ChapterXIII
第1話 天の偵察者
人間世界、東京――彼方の雲の上。
ティード海賊団、偵察士・ダムダ。
背中には白い翼、頭上には天使の輪。
彼はいつものように宙をふらふらと浮かびながら、葉巻を吸っていた。
だが、その偵察も終わりに近づいていた。
ティードからの伝達魔法を感知したダムダは、身を起こし、体勢を整える。
「ダムダ、長年ご苦労だった。これより我らの進撃を始める。ファントムを目覚めさせ、船に戻れ」
「……了解」
ダムダは呪法を溜め込み、両腕を大きく開く。
そして、それを一気に解放する。
「……ファントム……作戦開始……」
地球の底から、振動が鳴り響く。
地球の中心部では、眠っていた暴君ファントムが、ついに動き出す。
第2話 ファントム襲来
アメリカ陸軍核収容基地。
荒野に佇む陸軍基地へと、二つの闇が忍び寄る。
兵士たちは、それに気づかない。
いや――気づくことなどできない。
なぜなら、それは地球の中心からやってくるのだから。
クライスは危機を感じ取り、颯爽と馬を駆って荒野を駆け抜ける。
「……なぜだ……! なぜ奴が……!?」
地中から迫る敵の名は、ファントム。
ティード海賊団、ティードの右腕として、数々の都市を壊滅させてきた鎧姿の大男。
クライスが基地へとたどり着いた、その時だった。
米軍基地の地面が大きく割れ、巨大な龍が姿を現す。
兵士たちは薙ぎ払われ、その龍の背に乗ったファントムが姿を現した。
クライスは馬へ手を振る。
馬は主人の意図を察したように、その場から遠くへ逃げていく。
「貴様は……私が葬ったはず……なぜ生きてる……!」
龍の口には、すでに核弾頭が咥えられていた。
「……」
ファントムは一言も発しない。
そのまま龍とともに、再び地中へと潜っていった。
第3話 終わりなき野望を持つオオカミ
アフリカの荒野。
野生動物たちが跋扈する広大な荒野を、一匹の狼が猛スピードで駆け抜けていた。
やがて狼は急停止し、身を起こす。
「がるるるるる……!!」
周囲の動物たちに向かって大きく唸る。
その威圧に、ライオンを筆頭とする動物たちは一目散に逃げ去っていった。
ティードは岩に腰を下ろす。
その頭上から、バードリーが舞い降りた。
「ティード様……キングスは我々の計画に気づきつつあります……! 早くしなければ、奴は我らを葬るでしょうぞ!」
「黙れ! このしなびた鳥めが!! 言ったはずだ。奴を吸収するのは、クライスが奴を無力化してからだと」
そこへ、ダムダがやってきた。
「参上しました、ティード様」
「よくぞ小僧の居場所とファントムの封印場所を見つけてくれた。お前の手にした力は役に立ったぞ、ダムダ。じきにこの世界は用済みになる。その時、頂点に君臨しているのはキングスではない」
ティードは不敵に笑う。
「この俺様だ」
ティードの野望は、止まらない。
第4話 狙撃の師、ホシノ
一方、大魔術学校ルーン、訓練場。
ホシノという老人が、奥に設置された的へ猟銃を向け、引き金を引いた。
「……入れ、カイラ」
扉の向こうにある気配を感じ取ったホシノは、訪問者を招き入れた。
「……衰えていないようで何よりです。ホシノ先生」
カイラは軽く会釈する。
「貴様はずいぶんとたるんでいるようだな。いくら国内最強と言えど、いつ、どんな時も鍛錬を怠るな」
「先生、力を貸してほしい。やばい状況なんだ」
カイラはホシノに告げた。
「……何があった」
ホシノはコーヒーをカップに注ぐ。
「キングスの勢力が動き始めている。いつ、どこで戦争が起きても不思議じゃない。先生はコロウのおじさんの師匠だ。実力は十分にある」
「……時間をくれ」
そう言い残し、ホシノは再び猟銃を構え、的に狙いを定めた。
第5話 廃病院での暮らし
秋の日の夜、南原廃病院。
東京のとある郊外にある、使われなくなった廃病院。
そこに浪野たちは拠点を構えた。
「なんだここは。心霊スポットみたいなところだな。確かにここならティード海賊団も探しに来ないだろう」
釜野は、病院の汚れた玄関を入る。
ロビーでは、受付の机に脚を乗せ、横柄な態度で座る浪野。
「釜野、たばこあるか。一本くれ」
浪野はラジオのつまみをいじり、調律を図る。
釜野は煙草の箱を投げ渡した。
「おいおい! 探偵! ここ薬もうねぇぞ!! 買ってくる!! 何か要る!?」
オーバードーズをキメたダグが、ふらふらと歩いてくる。
「おい、いい加減に静かにできないのか? さすがは元人間さんだな」
クリスはコーヒーをすすりながら、煽る。
「おい、やるならこいよ。かわいがってやる」
キレたダグはドルフィンズでクリスへ攻撃する。
それでも退かず、ダグへ詰め寄るクリス。
「いいか、断言する。お前は、カイラにはなれない」
二人の攻防は、さらに激しさを増していく。
「護衛か?」
釜野が聞く。
浪野は首を横に振る。
「遊びに来ただけの居候だよ。奥の診察室で話そう、ルイもいる」
そう言うと、喧嘩している二人を置いて、すたすたと歩いていく。
夕飯を食べ、すやすやと眠るルイ。
幸せそうに眠っている。
浪野は、使われていない診察室のドアを開き、中へ入る。
「ん……?」
ふにゃふにゃとした顔で、ルイが起きる。
「お、起こしちゃったか」
蜘蛛の巣とほこりだらけのデスクにつく浪野。
「で、釜野。何しに来た? 顔見に来ただけじゃないんだろ?」
「新しい事件があってな。手伝ってほしい」
「断る。これ以上、家族を危険にできない」
「いや、残念だが一緒に来てもらう。おれは八条さんの使いだ。それに、この事件は異世界に関連してる」
「……ルイ、今夜はもう寝なさい。俺は屋上で煙草を吸ってくる」
南原廃病院、屋上。
浪野は、透き通った夜空に向かって煙を吐く。
そうしていると、カノンがやってくる。
「探偵さん、あの子、ルイたちは私たちが守る。雪さんも。約束するよ。だから仕事に集中して」
「……ありがとう。またお前らに助けられるなんて」
翌日。
警視庁対異世界捜査本部。
浪野は捜査本部の部屋を開く。
窓から東京を見下ろしているのは、品の良いカイゼル髭の男――八条。
「この街は薄汚いごみ共で埋め尽くされている。だから我々のような掃除人がいる。そうだろう? 君もそうだろう? 探偵」
第6話 禁止された儀式
八条は捜査官たちが揃うと、話を始める。
「諸君も知っての通り、今や異世界という存在は知れ渡った。彼らとは共存関係にあり、親交を深めていくのが総理の意向だ。だが、ある宗教団体が異世界で悪さをしてるとのクライス王よりクレームが入った」
「ヤクザの次は宗教か?」
浪野は煙草を咥え、火をつける。
「神楽教。奴らは異世界の剣神ムートを崇拝して、エルフや人間を供物にして捧げる。まさに異常な集団だ」
「今夜、奴らはアジトの邸宅で儀式を執り行うはずだ。それを狙って全員拘束をする。助っ人として探偵、ミスター浪野を招集した」
「いいか、今夜だ。今夜ですべて解決させる。いいな!」
「応!」
捜査官たちは奮い立つ。
東京都、西成区。
そこに、そびえ立つ一棟の邸宅があった。
その豪邸に、神楽教の拠点がある。
拘束されたエルフたちは廊下に並べられていた。
ふるふると震えながら、死の時を待っている。
そこへ教祖のファーザーがやってくる。
ファーザーは女児の前まで歩み寄ると、ナイフを取り出した。
「詫びを言う。小さな生命、君の未来は彼に捧げる。だが、これは喜ばしいことだ」
一人、また一人と、ファーザーの部屋へ案内されていく。
そこにあるのは、どろどろの臓物と悪臭、そして血にまみれた巨大なミキサー。
ファーザーの信者たちはミキサーの点検を終えると、スイッチを押す。
儀式の準備をするため、召喚術の魔法陣を描くファーザーの信者たち。
その時
インターホンが鳴り響く
ファーザーは上着を脱ぎ棄てて、ドアスコープを覗く
外にいるのは浪野と釜野
「警視庁の釜野だ。話がしたい。」
数秒の沈黙
「...出てこないな」
そしてしびれを切らした浪野はドアを勢いよく蹴り破る
ドアの先にいたファーザーは押し倒されて、鼻から血を出す
「ほらな、開いただろ?」
「作戦の内容にはない、違法行為だろう」
釜野は呆れる
「通報するか?」
そう言ってずかずかと中へ入る浪野
「さて、てめぇが犯人か?あぁ?」
浪野はスタンロッドを首に押し当てる
ファーザーの部下が拳銃を放ち応戦する
その時、釜野の合図で対異世界部隊が窓から突入する
瞬時に制圧し、エルフたちは解放される
釜野はゆっくりと近づき、拘束されたファーザーに問う
「署に行く前に、一つ教えろ。お前のバックボーンは誰が居るんだ」
「...」
ファーザーは俯いて、口を開く
「やっとだ...やっと、彼からお告げを頂いた...!!世界はもうすぐ消滅する...!!終わりなき人間とエルフの戦争で...!!」
「その前に止めるのが俺たちの役目だ」
そうして、ファーザー邸宅にて、ファーザーと信者数名が連行された
第7話 交渉
アメリカ陸軍基地。
そこへ、オオカミの姿で走ってくる悪魔がいた。
ティードだった。
数日前、ティードの策略によって数名の兵士が捕らえられ、米軍は捕虜として確保していたティード海賊団のメンバー全員の解放を要求されていた。
基地の前には、武装した兵士の大群。
さらに、おびただしい数の戦車と、上空を旋回する戦闘機。
そのすべてが、たった一匹のオオカミを仕留めるために配備されていた。
兵隊のリーダーは、おびえる兵士の隣へ歩み寄り、こう告げる。
「……奴が仮におれたちを攻撃してきたとして、最初に狙われるのは……妻子持ちだ。子供の誘拐、それが奴の本業だ」
兵士たちの間に、さらなる恐怖が広がる。
その中を、ティードは歩きながら斧を取り出し、戦闘態勢に入った。
「前にも会ったか? 虫けら」
ティードが尋ねる。
「何が望みだ!!!」
兵隊のリーダーはサングラスを外し、叫んだ。
「仲間を解放しろ。全員だ」
すると、兵隊のリーダーは装甲車へ合図を送る。
装甲車の後部ドアが開き、ティードの手下三名が、目隠しをされた状態で姿を現した。
「サンキュー船長!!! 自由だぜ!」
バレットコングは、ゴリラに変身する魔法の使い手だった。
「……」
カゲロウは、黒い影となって敵の攻撃をかいくぐる。
「ぶるる……」
ティードに使役されるヘラジカの魔獣。
「よかろう。ではこちらも、虫けらを返そう」
ティードは召喚術によって、拘束された兵士二名を取り出し、投げ飛ばす。
ティードは仲間を連れて歩いていく。
「お互い、これで二度と会うことがなければいいな」
兵隊のリーダーが返答する。
「こちらのセリフだ」
ティードたちは飛行船に乗り込み、異世界へと渡る。
その時、陸軍基地で保護されていた兵士たちの腹が膨れ上がった。
次の瞬間、基地は大爆発に巻き込まれる。
ティードは爆発魔法を兵士たちの体内へ仕込んでおり、遠隔で爆破することができた。
陸軍基地は爆発によって焼け焦げ、何もない更地と化した。
翌日、南原廃病院にて。
「みゃあきち! こっちだよ!」
屋上で、ルイは保護猫を連れて遊んでいる。
それを眺めながら、煙草を吸う浪野。
その時、翼を羽ばたかせる音が聞こえる。
カラスではない。
鳩でもない。
浪野は恐る恐る空を見上げる。
ティード海賊団の偵察士、ダムダが浪野たちのアジトを捉えていた。
「……ティード海賊団……小僧を発見」
「ルイ! 猫を連れて下に降りろ」
浪野はすぐにルイと猫を抱え上げ、中へ入る。
そのまま院長室へ走り、館内放送で叫ぶ。
「ティードがくる!! 全員60秒で脱出! 急げ!!」
颯爽と武器を構えるダグ、クリス、カノン。
釜野は慌ててブラスターを準備する。
「勘弁してくれ……捕虜にされるのだけは……!」
浪野はうろたえる釜野の肩をぶん殴る。
「おい!!! しっかりしろ! いくぞ!!!」
「へへへ!! 先行けよ! クリスと時間稼ぐ!!」
「あぁ、任せとけ」
闘争心を滾らせる二人は、その場に残ろうとする。
「二人ともカイラの真似はやめて!」
カノンは二人を制止する。
「次期隊長はこのダグ様だぁ!!」
浪野、釜野、ルイと猫、カノンはバンに乗り込み、出発する。
ティードたちは病院三階の廊下の窓を突き破り、内部へと侵入する。
ダムダは浮遊しながら言う。
「キャプテン……奴らの気配がない……」
「あぁあ、背骨ぶち折ってやったのに!」
そう言って、バレットコングはワイルドな着地を決めた。
「この世の終わりは近いぞ……! 何としても小僧の勇者の剣を奪い取れ」
「おら、くらえぇ!! オオカミちゃんがぁ!」
隠れていたダグとクリスが魔法を放つ。
その時、ティードは即座にショットガンを引き抜き、ダグとクリスの頭上の天井を撃った。
天井が一瞬で崩れ、ダグたちはその下敷きになる。
一方、新宿。
人々が行き交う街を、バンが猛スピードで走る。
道路の真ん中で停まり、武装した浪野と釜野が降りる。
「警察だ! 今から異世界の海賊が追ってくる!!!! 全員、建物の中に入れ!!!」
釜野が叫ぶ。
「こんなところで戦って大丈夫なのかよ」
浪野はぼやく。
カノンは剣を抜き、構える。
その時、ティードたちが猛スピードで走ってくる。
バレットコングが叫ぶ。
「おぉらぁ!! こわぁい海賊だぞぉ!!! 食っちまうぞ!!」
その瞬間、人々が悲鳴を上げて逃げ出す。
カゲロウはヘラジカにまたがり、辺りを蹂躙する。
ティードは斧を引き抜く。
「街中を探せ……奴らはいるはずだ……!」
バレットコングはビルを駆け上がる。
「おれらの力をみせてやるぜ!!」
その時、隠れていたルイの保護猫、みゃあきちが、とことこと歩いてくる。
「ん……こっちにおいで」
みゃあきちはティードへと歩いていく。
ティードは優しく丁寧に抱き上げる。
「人間どものにおいが強い……まったく、かわいいな」
猫は喉を鳴らした。
「こらぁ!! その子を離しなさい!! あんたたちなんかこわくないから!! 地獄に堕ちろ!!」
怒ったルイが、ずんずんと歩いてくる。
「この世界こそ地獄だ」
ティードはそう言って、みゃあきちの背中を優しく撫でる。
「おぉい!! よせええ!! 正気か!?」
浪野が怒鳴る。
その声を聞いたティードは、みゃあきちを降ろして頭を撫でる。
そして安全のため、みゃあきちに結界を張る。
「小僧!!! 勇者の剣をよこせ!!!」
その時、釜野が無反動砲ランチャーを放つ。
「悠!! 走れ!!」
浪野はすぐさまルイとみゃあきちを抱き上げ、走る。
「無鉄砲だろうが!! なんでティード海賊団に喧嘩売ってんだ!!」
「虫けらどもを捕らえろ!! あと猫には乱暴するな!!」
バレットコングたちは一斉に走り出す。
そして、追いついたダグとクリスが応戦する。
「なんだぁ、てめぇ!」
バレットコングはクリスにパンチを繰り出すも、避けられる。
ダグとクリスは、ティード海賊団をぼこぼこにする。
それもそのはず、バレットコングは長期間、囚われの身だった。
戦い慣れしていない。
「く、退却だ!!」
そうしてティードたちは、一斉に逃げ出す。
第8話 覚醒
翌朝。
「いってらっしゃい」
玄関で雪が微笑む。ルイは眠そうな顔で手を振る。
歩九はまだ小さな手をぱたぱたさせている。
悠はスーツに着替え、コートを羽織る。
いつもの朝。
いつもの空気。
「すぐ帰る」
それだけ言って、ドアを閉めた。
飛鳥探偵事務所。
がちゃりと鍵を開ける。
「所長、いますか?」
返事はない。
ロイスの寝息も、コーヒーの匂いもない。
妙に静かだ。
「ん? やけに静かだ」
悠はリモコンでテレビをつける。
――砂嵐。
どのチャンネルも同じ。
ノイズだけ。
嫌な予感。
スマホを確認する。
圏外。
XもGoogleも開かない。
「……」
「何かおかしい」
その瞬間。
ズドーン!!
地面が跳ね上がる。
天井の蛍光灯が砕け、書類が宙を舞う。
衝撃で床に転がる。
耳鳴り。
爆風。
悠は即座に立ち上がり、窓へ駆け寄る。
外。
東京の空を覆う、夥しい数の飛行船。
その中央に鎮座する――巨大戦艦。
キングスの旗。
満を持して。
キングスたちは、東京へ侵攻した。
戦艦の甲板。
キングスが大きく息を吸い込む。
「我々はキングスグループ!!! 本日をもって、アメリカと日本は我らの管理下に置く!」
声が街全体に響く。
「おっと! クライスのとこの戦力はあてにならんぞ! すでにアルタイル王国にも侵攻を開始している!」
悠の拳が震える。
「こぞぉ!!! 聞いているのだろう!!! 俺に降れ! そしたら子供の命だけは助けてやる!!」
「……」
心臓が一瞬止まる。
「家族に手を出してみろ!! 全員ぶち殺してやる!!!」
怒号が空へ突き刺さる。
そのとき――
空間が裂ける。
巨大なゲートが顕現。
そこから現れたのは、
クライス。
カイラ。
ダグ、クリス、カノン。
そして千人のアルタイル兵士。
「お前らの動きはこちらでも読んでた。国の防衛はデジャヴと協力者たちが引き受ける」
クライスが剣を掲げる。
ひゅーん!
ズドン!
キングスの小舟が撃ち落とされる。
「今度はなんだ」
キングスが空を見上げる。
轟音。
自衛隊のヘリコプターが編隊を組み、対空射撃を開始。
ミサイルが飛行船を貫く。
空が火と煙で埋まる。
全面戦争。
だが――
一隻の海賊船が前へ出る。
砲門が開く。
轟音とともに放たれる火炎。
自衛隊の戦車部隊が、溶ける。
ティード。
「終わりの時だ! 兄弟!! そして小僧!! これが見えるか!」
視界が、止まる。
甲板。
ティードの腕の中。
泣き叫ぶルイ。
歩九を抱きしめる雪。
その姿。
時間が歪む。
悠の中で、何かが千切れる。
音が消える。
血が沸騰する。
視界が赤く染まる。
「殺してやる……!」
呼吸が荒くなる。
「この世に髪の毛一本も残さねぇ……!!」
拳が震え、血が滲む。
「ぶっ殺してやる……!!!」
怒りが、理性を焼き尽くす。
東京の空が崩れ落ちる中、
復讐の化身が、静かに目を開けた。
第9話 行進のファントム
「きゃああああああああ!!!」
阿鼻叫喚が飛び交う、新宿の変わり果てた街並み。
ビル街は倒壊し、その大通りをファントムは進む。
大きな足音を鳴らしながら、ゆっくりと歩く。
「あ……」
その時、一人の女の子がこけて、ソフトクリームを落とす。
ふるふると小さな体を震わせ、恐る恐る上を見る。
目の前にはファントムの巨体。
女の子は腰を抜かす。
ファントムは大きく足を上げ、女の子へと振り落とす。
「……っ!」
絶体絶命のその瞬間、救世主がやってくる。
女の子が目を開けると、電柱の上で何者かに担がれている。
「ケガはないか」
グリスはそのまま下に降り、女の子を降ろす。
「いいか、できるだけ早く東京から出るんだ。大人を頼ってすぐに逃げろ、できるな?」
女の子はこくりと頷く。
グリスは微笑み、頭を撫でる。
女の子が走り去ると、グリスの表情は一気に険しいものへと変わる。
「久しぶりだな、でかぶつ。まさか生きてたとは」
「……」
ファントムは無言で、背負っていた大剣を引き抜く。
「おれはやっとティード海賊団から解放されて自由の身になれたんで、バカンスに東京に来てた。そしたらこのざまだ」
「できればかつての同志を殺したくはない。それでもお前はティードに忠誠を誓うのか?」
グリスは問う。
「……」
ファントムはそのまま歩み寄り、大剣を構えた。
「決裂だな」
グリスは剣を抜く。
「友よ...悪く思うな、すぐに終わらせる」
グリスは剣を振りかざす
ファントムの鎧に触れたとたん、刃は折れる
「ん...脆いな」
グリスは刃を投げ捨て、拳を構える
ファントムはグリスへ大剣を振る
「遅い!」
グリスはそれを颯爽とかわす
グリスは拳に呪法を溜めこむ
「呪砲」
グリスの手から呪いの砲撃を繰り出される
ファントムは一瞬よろけるも、大剣で切り返す
「くはっ! 化け物が……!! なら、これはどうだよ!」
苦笑するグリスは、呪法で生み出した巨大な球を、両手で支えながら掲げた。
その両手の先には、膨大な呪いの気配が渦巻いていた。
ファントムは大剣を構える。
正面から打ち返すつもりらしい。
「これを受け止められるかぁ!!」
次の瞬間、両者が激突した。
大剣の刃先が、呪いの球を捉える。
しかし、ファントムはその球を一刀両断した。
二つに分かれた球は別々の方向へ飛び、ビル街へと突っ込んでいく。巻き込まれたビルが次々と倒壊していった。
グリスは、その隙を逃さなかった。
「最奥魔法、カースカノン!」
両腕から呪いの光線が放たれる。
直撃を受けたファントムの周囲一帯が、まとめて吹き飛ばされた。
だが、立ち込める煙の中から現れたファントムは、傷ひとつ負っていなかった。
「ふん、打ち止めだな。もうここ一帯の民間人はみんな逃げたから、ここでとんずらこくぞ」
グリスはファントムに手を振った。
「改心したら、いつでも連絡しろ。邪魔したら次は殺すがな。また会おう、兄弟」
そう言い放つと、グリスは転移魔法を使い、その場から姿を消した。
第10話 師対師
池袋とある高層ビル屋上にて
ホシノは侵攻が進む東京のありさまを目の当たりにして固唾を飲む
「...」
空を見て、煙草を吸う
「神々よ...どうか悪を討ち取る奇跡の一撃を私に...!!」
煙草の根元まで吸い込む
チリチリと灰が舞う煙草だったものをぽいっと捨てるホシノ
モシンナガンを構えて体勢を整えるホシノ
大きく息を吸うと、最奥魔法を発動させる
まるで、透明なスコープ。対象の戦艦にいるキングスの鎧の境目、その眼球と瞼の隙間を捉える
ホシノは汗をだらだらと流して集中する
息も次第に荒くなる
空気が重い、そして、
ついにその引き金を引く
すぐさま銃弾はキングスの目の前へ
その時
銃弾はあっさりと弾かれる
パルエルの槍で
パルエルは遥かかなたのホシノへと槍を投げる
「く...見事...!!!!!!!!」
次の瞬間、ホシノの顔面に長い槍が突き刺さり、血を流して倒れる
パルエルは無表情で涙を流す
「さらば...友よ...!」
第11話 キングスの8人の息子たち
東京の上空を支配したキングスの戦艦。
船長室では、キングスがワインを口にしている。
その机を囲むのは、キングスグループの大幹部三人。
「クライスは何もできまい。我々にお任せを」
ソラリスと京極は腕を鳴らす。
「それより、俺も一度でいいから人間を食ってみたい」
ザトレインがぼやく。
キングスは口を開いた。
「指揮はティードに取らせる。お前たちはティードに従え」
「他の大幹部のメンバーはどうした?」
京極は「さぁ?」と、両手を上げる。
第12話 処刑台(生命の殺戮)
「かかれぇ!!!」
クリス率いるアルタイル兵たちは、ついにキングスの手下たちへの攻撃を開始した。
ソラリスと京極が陣営の前へと進み出る。
「クック……馬鹿め。すぐにゴミになる兵士共など、殺す価値もない」
二人は目からビームを放ち、兵士たちを一掃する。
さらにソラリスは召喚術を発動。汽車の魔物、ザトレインを召喚し、ビル街を吹き飛ばした。
「雷魔法、ライジング……!」
クリスは雷魔法を放ち、周囲の手下たちを蹂躙する。
「おらぁ! くたばりやがれぇ!!」
ダグも水魔法を繰り出し、追撃を加えた。
「貴様の運もここまでだ。この私がティード様を神にするのだ」
ダムダが空から飛来する。
「ダム野郎!! 久しぶりだなぁ! 殺してやる!」
ダグは魔法ドルフィンズを放つが、ダムダは鮮やかに回避した。
それぞれの戦いは、次第に激しさを増していく。
カノンが剣を振るった、その時だった。
突如、巨体がカノンの首を掴み上げた。
そのまま勢いよく、ビルへと投げつける。
凄まじい衝撃が走った。
現れたのは、ファントムだった。
圧倒的な威圧感を放つその姿に、味方であるはずの海賊たちさえ恐れを抱いていた。
重い足音を響かせながら、ファントムがクリスとダグへと迫る。
「!!!!!」
ダグは渾身の一撃を叩き込む。しかし、ファントムは微動だにしなかった。
次の瞬間、ファントムはダグとクリスの顔面を掴み、そのまま地面へと叩きつけた。
衝撃によって、地面一面に亀裂が走る。
アルタイル騎士団は壊滅状態に陥った。
クリス、ダグ、カノンは銃口を向けられ、絶体絶命の窮地に追い込まれる。
その時だった。
釜野率いるSAT部隊が急行し、奇襲を仕掛けた。
一瞬、敵の注意が部隊へと向く。
その隙を逃さず、クリス、ダグ、カノンは銃を蹴り飛ばした。
形勢逆転かと思われた、その時――。
王が帰還した。
「待ってろ!! 今行く!!」
ジェットアーマーを装備したクライスが、助太刀に飛来する。
「クライスぅ!!」
ダグは勝利を確信し、ガッツポーズを決めた。
クライスの両手には、ガトリングガンが装着されていた。
放たれた弾丸が海賊幹部たちを蹂躙する。
ソラリスたちは吹き飛ばされ、ダムダは血を流しながら川へと撃ち落とされた。
クライスは着地すると、剣を抜く。
ファントムへ総攻撃を仕掛け、ついにその巨体をよろめかせた。
そして、クライスは最奥魔法を放つ。
「ぬああああああ!!!!」
渾身のパンチがファントムの顔面を捉え、鎧を剥ぎ取る。
ファントムの巨体は、そのまま彼方へと吹き飛ばされた。
第13話 八つ裂き
「クソが……!!」
悠はブラスターを片手に、事務所を飛び出そうとした。
その時、窓の外から悲鳴が聞こえる。
悠は窓へ駆け寄り、街の通りを見る。
赤子を抱いた女性が、キングスの手下たちに追われている。
その先頭には、短刀を持った傘帽子の浮浪者。
「クック……もう逃がさん……!」
狂気を滲ませたその笑顔が、女の恐怖を駆り立てる。
その時――。
悠は手下たちへブラスターを乱射する。
「おい!! こっちだ! 中に入れ!!」
女性を事務所へ誘導する。
ブラスターの弾が浮浪者の頬を突き抜ける。
浮浪者は間一髪で避けると、くるりと回転し、短刀を宙へ投げる。そして腕を伸ばし、落下する短刀を掴んだ。
「ふふふふふふ……! 俺の名は八つ裂き……! やっと見つけた……! 探偵!!!」
赤子を抱いた女性が事務所へ逃げ込むと、悠は棚を倒し、ドアを塞いだ。
外では、キングスの手下たちがドアを激しく叩いている。
外壁やドアは魔法攻撃に耐えられず、次第にヒビが入っていく。
「机の下に隠れろ」
大きな爆破音が鳴り響き、ついにドアが破られる。
手下たちが次々と中へ入ってくる。
匂いを嗅ぎ分けながら、ゆっくりとオフィスを歩く手下たち。
震える女性を隣に、浪野はブラスターの残弾を確認する。
覚悟を決めると机に乗り出し、ブラスターを乱射する。
次々に脳を撃ち抜かれ、倒れていく手下たち。
最後の一人が倒れると、八つ裂きが透明魔法を解除し、その姿を現した。
「ふふふ……想定通り、強い銃だな。うちの手下どもをめちゃくちゃにしてくれやがって」
「てめぇらがな」
浪野はブラスターを投げつけ、殴りかかる。
八つ裂きは短刀を振る。
浪野は短刀を持つ右腕を掴む。
「裏口から逃げろ!!!!」
浪野は女性を逃がす。
「おれはキングスグループの大幹部、八天王の一人……貴様はここで殺す!!!!」
浪野は鼻へ頭突きを入れ、八つ裂きは倒れ込む。
そのまま馬乗りになり、何度も何度も殴りつけた。
「これで終わりか? あぁ? こんなもんか、ダイカンブ様が」
八つ裂きは意識を失った。
その時、浪野は事務所の隅に置かれたブラウン管テレビに気づいた。
奇妙な違和感。
こんなものが事務所にあるはずがない。
これはキングスの差し金だと、浪野は察する。
ブラスターに手を伸ばす。
その瞬間、ブラウン管テレビがぴかっと起動し、浪野はテレビの中へと引きずり込まれる。
「うおぁ!!」
叫びもむなしく、戦いはテレビの中の世界へとつながっていく。
気がつくと、そこは迷いの森だった。
紅葉が美しく色づく、テレビの中の世界。
「なんなんだよ……」
「知りたいか?」
空から八つ裂きが降ってきた。
「生きてやがったな」
浪野は拳銃を構える。
「おっと、お前の銃はもう効かん。なぜなら……俺の真のパワーを発動させるからだ」
八つ裂きの肩幅が盛り上がり、肉体が変化していく。
前傾姿勢を取る、まるで異形のような姿へと変貌した八つ裂き。
「さぁ……来い!!」
八つ裂きは刀を振り回した。
先ほどとは桁違いの速度で、浪野に斬撃を浴びせる。
「ぐ……!?」
浪野は苦悶の声を漏らす。
「さぁ、どうしたぁ!」
八つ裂きが挑発する。
苦しみながらも、浪野は無意識に一発の銃弾を放ち、そのまま逃げ出した。
八つ裂きは刀を振るい、銃弾を弾き返す。
体をくねらせながら、猛スピードで浪野を追う八つ裂き。その口が開かれた。
「ここは迷いの森……どこまで走っても無駄だよぉ! ブラスターもないままで、どう俺を殺すんだいいいい????」
浪野はその隙を狙い、後方にある木へ向けて拳銃を撃った。
木に衝突した銃弾が跳ね返り、八つ裂きの脳天へとめり込む。
八つ裂きは血を流しながら、その場に倒れ込んだ。
「やったか……!」
浪野は空を見上げた。
よく見ると、森の入り口だったテレビの液晶が、宙に浮かんでいる。
「あれが出口!!」
迷うことなく、浪野は残りの銃弾を液晶へと撃ち込んだ。
宙に浮かぶ液晶が粉々に砕け散り、浪野の体はその中へと吸い込まれていく。
意識が遠のいた。
次に気がついたとき、浪野は事務所に戻っていた。
立ち上がって辺りを見渡すと、あのテレビが割れた状態で残されているのを見つけた。
その時、テレビから何十本もの棘の生えたツタが伸びてきた。
「怪物が……!!」
浪野はブラスターを拾い上げ、テレビの魔獣へと撃ち込む。しかし、魔獣はびくともしなかった。
ツタがブラスターを強引に奪い取り、窓の外へと投げ飛ばす。
浪野は亜空間から勇者の剣を引き抜き、襲いかかるツタを切り刻んだ。
テレビはなすすべもなく地面へと叩き落とされる。
最後に、浪野は液晶へ剣を突き刺した。
テレビは動かなくなった。
第14話 戦場
クライスは地上の混戦を一瞥すると、即座に背部ユニットを展開する。
ジェットアーマー起動。
青白い噴射が空を裂き、一直線にキングスの巨大戦艦へと飛び立つ。
「止まれぇぇ!!」
甲高い叫び。
空の猛者――バードリーが急降下し、クライスへ体当たりする。
衝撃波が空中に弾ける。
「きええええい!!」
「邪魔だぁ! クソ鳥めが!」
空中で体勢を立て直し、クライスは拳を叩き込む。
「最奥魔法! デビルズ!」
拳に黒い魔力が渦巻き、悪魔の紋様が浮かび上がる。
直撃。
バードリーは悲鳴を上げながら回転し、ビル群へと墜落していく。
爆煙が上がる。
その下では――
「暴れるぜぇ!! ドルフィンズ!」
ダグが笑いながら突進する。
水の魔力が地面を駆け、イルカの形をした奔流が下っ端たちを次々と吹き飛ばす。
悲鳴。
衝撃。
瓦礫。
東京の街は一瞬で戦場へと変わる。
煙と炎が立ち上る中――
「行くぞ」
ロックが低く呟く。
「岩石魔法!」
その体が石へと変質し、巨大な球体へと硬化する。
「はぁっ!」
ジャックが助走をつけ、全力で蹴り飛ばす。
スドーン!!
石の塊は弾丸のように飛翔し――
東京タワーへ激突。
鉄骨が悲鳴を上げる。
次の瞬間。
ぐらり、と傾く赤い塔。
ゆっくりと、そして無情に崩れ落ちる。
街が震える。
煙が空を覆う。
中継ヘリのカメラがその光景を映し出す。
ニューススタジオ。
青ざめた顔のキャスターが叫ぶ。
「なんということでしょうか! 我々の東京のシンボルが、あっさりと崩されてしまいました!」
背後のモニターには、瓦礫と炎。
逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ子供。
空には未だ、巨大戦艦。
その甲板でキングスが笑う。
東京は燃えている。
そしてその中心で、
怒りに染まった悠が、拳を握りしめていた。
戦争は、もう後戻りできないところまで来ていた。
第15話 東京上空、竜の騎士。
その時、クライスは叫ぶ。
「ダグ! 飛べぇえええ!!」
その声に体が反応するかのように、ダグが飛び立つ。
その時、東京の空から三体のドラゴンが飛来する。
ドラゴンの咆哮が、東京の空を支配する。
「ま、まさか!! 来てくれたのか!?」
クリスは驚く。
ダグは飛来したドラゴンの背中へ飛び移り、そのまま街を駆け巡る。
アルタイル王国の最終兵器――ドラゴンライダー。
かつて若き頃のクライスが仲間にした、捕虜の兵士たち。
兵士たちは竜に変身する魔法を持っており、これまで数々の困難を乗り越えてきた戦友だった。
ドラゴンは街を徘徊する海賊たちを、火炎放射で一掃する。
ロックはその光景を見て、にやりと笑う。
「面白い! やってみろ!」
ロックはクリスへ向けて、爆発魔法の火球を飛ばす。
第16話 対策本部
政府官邸
黒煙が遠くに立ち上る中、八条を乗せたバンが正門前に急停車する。
ドアが開く。
八条と数名の刑事が降り立つ。
空気は張り詰めている。
「動くな!」
自衛隊員が銃を構える。
安全装置の外れる音が、妙に大きく響く。
八条は微動だにしない。
ゆっくりと両手を広げる。
即座にボディチェック。
手帳の提示。
隊員が確認し、表情を変える。
「……とんだ無礼をお許しください」
銃口が下がる。
八条は静かに帽子を押さえ、言う。
「総理の陰の護衛だ。これからは私が指揮を執る」
その声に迷いはない。
官邸内部。
巨大スクリーンには東京上空の映像。
飛行船群。
アルタイル軍と自衛隊の交戦。
すでにアメリカへの応援要請は送信済み。
在日米軍の出動準備も進んでいる。
作戦室では怒号と報告が飛び交う。
「対空ミサイル、第二波発射!」
「民間人の避難誘導はどうなっている!」
「アルタイル側との連携チャンネル確立!」
指揮系統は即座に再構築されていた。
だが――
空の支配権は、まだ奪えていない。
八条はモニターを見つめる。
巨大戦艦。
その甲板に立つキングス。
「……始まったか」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
その目は、どこか別の未来を見ているようだった。
東京の空で、運命が軋み始めていた。
第17話 探偵とヨーヨー
一方――
悠は事務所を飛び出す。
燃え上がる東京へ向かって、一直線に走る。
その瞬間。
爆撃。
視界が白く弾ける。
飛行小船から投下された砲撃が、事務所ごと吹き飛ばす。
衝撃。
瓦礫。
耳鳴り。
地面に叩きつけられ、意識が遠のく。
……。
………。
霞む視界の向こう。
くるくると回る影。
ヨーヨーをぶんぶんと振り回す海賊が、瓦礫の上に降り立つ。
「よぉ! よぉ! 久しぶりってとこかぁ!?」
軽快なリズム。
だが放たれるヨーヨーは刃のように鋭い。
ラッシュ。
コンクリートが裂ける。
「クソがぁ!」
悠は転がり、車の陰に身を隠す。
震える手で対異サックを装着。
深く息を吸う。
「なめんな……リヴァイアサン。薙ぎ払え!」
召喚術。
地面を突き破る水柱。
巨大な水神が顕現する。
濁流が街路を飲み込み、ヨーヨー海賊団を一掃する。
悲鳴が水音に掻き消える。
悠は一気に船長へ距離を詰める。
拳を叩き込む。
鈍い衝撃。
さらに一撃。
また一撃。
海賊は地面に崩れ落ちる。
悠の全身は粉塵と血で赤く染まる。
荒い呼吸。
震える拳。
「ま、待て……頼む……家族が居るんだ……キングスには逆らえない……だから助けてくれ……」
かすれた声。
懇願。
その言葉に、ほんの一瞬。
悠の動きが止まる。
脳裏をよぎる。
泣く家族。
怒りが、躊躇を踏み潰す。
「……」
悠は何も言わない。
拳を振り下ろす。
やがて動かなくなる海賊。
風が吹き抜ける。
遠くで爆発音が響く。
悠はゆっくりと立ち上がる。
その目から、迷いは消えていた。
第18話 一騎討ち
一方――。
探偵事務所を後にした悠は、瓦礫の街に立ち尽くしていた。
ビルは崩れ、炎が上がり、遠くで戦闘機が空を裂いていく。
東京はすでに戦場だった。
悠は歯を食いしばる。
「くそ……! 雷神! おれをキングスの船まで運べ!」
掌に宿る紋章が光る。
空間が裂け、雷光とともに現れたのは雷神――イカリ。
神の力。それは通常の魔法とはまるで違う。人が作り出した術ではない。
神から与えられた、選ばれた者だけの恩恵。
使える回数も、力の大きさも、限界がある。
悠は空を睨む。
「くそ……あんたらは戦いに参じないのか!?」
だが雷神は答えない。
ただ風を裂き、悠の体を片手で持ち上げた。
そして一直線に、キングスの戦艦へ向かう。
――戦艦。
甲板の中央。
クライスは膝をついていた。
体は拘束され、剣も奪われている。
「くそ……」
目の前にはパルエル。
長槍を持つその男は、冷めた目でクライスを見下ろしていた。
「今頃、異世界各国にキングスの手にかかった海賊団が戦争を始めている」
静かに告げる。
「もちろんアルタイル王国も、ハッタンも、ボルケーノもな」
クライスは顔を上げる。
「誤算だな」
わずかに笑った。
「我が盟友たちがやられるはずはない。もちろん我が国もな」
その時。
空に影が走る。
自衛隊の戦闘機が戦艦をロックオンしていた。
クライスはさらに言う。
「もう一つ誤算なのがある」
パルエルが眉を動かす。
「なんだ」
クライスは静かに笑う。
「人間を甘く見すぎたことだ」
次の瞬間。
空から一つの影が落ちてくる。
雷光をまとったまま、甲板へと突っ込む。
――悠だった。
直撃。
パルエルの体に叩き込まれる。
「なんと!」
衝撃でパルエルは吹き飛び、そのまま甲板の外へ弾き出された。
海へ落ちていく。
悠はよろめきながら立ち上がる。
血走った目で叫ぶ。
「キングスぅぅ!!」
その声に応えるように、奥から一人の男が姿を現した。
金色の鎧。
巨大な体躯。
恐怖そのもののような存在。
キングス。
そして――。
その腕の中には。
泣き叫ぶ歩九。
抱き寄せられている雪。
悠の呼吸が止まる。
「家族を放せよ!」
叫ぶ。
キングスは鼻で笑った。
「まるで童だな」
冷たい声。
「貴様のような小僧は、皆同じ末路を辿る」
悠は睨み返す。
「へぇ……たとえば?」
キングスの口元が歪む。
「死だ」
その瞬間。
キングスの姿が消えた。
次の瞬間には――悠の目の前。
薙刀が振るわれる。
ぐさり。
刃が肩を貫いた。
「ぐおああ!!」
血が噴き出す。
キングスは無言で歩く。
悠を引きずるようにして甲板の端へ。
そして。
薙刀を振り払う。
悠の体が宙へ放り出される。
戦艦の外。
果てしない落下。
奈落へ。
「そんな……!」
雪の叫び。
「いやぁああああ!!」
その声を背に、悠の体は闇へ消えていく。
キングスは振り返り、両腕を広げた。
世界へ宣言するように。
「世界をつなぐ能力者はもういない!」
甲板に笑い声が響く。
「この世界は――俺のもんだ!」
第19話 炎のアルタイル王国
アルタイル王国――。
王都の空は黒煙で覆われていた。
街路では骸骨兵が群れを成し、市民を追い立てている。
悲鳴があちこちで上がり、建物が次々と炎に包まれていく。
その中心に立つのは、ゲイル海賊団とボーンズ海賊団だった。
ギャバットは歯を食いしばり、巨大な鉄槌を振り下ろす。
骸骨兵の頭蓋が砕け、骨の破片が石畳へ散った。
だが、倒しても倒しても――。
ぞろぞろと新しい骸骨が現れ、街を侵食していく。
「そぉら! 火炎まほぅ!」
ゲイルの声。
次の瞬間、炎の奔流が街を呑み込んだ。
建物が燃え上がり、屋根が崩れ落ちる。
「らちがあかん!」
ギャバットが怒鳴る。
その横でエリーが杖を掲げた。
「強化魔法!」
魔力の光が二人を包む。
身体能力が一気に跳ね上がる。
ギャバットとエリーは同時に踏み込み、ゲイルへ突進した。
鉄槌と拳が叩き込まれる。
だが――。
ゲイルは微動だにしない。
むしろ、面倒くさそうに首をかしげた。
「きゃああああ!!」
街では民衆が逃げ惑い、骸骨兵に斬り倒されていく。
ゲイルは肩を回す。
「かゆいなぁ!」
巨大な木槌が横薙ぎに振るわれた。
衝撃。
ギャバットとエリーの体が宙へ弾き飛ばされる。
石畳に叩きつけられ、砂煙が舞う。
その瞬間。
「ふん!」
鋭い蹴りがゲイルの側頭部へ叩き込まれた。
巨体が横へ吹き飛ぶ。
地面を転がり、瓦礫に突っ込んだ。
ジョーカースだった。
紫のマントを翻し、戦場を見渡す。
「デジャヴ! 士気を固めろ!」
その言葉に、後方の仲間たちが顔を見合わせる。
「どういう意味!?」
フロストが首をかしげる。
エリーは苦笑する。
「気合い入れろってことかな?」
軽口。
だが次の瞬間には、三人とも表情を引き締めた。
瓦礫の向こうから、ゲイルがゆっくりと歩いてくる。
首を鳴らしながら。
「王子はどこだぁ?」
低い声。
「まずそいつを殺せって、キングスからの命令なんだよ」
ジョーカースは鼻で笑った。
「貴様みたいなドブデブに会わせるはずないだろう」
一歩踏み出す。
「とっとと帰れ。ウジ虫めが」
ゲイルの目が細くなる。
だがジョーカースは構わず続けた。
「おれは元国王候補だ」
拳を握る。
「こんなところで死ぬわけにはいかないのだぁ!」
その瞬間。
「アーマード!」
紫の光が弾ける。
魔力の装甲がジョーカースの体を覆い、重厚な鎧となって顕現した。
地面を蹴る。
爆発的な速度。
一直線にゲイルへ突っ込む。
そして――
全力の拳が、巨体へ叩き込まれた。
第20話 師との対決
戦艦の甲板。
クライスはジェットアーマーの推進力を解き放ち、突撃する。
甲板に並ぶ海賊たちを蹴散らし、一直線に中央へと突き抜けた。
しかし。
「ぬるい」
低く吐き捨てる声。
次の瞬間、クライスの頭を巨大な手が掴んだ。
キングスだった。
そのまま片手で持ち上げ、玩具のように放り投げる。
クライスの体が空へと弾き飛ばされる。
だが空中で体勢を回転させ、ジェットを吹かし、姿勢を立て直す。
鋭く睨みつける。
「キングス……灰となり散れ!」
クライスは腕を掲げた。
膨大な魔力が集束する。
最奥魔法――ホワイトアウト。
純白の光線が甲板を貫き、キングスを直撃した。
凄まじい閃光が海を照らす。
だが。
煙が晴れた先で、キングスは微動だにしていなかった。
金色の鎧に焦げ跡すらない。
「至極つまらんな」
肩を鳴らし、退屈そうに息を吐く。
「代わってやろうか?」
その声に応じるように、甲板の陰から一人の男が歩み出る。
片手に長槍。
鋭い眼光。
パルエルだった。
クライスの目がわずかに揺れる。
「先生……なぜだ」
低く問う。
「なぜ私に盾ついた。そんなに気に入らんか? 人間と分かち合うのが」
パルエルは無表情のまま槍を構える。
「気に入らんな」
淡々とした声。
「だからこの人間は私の管理下に置くのだ」
その言葉に、クライスの目が鋭く細まる。
「いいや……そうはさせんぞ」
剣を構える。
「私を殺してからやるんだなぁ!」
次の瞬間。
剣と槍がぶつかる。
火花が散り、金属音が甲板に響き渡った。
第21話 侵攻される盟国
――ハッタン王国。
灼熱の砂漠。
砂嵐の中で、ハッタン兵士たちは仮面の海賊団と激しく交戦していた。
銃声と剣撃が入り乱れ、砂が爆ぜる。
「ふぅん!」
咆哮とともに、フロストの体が変異する。
鱗が浮かび、腕が肥大し、背から翼のような膜が広がる。
ハッタン王――フロストは竜人の姿へと変身した。
その前に立つのは、仮面の海賊団の船長。
ピエロの仮面を被った男だった。
男は一言も喋らない。
ただ、リボルバー拳銃を回転させる。
銃口が閃く。
弾丸が砂煙を裂き、フロストの周囲をかすめる。
正確無比。
卓越した射撃だった。
フロストが突進する。
竜の腕が振り下ろされる。
だが男は軽く身をひねり、かわす。
そのまま至近距離で発砲。
フロストの肩に弾丸が食い込んだ。
戦場の空気が張り詰める。
その時――。
「楽しそうだなぁ!」
陽気な声が砂漠に響いた。
次の瞬間、影が飛び込んでくる。
元海賊――グリスだった。
拳が叩き込まれる。
仮面の船長の体が宙へ吹き飛び、砂丘へ激突する。
フロストは目を見開く。
「貴様は!」
グリスは肩をすくめた。
「これもクライス王の命令だ」
にやりと笑う。
「おれはただのアルバイトだよ」
――一方。
ボルケーノ王国沖。
海はすでに戦場だった。
キングスが送り込んだ怪物――オオダイショウ。
巨大な魚の魔物。
ナマズのような顔をしたその怪物は、海面を割って現れる。
次の瞬間、小舟ごと兵士を丸呑みにした。
悲鳴が海へ消える。
ダイカン王国の兵士たちは必死に抵抗していた。
だが次々と小舟が沈められていく。
その中央で、ダイカンが立ち上がる。
「こっちも本気で行くぞ!」
両手を広げる。
「炎波!」
炎の奔流が海面を走る。
巨大な火炎の津波がオオダイショウへ襲いかかった。
だが。
怪物はわずかに身を揺らすだけだった。
炎をものともせず、再び海へ潜る。
ダイカンの額に汗が浮かぶ。
歯を食いしばる。
「ならば――!」
両手をさらに高く掲げる。
「最奥魔法! 溶岩波!」
海が赤く染まる。
膨大な溶岩が波となり、海面を押し流した。
溶岩の津波が怪物へ迫る。
――世界各地。
キングス海賊団の猛攻が広がっていた。
アルタイル王国。
ハッタン王国。
ボルケーノ王国。
それぞれが滅亡の危機に立たされている。
だが。
各国はまだ膝を折ってはいない。
戦いは続いている。
果たして――。
各国はキングス海賊団の猛攻を耐え抜き、
勝利を手にすることができるのか。
第22話 政府の病院
目を開けた瞬間、視界は白一色だった。
天井。
消毒薬の匂い。
かすかな機械音。
悠は病室のベッドの上に寝かされていた。
「……あぁ、何が起こった……!?」
体を起こそうとする。
その瞬間、肩に激痛が走った。
ドアが開く。
看護師と釜野が病室へ入ってきた。
「政府の病院だ」
釜野は短く言った。
悠はベッドの縁を掴み、ふらつきながら立ち上がろうとする。
「無茶すんな。傷が開くぞ」
釜野が肩に手を置く。
悠は息を荒げながら呟いた。
「あの高さからなら……死んでるはずだが……」
「着地寸前で君がゲートを開いた」
低い声。
振り向くと、八条が廊下から歩いてきていた。
「そして海にどぼんだ」
淡々と告げる。
悠はベッドから足を下ろした。
「何でもいい。おれはもう行かなきゃ」
包帯だらけの体で立ち上がる。
ふらつきながらも歩こうとする。
八条が前に立った。
「残念だが、それはできない」
冷たい視線。
「今や自衛隊の動きは私の管理下にある」
一歩近づく。
「もとより罪人のお前を撃つことだってできるんだ」
悠の目が細くなる。
「へぇ」
机に手を伸ばす。
「警察が無抵抗な民間人を撃つのか?」
拳銃を掴み取る。
「しかも病室で?」
銃口が、八条へ向けられた。
一瞬で空気が凍る。
釜野が反射的に銃を抜き、悠へ向ける。
「悠!言う通りにしてくれ!」
声が震えていた。
「頼むよ!」
背後では自衛官たちが一斉に銃を構える。
安全装置が外れる金属音が響いた。
悠の指が震える。
だが、引き金は引かない。
歯を食いしばり、叫ぶ。
「奴らは息子を攫った!!!!」
目は怒りで血走っていた。
「助けに行く!」
次の瞬間。
悠は振り返り、窓へ突進した。
ガラスが砕け散る。
破片が宙に舞う。
悠の体はそのまま外へ飛び出した。
落下。
地面へ叩きつけられる。
だが悠はすぐに立ち上がる。
傷だらけの体で。
血を流しながら。
そして――
ただ前だけを見て、走り出した。
第23話 ネメシスクライス
戦艦の甲板。
拘束されたまま、膝をつくクライス。
額から血が流れ、呼吸は荒い。
それでも顔を上げると――
目の前に立つキングスへ、唾を吐きつけた。
血の混じった唾が、黄金の鎧に落ちる。
周囲の海賊たちがどよめいた。
だがキングスは怒らない。
むしろ、楽しそうに笑った。
「お前は使える」
ゆっくりと言う。
「俺の手足となり働け」
クライスは睨み返す。
何も答えない。
キングスは片手を掲げた。
「最奥呪法――マインドコントロール」
掌から紫色の波動が広がる。
空気が歪む。
その波動はクライスの頭部へ流れ込み、精神を侵食していく。
視界が揺らぐ。
記憶。
誓い。
信念。
すべてが霧のようにぼやけていく。
キングスの声だけが、深く沈んでいく意識の底へ落ちていく。
「目覚めよ……ネメシスクライス!」
沈黙。
やがて、クライスの瞳がゆっくりと開いた。
そこに宿る光は――以前のものではない。
「仰せの通りに」
感情のない声だった。
次の瞬間、拘束具の錠が自動的に外れる。
カシャン、と甲板に落ちる金属音。
クライスは立ち上がった。
腕を掲げる。
紫の光が身体を覆う。
パープルアーマーが装着される。
装甲が展開し、背部ユニットが起動する。
そして――
クライスは飛び上がった。
飛行魔法。
一直線に空へ。
その進路の先には――
かつての仲間たちがいる戦場。
キングスは腕を組み、空を見上げた。
そして不敵な笑みを浮かべる。
戦争は、さらに残酷な局面へ進もうとしていた。
第24話 官邸虐殺
総理官邸。
厳重な警備の中、空から一つの影が落ちてきた。
次の瞬間――
ズドン!
地面が爆ぜる。
衝撃波が官邸前の車列を揺らし、窓ガラスが砕け散る。
土煙の中心に立っていたのは、紫の装甲を纏った男。
ネメシスクライス。
司令官が怒鳴る。
「撃て!」
命令と同時に、マシンガンの銃火が一斉に火を吹く。
弾丸が雨のようにクライスへ降り注ぐ。
だがクライスは動かない。
ゆっくりと右手を持ち上げる。
「最奥魔法……ホワイトアウト……」
次の瞬間。
白い破壊光線が解き放たれた。
光が地面を薙ぎ払い、警備隊の列を飲み込む。
爆風。
煙。
悲鳴。
自衛隊員たちが次々と倒れていく。
「刺客だ! 総理を退避させろ!」
司令官の声が響く。
官邸内部では警備員や職員が走り回り、怒号が飛び交う。
非常警報が鳴り響く。
一方――。
別室のモニタールーム。
八条は静かにその光景を見ていた。
「……」
無言のまま画面を見つめる。
その時。
八条の目線が、わずかに入口へ向いた。
ドアが軋む。
ゆっくりと開く。
そこに立っていたのは――
ネメシスクライス。
全身血まみれ。
片手には、切り落とされた隊員の首。
ぽたぽたと血が床へ落ちる。
八条は拳銃を抜き、静かに構えた。
「……なんの冗談だね、クライス王……」
その瞬間。
クライスの視線が、ふと横へ動く。
廊下の奥。
モニターに映る裏口。
そこから総理が護衛とともに車へ乗り込み、逃走を始めるのが見えた。
次の瞬間。
クライスの体が――震え始めた。
ガタガタと激しく揺れる。
呼吸が荒くなる。
そして。
口が裂けるように開く。
牙がむき出しになる。
よだれが糸を引く。
関節が異様な音を立て、逆方向に曲がる。
腕がぐにゃりと歪む。
人間の動きではない。
両手を上げたまま、四足獣のような姿勢になる。
そして――
裏口へ向かって走り出した。
凄まじい速度。
壁を蹴り、天井をかすめ、廊下を駆け抜ける。
八条は呆然とその背を見送る。
拳銃を持つ手が、わずかに震えていた。
「……あれは……なんだ……!」
人ではない。
王でもない。
あれは――
何か別のものだった。
第25話 新宿壊滅
新宿。
空は黒雲に覆われ、激しい雷雨がビル街を叩いていた。
稲妻が走るたび、瓦礫と死体に埋め尽くされた街が白く照らし出される。
その中心で――
「ぎゃはははははははあはあははぁ!!!」
狂った笑い声が響いた。
空を舞うのはバードリー。
巨大な翼を広げ、雨を切り裂きながら旋回している。
その下では、彼に率いられた海賊たちが無防備な市民を次々と斬り倒していた。
悲鳴が雨に溶けていく。
そこへ――
自衛隊が隊列を組んで現れる。
隊員たちは一斉に武器を構えた。
「撃て!」
命令とともに、ブラスターが火を噴く。
轟音。
連続する発射音が、新宿のビル街に反響する。
光弾が雨を裂き、空のバードリーへ降り注いだ。
直撃。
数発が翼をかすめる。
バードリーの笑い声が一瞬止まる。
「小癪な!」
翼を大きく広げる。
「くらえええ!!! 羽爆弾!」
次の瞬間、両翼から無数の羽がばら撒かれた。
黒い羽根は雨の中で舞い、ゆっくりと落ちていく。
だが――。
地面へ触れた瞬間。
爆発。
連鎖する爆発が道路を抉り、炎が吹き上がる。
自衛隊の隊列が次々と消し飛んだ。
煙の中、残ったのは焦げた装備と焼けた瓦礫だけだった。
バードリーは再び空で笑い出す。
「ぎゃははははは!!!」
――その光景を。
ビルの陰から見ている男がいた。
悠。
全身傷だらけ。
包帯はすでに血で滲んでいる。
息も荒い。
それでも目だけは、鋭く戦場を見据えていた。
「……ブラスターだけでももらってくか……!」
悠は壁にもたれながら、ゆっくりと歩く。
雨の中、倒れた自衛隊員の死体のそばへ膝をつく。
ブラスターを拾い上げる。
重さを確かめる。
さらにポケットを探り、手榴弾を数発取り出した。
装備を懐へ押し込む。
その間も、空では爆発と笑い声が続いている。
悠は顔を上げた。
一瞬だけバードリーを睨む。
だが今は戦わない。
踵を返す。
そして雨の中、ビル街の奥へと走り去った。
血を流しながら。
次の戦いへ向かうために。
第26話 最上組滅亡
雷雨の新宿。
その混乱の中で――
一つのビルだけが、不気味な静けさを保っていた。
最上組が占拠したオフィスビル。
かつては、ブラック企業として名高い会社の本社だった場所だ。
今では、最上の趣味によって完全に別の姿へ変えられていた。
天井の梁から社員たちが首を吊られている。
死体は整然と並べられ、まるで展示物のように配置されていた。
机や椅子はどけられ、床には血が乾いた跡が広がる。
異様な空間。
まるで狂人の作った“王国”。
奥の壁には――
社長と美人秘書。
二人は全裸にされ、両腕を広げたまま壁に杭で打ち付けられていた。
十字架のような形で。
息はある。
だが衰弱している。
その光景を囲み、最上組の組員たちはへらへらと笑っていた。
最上は窓際に立ち、外の雨を眺めながら言う。
「いい光景ジャワ。これが世界の終わりかぁ」
イザは壁にもたれ、うんざりした顔をしている。
「もういいだろ。殺せよ」
その時だった。
ビルの前から、一人の男が歩いてくる。
雨の中を。
ゆっくりと。
悠だった。
血まみれの体。
手には拾ったブラスター。
悠は立ち止まり、弾倉を確認する。
金属音。
弾を装填する。
入口の前で見張りをしていた組員が声を上げた。
「止まれ!」
悠は視線を上げる。
「……最上組か?」
その瞬間。
引き金が引かれた。
光弾が見張りの頭を貫く。
銃声が雨の中に響いた。
ビルの中。
その音を聞いた最上の顔色が変わる。
窓へ駆け寄る。
下を見る。
「大介……まずい!探偵きた!」
その直後――
入口のガラスが砕ける。
悠が踏み込んできた。
ブラスターが唸る。
ズドドドドドド。
光弾が次々と放たれる。
まるで掃除でもするように。
最上組の組員たちは抵抗する間もなく倒れていく。
床に血が広がる。
「てめぇ!」
大介と東島が拳銃を構える。
だが悠はすでに手榴弾を抜いていた。
ピンを引き抜き、転がす。
一拍。
爆発。
衝撃で二人の体が吹き飛び、壁へ叩きつけられた。
煙が漂う。
残ったのは最上だけだった。
最上は後ずさる。
手が震えている。
「ま、待てよ……」
悠は無言で弾倉を抜く。
新しい弾倉を装填する。
カチン、と乾いた音。
最上の声が裏返る。
「ほんとに殺す気か!?」
悠は何も答えない。
ブラスターを持ち上げる。
そして――
発砲。
光弾が最上の額を撃ち抜いた。
体が後ろへ崩れる。
動かない。
沈黙。
その様子を見ていたイザは舌打ちした。
「クソが……狂ってやがる」
裏口へ走る。
そのまま雨の中へ逃げ出した。
悠は追わない。
ただ血まみれのまま、ゆっくりとオフィスへ歩いていく。
中へ入る。
壁に打ち付けられた社長と秘書。
二人は涙を流しながら、かすれた声で懇願した。
助けてくれ、と。
悠は立ち止まる。
数秒、見つめる。
そして――
静かにブラスターを構えた。
引き金を引く。
光弾が連続して放たれる。
二人の体を貫く。
何発も。
何発も。
やがて動かなくなるまで。
オフィスに、再び静けさが戻った。
雨の音だけが、窓の外で響いていた。
第27話 刃
池袋。
煙に覆われたビル街で、剣戟が火花を散らしていた。
クリス、ダグ、カノン。
三人は迫り来る海賊たちを次々と斬り伏せていく。
「威勢のいいクズどもがぁ! 蹴散らしてやるよ!」
ダグが豪快に笑う。
竹槍を振るうたび、敵が吹き飛ぶ。
その時、瓦礫の陰から一人の男が躍り出た。
「決着をつけるぞぉ!」
忍び装束の男。
ティード海賊団の幹部――ジャック。
ジャックは懐から赤い頭蓋骨を取り出した。
「最奥忍法! 髑髏爆発!」
頭蓋骨を投げつける。
空中でそれは膨張し、次の瞬間――
爆発。
衝撃が周囲一帯を飲み込む。
煙が立ちこめる。
だがその奥から、低い声が響いた。
「ぬるいなぁ!」
煙を裂いて、竹槍が突き出される。
ジャックの背後から。
刃先はそのまま喉元を貫通した。
ジャックの体が硬直する。
即死だった。
ティード海賊団の幹部の一角が、あっけなく地面に崩れ落ちる。
ダグは槍を引き抜き、豪快に笑った。
「このおれがぁ! 伝説の槍兵! ダグさまだぁ!」
空を仰ぐ。
そしてポケットから取り出した薬を、ためらいなく体内へ入れた。
瞳がぎらつく。
その瞬間。
上空から影が落ちる。
鋭い斬撃。
ダグの頭上を切り裂いた。
「ぐおああ!」
血が噴き出す。
ダグは膝から崩れ落ちた。
そこに立っていたのは――
ボーンズ海賊団船長、ボーンズ。
骨でできた巨体。
腕は八本。
それぞれの手に剣を握る異形の怪物だった。
クリスの瞳が燃える。
「サンダーアーマー!」
雷が身体を包む。
電光とともにボーンズへ突進した。
剣が振り下ろされる。
金属がぶつかる激しい音が響く。
カノンもすぐ横で剣を振るう。
だがクリスが叫ぶ。
「カノン! 下がってろ!」
カノンは歯を食いしばる。
胸が締めつけられる。
自分の力では、この怪物に届かない。
その現実を思い知らされていた。
それでも――。
「私だって……兵士なの……!」
カノンは剣を捨て、猟銃を取り出す。
構える。
引き金を引く。
銃声が響く。
弾丸がボーンズへ飛ぶ。
だが怪物はゆっくりと顔を向けただけだった。
「こざかしい小娘が……」
八本の腕の一つが動く。
剣を握る。
そして――投げた。
凄まじい速度。
一直線にカノンへ向かう。
「カノン!!!!」
クリスが叫ぶ。
雷をまとったまま最高速度で駆ける。
剣を振るう。
だが。
わずかに届かない。
「くそ! カノン!!」
カノンも咄嗟に避けようとする。
しかし――遅かった。
刃が顔面へ突き刺さる。
カノンの体がその場に崩れ落ちた。
クリスはすぐに駆け寄り、抱き起こす。
「……カノン……?」
返事はない。
「起きろ……起きてくれ……!」
声が震える。
「カノン!!」
涙混じりの叫びが、雨の街に響く。
だがその声は、もう届かない。
その光景を見ていた海賊が笑った。
ロックだった。
「仲間が死んでしまったなぁ!」
にやにやと笑う。
「お前の恋人だったか!? 男なのに!」
クリスの目がゆっくりとロックを向く。
ロックは肩をすくめる。
「こっちも仲間が死んだ! お互い様だ!」
両手を掲げる。
「こちらも最高出力の最奥魔法! 岩石生物!」
魔力が集まり始める。
だが。
その詠唱は最後まで続かなかった。
雷光が走る。
クリスが消えたような速度で迫る。
剣閃。
ロックの首が宙を舞った。
地面に転がる。
血が噴き出す。
クリスは振り返る。
目は完全に歪んでいた。
怒り。
悲しみ。
憎悪。
すべてが混ざり合った感情。
ボーンズが八本の剣を構える。
「安心しろ」
低い声。
「お前もすぐにあの小娘のところに送ってやる」
クリスの全身に雷が走る。
空が鳴る。
「ぶっ殺してやる……!」
声が震える。
「殺してやるぅ!!」
雷鳴が轟き、戦場に激しい音が響いた。
第28話 家電虐殺
新宿。
とある家電量販店。
電気は落とされ、広いフロアには非常灯だけがぼんやりと灯っている。
政府の指示で避難所として使われていた場所だった。
店内には多くの民間人が身を寄せ合い、息を潜めている。
子どものすすり泣き。
震える大人たち。
誰もが、外の地獄を知っていた。
その時――。
ガン!
シャッターが揺れる。
激しい衝撃。
金属が歪む音が店内に響いた。
民間人たちは顔を見合わせる。
誰かが棒を拾う。
他の者もそれに続く。
必死の抵抗だった。
そして。
シャッターが内側へ吹き飛ぶ。
鉄板が床に叩きつけられた。
そこから現れたのは、海賊たちだった。
ティード海賊団。
その先頭に立つ二人の幹部。
オウル。
そして――ウッドマン。
ウッドマンは巨大な斧を担ぎ、まるで樹木のような姿をしている。
その体は人ではない。
木と肉が混ざり合った異様な魔獣だった。
ティードの命令に従う、悪魔のような使い魔。
オウルは鼻を鳴らした。
「小汚い家畜どもの臭いがする」
民間人たちが後ずさる。
誰も動けない。
絶体絶命。
その瞬間――。
入口から光弾が飛び込んできた。
海賊の何人かが撃ち抜かれて倒れる。
そして。
血まみれの男が、ずかずかと店内へ入ってきた。
悠だった。
ブラスターを構え、撃ちながら歩いてくる。
「クズが二匹!」
銃口を向ける。
「殺す」
ブラスターが唸る。
光弾がフロアを薙ぎ払う。
だが射線の中には民間人もいた。
数人が巻き込まれ、倒れる。
悲鳴が上がる。
それでも悠は撃つのをやめない。
オウルが目を細めた。
「その銃だけで特攻してくるとは愚かな!」
悠は笑わない。
ただ静かに言った。
「何も銃だけとは言ってねぇよ」
次の瞬間。
空間が歪む。
背後に巨大な影が現れる。
剣神――ムート。
神の剣を持つ存在。
刹那。
剣閃が走った。
オウルの体が真っ二つに裂ける。
血と肉片が床に散った。
即死。
見るも無残な姿へ変わる。
ウッドマンが唸り声を上げる。
斧を振り上げる。
だがその前に。
悠のブラスターが再び火を噴いた。
光弾が木の肉体を削り取る。
幹が砕け、枝のような腕が折れる。
ウッドマンの体は崩れ、やがて朽ち果てた。
静寂。
店内の視線が、一斉に悠へ向く。
恐怖。
安堵。
混乱。
その中から、一人の浮浪者がふらふらと歩み出てきた。
ぼろ布をまとった老人。
何かを叫んでいる。
だが言葉になっていない。
意味不明な日本語で、悠を罵倒していた。
悠はポケットから拳銃を抜いた。
迷いはない。
引き金を引く。
銃声。
浮浪者の頭が弾け、床へ崩れ落ちる。
悠は煙を上げる銃口を下げた。
「なんか言ったか、じじい」
店内は完全に沈黙した。
誰も声を出さない。
ただ、恐怖の視線だけが悠に突き刺さる。
悠はそれを気にする様子もなく背を向ける。
そして。
そのまま家電量販店を後にした。
雨の降る新宿へと。
第29話 骨の怪物
池袋の戦場。
雷鳴が空を裂く中、ボーンズは八本の腕で剣をくるくると回転させ、刃の壁を作り出していた。
その回転の中へ、クリスが踏み込む。
「くそがぁ!」
怒りに任せた一撃。
雷をまとった剣が振り下ろされる。
だがボーンズは軽く後ろへ跳び、斬撃を避ける。
骨の顔が歪む。
「お前ごときに俺が殺せると!?」
嘲笑。
「大きく出たな!兵士ごときが!」
その瞬間、ボーンズの姿が消えた。
転移。
距離を取った位置に現れる。
八本の腕が一斉に動いた。
「最奥魔法……阿修羅骨正拳!」
握っていた剣を、クリスへ向けて一斉に投げつける。
刃が雨のように降り注ぐ。
その直後。
ボーンズ自身が一瞬で間合いを詰めた。
骨の拳が見えない速度で叩き込まれる。
連打。
連打。
連打。
クリスの体が揺れる。
肋骨が砕ける音が響いた。
「ぐはぁ!」
クリスが血を吐き、膝をつく。
その時。
「ほれ!回復だぁ!」
空間が歪み、ダグが転移して現れた。
手をかざす。
温かな光がクリスの体を包む。
回復魔法。
折れた骨が元へ戻り、傷が閉じていく。
ダグはにやりと笑う。
「二人なら勝てるだろ」
クリスはゆっくり立ち上がった。
雷が身体を走る。
「あぁ」
視線をボーンズへ向ける。
「骨野郎をぶっ潰すぞ」
ボーンズが歯を鳴らす。
「しぶとい槍兵めが……」
その時、ダグが竹槍を掲げた。
「ドルフィンズ!」
魔力が弾ける。
水でできたイルカが何体も現れ、一直線にボーンズへ突進する。
高速で周囲を泳ぎ回り、翻弄する。
だが。
「無駄だ!」
ボーンズは腕を振るい、イルカを次々と砕き散らした。
その隙にダグが飛び込む。
竹槍を突き出す。
ボーンズの剣と槍が激突する。
その瞬間――。
「最奥魔法!落雷!」
クリスが両手を掲げる。
空が裂けた。
巨大な雷がボーンズへ落ちる。
衝撃。
骨が砕ける音が響く。
ボーンズの腹部の骨が粉砕され、地面へ崩れ落ちた。
「腹が……!」
だが怪物は笑う。
「だが俺に痛覚はない!」
クリスの瞳が鋭く光る。
「そうか!」
剣を構える。
「じゃあ真っ二つにしてやる!」
雷をまとった斬撃が走る。
ボーンズの半身が斬り落とされた。
骨の体が崩れる。
その瞬間。
残った下半身へ、クリスの魔力が叩き込まれた。
最奥魔法――ホワイトアウト。
白い破壊光線が炸裂する。
骨の下半身が一瞬で焼き尽くされ、消し炭になった。
上半身だけが地面に転がる。
クリスはゆっくりと剣を構え直す。
「終わりだな」
掌を向ける。
再び白い光が集まる。
ホワイトアウト。
光線が放たれる。
ボーンズの骨の体は粉々に砕け散り、そのまま灰となって消えた。
池袋の戦場に、ようやく静寂が訪れた。
第30話 クライス・ロード
燃え盛る新宿。
崩れた家電量販店の残骸の中から、悠が外へ出たその時だった。
背後から、異様な気配が迫る。
振り向く間もない。
地面を砕きながら、ネメシスクライスが突進してきた。
その姿は、もはや王ではない。
歪みきった肉体。
異形の顎。
そして――その手には。
切り落とされた総理大臣の生首。
「おいおいおい……!」
悠は反射的に横へ飛ぶ。
クライスの一撃が空を裂き、地面を抉った。
間一髪。
だがすぐに距離を詰められる。
「オイ!何やってんだクライス!正気か!?」
叫ぶ。
しかし返事はない。
クライスは大きく口を開け、唸り声を上げる。
そのまま両手で悠の肩を掴んだ。
「よせ!」
万事休す。
その瞬間――
空から一筋の影が降ってきた。
剣を振りかざし、一直線に落ちてくる。
「父さん……!」
カイラだった。
だがクライスはそれを紙一重で回避する。
そして迷いなく、かつての息子へ剣を振るった。
「最奥魔法……!」
前傾姿勢。
大きく開かれた口。
「ブレス……!」
次の瞬間。
灼熱の炎が吐き出される。
悠とカイラを飲み込み、周囲一帯を焼き尽くした。
炎は拡がる。
逃げ場はない。
避難所だった建物の残骸すら、熱で歪み、崩れ、溶けていく。
人も、物も、すべてが焼かれていく。
そして――。
悠は意識を取り戻した。
焼け焦げた地面に転がりながら、目を開く。
「……冗談だろ……」
次の瞬間。
空気が震えた。
カイラとクライス。
二人の剣が、最高速度でぶつかり合う。
目で追えない斬撃の応酬。
衝撃で周囲のビルが次々と崩壊していく。
「キングスの呪法によるものか……!」
カイラは歯を食いしばりながら言う。
一撃でクライスを殴り飛ばす。
そのまま地面に叩きつける。
瓦礫が舞い上がる。
カイラは手を掲げた。
「最奥呪法――解呪!」
光がクライスを包む。
その体が激しく痙攣する。
「私はネメシスクライスだぁ!!」
叫び。
拒絶。
次の瞬間、クライスが跳ね起きる。
カイラの体を掴み、蹴り飛ばした。
カイラがビルを貫き、吹き飛ぶ。
クライスは再び口を開いた。
「最奥魔法……ブレス……!」
炎が再び街を覆う。
新宿が焼ける。
だがその背後に、影が現れた。
カイラ。
転移していた。
「解呪!」
再度、光が放たれる。
今度は至近距離。
クライスの体が大きく揺らぐ。
異形の肉体が、ゆっくりと元へ戻っていく。
歪んでいた骨格が整い、牙が消え、瞳の色が変わる。
そして――。
静かに、正気が戻った。
「私は……何を……」
クライスは呆然と呟く。
足元に転がるものを見る。
総理の首。
理解した。
すべてを。
その時だった。
空間が開く。
光が降り注ぐ。
そこから現れたのは、光の神ダイス。
その周囲には、次々と神々が顕現する。
圧倒的な存在感。
空気が変わる。
ダイスの声が響く。
「貴様は同胞を裏切った」
冷たい断罪。
「憎き敵に操られていたとはいえ、我ら神の力を虐殺に使うなど!」
怒りが込められていた。
「その罪は、死で償え!」
次の瞬間。
剣神ムートが前へ出る。
剣を振り下ろす。
だが――。
その一撃は、途中で止められた。
金属音が響く。
悠だった。
勇者の剣で、その刃を受け止めている。
剣が虹色に輝く。
強大な力が脈打つ。
神々が静かに視線を向けた。
悠へ。
その存在を認めるように。
円を描くように、悠とクライスを囲む。
クライスは膝をついた。
「……私は……人間を裏切り……この世界まで巻き込んだ……」
声は震えていた。
「アメリカは……私に唯一、故郷と呼ぶのを許してくれた……」
悔恨。
罪。
すべてを背負った言葉。
悠が一歩前へ出る。
真っ直ぐにクライスを見る。
「みんなを助けられるのは、あんただけだ」
静かに言う。
「かっこいいところ見せようぜ」
一瞬、笑う。
「あんたにかかってる。このままじゃ、人類もエルフも滅ぼされる」
沈黙。
クライスは目を閉じる。
そして――開いた。
迷いは消えていた。
立ち上がる。
神々を見渡す。
「神々よ。兵士たちよ」
声は力強い。
「私はクライスロード」
拳を握る。
「二度と奴らに操られはせん」
空を見上げる。
「そして――キングスを討つ!」
その宣言は、焼けた新宿の空に響いた。
第31話 天空の東京ドーム
戦艦の甲板。
ティードは無言のまま、空へと踏み出した。
足元に魔法陣が展開される。
重力を無視するように、その身体がふわりと浮かび上がる。
そのまま加速し、東京の空へと飛び立った。
――東京ドーム。
巨大な白い屋根の上に、影が降り立つ。
ティードだった。
静かに、ゆっくりと歩みを進める。
そしてスタジアム中央。
その位置で立ち止まる。
「さぁ始めようか」
両手を地面へ置く。
魔力が流れ込む。
次の瞬間――
ゴゴゴゴゴ……!
地鳴りが轟いた。
東京ドーム全体が震え始める。
観客席も、フィールドも、基礎ごと。
地面が持ち上がる。
コンクリートが砕け、土が剥がれ落ちる。
やがて――
ドームそのものが宙へ浮かび上がった。
誰もいない巨大構造物が、空中に持ち上がる。
重力から解き放たれたように。
そして、そのまま移動を開始する。
空を滑るように。
ゆっくりと、だが確実に。
――立川。
避難区域に指定された街。
その一角にある小学校には、多くの都民が避難していた。
体育館や教室に人が詰め込まれ、不安と疲労が充満している。
子どもたちの泣き声。
大人たちの沈黙。
その上空に、影が差した。
人々が顔を上げる。
空に浮かぶ巨大な物体。
UFOのように、ゆっくりと近づいてくる。
東京ドーム。
それが、真上で止まった。
完全に。
逃げ場はない。
ドームの縁に立つティードが、下を見下ろす。
「眺めがいい……だがもう見納めだ」
その隣で、ヴィータが微笑む。
「じゃあ、召喚しますね」
腰のベルトにカードを差し込む。
一枚。
二枚。
三枚。
機構が作動する音が鳴る。
低く、重い駆動音。
そして――応答。
デッドナイト。
デッドファイター。
デッドアーチャー。
無機質な声が響く。
次の瞬間。
ドーム内部の空間が歪む。
無数の影が出現する。
鎧をまとった騎士。
武器を握る兵士。
弓を構える射手。
すべてが――死者。
数百体。
いや、それ以上。
彼らは一斉に武器を構え、戦闘態勢へと入る。
命なき軍勢。
殺すためだけに呼び出された存在。
ティードとヴィータは高台からその光景を見下ろす。
ドームの中に満ちる死の気配。
そしてその真下には――
逃げ場を失った人々。
ティードは口元を歪めた。
処刑の準備は、すでに整っていた。
第32話 作戦開始
政府官邸。
緊急会議室。
重苦しい空気が満ちていた。
八条を中心に、自衛隊の幹部や軍曹たちがテーブルを囲む。
誰もが無言だった。
八条は椅子に深く腰掛け、煙草を咥える。
「総理を守れなかった。部下たちもだ」
静かに言い、火をつける。
紫煙がゆらりと立ち上る。
「だが、まだ終わったわけではないだろう?」
視線を巡らせる。
「なぁ、君たち」
異世界捜査本部のメンバーは息を呑む。
その沈黙を破ったのは姫野だった。
「八条さん、本当に守ってたのでしょうか」
鋭い一言。
疑念がその場に落ちる。
山田は何も言わず、ただ目を伏せた。
その時――。
扉が開く。
足音。
クライスが入ってきた。
その後ろにアルタイル騎士団。
そして悠。
室内の空気が一変する。
クライスは一歩進み、頭を下げた。
「諸君、総理を守れなくてすまなかったな」
謝罪。
だが八条は鼻で笑う。
「おや、総理を殺した殺人犯の登場か?」
煙を吐く。
「正気になって何よりだ」
その瞬間、ダグが机を蹴り飛ばす勢いで前に出た。
「黙ってろ、カス」
詰め寄る。
だが悠が一歩前に出て、遮る。
「今は内輪揉めしてる場合じゃねぇ」
視線は真っ直ぐ。
「オオカミ野郎は避難所の人間を皆殺しにする気だ。何としても阻止しないと」
場が引き締まる。
カイラが続く。
「飛行魔法で偵察してきた。奴ら、数百の手下を準備してる」
緊張が走る。
八条が煙草を指で弾く。
「ティード……」
一拍。
「奴が死ねば、ドームは真っ逆さまに小学校に墜ちる」
誰もが言葉を失う。
悠が即座に言った。
「おれが神様を召喚してドームを支える」
山田が思わず顔を上げる。
「そんなこと……できるのか……」
悠は答えない。
ただ前を見ている。
クライスが一歩進み出た。
「そして、応援に君たちの軍隊を借りたい」
真っ直ぐな言葉。
八条はしばらく黙り込む。
煙草の火が静かに燃える。
やがて。
「いいだろう」
短く言った。
「総員、戦闘準備」
命令が下る。
その一言で、会議室の空気が一変した。
――立川。
某小学校。
避難所となっていた校舎は混乱に包まれていた。
上空には、東京ドーム。
巨大な影が覆いかぶさっている。
釜野率いる自衛隊が必死に誘導していた。
「急げ!車両に乗れ!」
怒号。
人々が押し合いながら移動する。
子どもを抱える親。
足を引きずる老人。
すべてが遅い。
間に合わない。
釜野は舌打ちした。
「らちがあかねぇ……!」
空を見上げる。
巨大なドーム。
いつ落ちてきてもおかしくない。
時間は、残されていなかった。
第33話 アルタイル騎士団、進軍。
作戦用ヘリのローターが、夜の空気を激しくかき乱す。
複数の機体が並び、騎士団と自衛隊員たちが次々と乗り込んでいく。
緊張と覚悟が入り混じる中、クライスは一歩下がり、悠へ視線を向けた。
「悠、君は残れ。君は切り札だ。まだ出るべきではない」
短く、だが重い判断。
悠は煙草を咥え、火をつける。
炎が一瞬だけ顔を照らした。
「わかったよ、キング」
軽く答える。
その奥にある覚悟は、誰よりも重い。
「っしゃ!全員ヘリコプターに乗れ!全員だぞ!」
ダグが怒鳴り、先頭に立って機体へ飛び込む。
隊員たちが続く。
その直前、クライスはカイラの肩に手を置いた。
「カイラ、アルタイルに戻れ。もう大丈夫だ」
だがカイラは首を振る。
「いや、向こうも大丈夫だ」
静かな声。
クライスが振り返る。
カイラは無造作に、何かを放り捨てた。
血に濡れた指。
「おれが敵を全員始末した」
わずかな沈黙。
クライスは小さく頷いた。
「よくやった」
そしてヘリが浮上する。
東京の空へ――。
東京ドーム、内部。
広大な空間に、無数の屍兵士が静かに待機していた。
デッドナイト。
デッドファイター。
デッドアーチャー。
すべてが武器を構え、侵入者を待ち構える。
やがて――。
遠くからローター音が響いてきた。
ヴィータが口元を歪める。
「来ましたね」
ティードが腕を組む。
「戦闘用意!」
その直後、ヘリが入場口付近にホバリングする。
ロープが垂らされ、武装した隊員たちが降下する。
着地と同時に銃撃。
光弾と実弾が屍兵士たちを貫く。
だが――。
デッドアーチャーたちが一斉に弓を引いた。
矢の雨。
だが隊員たちは怯まない。
ブラスターで矢を撃ち落としながら前進する。
その中を、ダグが突っ込んだ。
「ドルフィンズ!」
水のイルカが次々と生まれ、敵陣を駆け抜ける。
屍兵士たちが弾き飛ばされる。
クリスも続く。
「ザンダー!」
雷鳥が空を裂き、一直線に上空へ――。
狙いは屋上。
ヴィータ。
だがヴィータは笑った。
「その使い魔は僕も持っていないな、是非欲しいね!」
リボルバーを構え、引き金を引く。
銃弾が雷鳥をかすめる。
その時、屋上へと飛び上がった影。
クライスだった。
剣を突きつける。
「お前、一体誰だ。その召喚術――エルフがどうやっても体得できるものじゃない」
一歩踏み込む。
「まぁ、お前が誰であれ――貴様を殺すのは私だ」
ヴィータは肩をすくめた。
「これはこれはクライス王……チェンジ」
バックルにカセットを挿入する。
機械音声が鳴る。
装甲が展開され、全身を覆う。
顔には四本の破片が突き刺さり、異様な仮面となる。
変身完了。
ヴィータがカードを取り出す。
「あなたには、これなんてちょうどいいかな!」
カードを差し込む。
機械音声。
ゴーレム。メデューサ。
岩の巨人と蛇髪の怪物が現れる。
一斉にクライスへ襲いかかる。
だが――。
「最奥魔法、ブレス!」
クライスの口から放たれた炎が、二体を包み込む。
抵抗する間もなく消滅した。
ヴィータは歓喜に震える。
「素晴らしい!では次はもっと強力なのを!」
新たなカード。
レッドドラゴン。
巨大な赤竜が咆哮とともに現れる。
口から火球を放つ。
その瞬間。
「氷結魔法」
上空から声。
氷の球が飛来し、火球と衝突する。
蒸気が弾ける。
火は消えた。
空中に浮かぶ魔女――ロイス。
箒にまたがり、静かに微笑む。
「私の事務所が壊されないように、あなたたちに協力するわ」
クライスが頷く。
「来たか、ロイス」
二人はドラゴンへ向き直る。
だがその瞬間――。
「ふん!貴様は俺が始末してやる!」
ティードが割り込んだ。
巨大な斧が振り上げられる。
クライスを斬り上げる。
衝撃で吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられる。
すぐさま追撃。
振り下ろされる斧。
クライスは剣で受け止める。
火花が散る。
「俺たちは、血で争う兄弟だ!」
ティードの咆哮。
クライスは睨み返す。
「兄弟だったのは昔の話だ」
力を込める。
押し返す。
「最奥魔法――デビルズ!」
渾身の一撃。
ティードの体が吹き飛ぶ。
そのままドームの外へ叩き出される。
瞬間――。
ドームの浮遊が止まった。
支えを失い、巨体が傾く。
そして。
落下。
立川。
釜野が空を見上げる。
巨大なドームが落ちてくる。
避けられない。
「終わった……!」
思わず呟く。
祈るしかない。
その時――。
通信機から声が響いた。
「悠!いまだ!」
クライスの声。
地上。
悠が煙草を捨てる。
踏み消す。
そして手を掲げた。
「五神召喚……!」
空間が裂ける。
五柱の神が顕現する。
圧倒的な存在。
その力がドームの下へと集まる。
落下する巨体が――止まる。
あと数メートルの地点で。
静止。
そしてゆっくりと持ち上げられていく。
元の位置へ。
あるべき場所へ。
東京ドーム上空。
戦場の空気が、わずかに緩む。
ヴィータはその様子を見て、軽く手を振った。
「じゃあね。今度は殺すよ、またね」
転移魔法が発動する。
その姿が消える。
残されたのは、焼けた空と、終わらない戦いの気配だけだった。
第34話 リベンジマッチ
東京上空。
なおも浮かぶ、キングスの戦艦。
焼けた街を見下ろすように、その巨体は空を占拠していた。
甲板の中央。
キングスはワインボトルを傾け、そのまま喉へ流し込む。
最後の一滴まで飲み干し、空になった瓶を無造作に転がした。
その時。
一機の戦闘用ヘリが接近する。
警告もなく、堂々と。
甲板へ降り立つ影。
イザだった。
マフィアの構成員を引き連れ、片手にサブマシンガンを持っている。
足音を鳴らしながら、キングスの前まで歩み寄る。
「おれたちは戦いに来たわけじゃない。交渉をしに来た」
キングスは椅子にもたれ、口元を歪めた。
「ほう、きこうか。座れ」
命令。
イザは従わず、そのまま立ったまま話し始める。
「おれたちはマフィアだ。中国から来た」
視線は外さない。
「あんたが狙ってる……そう、探偵に仲間を殺された。虐殺だよ」
一瞬の沈黙。
キングスの目が細くなる。
「……小僧、まだ生きていたか」
低い声。
イザは鼻で笑った。
「奴は俺たちが殺す。奴の首を取ってくるよ」
その時――。
空間が歪む。
黒い裂け目。
ゲートが開いた。
そこから現れたのは、悠。
ブラスターを構え、無言で歩み出る。
「家族はどこだ」
短い問い。
イザが肩をすくめる。
「おやおや、獲物が向こうからやってきてくれるなんてなぁ」
サブマシンガンを構える。
だが悠は視線すら向けない。
「てめぇに用はねぇよ」
ゆっくりとキングスを見据える。
「あるのは、このデカブツだ」
キングスが笑う。
「死体だらけだよ。貴様も、クライスも降らん」
立ち上がる。
その圧が空気を歪める。
「チャンスは何度も与えた」
一歩踏み出す。
「それでも貴様らは戦争を選んだ」
狂気が滲む。
「その罪は……日本国外の民にじっくり味合わせてやる」
言葉が、世界へ向けられる。
その意志はすでに、国外へ広がろうとしていた。
悠が一歩前へ出る。
「いいや」
低く言う。
「お前を日本からは出さんぞ」
その瞬間。
上空を高速で旋回する影。
米軍の戦闘機だった。
戦艦を取り囲むように飛び交う。
キングスはそれを見上げ、楽しげに笑う。
「アメリカが動き出したか……それも一興」
悠はゆっくりと剣を抜いた。
勇者の剣。
その刃が、淡く光る。
イザは舌打ちする。
「米軍……おまえら引き上げるぞ」
仲間たちに合図を送る。
ヘリへと戻り、すぐさま離脱する。
甲板には、二人だけが残された。
キングスが鼻で笑う。
「この程度の脅威に逃げおおせるとは」
肩をすくめる。
「人間など所詮はゴミだめで育ったただのネズミに過ぎん」
悠は剣を構えた。
その瞳は揺るがない。
「お前は俺が殺す」
刃が、虹色に輝き始める。
力が満ちる。
覚醒。
キングスの表情がわずかに変わる。
「ほう……神の剣を覚醒とは……!」
腰の薙刀を引き抜く。
構える。
次の瞬間。
踏み込む。
刃が振るわれる。
悠も同時に動いた。
剣と薙刀がぶつかる。
甲高い金属音が、空を切り裂いた。
火花が散る。
衝撃が甲板を揺らす。
最強の海賊。
キングス。
そして――世界を繋ぐ能力者、悠。
二人の因縁が、再び交差する。
決着の戦いが、いま始まった。
第35話 秋葉原
秋葉原。
ラジオ館の屋上。
焼け落ちた街を見下ろしながら、一人のエルフが静かに立っていた。
パルエル。
その瞳には、迷いはなかった。
「これでよいのだ」
低く呟く。
「これで我らエルフの存在意義は復活する」
その背後。
ティードがゆっくりと歩み出る。
両手を天へ掲げる。
「これが新たな世界だ」
狂気と歓喜が混ざった声。
その時――。
ビルの下に向かう馬車。
クライスたちが現れた。
瓦礫を踏みしめながら前へ出る。
クライスは剣を構え、真っ直ぐパルエルを睨む。
「降りてこい!パルエル!」
叫び。
だがパルエルは動かない。
ただ、見下ろすだけだ。
「クライス!」
その声には怒りが込められていた。
「自分の立場を忘れたか!」
一歩踏み出す。
「われら種族のあるべき世界を取り戻してやったのだ!」
槍を握る手に力が入る。
「エルフのな!」
そして、静かに言い放つ。
「それでも貴様は……弱き人間を取るのか」
風が吹く。
焦げた匂いが流れる。
クライスは一切視線を逸らさない。
「民の自由意思を尊重しろ」
静かな声。
だが揺るがない。
「あなたに教わったことだ。先生」
その一言で、空気が変わる。
一瞬の沈黙。
次の瞬間――。
パルエルが踏み込んだ。
槍が一直線に突き出される。
クライスへ。
迷いのない一撃。
火花が散る。
剣と槍が激突した。
同時に。
ティードが大きく腕を振り上げる。
「海賊団!奴らを殺せ!」
命令。
それに応じるように、キングスの手下たちが一斉に動き出す。
銃声。
怒号。
刃の衝突。
戦場が屋上に広がる。
ダグが先陣を切る。
「蹴散らしてやる!」
竹槍を振るい、敵をなぎ払う。
クリスも叫ぶ。
「総力戦だ!いいな!?」
雷をまとい、前線へ飛び込む。
カイラは周囲を一瞬で見渡し、即座に判断を下した。
「三人で食い止める!」
剣を構える。
「都民をなるべく守れ!」
その声に、自衛隊員たちが動く。
避難誘導を続けながら、銃を構える。
騎士団も応じる。
刃を振るい、敵を押し返す。
屋上は、完全な戦場と化した。
爆炎。
血。
叫び。
その中心で――。
クライスとパルエルの戦いが激突する。
師と弟子。
信念と信念。
そのすべてが、ここでぶつかり合っていた。
第36話 カード使いとカード使い
轟音が交錯する戦場に、新たな影が舞い降りた。
「素晴らしい!久しぶりだね、ゲートウォーカー」
ヴィータだった。
軽やかに着地し、戦場の中心へと歩み出る。
「いや、通りすがりの旅人さん、何も覚えていないだろうけど」
愉しげに肩をすくめる。
「僕は君の友達だ」
ゲートウォーカーはわずかに構えを深くした。
「何を言ってるかさっぱりだ」
ヴィータは小さく笑う。
「思い出させてあげよう」
カードを取り出す。
「チェンジ」
バックルへ装填。
起動音。
装甲が展開し、姿が変わる。
変身したヴィータはリボルバーを構え、間髪入れず銃弾を放った。
さらにカードを引き抜き、装填する。
デッドファイター。
召喚された死の戦士たちが一斉に地面へ降り立つ。
無言のまま、突撃。
刃を掲げ、ゲートウォーカーへ襲いかかる。
「使い魔か」
ゲートウォーカーは落ち着いた動きでカードを取り出す。
「じゃあこいつだ」
装填。
強化魔法。
起動音が鳴り響く。
刀身をゆっくり撫で上げる。
刃に宿る力が脈打つ。
振るうたび、空気が重く揺れる。
迫るデッドファイターの群れを次々と斬り払う。
ヴィータは間合いを取りながらカードを構えた。
「とどめだよ」
装填。
最奥魔法。
冷凍光線。
リボルバーから放たれた光が一直線に走る。
触れた空気すら凍てつかせながら、ゲートウォーカーへ迫る。
「ふぅん!」
踏み込み。
強化された刀が閃く。
一振り。
光線は、真っ二つに裂かれた。
凍りついた粒子が空中に散る。
だがその瞬間――。
「最奥魔法デビルズ!」
背後から、ティード。
好機を狙っていた拳が、ゲートウォーカーの腹部へ叩き込まれる。
重い衝撃。
「不覚…!」
体が宙へと浮かび、そのまま大きく吹き飛ばされる。
屋上を転がり、瓦礫へと激突した。
ティードは状況を一瞥する。
周囲では海賊団の幹部が次々と倒されていた。
焦りがわずかに滲む。
「ヴィータ、引くぞ」
短く告げる。
「幹部が大勢やられてる。バードリーとも連絡が取れん」
舌打ち。
「キングスの馬鹿のところに探偵が来ているらしい」
視線を空へ向ける。
「好機を見て計画を実行する」
ヴィータは頷いた。
「わかりました」
次の瞬間。
空間が歪む。
光が収束し、二人の姿が消える。
残されたのは、崩れゆく戦場と――
まだ終わらぬ決着だけだった。
第37話 パルエルとクライス
クライスは一歩踏み込み、迷いなく剣を振るった。
風を裂く一閃。
それに応じるように、パルエルの槍が唸る。
「私にも考えはある!成すべきこと成す!」
槍が鋭く突き出される。
クライスはそれを弾き、間合いを詰めた。
「それは俺を殺してからやれぇ!」
叫びと同時に、蹴りが叩き込まれる。
重い衝撃。
パルエルの体が吹き飛び、背後のビルへと突っ込む。
コンクリートを突き破り、内部へと消える。
だが――。
次の瞬間、瓦礫の中から影が飛び出した。
空中で体勢を整え、軽やかに着地する。
「来い!」
槍を指先で回転させる。
「昔みたいに稽古をつけてやる」
その言葉と共に、一直線に突進。
凄まじい速度。
連続する突き。
クライスは歯を食いしばりながら剣で受け続ける。
「先生!おれはあなたを許さない!」
火花が散り続ける。
互いに一歩も引かない。
その最中――。
別の殺意が割り込む。
「ふん、反吐が出る」
ティードが銃口をクライスへ向ける。
引き金に指がかかる。
だが。
一閃。
金属が断たれる音。
ティードの銃が真っ二つに裂けた。
屋上に、新たな影が舞い降りる。
侍。
まるで演技のように静かに着地する。
ティードが目を細めた。
「何…?」
間髪入れず、手下たちが斬りかかる。
だが次の瞬間、血が舞う。
一瞬。
それだけで、全員が吹き飛ばされていた。
ティードは舌打ちし、笑みを浮かべる。
「よぉ侍、まだおれらと遊ぶか?」
一歩踏み出す。
「革命の邪魔だけはさせんぞ」
侍は無言でバックルに手をかけた。
「チェンジ」
カセットが装填される。
機械音とともに、装甲が体を覆う。
ゲートウォーカー。
その姿が完成する。
ティードは眉をひそめる。
「…お前、うちのヴィータの知り合いか?」
だが返答は素っ気ない。
「知らないな、おれは昔のことは忘れたんだ」
ティードは笑う。
「いいや、そうは見えんな」
目を細める。
「昔の知り合いに記憶喪失のやつがいてな」
一歩、距離を詰める。
「そんな真っすぐな目はしてねぇ。お前のようにな」
わずかな沈黙。
そして。
「くどい」
ゲートウォーカーは刀を構える。
「ここでクライスと浪野悠を勝たせる。それが俺の仕事だ」
踏み込む。
斬撃。
さらにカードを装填する。
起動音。
直後、炎が降り注ぐ。
ティードを中心に爆ぜる火炎。
「結界術」
透明な壁が展開され、炎を弾く。
だが、次の手が来る。
再びカード。
起動音。
姿が消える。
「ぐはぁ!どこ行ったよ」
ティードが周囲を見回す。
その瞬間。
背後から斬撃。
横から。
上から。
四方八方から不可視の刃が襲いかかる。
見えない敵。
逃げ場はない。
一方――。
クライスとパルエルの戦いはさらに激しさを増していた。
剣と槍が交差するたび、空気が裂ける。
かつての師弟。
積み重ねた時間。
そのすべてが、刃に乗る。
そして今。
それは終わりへと向かっていた。
第38話 武具猛攻
一方――クライスたちは、なおもパルエルと刃を交えていた。
空を覆う砲撃の閃光。
パルエルは血に濡れたまま、なお威厳を崩さない。
「キングスの小舟!砲台で撃て!」
鋭い号令が響く。
空中に浮かぶ小型の海賊船が一斉に向きを変え、砲口を地上へ向けた。
照準は、自衛隊の戦車部隊。
次の瞬間、火線が降り注ぐ。
爆炎が連続し、地面が揺れる。
さらに一隻の小舟が高度を下げ、クライスへと砲撃を集中させる。
轟音。
爆風。
瓦礫が舞い上がる。
――官邸。
八条は無線機を掴み、声を張り上げた。
「全て撃ち落とせ!一機たりとも逃がすんじゃないぞ!」
怒号に近い命令。
対空砲火が一斉に空を貫く。
秋葉原の空に火花が散り、無数の爆発が連なる。
戦火は街を飲み込んでいく。
パルエルは歯噛みした。
「役立たず共めが!一生撃ってろ!」
その隙を、ダグは見逃さなかった。
「じゃあてめぇも一生槍振っとけよぉ!!」
全力の一撃。
重い衝撃がパルエルの体を揺らす。
だが倒れない。
カイラが静かに踏み込む。
「あなたは終わりだ。あなたは指導者にはなれない」
流れるような剣捌き。
一閃。
パルエルの右腕が宙を舞った。
鮮血が飛び散る。
だが――。
パルエルは表情を変えない。
槍を左手へ持ち替える。
「小童が。右腕がどうした、左がある」
重心を落とし、構え直す。
その瞬間、クリスが雷を纏い突撃する。
閃光と共に振り下ろされた剣。
しかし。
槍の一突きが先に届く。
衝撃でクリスの体が吹き飛ばされる。
さらにパルエルはダグの首を掴み上げ、そのまま地面へ叩きつけた。
コンクリートに亀裂が走る。
カイラは一歩も退かない。
「ずいぶん、疲れているみたいですね。回復は要りますか?」
挑発。
完全に余裕を崩さない声音。
パルエルは低く笑った。
「貴様だけは認めよう…さすがは最高戦力…恐れ入った」
呼吸は荒い。
それでも槍を握る手は震えていない。
「だがわしをなめるな。この老いぼれ、まだまだやれるぞ」
闘志は消えていなかった。
カイラは静かに剣を構える。
「どこからでもかかってきてください」
次の瞬間。
両者が同時に踏み込んだ。
師の理想。
弟子たちの覚悟。
すべてを賭けた一戦が、決着へと近づいていく。
第39話 現代の最高戦力者 カイラ・ロード
カイラが静かに息を吐く。
「ふん!」
次の瞬間、信じ難い光景が広がった。
地面に手をかけたカイラは、崩れかけた高層ビルを力任せに持ち上げる。
コンクリートが軋み、鉄骨が悲鳴を上げる。
そのまま――振り下ろした。
巨大な質量がパルエルへと叩きつけられる。
轟音。
粉塵が視界を覆う。
パルエルの瞳に、明確な驚愕が浮かんだ。
「これが…勇者ルーシェとクライスの血を引く男…!」
圧死寸前。
だが次の瞬間、空間が歪む。
転移魔法。
パルエルの姿は瓦礫の直下から消え、数十メートル離れた空中へと現れた。
息を整える暇もなく、槍を握る。
全力で投擲。
槍は音を裂きながらカイラへ迫る。
カイラは落ち着いた動作で剣を引き抜いた。
刃が閃く。
金属音。
槍は弾かれ、軌道を逸らす。
その刹那。
パルエルが消えた。
次の瞬間には、すでに目の前。
常人では知覚すらできない速度。
拳、肘、蹴り。
怒涛の連撃がカイラへ叩き込まれる。
衝撃波が周囲のガラスを砕いた。
「僕のスピードはあなた以上だ!」
カイラは一歩も退かない。
打撃を受けながら、踏み込み――
拳を振るう。
重い一撃がパルエルの腹部へ突き刺さる。
空気が歪むほどの衝撃。
続けざまに拳が叩き込まれ、パルエルの体勢が崩れる。
そこへ――
クライスの声。
「最奥魔法…ホワイトアウト…!」
光が収束する。
凄まじい輝きが解き放たれた。
白い奔流が、カイラとパルエルのいる空間を丸ごと飲み込む。
破壊の光。
カイラは舌打ちする。
「無茶をする」
瞬時に転移。
光の外へと退避した。
爆光が収まり――
瓦礫の中に、パルエルが横たわっていた。
全身が焼かれ、呼吸も浅い。
「ぐはぁ…!はぁ…!」
血が地面に広がる。
クライスはゆっくりと歩み寄る。
剣先が静かに持ち上がる。
パルエルは震える声で言った。
「…どうかわかってくれ…エルフの本来の姿は…世界の秩序を保つのに必要なのだ…」
苦しげに息を吐く。
「なぜ味方を犠牲にして裏切ったのか…私には覚悟があった…家族より、世界を選んだのだ…!」
クライスの目は揺れない。
「あなたは私を裏切ったのではない」
剣が首元へと添えられる。
静かな声。
「あなたは自身の騎士道を裏切ったのだ」
パルエルの目が見開かれる。
「クライスゥ!!!!」
叫びは最後まで続かなかった。
刃が振り抜かれる。
一瞬。
音すら遅れて届く。
首が落ち、すべてが静止した。
長き因縁は、ここに断ち切られた。
だが戦場の空はなお燃えている。
戦いは、まだ終わっていない。
第40話 対峙
一方――
キングスの戦艦。
空を支配する鋼鉄の巨艦の甲板で、ついに最終決戦が幕を開けた。
「おらぁ!くたばれ怪物!」
悠が踏み込む。
虹色に輝く勇者の剣が、一直線にキングスの喉元へ走る。
「ぬるい!」
振り下ろされる刃。
だが次の瞬間、凄まじい圧が空間を震わせた。
気迫。
それだけで悠の体が弾き飛ばされる。
空中で体勢を整え、甲板へ着地。
すぐさま立ち上がる。
「五神召喚!」
魔法陣が展開する。
光が重なり、五柱の神々が姿を現した。
「ぶっ殺せ!」
命令と同時に、神々はキングスへ襲い掛かる。
雷撃。
炎。
重圧。
神威が甲板を揺るがす。
だが――
キングスは退かない。
薙刀が閃き、神の一撃を受け止める。
衝突する力は互角。
むしろ、押し返している。
神と拮抗する存在。
「互角…!?嘘だろ…!」
悠の声に焦りが滲む。
しかし。
神々が作った僅かな隙。
それだけで十分だった。
悠は踏み込む。
虹色の剣が軌跡を描く。
一瞬の加速。
刃がキングスの首へ突き刺さった。
「ぐはぁ!」
鮮血が噴き出す。
巨躯が揺れる。
「殺せ…そうすればまた次がやってくる…!」
狂気を帯びた笑み。
だが悠は躊躇しない。
「いいや、これで全部終わりだ…!」
刃が振り抜かれる。
重い手応え。
キングスの首が宙を舞った。
最強の海賊。
その命が、ここで断たれる。
悠は剣を投げ捨てると、甲板の奥へ走った。
重い扉を蹴破る。
最奥の部屋。
そこには――
拘束された雪、ルイ、歩九の姿。
急いで縄を断ち切り、抱き寄せる。
「大丈夫だ…もう大丈夫…!」
雪の体が震えている。
「来てくれるって信じてた…」
か細い声。
その瞬間。
乾いた拍手が響いた。
振り返る。
そこに立っていたのはティード。
「よくやってくれたな、小僧」
悠は即座に拳銃を向ける。
ティードは気にした様子もなく歩み寄る。
「キングスの首はおれが預かる」
転がる首を拾い上げる。
そして。
大きく口を開けた。
噛みつく。
骨が砕ける音。
肉を引き裂く音。
そのまま――飲み込んだ。
沈黙。
直後。
ティードの体から禍々しい気配が噴き出す。
鼓動のように脈打つ魔力。
底の見えない力が、内側から溢れ出す。
「おれはこの時を待っていた!!」
目が狂気に染まる。
「キングス!貴様の時代は終わりだ!!ここからはおれの時代だぁ!」
咆哮。
口が大きく裂ける。
次の瞬間。
炎の奔流が放たれた。
灼熱のブレス。
空が赤く染まる。
雲が蒸発する。
関東一帯を覆うほどの火炎。
都市が焼ける。
兵士も、民間人も、大地も。
すべてが業火に呑まれていく。
終わったはずの戦いは――
最悪の形で、次の災厄を生んだ。
第41話 巨大化
焦土。
焼け落ちた建物の残骸が黒く沈み、熱気だけが大地に残っていた。
その中を、悠然と歩く影が一つ。
ティード。
炎の余波すら寄せ付けぬ結界を纏い、ゆっくりとクライスたちの前へ姿を現す。
結界の内側では、ダグとクリスが地に伏していた。
息は浅く、全身は深手に覆われている。
カイラが静かに手をかざす。
淡い光が二人の傷を包み込み、回復魔法が命を繋ぎ止める。
ティードは立ち止まり、冷笑した。
「小僧は殺した、女もな」
空気が凍る。
だがクライスは一歩も退かない。
剣を携え、真正面からティードを見据える。
「ではお前が最後というわけだな」
ティードは肩をすくめる。
「おれが狙っていたのは最初からキングスの座だけだ。王座は奴にふさわしくない」
焼け野原を見渡す。
「だから最後はおれが戦争を始めてやる」
言葉と同時に、魔力が膨れ上がる。
地面が震えた。
ティードの体が膨張する。
骨格が軋み、筋肉が異様に隆起する。
その姿は、もはや人ではない。
街を見下ろすほどの巨体。
怪獣のような影が、瓦礫の大地へ落ちた。
「まさか…巨大化魔法…!」
クライスの声に、わずかな驚きが混じる。
ティードは嗤った。
「ふははは!おれを止めてみろ!兄弟!」
巨腕が広がる。
まるで舞台の幕を上げる支配者のように。
「見せてやる、最高のショーをな!」
カイラが眉をひそめる。
「なにを!」
ティードの瞳が妖しく光る。
「最奥呪法…マインドコントロール…!」
空間に巨大なゲートが開いた。
重苦しい音とともに、歪んだ光が漏れ出す。
そして――
中から現れたのは、エルフの民間人たち。
だが様子がおかしい。
目は血走り、焦点が定まっていない。
口元からは涎が垂れ、呼吸は荒い。
理性の欠片も感じられない。
彼らは次々とゲートから溢れ出し、地面へ雪崩れ込んだ。
ティードの声が響く。
「魔法を使えないエルフ共に、ちょっとした役目を与えてやった」
その瞬間。
エルフたちが動いた。
人間を探すように顔を上げる。
そして見つけた瞬間――
牙を剥いた。
悲鳴。
肉を引き裂く音。
まるで飢えた獣。
いや、死者の群れのように。
エルフたちは人間へと襲いかかり、容赦なく喰らい始めた。
街に新たな惨劇が広がる。
クライスの表情が険しくなる。
「…何をした…!」
ティードは肩を揺らして笑った。
「まぁその内わかるさ」
巨体が一歩踏み出す。
地面が砕ける。
世界そのものが、歪み始めていた。
第42話 自爆
巨大化したティードの影が、崩壊した街を覆う。
踏み下ろされる巨足。
大地が砕ける。
「…!!」
クライスは転がるようにして回避した。
地面が陥没し、衝撃が瓦礫を跳ね上げる。
「はぁ!」
カイラが跳躍する。
常人では辿り着けぬ高度。
そのまま拳を振り抜き、ティードの顔面を撃ち抜いた。
「ぐぬ…!」
巨体がよろめく。
しかし次の瞬間。
ティードの手がカイラを掴んだ。
強引に振りかぶる。
まるで野球の投手のように。
全力で放り投げた。
空気が裂ける。
カイラの体が遠方の瓦礫へと叩きつけられた。
「これ以上の被害は出せん!ホワイトアウト!」
クライスの剣が光を帯びる。
純白の閃光。
だがティードは、指先で軽く弾いた。
まるで塵を払うかのように。
「ホワイトアウト!」
カイラも即座に呼応する。
光線が一直線にティードを貫く。
「火力では負けん!ブレス!」
灼熱の炎が吐き出された。
白と紅。
二つの奔流が空中で衝突する。
衝撃波が周囲の建造物を削り取る。
拮抗。
だが、僅かに。
カイラの光が押していた。
「転移魔法」
ティードの姿が揺らぐ。
一瞬で後方へ退いた。
「どうしたんだ、怖いのか?」
カイラの声は静かだった。
だが確実に挑発だった。
「小僧が…!」
ティードの眼が歪む。
「召喚術…ブラックボックス!」
空間が裂ける。
黒い箱が現れた。
生物のように脈動し、箱の表面に浮かぶ無数の眼球がぎょろぎょろと動く。
禍々しい存在。
箱はカイラへ向かって滑るように進んだ。
「吸収する箱…!」
カイラは即座に後退する。
あれに触れれば、存在そのものが呑み込まれる。
「いいや、これで終わりにする!」
クライスが前へ出る。
剣を下ろす。
静かに目を閉じる。
体内の魔力が暴れ始めた。
収束。
圧縮。
限界を超えた密度。
自爆。
ティードを巻き込むため、転移魔法で至近距離へ飛び込む。
「ブラックボックス!小僧の相手をしてやれ!」
ティードが叫ぶ。
「私を忘れるな!」
クライスが起爆を試みた瞬間。
光が爆ぜた。
魔力が臨界を迎える。
爆散。
炎と衝撃がすべてを呑み込む。
瓦礫が宙へ舞う。
空気が震える。
ティードの巨体が吹き飛ばされた。
地面へ叩きつけられる。
巨大化が解除される。
煙の中。
クライスの体もまた地面へ崩れ落ちた。
全身が焼け、血に濡れている。
それでも――生きていた。
かろうじて。
かすかな意識。
「…クライス!クライス!」
遠くから声が届く。
霞む視界。
誰かが走ってくる。
悠だ。
その傍らにはゲートウォーカーの姿。
「侍、雪たちを安全な所へ連れてってくれ」
「了解だ、探偵」
短く答え、ゲートウォーカーは雪たちを連れてその場を離れる。
悠がしゃがみ込み、クライスの肩に手を置く。
「クライス、救援が来る。もう少しの辛抱だ。雪たちを見てくる」
そのまま立ち上がり、走り去る。
静寂が戻る。
荒い呼吸だけが残る。
クライスは空を見上げた。
黒雲が晴れていく。
雷雨が止む。
雲の切れ間から朝日が差し込む。
焼け野原を淡く照らす光。
その反対側から、足音が近づく。
ティード。
傷だらけの姿で、それでも立っている。
「…お前の目的は最初からキングスの座か…!」
かすれた声。
「そうとも」
ティードはゆっくり答える。
「奴の権力、奴の力の吸収、奴の大戦艦、奴の金」
口元が歪む。
「この世の全てがやっと今、俺の手の中に入った」
一歩。
また一歩。
「だが、まだ片付いていないことがある」
クライスを見下ろす。
「お前との決着だ」
狂気を帯びた笑み。
「最後に生き残った者が全てを手に入れる。これこそが、おれが求めていたエンディングだよ!」
クライスは震える足で立ち上がる。
体は限界を超えている。
それでも、剣を支えに前へ出る。
そして空へ両手を掲げた。
朝焼けの光を浴びながら。
「ティードぉぉぉお!!!!」
「クライスぅぅぅぅ!!!!!」
互いの咆哮が、崩壊した東京に響く。
瓦礫の大地。
焼けた空気。
終焉の朝。
すべてを賭けた最後の勝負が――
今、始まる。
第43話 さらば。海賊の兄、国王の弟。
ティードは地を蹴った。
砕けた瓦礫が宙へ舞う。
拳が一直線にクライスへと迫る。
重い風圧。
瀕死の体を引きずりながら、クライスは紙一重で回避する。
だが、追撃は止まらない。
次の拳。
さらに次。
連続する打撃の嵐。
ティードのラッシュが容赦なく襲いかかる。
「どうした兄弟!老いたか!?そんなものか!?」
嘲る声とともに、速度がさらに増した。
空気が震え、地面が抉れる。
クライスの視界が揺れる。
体は限界をとうに越えている。
「うああああ!!!」
咆哮。
拳を振り抜く。
最奥魔法――デビルズ。
衝撃波が炸裂し、ティードの巨体を後方へ弾き飛ばした。
「まだ魔力残ってるな。いいか!すべて出し切れ!遠慮するな!」
ティードは笑う。
狂気と歓喜が混じった笑み。
再び拳を構えた。
戦いを楽しんでいる。
猛攻が再開される。
クライスは剣で受け流す。
だが力の差は歴然だった。
一撃ごとに骨が軋む。
呼吸が途切れる。
「最奥魔法!デビルズ!」
ティードの拳に、禍々しい魔力が集中する。
全力。
逃げ場のない一撃。
「デビルズ!」
クライスも応じる。
互いの拳がぶつかった瞬間――
空が裂けた。
衝撃が雲を押しのけ、青空を割る。
「召喚術…ダイス…!」
亀裂の向こうから現れたのは、巨大な四角体。
意思を持つかのように静かに回転する。
「頼む…カイラを助けに行ってくれ…」
かすれた声。
ダイスは応じるように移動し、遠方へと消えた。
「息子はブラックボックスに目をつけられた、もう遅い」
ティードが低く言う。
「最善を尽くした。それだけだ」
クライスは短く答えた。
「最奥魔法ブレス!」
超高熱の炎が放たれる。
大気すら燃え上がるほどの出力。
だがその瞬間。
クライスの姿が消えた。
残された最後の魔力。
最高速度の転移。
ティードの背後へ。
「さらばだ、兄さん」
振り抜かれた刃。
迷いのない軌道。
腹部を深く切り裂いた。
ティードの体が揺れる。
膝が崩れる。
地面に倒れ込んだ。
「参った…急所を狙ったか…こんな簡単な剣技で…おれがやられるなんて」
腹部から血が溢れ出す。
止まらない。
まるでこれまで奪ってきた命が、すべて流れ出していくかのようだった。
「おれはアルタイルの呪い…お前は世界を救った真の英雄…」
「一人ではここまでたどり着けなかった…私は無力だ」
クライスの声は静かだった。
「ふん…おれが死ぬと、どこかでジョーカースの兄貴もほくそ笑んでることだろう」
咳き込み、血を吐く。
それでもティードは、かすかに笑った。
「クライス…昔、みんなで集まった秘密基地…そこの最奥に黒い宝箱がある…それを俺の遺体と共に焼いてくれ…頼む」
「…中身は」
「クロエの服やアクセサリー…私物だよ」
遠い記憶を見るような目だった。
かつて愛した女性。
クロエ。
「わかった…」
短い返答。
それで十分だった。
ティードの視線が空へ向く。
朝日が差し込む。
焼けた大地を柔らかく照らしていた。
「…」
静寂。
「….」
風が吹く。
崩壊した東京の上に、穏やかな光が広がる。
その光の中で。
ティードは静かに息を引き取った。
第44話 春の風
春の風が吹いていた。
瓦礫に覆われていた東京の街並みは、少しずつ元の姿を取り戻し始めている。
崩れたビルの隙間から、新しく張られた足場が空へ伸びていた。
重機の低い唸り。
作業員たちの声。
かつて戦場だった場所に、日常の音が戻ってきていた。
空は高く、澄んでいる。
あの日の雷雨が嘘だったかのように。
丘の上から街を見下ろしながら、クライスは静かに目を細めた。
包帯の巻かれた腕が、まだ痛む。
それでも立っている。
生きている。
隣にはカイラがいた。
腕を組み、退屈そうに街を眺めている。
「思ったより早く復興してる」
「ああ。人間は強い」
短いやり取り。
だが、その言葉には確かな実感がこもっていた。
かつて軽んじていた存在。
守るべき対象だと知った今、見える景色は違う。
遠くで子供たちが笑っている。
瓦礫の撤去が終わった広場で、ボールを蹴り合っていた。
ぎこちないながらも、確かに平和は戻ってきている。
第45話 葬儀
アルタイル王国山岳墓地は、薄い霧に包まれていた。
切り立つ岩肌の合間に、無数の墓標が整然と並んでいる。
静寂の中、風だけが低く唸っていた。
カノンや戦死した兵士たちの遺体は、王国のしきたりに従い、丁重に火葬へと送られる。
そこには遺体で見つかったハンドルの姿
エリーは泣き崩れた
「ハンドルぅ...なんでだよぉ...」
カイラはハンドルの棺桶をなでる
「...すまなかった...狙撃されていた...気づかなかった」
「クソ...!誰だ...!」
ギャバットは怒りをぶつけて地面を蹴る
黒い喪服に身を包んだクライスたちは、ゆっくりと歩を進めた。
棺が並ぶ。
どれも重い。
言葉では測れない重みだった。
火が灯される。
炎は静かに、しかし確実に命の名残を飲み込んでいく。
クリスの肩が震えていた。
両手で抱きしめているのは、一枚の写真。
カノンと二人で写ったものだった。
まだ戦いの影が差し込む前。
互いに笑っていた頃の記憶。
写真の端は、強く握りしめられたせいで僅かに歪んでいる。
涙が頬を伝い、止まらなかった。
誰も言葉をかけない。
かけられない。
ここにいる全員が、同じ痛みを抱えていた。
悠もまた、少し離れた場所で立っていた。
黒いコートのポケットに手を入れ、黙って炎を見つめている。
探偵という立場でありながら、いつの間にかこの戦いの当事者となっていた。
仲間の死は、彼にとっても無関係ではなかった。
火が強くなる。
骨の焼ける匂いが風に乗る。
誰かが小さく嗚咽を漏らした。
兵士たちの顔にも、疲労と悲しみが滲んでいる。
勝利の代償としては、あまりにも大きかった。
葬儀が終わり、人々が散り始めた頃だった。
一人の兵士が足早に近づいてくる。
敬礼。
そして、クライスの耳元へ口を寄せた。
小さく、短く、報告を伝える。
その瞬間。
クライスの表情が変わった。
険しい目つき。
顎に力が入る。
「なんかあったのか」
悠がポケットから煙草を取り出す。
ライターの火が揺れた。
紫煙が空へ昇る。
「ティードに洗脳されたエルフたちが人間を襲っている。埼玉だ」
短い報告。
だが、その内容は重い。
「オオカミ野郎が死んで呪いは解けたんじゃないのか!?」
煙を吐きながら、悠が眉をひそめる。
「そのはずだ。だが、新たにゲートが開いた。日本各地に、魔法が使えないエルフが雪崩れ込んでいる。目的は――人間を喰うことだ」
周囲の空気が張り詰める。
平穏は、まだ脆い。
悠は短く舌打ちした。
「黒幕は別にいるんだな」
誰も否定しない。
風が吹く。
先ほどまで燃えていた火葬炉の煙が、空へ伸びていく。
まるで、新たな戦いの狼煙のように。
クライスは踵を返した。
休む時間はない。
守るべきものが、まだ残っている。
悠も煙草を地面に落とし、靴底で火を消す。
灰が崩れた。
静かな墓地に、再び緊張が満ちていく。
戦いは終わっていなかった。
その後、クリスは消えるように騎士団を引退し、旅に出た
カノンを思うために




