第5話:こういうのを求めてた
(まともじゃない、か。……最高じゃん! そういうアニメの『訳ありクセ強集団』、前世から大好物なんだよな!)
試験官の不穏な警告を、俺は脳内で完全ポジティブに変換していた。
くだらないクソ実家のしがらみから解放され、手に入れた自由。これから始まる新生活へのワクワクで、胸の高鳴りが止まらない。
「アンタ、さっきから何ニヤニヤしてんのよ。少し不気味なんだけど……」
隣を歩く鮮やかな赤髪の少女、エレーナが、ジト目で俺を睨みつけてくる。
「いや、変わり者っていっても、どんな奴らなんだろうな〜って。ほら、変な奴にも、色々種類があるだろ?」
「そんなことはどうでもいいわよ……。私は第6団に入るってだけでもう頭がいっぱいなんだから。お父さんになんて説明したらいいのか分かんないわよ……」
頭を抱えてガックリと肩を落とすエレーナを横目に、俺たちは歩みを進める。
王都の華やかな中央通りから外れ、薄暗い路地の奥へ。
ようやく辿り着いた目的の場所で、俺たちは足を止めた。
そこに佇んでいたのは、王都の景観から完全に孤立した、今にも崩れそうなほど年季の入った古城だった。
蔦が絡まり、怪しい気配が微かに滲み出ているボロ城。
「……ここが、仮にも王属魔法騎士団のアジト?」
エレーナの顔が引きつる。
「ま、まあ、一番下の団のアジトなんてこんなもんだろ……多分」
確かに、まだ前世のお化け屋敷のほうが清潔感があるレベルだが――。
(いや! むしろこれだよこれ! この『表舞台から隠された、規格外の変わり者たちのたまり場』感! 男のロマンの極致じゃねえか……!)
「行くぞ、エレーナ! 俺たちの伝説はここから始まるんだ!」
「アンタ、本当に何言ってるの……っ!?」
困惑するエレーナを置いて、俺は古城の重厚な鉄の扉を勢いよく押し開けた。
――ギギギ、と不穏な音を立てて開いた空間。
そこで俺たちを待ち受けていたのは……。
「おい! テメエ、床で寝んじゃねえよ! 汚えだろうが!」
「ん〜……うるさいなぁ……。君は神経質だね……」
謎の言い合いをしている二人組。
「やったぁー。これで僕の5連勝だー。君には賭けるものは残っているのかなー」
「クソッ……! 見え透いた演技しやがって。このイカサマ野郎が……!」
机で何らかの賭けをしている二人組。
一歩間違えれば治安の悪い無法者の酒場。
だが、前世で浴びるようにアニメを見てきた俺の目は誤魔化せない。
俺たちの侵入に気づきもしない、『一癖も二癖もある奴ら』のやり取り。
「……最ッ高だ。こういう『明らかに普通のやつとは違う変わり者集団』と一緒に働きたかったんだよ……! こういうのを求めてたんだよ!」
妄想が現実に追いついた興奮で、俺のテンションは最高潮に達していた。
「……なんで、こんな魔境に変な奴らと一緒に放り込まれなきゃいけないのよ……」
そんな俺とは反対に、エレーナのテンションは地の底まで急降下していた。
そんなやり取りをしていたその時、奥の特大ソファにドカ座りしていた男が、ノシノシと地鳴りを立てて立ち上がった。
前世の世界なら、ボディビルダーとして間違いなく世界を獲れるレベルの超巨体。大柄な緑髪の男が、俺たちの顔を見るなり、目玉が飛び出そうなほど驚愕に表情を歪めた。
「おう! お前らが今日来るっていう新人か……って、おいマジかよ!?」
男の全身から、文字通り空気が歪むほどの圧倒的な魔力が吹き出す。
「お前ら、昨日の試験でギガント・バイソンを一撃で塵にしやがった化物コンビじゃねえか……!? てっきり第1団の特待生枠にスカウトされてると思ったが、なんでこんな底辺に来てんだ!?」
「まあ、俺堅苦しいのは好きじゃないんで。第6団なら、そういうのはないかなって思っただけです」
俺がポーカーフェイスのまま平然と答えると、男は一瞬呆気にとられた後、建物を揺らすほどの爆笑を轟かせた。
「ハハハハ!! なんだそりゃ! 第1団のあのエリートどもを『堅苦しい』でフりやがったか! お前最高だな!」
そう言って、男は俺の肩をバチバチと叩いた。軽く叩いたつもりだろうが、骨が軋むほど痛く、思わず声が出てしまう。
「おっと、挨拶が遅れたな。俺が第6団の団長、ガルス・ボルステツだ! ここはな、ノルマさえ達成すればサボりも賭博も一切不問の放任主義だ。お前のようなやつには最高の職場だろ?」
そう言ってガルス団長は、自慢の分厚い胸板を叩いた。
「お前らの資料はすでに全員で頭に叩き込んである。だから、わざわざ名前を名乗って歩く必要はねえぞ。……だから、お前らの実力を見込んで、早速だが”特級任務”を受けてもらう」
「特級任務……?」
(キタキタキタ! アニメお約束の、いわくつきの裏クエストってやつだな!?)
俺の脳内の中二病細胞が激しく歓喜する。
「ここ最近、王都外縁の『黒の深森』で、通常じゃあり得ねえ規模の魔獣の暴走の兆候が出ている。他の団の奴らが、報酬が低いって理由で俺ら第6団に投げつけやがったんでな。お前のあの魔法で、アイツらと一緒に一網打尽にしてきてくれ」
団長が指さしたのは、先ほどから床でくだらない言い合いを続けている同期の2人組だった。
「おい、もう5分経ってんだよ……! 寝るなら自分の部屋で寝ろ……!」
「う〜ん、君は繊細だな〜」
「テメエが大雑把すぎるんだよ!」
よくあそこまで飽きずに言い合いを続けられるものだ。
少し尊敬に値するかもしれない。
「よし、早速仲良くなってこい!」
そんなことを考えていると、ガルス団長に背中をドカンと押され、俺は未だに不毛な喧嘩を続けている同期たちの前へと進み出た。
「よお! 今日から配属されたフェクトだ。これからよろしくな」
俺が声をかけた瞬間、床で怒鳴っていたツンツン頭の少年が、弾かれたようにこちらを振り向いた。
「あぁ!? 誰だテメエ……って、お前、昨日の試験でギガント・バイソンを瞬殺してた化け物じゃねえか!? なんでここにいるんだよ!?」
「いや、俺が入ってきてから結構時間経ってるんだが……今更気づいたのか?」
「ああ? そうだったか? まあいいや。で、そのエリートが何のようだ?」
あまりに軽く流すものだから、少し戸惑いつつも、俺はスパッと要件を伝えた。
「団長命令だ。お前ら二人と組んで、近くの森の『魔獣暴走』を阻止しろってさ。これからよろしくな、同期」
「何だ、そんなことかよ。だったら、その挨拶よりも先に手伝ってほしいことがあるんだが……」
「手伝ってほしいこと?」
俺がそう言うと、そいつは床に寝転がってるやつを見つめながらこう言った。
「こいつを起こすのを手伝ってくれねえか?」
「う〜ん……」
そこには、床で爆睡をかましている、もう一人の新人がいた。
(まあ、俺の幻創魔法にかかれば、起こし方なんていくらでもあるんだよな。ハズレ魔法の、別の使い方を見せてやるよ)
そうして、俺は前世のアニメ知識を総動員した『絶対に起こす方法』を試すのだった。




