EP20:キミの声が聞こえた。
────澪side
奇跡的に声が出た私の目の前では、焦る春琉くんの顔と、そしてけたたましい車の激突音が街の中に響き渡った。
そして、弾き飛ばされた春琉くんの体が中に浮いて道路の脇に飛ばされた。
街の中は騒然としていて…
色んな人の叫び声が響いていた。
「きゃあっ!!人がひかれたわっ!!」
「はやく!!救急車!!!!」
「いそげっ!!」
私は、目の前の光景に絶望した。
春琉くん…私の声は…届いた…?
喧嘩なんてしなかったら…もっと早く追いかけてたら…。
たくさんの後悔と絶望が頭の中をぐるぐると支配して、胸が信じられないほど痛くて苦しい…。
震える足に力を入ると…春琉くんが弾き飛んだ方に涙を堪えながらふらふらしながら必死に走った。
人だかりを掻き分けてその中心にいる春琉くんに駆け寄ると…
春琉くんは頭から血を流してぐったりしていた。
私の目は大きく目が見開き…春琉くんに駆け寄る。
「…うあっ……は…はる…くんっ…!!」
春琉くんの横で震えながら大粒の涙を流し春琉くんの手を握る。
すると…うっすら目を開けた春琉くんと目が合う。
「…っいてぇ……」
「…は…る…くんっ…!!」
目を開いた春琉くんにさらに涙が溢れる。
「…声……きこえ…た……」
そう言って春琉くんは痛そうに目を閉じた。
「うあっ……うう…」
その後、救急隊員に体を固定された春琉くんは救急車に運ばれる。私も一緒に同行を頼まれ病院に向かった。
そして…処置をされている間、待合室で春琉くんを待ち続けた。
その時間はとてもとても長く感じた…。
そして、やっと案内された病室のその扉を開く…。
───ガラガラッ
すると、私の目の前には頭に白い包帯を巻いて右腕を固定されている痛々しい春琉くんがベッドの上で上体を起こしてる姿だった。
春琉くんはあの時、私の声が届いたみたいで急いで避けたようだ。
だけどものすごい勢いの車に掠ってしまい掠っただけでも車の勢いはすごくてそのまま道路に投げ出され頭を軽く打ち腕は骨折してしまったらしい。
私は駆け寄ると…春琉くんのベッドのシーツに思い切り顔を埋めて子供のように泣いた。
「…う…わぁ……ううっ……ひっく…」
あの時、声が出なかったらと思うと怖くて涙が溢れて止まらなかった。
生きててくれて…本当に良かった…。
こんなに嬉しいことはないんじゃないかってぐらいほっとした瞬間だった。
「…泣きすぎ」
そう言って怪我をしてない左手で私の頭を撫でる春琉くん。
「…だ…だって……もう……もう…ううっ…」
まだ私の声は、まだか細くて小さく、まだ少し出しにくいけど、その声に春琉くんは一生懸命耳を傾けてくれる。
「勝手に殺すな、お前の声が聞こえた…。ま、ちょっと掠っちまって弾き飛ばされたけどなー、まぢでいてぇ…ははっ」
そう言って笑うと優しい瞳で私を見る春琉くん。
「……ご…めん…ねっ…?…ひくっ…」
「…俺が悪かったからまぢでごめん…まぢですげぇ後悔してた。ちゃんと謝れてよかった…」
そう言って怪我をしていない左手で私の涙を掬う春琉くん。
「…ほん…と…に、よかった…」
私が泣き笑う顔を見た春琉くんはポツリと呟く。
「お前…本当に声出せるようになったんだな」
私はまだ涙の止まらない笑顔でコクコクとたくさん頷く。
「春琉く、んが…、危ないって思ったら…どうしても…助け、たくて…」
そうやってまだ鈴がなる様な小さな声で必死に話す私に春琉くんは愛しいものを見るようなすごく優しい瞳で私を見る。
そして、怪我をしていない方の手で私の頭を春琉くんの胸にグイッと引き寄せる。
そしてとても優しい声で
「…ありがと…あんなにひでぇこと言って…まぢでごめん。お前が泣かされてんのも響也に先に守られてたのも…悔しかっただけだ…まぢでごめん。
だから次からは…俺から離れんなっ。ぜってぇ俺が守るから…本当にごめんな?」
私は頭を必死にフルフルと降って、春琉くんは悪くないと伝える。
春琉くんは、やっぱり世界一優しいっ!
そして…本当に本当に助かってよかった…。
そう思うと涙がまた溢れてきて抱きしめられてる春琉くんの胸にぎゅっとしがみつく。
「はぁ…だから泣きすぎっつってんだろ…バカ」
そう言って呆れながらも、私を強く強く抱き締めてくれる春琉くんは私がここにいるのを確かめているようだった。
そして
「お前がこんだけ泣くのに死ぬわけねーだろ。……心配かけて本当ごめんな」
そう言って私たちはこの奇跡に感謝してお互いの存在をしっかりと確かめるように抱きしめあった。
その後、病院からみんなに連絡がいって最初に駆け付けたのはきょーくんだった。
─────ガラガラッ
「…春琉!!!!生きてっか!!!」
そう言って慌ててものすごい勢いで息を乱しながら入ってきたのはきょーくんだった。
「生きてるに決まってんだろ」
そう言いながら私を胸に閉じ込めている春琉くんに
「おまえ…病院でいちゃついてんじゃねぇよ!怪我人は怪我人らしく大人しくしてろっての!」
そう言って怒るきょーくんは怒りながらも嬉しそうだった。
「…きょーく、ん…さっきは、勝手に、いなくなって…ご、めんね?」
すると私の声にビックリしたきょーくんは目を見開く。
「…は?澪…お前…声…」
すると、まさかのきょーくんは目を潤ませながら私に近づいてくる。
私はそんなきょーくんにふんわりと微笑むときょーくんは私を強く抱き締めた。
「まぢで…まぢで…よかったなっ」
私の昔を知るきょーくんはとても感動しているようで、いつもなら怒る春琉くんもそれを静かに見守っていた。
そして、春琉くんは静かに口を開くと
「響也…買い出しの時は…澪を助けてくれてありがとな」
そう言ってちょっと照れくさそうな春琉くんに
「当たり前だからお礼とか言ってんじゃねーよ」
そう言って満面の笑みで春琉くんにきょーくんは笑った。
二人の友情ってすごくすごく…いいよね。
そして、そんな二人を見ていたその時だった。
────ガラガラッ…!
「春琉くんっ!!澪ちゃんっ!!」
「ハァ…ハァ…澪っ…春琉っ」
病室の扉をものすごい勢いで開けたのは、碧くんと律くんだった。
二人とも相当焦ってきたのか息を乱している。
そしてなにより、部屋から出るのも嫌がる律くんがここまで来ているのがビックリだ。
「…おいお前らここ病院。静かにしろ」
春琉くんは呆れたように二人を見るけどそんな事をお構い無しの二人は興奮したように話し続ける。
「うわぁぁあ〜!!春琉くん生きててよかったよぉおおぉ!!!」
そう言って碧くんは春琉くんに抱き着く。それを嫌そうな顔をして引き剥がす。
「ハァ…ハァ…春琉…無事でよかったっ…澪もケガはない?」
律くんはすごく焦ってきたのか息切れをしている。
春琉くんは素っ気ない態度をとるけど、顔はやっぱり嬉しそうだ。
そして私はそんなみんなを見ると嬉しくて笑がこぼれる。
「ふふ…ふっ…二人とも春琉くん、のこと、大好きなん、だね?ふふっ」
私はそんな二人の姿に静かに笑うと二人がものすごい勢いで私を見る。
碧くんは大きな目をさらに大きくして
「え…澪ちゃん…声…!!!え?!」
「…澪っ……」
あのマイペースな律くんも見たことないほど目を見開いていた。
私はそんな二人にふわりと微笑む。
「碧く、ん、律くん、心配して、くれて、ありが、とう」
すると、興奮した碧くんは私に思いっきり抱きついてきた。
「澪ちゃんっ!!僕の名前呼んでくれたぁぁぁああっ!!もっかいもっかい呼んでっ!!可愛いよぉおおお」
すると、そんな碧くんをポイッと退かして私の目の前まで来た律くん。
そして優しく私を抱きしめると
「ほんとにほんとに、よかったね」
こうやって私の声のことを喜んでくれる人がこんなにも沢山いることが嬉しかった。
「ちょっ!!律くん!僕が今抱きしめてたんだけどっ!!」
と碧くんが不貞腐れていると
「え?でもほら澪は、俺とずっと一緒だししょーがなくない?」
相変わらずマイペースな律くん。
「はぁ…むかつくけど、今日は澪が声が出た日だ…しゃーねぇな」
「だな…俺も流石に感動してやばかったしなー」
そう言って春琉くんもきょーくんも優しい目でみんなを見ていた。
私はこんな騒がしい四人の光景に心からの幸せを感じて涙目のまま優しく微笑んだのだった。




