第7話:再現
「どうだ! これが世界最強の火力ってやつだ!」
ドヤ顔で胸を張るヒートの背後で、焼き尽くされたベアの残骸からパチパチと炎が爆ぜる音が響く。
小細工なしの単純な破壊力で全てをねじ伏せる力技。……これぞ、前世の俺が憧れ続けた異世界ファンタジーの光景そのものだった。
(まさか、魔法騎士になってすぐこんなもんを見れるなんて……! アニオタにとっては最高のイベントだ!)
俺が心のなかで絶賛した、その瞬間だった。
ガサササッ!!!
「――ッ!? まだいやがったか!」
先程までいなかったはずの、敏捷特化のアーマード・ベアが、ヒートの死角である右後ろの草陰から、急に飛び出してきた。
ヒートが完全に撃ち終えた直後の隙を突いた、鋭い奇襲。
ヒートに対して、鋭い爪が飛びかかる。
エレーナが「危ないっ!」と悲鳴を上げる。
「チッ、魔力の回復が間に合わねえ……っ!」
ヒートが歯を軋ませ、俺が自らの脳内のスイッチを入れようとした、その時。
アーマード・ベアの動きが止まった……いや、止められたのだ。
「危ないな、君は」
後ろでのんきにあくびを噛み殺していたヨマの手元から、一本の縄が飛び出し、ヒートを襲おうとしていたアーマード・ベアの右手に絡みつき、完全に動きを封じていた。
「な……!? お前……」
予想だにしていなかった光景に、全員が戸惑っている中、ヨマは淡々とアーマード・ベアの命を絶つために魔法を放った。
【風魔法:エア・スラッシュ】
三日月型の風の斬撃が放たれ、アーマード・ベアの首が胴体から離れ、一瞬で絶命した。
「ふう……」
まるで、軽いひと仕事を終えたあとのような余裕感。実際には、討伐するとなれば命の危機があるほどの魔獣を倒したあとなのだが。
「嘘……。ただの一本の縄で、あの突進を止めたの……!?」
エレーナが信じられないものを見る目で絶叫する。
ヒートもまた、自分の命が救われた屈辱と驚愕で「テメエ……それのどこがハズレ魔法だ……!」と声を荒らげた。
……これが第6団の『まともじゃない奴ら』の真の実力か。
しかも、実力を隠しているタイプのクール系キャラか。
アニオタ的に最高すぎて脳汁が止まらない。
(やっぱ、第6団に来てよかった……!)
俺が自分の選択を誇りに思った、その瞬間だった。
ゴォォォォォォォォン……!!!
突如として、それまでの雑魚どもとは文字通り『格』が違う、ドス黒く圧倒的な魔力のプレッシャーが霧を割って吹き荒れた。
地鳴りと共に姿を現したのは、全長数十メートルを超える、全身を禍々しい漆黒の炎で包んだ、この森の主――魔獣『ヘル・ハウンド・キング』だった。
「な……っ!」
「嘘でしょ……っ!」
全員の動きが、絶望と驚愕で硬直した。
奇襲による奇襲。どうやら、魔獣ってのは見た目に反して意外と卑劣な性格をしてるらしい。
——だが、後ろでのんきに観戦して、みんなより一足先にやつの存在に気づいていた俺は、静かに彼らの前に一歩、踏み出した。
前世の画面の向こうで憧れ続けた、最強キャラのムーブ。
ピンチの味方の前に飄々と現れ、圧倒的な力で戦場を支配する、あの最高に痺れるアニメのワンシーンを、今ここで現実にする。
「——そういえば、まだ2人には俺の魔法を教えてなかったよな?」
不敵に微笑みながら、魔獣に向けて静かに右手をかざした。
脳内に100%の超高解像度で再生するのは、前世で擦り切れるほど観た神アニメの『死ぬまで標的を燃やし続ける、地獄の業火』。
「俺の魔法は、あまりにリアルすぎて、相手の五感すら騙しちまう、最強の幻創魔法だ」
【幻創魔法:カース・バーン】
瞬間、魔獣の体が激しい炎に包まれた。もちろん物理的な炎など存在していない。だが、音、匂い、触覚のすべてをハッキングされた魔獣の脳は、「自分が今まさに焼き焦がされている」と完全誤認し、感じていないはずの熱さと激痛で、その場に激しくのたうち回る。
――なんか、あの時と似てるな。
家を追放され、前世の記憶を取り戻して、初めて戦ったあの森の魔獣との戦いを思い出す。
だが、あの時とは決定的に違うことがある。
それは、あの時にはいなかった、『観客』がいることだ。
(ちょうどいい機会だな)
あの時、なんだか少しだけ物足りなかった。せっかく俺の魔法がこんなに強いことが判明したのに、その瞬間を見たのが俺だけしかいなかったなんて。そんなの、少し勿体ない。
――今こそ、あの時観客がいたらどんな反応をしていたのか、確かめるときだ。
トドメを刺すために、俺はもう一つの『ハズレ魔法』を発動する。
思い描くのは、あの時と同じ、極限まで密度を圧縮させ、アニメの作画そのままの、鋼鉄並みの硬度を誇る巨大な土の槍だ。
「――消えろ」
【土魔法:創造クラフト】
ズゴオォォォォン……!!!
次の瞬間、地面から音速の壁を破る速度で黒槍が飛び出し、ヘル・ハウンド・キングの喉元を一瞬で貫い
た。
闘技場の時とは比べ物にならない大質量が地を割り、凄まじい地鳴りが辺り一帯に鳴り響く。
「嘘だろ……。あんなデカい魔獣を一撃で、消した……?」
あまりの光景に、3人は唖然としていた。
「アンタ……、まさかここまでだったとは……」
「ちょっと次元が違いすぎるね……」
「てか、本当に幻かよ……」
——なるほど。
あの時、観客がいたら、こんな反応をしてたんだな。
闘技場で、俺の力を見せつけたときの、あの大勢が湧く感覚も、最高だった。
けど、圧倒的な力に、言葉を失っているこの感じも……。
(最高だ……!)




