第4話:厳しい団よりゆるい団
「それで、アンタ。どうしてディナーレ家の出身だったってことを隠してたわけ?」
試験が終わり、合格者が呼び出されるまでの間、待合室で待っていなければいけないのだが、俺はその間に、エレーナにがん詰めされていた。
「いや、実は俺、ディナーレ家を追放されてさ。追放された家の家名を名乗るのも変だし、名乗らないようにしてたんだよ」
俺がなるべく軽いトーンでそう言うと、エレーナは一瞬、言葉を失ったように目を見開いた。
「つ、追放……? アンタ、あの名家から追い出されたの?」
「ああ。戦闘に不向きな『幻』と『土』しか使えない無能だから、我が家の面汚しだってさ。一銭の金も持たされずに、夜の森に放り出されたんだ」
「なっ……!?」
エレーナの顔が、怒りと驚きで真っ赤に染まっていく。
彼女のリエスタ家も名家だが、回復という人を助ける魔法の家系ゆえに「魔法の適性だけで人間をゴミのように捨てる」というディナーレ家の冷酷なやり方が、どうしても許せなかったのだろう。
「何それ……! 最低じゃない! あんなすごい魔法を使うアンタを無能扱いして捨てるなんて、ディナーレ家の目は節穴なの!? というか、一銭もなしで夜の森って、そんなの人殺しと何も変わらないじゃない!」
「まあ落ち着けって。おかげであの陰湿な実家と合法的に縁が切れたんだし、むしろラッキーじゃねえか」
他人事のように言っている俺を見て、エレーナは信じられないといった様子でため息をついた。
「アンタ……すごいのか脳天気なのか、よく分からないわね……」
そうして、エレーナが呆れたようにため息をついた直後。
「試験番号0023、0500。順番だ。こちらに来い」
そう俺たちを呼び出す声が聞こえた。
通された部屋では、厳格な面持ちの試験官が、俺たちに用紙を突きつけてきた。
「お前たちは、どこの騎士団に所属することを希望する?」
魔法騎士団には、第1から第6までの計6つの団がある。
(ま、ファンタジーアニメお約束の『数字が小さくなるほどエリートの絶対王道組織』ってやつだな。普通はみんな最強の第1団を志望するもんなんだろうな)
「やっぱり、第1団かしらね。私たち……っていうか、アンタの成績なら、希望は通ると思うしね」
エレーナが当然のようにそう言ってきた。
だが、正直なところ、あまり気乗りはしない。なぜなら、エリートに行けば行くほど、騎士団内での礼儀や序列は厳しくなっていき、実力主義になっていく。
それが嫌だから、あのクソ実家から追放されたことを喜んでいたのに、わざわざ自分からまた似たようなところへ行くなんて、正直嫌だ。
俺は、そういうのとかを気にしなくていい団に行きたい。
「なんか、騎士団内での序列とか、礼儀とかがない、ゆる〜く魔法騎士をやれる団はありますか?」
「ゆる〜く?」
俺の質問に、試験官の人は眉をしかめたあと、少し困ったような顔でこう言った。
「……あるにはあるが……」
「どこの団ですか?」
「……第6団だ」
試験官の言葉に、隣にいたエレーナが「ちょっと待ちなさいよ!」と大声を上げた。
「第6団って、アンタ……! あそこは団員が変わり者や問題児ばかりがいるって噂の団よ!? ギガントバイソンを一撃で消し飛ばすような実力を持ったアンタが、なんでそんな場所に行くのよ!」
「いや、だって変わり者や問題児ばかりが集まるってことは、規律も緩くて自由ってことだろ? ギスギスした名家みたいな縦社会はもう嫌なんだよ。俺はマイペースに理想の魔法騎士を目指したいんだよ」
「はあ……?」
エレーナは信じられないといった様子で頭を抱えた。
試験官も信じられないと行ったような困惑の顔をしている。
「……フェクト受験生、本当に第6団でいいのか? 第1団の団長からも、君をぜひ特待生として迎えたいと直々に打診が来ているのだが……」
「はい、第6団でお願いします」
俺が迷わず即答すると、試験官は深くため息をつき、諦めたように書類にハンコを押した。
「分かった。では、フェクト、エレーナ。両名の第6騎士団への配属を決定する」
「……え? なんでエレーナも?」
「そりゃ、あんたと私はバディよ? バディは配属される団が一緒ってルールがあるの。それくらい知っておきなさいよ、バカ!」
……なんか、心なしか口が悪い気がする。
「あ、あの〜、エレーナ? 別に、お前が嫌なら、他の団にしたっていいんだぞ?」
「……別にいいわよ。どうせ、私はさっきの試験で何もできずに終わっちゃったんだし、決める権利なんてありませんよ〜」
ダメだ……、完全にヘソを曲げてしまった……。
(機嫌治るのにどれくらいかかるんだ……)
そんなふうに頭を悩ませていると、試験官の人は言った。
「だが、気をつけろよ」
「え? 気をつけるって?」
俺が疑問の声を口にすると、試験官は、俺をじっくりと見て、言った。
「第6団には、……まともなやつがいないからな」
*
ディナーレ家、本邸にて。
「親父!」
静寂そのものだった部屋に、突如としてバタン! と乱暴に扉が開く音が響き渡った。
「どうした、テイル。そんなに焦るなど、お前らしくないじゃないか」
部屋の主である父親は、眉をひそめて不思議そうに息子を見つめる。
対するテイルは、肩を激しく上下させ、息を切らしながら用件を伝えようとしていた。
「……が、……クトが」
「ん? 何を言っている?」
テイルは荒い呼吸を必死に整えながら、ゆっくりと言葉を組み立てていく。
「……フェクトが……、魔法騎士試験に合格した……!」
「……なんだと?」
ディナーレ家現当主――ダンクス・ディナーレは、手に持っていた書類を握りつぶした。
厳格な父親の顔から、一瞬で余裕が消え失せる。
「テイル、冗談が過ぎるぞ。あいつに授けられたのは、実体のない【幻】と、農奴の使う【土】だ。戦闘などできるはずがない。お前ともあろう者が、平民のハッタリに騙されたか?」
「冗談なんかじゃない! 俺はこの目で見たんだ! あいつは……、試験用に用意された巨獣ギガント・バイソンを、たった一撃で、跡形もなく消し飛ばしたんだ!」
「……消し飛ばした、だと?」
ダンクスの背筋に、冷たいものが走る。
ギガント・バイソンは、テイルの『鋼鉄魔法』でも一撃で倒すのは困難だ。それを、あのゴミと捨てたフェクトが、一撃で、跡形もなく消した?
「あり得ん……。幻魔法は五感を騙すだけの手品、土魔法はただ形をこねるだけの生活魔法のはずだ。そんな二つのハズレ属性を掛け合わせたところで、大質量を消滅させる破壊など――」
ダンクスの厳格な顔が、驚愕に歪む。
だが、頑固でプライドの高い彼の脳は、即座にそれを「フェクトの実力」だと認めることを拒絶した。
「テイル。アイツは誰とバディを組んでいた?」
「り、リエスタ家のエレーナ令嬢だ。なぜかあいつ、名家の令嬢と親しげに……」
「リエスタ家……! なるほど……そういうことか」
ダンクスは、すべてを理解したとばかりに醜い笑みを浮かべた。
「アイツ、リエスタ家の女をたらし込んだか。テイル、これは不正だ」
「不正……?」
「決まっているだろう。あいつの魔法で巨獣が倒せるはずがない。リエスタ家といえば国内最高峰の回復魔法の家系。彼らの資産と権力があれば、特級の『攻撃用魔道具』などいくらでも用意できる。それを服の中にでも隠し持ち、自分の魔法に見せかけて放ったに違いない!」
「なるほど……! そういうことか!」
テイルの顔に、みるみるうちに安堵の光が戻ってくる。
(あいつが俺より強いわけがない。魔道具を使った不正なら納得だ!)と、都合のいい解釈に飛びついたのだ。
「ディナーレ家の名を汚した挙句、今度は他家の褌ふんどしで試験を不正に突破するとは……どこまで浅ましい男だ。そんなまやかしの強さ、すぐにメッキが剥がれるわ」
ダンクスは冷酷な目で言った。
「テイル。魔法騎士団に入れば、魔道具に頼れない『本物の実戦』がいくらでもある。その時、あの無能がどんな無様な死に方をするか、高みの見物といこうじゃないか」
「ああ、そうだな。親父」
そう言って、男たちは醜い嘲笑を部屋に響かせ続けた。




