EP4:温かい君と碧くんの涙。
私は手首を掴まれたままズンズンと歩く春琉くんと買い物に向かう。
は…はやい!!足がもつれそう…!!
身長が高い春琉くんの一歩は小さい私と比べ物にならなくて私の息があがる。
それに途中で気づいた春琉くんがチラリと私を見ると息を切らす私を見て目を見開くと
「わりぃ…つい癖で」
と申し訳なさそうに謝る。私は慌てて
【大丈夫です!】
と息を切らせながらホワイトボードを見せて笑う。
すると目を逸らした春琉くんは、次はゆっくりと歩いてくれた。
そして足りない食材や洗剤類をカゴに入れると、ショッピングモールの衣料品コーナーに連れていかれると、とある洋服屋さんに入った。
「好きなの選べ」
そう素っ気なく言う春琉くんに戸惑ってホワイトボードを胸に抱えながらオロオロしていると
春琉くんは次々と洋服やエプロンを選んでカゴに放り込んでいった。
そ、そんなにいらないよ!!
ってぐらいの量を買い込むと満足したように私の手を引き店を出た。
【そんなによかったんですか?申し訳ないです】
オロオロしながらホワイトボードを見せると
「気にすんな、前払いだから。タクシー拾って荷物取り行くぞ」
そう言うと私をタクシーに颯爽と乗せた。
申し訳ないな…という気持ちを胸に久しぶりに住んでいたアパートについた。
家賃が払えなくなって追い出されたアパートの前には、段ボールがポツリと3つだけ外に置かれていた…。
それを見て居場所が完全になくなったような気持ちになって胸がぎゅっと痛くなった…。
立ち尽くしている私に春琉くんは何も聞かなくて
「これだけか?タクシーに運ぶからな」
そう言ってその少ない私の荷物をタクシーに運んでくれた。
そしてタクシーの中で優しく頭をポンッとされた。何も聞かない優しさとその手の温かさに私は涙が出そうになるのを堪えた。
そして寮に着くと春琉くんが買ってくれたエプロンを着けると
「似合ってんじゃん…。お前の家はもうここだから」
と春琉くんは私から目を逸らしたまま私の部屋で荷解きを手伝ってくれた。
そう言ってくれる春琉くんに胸の中がぎゅっとなると温かくなった。
【ありがとうございます。みんなの為にがんばります】
ホワイトボードを春琉くんに見せて涙をこらえて笑った。
春琉くんは少しだけ耳が赤かった。
荷物を整理しているととても懐かしいテディベアのキーホルダーが出てきた。
わぁ…懐かしい…。きょーくん元気かな。
とそのキーホルダーを大事に持っていると
「それボロボロだな、捨てねぇの?」
私の手元のキーホルダーを見て春琉くんが言う。私はペンを持つと
【これは昔両親が離婚する前に住んでた場所で、毎日一緒に遊んでた近所のきょーくんがくれたんですよ。急に離婚が決まって、私きょーくんにお別れを言えないまま別れたんですけど、これはそのきょーくんとの大切な思い出なんです】
ホワイトボードでそう書くと私はそのキーホルダーを部屋の中に大事に飾った。
春琉くんはホワイトボードの文字を読んだあと、目を見開くとすぐにフイッと視線を逸らし
「…ふーん…男との大切な思い出ねぇ…」
と言った。微妙な顔をしている春琉くんに顔を傾けると
「別になんでもねぇよ…片付けするぞ」
と言って春琉くんは片付けを再開した。
視線を窓に向けると、窓の空がオレンジ色に染まっていることに気づき私は慌てて立ち上がると
【洗濯物とりこんできます】
とホワイトボードを春琉くんに見せて部屋を出ると急いで階段を駆け下りた。
大量にあった洗濯物を取り込んでリビングのソファに広げるとお日様の匂いと洗剤の匂いで部屋の中が温かく心地のいい匂いに包まれた。
そして私は丁寧にみんなの洗濯物を畳んでいると
─────ガチャンッ
「ただいまぁ」
玄関で碧くんの帰ってきた声が聞こえた。
そしてリビングに入ってきた碧くんは、洗濯物を一生懸命に畳む私と、部屋中に広がる洗濯物の匂いにピタリと足を止めた……。
「…え………」
そう言って目を丸くして、固まる碧くん。
そして、碧くんのその綺麗な瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていった。
今にも泣き出してしまいそうな碧くんに私は畳んでた服をその場に置くと、慌ててホワイトボードに文字を書き、碧くんに駆け寄る。
【碧くん、どうかしましたか?どこか痛みますか?具合が悪いですか?】
心配そうに見つめる私に碧くんはその綺麗な瞳から涙をこぼすと…震える声で
「……少しだけ…こうさせて…」
………え?
そう言うと私の体を碧くんが、ぎゅっと抱きしめた。突然の事で私の心臓がドキッと音を立てたが、碧くんは小さく震えている。
そして
「…なんか……洗濯物の匂いとか…洗濯物を畳む澪ちゃんとか………すごく…いいね……すごく…温かいや……」
声の出ない私には、これ以上どうしたのか聞くことはできなくて…
そう言って涙をこぼし少しだけ震える碧くんがとても切なくて、私は優しく背中をポンポンっと撫でてあげることしか出来なかった。
そして、そんな私たちに低い声が響いた
「……おい」
その声に振り向くと荷物の整理が終わった春琉くんだった。




