EP5:本当の貴方はどっち?
荷物の整理を終わらせてリビングにいつの間にか降りてきた春琉くん。
低い声を出した春琉くんは、私に抱きつく碧くんを鋭い目で見下ろしていた。
初めてみる春琉くんの怖い顔に私が慌てふためいていると…春琉くんは大きなため息を吐いた。
「おいこら、離れろ碧」
春琉くんは碧くんの首根っこをガシッと掴むと私から引き剥がした。春琉くんはこうなった理由を知っているようだった。
引き剥がされた碧くんは、涙目のままジタバタと暴れ出す。
「わーーー!!ひどいよ春琉くーん!!」
「ひどくねぇーよ、何朝からベタベタしてんだ、澪はお前のかーちゃんじゃねぇぞ」
呆れたように言う春琉くんに、碧くんは慌ててブンブンと頭を振ると
「そんなんじゃないから!違うから!!違うからねぇ?澪ちゃん!!」
そう言って私を必死に見てくる碧くんに何が何だか分からないけど面白くてふふふっと笑っていると
「澪ちゃん、さっきは…急に変なことしてごめんね?」
ションボリ謝る姿はすっかりいつもの碧くんに戻っていた。
私はさっきまであんなに切なそうにしてた碧くんを思い出しながら元気になってよかった…と思いつつ
【大丈夫だよ、気にしないで】
と優しく笑ってホワイトボードを見せた。
すると碧くんは安心したように顔を輝かせ
「あ〜、もう本当に澪ちゃんだいすきーっ!」
今度は冗談っぽく両手を広げて再び私に抱きつこうとしてきた。
そんな碧くんを横で見てた春琉くんは
「てめぇ、離れろってゆってんだろーが!!」
と、怒り出しドカッと碧くんを蹴って退かすと二人は仲良く言い合いをしだした。
「痛いじゃんかよ!!!」
「うるせぇ…お前が悪い」
そんな二人に声には出ないけどまぁまぁと手振りをしながら笑った。
すると、碧くんを睨みつけていた春琉くんが、笑っている私に視線を移すと
サラサラな綺麗な黒髪の隙間からジトっとした視線を向けると、少し怒ったような違うような…そんな目で
「……人が荷解き手伝ってやってる間に他の男と抱きつきやがって……」
と言ってきた。
ふえっ…?!?
そんな言葉に私の胸はドキッと音を立てる。
あたふたする私を見ると意地悪そうに少し笑うと視線をズラして
「さっ、そろそろ飯にするかー…」
と、立ち去ってしまってその言葉の意味を聞くことはできなかった。
その日の晩御飯は、響也くん以外のメンバーが揃っていた。
逆に律くんは本当に夕方以降になると部屋から出てくるみたいで私の目の前で美味しそうにご飯を食べてくれている。
「おかわりある……?」
私にそう言って綺麗に間食したおかずのお皿をそっと差し出してくる。
【ありますよ! お変わり持ってきますね】
おかわりしてくれる律くんに嬉しくなってホワイトボードにそう書くと私はおかわりをよそうと席に戻り、律くんに渡した。
すると、律くんは涙黒子のある目で私を見つめると小さく微笑んだ。
「……澪、今日は…あの…朝ごはんありがとう…すごく美味しかった」
【本当ですか?凄く嬉しいです。 明日からも楽しみにしててね?】
私が満面の笑みでホワイトボードを見せると、律くんは少し照れくさそうにした。
だけど、嬉そうに頷いてくれた。
なんとなく律くんと少し距離が縮まったような気がして嬉しくなった。
そして、ふと気になったのがポツンと空いてる響也くんの席。
まだ帰ってこないのかな…??
気になった私は
【響也くんは帰ってこないんですか?】
ホワイトボードにそう書いてみんなに見せると、ご飯を口に運んでいた碧くんが
「あー…響也は基本、夜は帰ってこないよ〜。夜ご飯も外で食べてくるんじゃないかな〜?」
とそう言った。続いて春琉くんも
「あいつは夜中に帰ってくると大体いつも機嫌悪いから、あんま近寄んなよ」
そう言われたけど、なんだか私はいつも明るくて優しい響也くんの笑顔が頭に浮かんでどうしても気になってしまった。
そして、みんなが部屋に戻り静かになったリビングで私は一人でキッチンの片付けをしながら、響也くんの夜ご飯にラップをかけた。
後片付けが終わってもまだ帰ってこない響也くんが心配になりダイニングテーブルに座り私の目の前にポツンと置かれてる夜ご飯を頬杖を着きながら見つめた。
やっぱり…こんな遅いなんて心配だよね…。なんかあったのかな…?
やっぱり私は待ちたい…!
そう決めて数時間静かなリビングで眠い目を擦りながらひたすら待った…。
そして時計の針が深夜の1時を回った頃。
───ガチャンッ
静かな寮の玄関から、鍵の開く音がした。
……帰ってきた!
私は眠気が飛んでいきパッと顔を輝かせ、椅子から立ち上がって今か今かと待った。
すると…
「……は?」
リビングの扉を開けて入ってきた響也くんは、私を見るなりひどく不機嫌そうに眉を寄せた。
いつもは明るい茶髪を揺らしてニコニコと笑う響也くんとは別人で…イライラとしていて私を見る目も冷たかった…。
それどころか、彼の体からは女の子の甘い香水の匂いがふわりと漂ってくる。
そして響也くんは、疲れ切っていて何かにひどく苛立っているような暗い瞳で私をジッと見下ろすと
「……お前、なんでまだ起きてんの」
酷く冷たい目で私を威圧するように低い声で私に言い放った。
その瞬間いつも明るく優しい「澪ちゃん!」とニコニコ近寄ってくる響也くんを思い出した。
あまりにも目の前にいる響也くんとは違くて私の胸はそんな響也くんに胸がぎゅ…っとなった。
響也くんはテーブルの上に用意された夜ご飯に一瞬だけ目を向けて…その冷たい声でこう言い放った。
「夜ご飯なんかいらねぇから……目障り。もう二度と待たなくていいから、さっさと部屋戻って寝とけ」
そう冷たく言い放つと、響也くんは私を置き去りにして、階段を上っていってしまった。
太陽みたいに明るく楽しい響也くんしか知らない私は冷たい目と冷たい言葉にショックでホワイトボードには何もかけなかった。
そして、女の子の香水だけが残った静かなリビングで一人立ち尽くすことしか私にはできなかった。




