EP22:リビングは大騒動。
洗濯物を取り込みたたんでいると玄関が急に騒がしくなる。
みんな帰ってきたんだなと思いつつ洗濯物を一つ一つ丁寧にたたみ続けていると
────ガチャン
「ただいまぁ〜!!!」
「ただいま…ちょ…お袋、引っ張ってんじゃねぇーよ!」
「澪ただいま」
「澪ちゃんっ!ただいまぁ〜!!」
綺麗な聞き覚えのある女性の声と三人の騒がしいみんなの声が響いてきた。
私はその声にパタパタと駆け寄ると
春琉くん、碧くん、きょーくん、そして相変わらず綺麗で明るい笑顔を輝かせた理事長先生だった。
「みんなおかえりっ!理事長先生…おひさしぶりですっ…前は寝てしまってごめんなさい」
「澪ちゃんお邪魔するわねっ!いいのよいいのよ〜っ!!すっかり元気そうね?」
そう言って笑う理事長先生はとても嬉しそうだ。リビングに入りながら話を続ける。
「…はいっ。みんなのお陰でとても元気です」
「春琉の退院もだけど、何より澪ちゃんが声が戻ったって聞いて嬉しくて飛んできちゃったのよ〜っ!!」
「息子より澪かよ、お袋も澪にはあめぇな」
「春琉っ!あんたを助けてくれたのも澪ちゃんなのよっ!感謝してもしきれないわよ?!」
なんだか理事長先生と春琉くんが言い合ってるのを見ると親子だなぁとクスクスと笑う私。
みんなの分のお茶を用意して席に座ると理事長先生は優しく微笑んで私を見る。
「春琉から聞いたわ、貴方がやっと全日制に戻りたいって、すごく嬉しいわ。
感慨深いわね…あんなに苦しくてボロボロになって声を失ってしまった貴方が…こうやってこの子達に囲まれてここまで元気になってくれて…私は凄く嬉しいわ…
それに…春琉の事もありがとうね?澪ちゃんには感謝してもしきれないわ」
そう言って涙を流しながら喜ぶ理事長先生に、私ももらい泣きしてしまう。
理事長先生と春琉くんはやっぱり親子だ。
二人とも優しくて温かいところがそっくり。
「私こそ…ここに来れて良かったです…。私からしたら…みんなが優しくしてくれて…いつもそばにいてくれて…寂しいとか苦しいとか思う暇なんてない毎日でした…。
こんな素敵な場所を用意してくれた理事長先生に感謝してます」
お母さんが亡くなってから心に蓋をして思い出す事をやめてた。思い出しても絶望と苦しさで辛くなって死にたくなるから…。
だけど今頭の中に流れるお母さんとの最期…。お金がなくて苦しかった日々…。
それを胸の中で静かに少しづつ受け入れていく感覚。
前までだったら苦しくて辛くてこんな風に思い出して受け入れることは無理だった。
だけど、不思議と苦しい思い出たちが胸の中に広がっては…嘘のように、幸せな毎日とみんなのあたたかい優しさと笑顔の記憶に包まれてもう大丈夫だと言っている。
やっと頭の中に大好きだったお母さんを思い出すことができた。私は今お母さんの死を受け入れることができたのだと思う。
お母さん…私、今ね、とても幸せだよ。
涙と嗚咽が止まらなくなった。
「……みっ、みんなのお陰…っなんですっ…優しくて温かくて…私を受け入れてっ、いつもずっと傍に…っ…いてくれて…ありがとう…っ」
嗚咽の止まらない声で、一生懸命にそう伝えると春琉くんはぶっきらぼうに視線を逸らす。
きょーくんは優しく目を細め、碧くんは嬉しそうに私の手をぎゅっと握った。
「やっと…泣いてる姿を見たわ…安心した。
今まで苦しかった分幸せになるのよ?」
そう言って理事長先生は笑った。
その後落ち着いてきた私に学校の話をする理事長先生。
「手続きは全部私に任せなさい。春琉たちと同じクラスに編入できるように、特急で段取りするから安心していいわよ?」
「えっ、まぢ?春琉のかーちゃん流石っす!」
きょーくんが大喜びする。
「はぁー…ずるい。学校で会えるだけ嬉しいけど…僕だけ一年生なの最悪なんだけど…」
そう言って落ち込むのは碧くん。
そんな碧くんに
「クラスに遊びに来てね」
とにこやかに私が笑っていると
階段から足音が聞こえてきた。
癖のある髪の毛を揺らしながら、律くんがあらわれた。
「あらぁ〜!律もひさしぶりね〜?この時間に降りてくるなんて珍しいわね」
そんな喜びの声を無視した律くんは理事長先生の元へただまっすぐ歩いて近寄ると
「理事長先生…俺も明日から全日制行くから。澪と同じクラスにして」
「「「はぁー?!?!?!」」」
リビングにいたみんなが目を丸くして律くんを見る。
「「「「…………はあああああ!?!?!?!?」」」」
「律お前…本当に大丈夫なのかよ…人苦手なんだろ?」
そう言って心配するのは春琉くん。だけど、そんなことお構い無しの律くんは
「だって、澪が全日制行くのに俺だけ行かないなんてありえないでしょ?理事長先生、俺、澪と同じクラス隣の席にして。俺澪とずっと一緒って約束あるし」
堂々と相変わらずマイペースな律くんにみんなポカンとする。
「ちょっ!律…あんたそんな理由で!……でもちょっとそんな理由でも外に出ない貴方が学校にちゃんと行くなんて…嬉しくて涙出てきたわっ…」
「は?勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
「おいおい!俺だって澪の隣の席がいいに決まってんじゃん!!!」
「ずるいみんな!! 僕なんて学年も違うのにっ!!!」
リビングが大騒動だ。
「えー……だって、ねぇ澪は俺の隣がいいよね?」
その律くんの言葉に男三人が更にギャーギャー揉める中…テーブルの下では、律くんが私の手をしれっと握りしめて、ぎゅっとする。
私が慌てふためき律くんを見ると、首を傾けて知らんぷりでにこっと私に笑いかけるのだった。
みんなにバレたらまた大変なことになる…と涙目で睨むが律くんはご機嫌そうにしているだけだった。




