた。


「正しいことを言って何が悪いのですか」と。


でも、今は違う。


私は、ただ一歩、彼女に近づいた。


「教えてください」


彼女が、わずかに目を見開く。


「私のどこが、

 あなたを疲れさせましたか」


その瞬間、

回廊の空気が凍りついた。


本音が、

一斉にざわめく。


(え…)

(そんな聞き方する?)

(責めてない…?)


令嬢の顔が、少しだけ揺れる。


(責められてない…)

(でも、答えないといけない)

(……どうしよう)


彼女は、言葉に詰まった。


周囲の視線が、

今度は彼女に向く。


私は、静かに待った。


怒らない。

攻めない。

ただ、問いを置く。


それが、

一番逃げ場をなくす。


「……あなたは」


彼女が、ようやく口を開く。


「いつも、間違っていないのよ」


(だから怖かった)


「私たちが曖昧にしたいことを、

 はっきり言ってしまう」


(私も分かってたのに)


「だから、

 ……近づきづらかった」


沈黙が落ちた。


私は、その言葉を受け止めた。


責める気持ちは、

不思議と湧かなかった。


むしろ、

少しだけ――

理解してしまった。


正しさは、

人を救うこともある。


でも同時に、

人の逃げ道を奪う。


「……そうでしたか」


私は、軽く頭を下げた。


「教えてくださって、ありがとうございます」


令嬢の本音が、

大きく揺れる。


(怒らないの?)

(なんで…)

(私の方が悪者みたいじゃない…)


周囲の令嬢たちも、

ざわめく。


(この人、変わった?)

(前なら言い返してたのに)

(なんか…怖い)


怖い。


その言葉が、

静かに胸に落ちた。


私は、もう“正しさ”で戦っていない。

ただ、

相手の言葉を、

そのまま受け止めているだけだ。


それなのに、

人は距離を取る。


――面白い。


私は何もしていないのに、

場の重心が、

ゆっくりこちらに移っている。


令嬢は、

小さく一礼し、去っていった。


その背中の本音。


(勝った気がしない…)


私は、回廊に一人残った。


胸の奥が、

じんわり熱い。


怒りではない。

悔しさでもない。


――これは、

たぶん、

“解放”だ。


私は、

正しさを振りかざさなくても、

立っていられる。


それを、

今日、初めて実感した。


遠くで鐘が鳴る。


噂は、きっとまた形を変えるだろう。


「正しい人」から、

「何を考えているか分からない人」へ。


でも、それでいい。


私は歩き出す。


正しいことを言う人ほど、嫌われる。

でも――


何も言わなくなった人は、

 もっと怖がられる。


そして私は、

その“怖さ”を、

初めて自分の武器にしたのだった。


テンポ上げていきます。

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