表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『婚約破棄された瞬間、全員の本音が吹き出した件』(連載版)  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第五話 『庇われなかった理由が、いちばん痛い』

第五話です。

家族というものは、

最後に味方でいてくれる存在だと、

私はどこかで信じていた。


だからこそ、

それが違ったと分かったとき、

痛みは静かで、深い。


その日、

私は後見人である叔父に呼ばれた。


血縁ではあるが、

親しいわけではない。

それでも、

私の立場と将来を預かっている人だ。


部屋に入ると、

彼は書類に目を落としたまま、

私を迎えた。


「座りなさい」


声は穏やか。

いつも通りだ。


(感情的になられても困る)

(冷静に話そう)

(これは責任の話だ)


私は椅子に腰を下ろした。


「今回の件だが」


彼は、ゆっくり言葉を選ぶ。


「城としても、

 我々一族としても、

 あまり騒ぎ立てるつもりはない」


(余計な波は立てたくない)

(立場を守る方が大事)


私は、頷いた。


「承知しています」


その一言で、

彼の本音が、少しだけ安堵に傾く。


(やはり分かっている)

(話が早い)


……分かっている。


分かっているから、

余計に胸が痛む。


「王子殿下の判断については……

 軽率だったと言えるだろう」


(だが、責めるつもりはない)

(今さら関係を悪くしたくない)


「しかし」


彼は視線を上げ、

私を見た。


「君にも、

 反省すべき点がなかったとは言えない」


その瞬間、

言葉の上に浮かんだ本音が、

はっきりとした形を取る。


(全面的に庇うつもりはない)

(こちらの立場を危うくしたくない)


私は、何も言えなかった。


――反省。


何を?

泣かなかったこと?

怒らなかったこと?

正論を言いすぎたこと?


「もう少し、

 柔らかく振る舞うことはできなかったのか」


(空気を読んでほしかった)

(王子の自尊心を傷つけた)


私は、ゆっくり息を吸った。


「……叔父上は、

 私が間違っていたとお考えですか」


その問いに、

彼は一瞬だけ言葉に詰まる。


(間違ってはいない)

(でも、庇えない)


「……間違っていた、

 とまでは言わない」


(だが、正しかったとも言わない)


それが、答えだった。


私は、

ようやく理解した。


庇われなかった理由は、

私が悪かったからではない。


――私を庇う“余裕”が、

 誰にもなかっただけだ。


その事実が、

胸の奥に、

じわじわと染み込んでくる。


「君は、賢すぎる」


叔父は、ため息混じりに言った。


(扱いづらい)

(感情で動いてくれない)


「賢い人間は、

 時に周囲を疲れさせる」


私は、視線を伏せた。


賢さは、

私の武器だと思っていた。


でも今は、

それが理由で、

守られなかったのだと分かる。


「これからは」


叔父は、

優しく諭すように言う。


「少し、

 身を低くしなさい」


(そうすれば、波は立たない)

(一族も守れる)


――身を低く。


それは、

正しさを下げるということだ。


「……分かりました」


そう答えた自分の声が、

ひどく遠くに聞こえた。


話は、それで終わった。


部屋を出た瞬間、

胸の奥が、

少しだけ空っぽになる。


怒りはなかった。

悲しみも、

大きくは湧かなかった。


ただ、

一つだけ、

確かなことがあった。


私は、

ここでは守られない。


廊下を歩きながら、

すれ違う人々の本音が、

いつもより刺さる。


(家も味方しないらしい)

(じゃあ、深入りしなくて正解)


噂は、

もう形を変えている。


私は、自室に戻り、

扉を閉めた。


椅子に座り、

両手を膝に置く。


少しだけ、

指が震えた。


――庇われなかった理由が、

 いちばん痛い。


それは、

裏切りではない。

敵意でもない。


都合だ。


人は、

都合で人を守り、

都合で人を見捨てる。


私は、

その事実を、

今日、

きちんと理解してしまった。


そして、

理解してしまった以上、

もう戻れない。


でも。


胸の奥に、

別の感情が芽生える。


――なら、

私は、

誰にも庇われなくても、

立てる場所を作ろう。


一族のためでも、

城のためでもない。


私自身のために。


窓の外では、

夕暮れが広がっていた。


赤く染まる空を見ながら、

私は、静かに決める。


次に誰かが、

私を試すなら。


私は、

身を低くするのではなく、

距離を取る。


それが、

私の答えだ。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ