EP26:夕暮れの図書館。
あの後、泣き止んだ私の手を引くと立ち上がらせたきょーくんは
「澪、俺ちょっと春琉んとこ行ってくる、一人で帰れるか?」
そう言って心配そうに私の顔を見る。
「ありがとう大丈夫だよ、春琉くんの所行くの…?」
「澪の話聞いていろいろ気になることあんだよな〜、まっ、澪はあんま気にすんなよ?俺に任せとけ」
夕暮れの誰もいない教室で、きょーくんはいつも通りの明るい笑顔で明るい茶髪を揺らして笑う。
そして、私の頭をガシガシっと撫でた後、真面目な顔をして教室を出て行った。
「私も…帰ろう」
カバンを手に持つと、私は一人静まり返った放課後の廊下を歩く。
階段を降りて図書館の前を通りかかった時、見覚えのある姿。
あれ…律くん…なにしてるんだろ?
開け放たれた図書館の扉の向こうで、机に一人突っ伏している癖のある黒髪と背中が見えた。
体調悪いのかな…?人酔いかな?
心配になり静かな図書館に私も足を踏み入れた。誰もいなくてシーンとしていた。
律くんの席に近寄ると、私の足音に気がついたのかゆっくりと顔を持ち上げる律くん。
癖のある黒髪の隙間から除く、涙黒子のある大人っぽさが漂う綺麗な目と目が合う。
すると、いつも通りのゆったりとした雰囲気で私に近づいてくると屈むと、気怠げに私の肩に顔を乗っけてくる。
「…律くん?体調悪い…?」
「…んー…俺の事心配してくれてるの…?」
私の耳元で気怠げな律くんの擦れた低い声が響く。
「帰ろうと思ったら…律くん見えて…体調悪いのかなって…大丈夫……?」
「んー…人混みがちょっと気分悪くて…やっぱ学校は苦手……ここで休憩してた。
でも、やっぱ澪は癒されるね…」
そう言って私の体に腕を回すと体重を預けてくる律くん。
「律くん…大丈夫…?帰れそう…?」
「…んー…そうだね…」
そう言ってゆっくりと顔を上げた律くんは
「ところで…その目は、どうしたの?」
「えっ……」
忘れてた…さっきまで泣いてたの…。
「…春琉?響也?…それとも碧?」
淡々とみんなの名前を並べて問い詰めてくる律くんの瞳が少し揺れる。
まぁ…そうだよね。
人の気持ちに敏感で基本的には律くんは何も言わずに黙ってるけど…気づいてるに決まってる…よね。
私の赤くなってる目を律くんの親指が優しく撫でる。
そして、私を見る目は何もかも見透かしてるような目をしている。
「ねぇ…なにかあったんだよね?」
「…うん…」
「…まぁ…なんとなくわかるけど」
律くんの指が離れる。
「…えへへ……ちょっと…ね…」
「ふーん…春琉が泣かせたの?
…澪を泣かせるのは嬉しくないなぁ」
「は、春琉くんが悪いわけじゃなくて…私が…勝手にへこんで…泣いちゃっただけなの…だから別に…春琉くんは関係ないよ」
「…そう」
その言葉を聞いて微妙な顔をする律くん。
そして、ため息をつくと
「…はぁ…別に澪が春琉を好きでもいいよ。
俺は澪の隣にいれたら別にそれでいい…。
でも苦しそうにしてるのはよくない…それだったら俺が澪をこうやって閉じ込めちゃうよ
苦しめる春琉から引き離すよ?」
そう言って私を腕の中に閉じ込める律くん。
「…ごめんね…元気になれるように…する」
「……春琉とちゃんと話しておいでよ
俺は澪のこと大好きだけど、別にこうやってずっと一緒にいれるんだったら形とかはどうだっていいと思ってるから」
「…そうだね…話せると…いいけど…」
そう言って私から離れる律くんは私の目を見つめる。
そしてその大人っぽい顔で怪しげに笑うと
「春琉とくっつこーがそうじゃなかろーが、澪は一生俺の隣からは離れれないよ?
ただ俺はそんな澪は見たくない…早く元気になってくれないと俺が困る。
だから早く解決してきてね…わかった?」
そう言っておでこにキスを落とすと私から離れていく相変わらず不思議でマイペースな律くん。
一番好かれちゃいけない人な気がした…。
「あの…私は春琉くんが好きなんだよ…?」
「うん、わかってるよ
澪と一緒にいたら気分良くなってきたからそろそろ寮帰ろうよ、お腹空いたなぁ」
えぇぇ…本当にわかってる…?
「…う、うん…」
「今日の晩御飯は何にするの?早く澪のご飯食べたいなぁ」
そう言ってニコニコと笑う律くんは、私が隣にいるだけで本当にいつも通りに戻ってしまった。




