EP16:碧くんの気持ちと律くんとレポート。
次の日朝起きるとすっかり足もよくなった。
みんなのおかげだって思うと起きた瞬間から私は笑顔がこぼれる。
私は元気に階段を駆け下りると、みんなの朝ごはんとお弁当の準備に取り掛かる。
すると、碧くんが今日は一番乗りだ。
「澪ちゃんおはよぉ〜っ!!」
可愛い笑顔に癒されながら文字を書く。
【おはようございます。今日は早いですね】
ホワイトボードを見せると碧くんはホワイトボードの文字に目を通して
イタズラ顔でニッコリ笑う。
ん?と私も微笑みながら顔を傾けると…
私の手をグイッと引っ張る。
わっ!あ、碧くん?!
と思ったが私はそのまま碧くんの意外と広い胸の中に飛び込んでいった。
碧くんのいい匂いが私を包んだ。
いきなりでビックリして目をぱちくりしていると
ぎゅっと私を更に抱きしめる。
私の耳元に碧くんが唇を寄せると
「みんなが起きてくると…うるさいから…今だけ独り占め」
私の顔はみるみる赤くなっていくとそんな私を見た碧くんが更に強く抱きしめる。
「…はぁ〜ほんっと可愛いっ!大好きっ!…春琉くんが前に澪ちゃんは母ちゃんじゃないぞとか言ってたけど…僕澪ちゃんのこと女の子としてみてるよっ」
どういうこと…?母ちゃん…女の子…?!
私はこの状況に恥ずかしくて頭の中はパニックでよくわからなかった。
暫くすると碧くんは満足したのか私を離すと
「みんなが起きてきちゃうから…秘密ね」
そう言っていつも通りニッコリ笑ってダイニングテーブルの自分の席に戻ってしまった。
なんだったんだろう…と思いながら私は少し赤くなった頬を冷ましながら朝ごはん作りの続きを再開した。
暫くすると響也くんと春琉くんも起きてきて挨拶を交わすとみんなで朝ごはんを食べた。
今日もいつも通りみんなを笑って見送った。
───────────────……
碧side
可愛い澪ちゃんのお見送りを貰って今は春琉くんと響也くんと登校中だ。
風邪を引いたあの日からずっと一緒にいてくれた温かい優しさを持つ澪ちゃんを見るとドキドキして可愛いくてたまんない…。
その前から澪ちゃんのおかえりと優しく笑う顔。いつだって温かく僕たちを迎え入れてくれる…そして、愛情いっぱいのお弁当にご飯を用意してくれるところ、みんなの洗濯物を一生懸命畳む温かくて優しい澪ちゃんの姿が大好きだ…。
みんなにとっては当たり前かもしれない事だけど僕にはそれがとても温かくて嬉しかったんだ…。前に泣いちゃったのは…少し恥ずかしいけど…。
いつもみんながいて邪魔ばっかされるから僕は今日は早起きして大好きな澪ちゃんを独り占めすることに成功した。
そんな事を考えていると隣から響也くんが
「なーに、ニヤニヤしてんだ?」
と僕の顔をチラリと見てきた。
「ねぇ、春琉くんと響也くんって澪ちゃんのこと好きなのー?」
と僕は二人にニコニコしながら話しかける。
「…なんだよ急に」
春琉くんは前を向いたまま答えをくれない。
響也くんも
「さぁーな」
と笑って何も答えてくれなかった。
だから僕は二人に
「僕、澪ちゃんのこと好きになっちゃった」
そう伝えると二人は面白いくらい目を見開いて僕を見てきた。
春琉くんもきっと響也くんもそして…あの律くんもみんな澪ちゃんに惹かれ始めてる。
でも僕だってこの気持ちは誰にも負けるつもりはないし譲りたくない。
あの優しくて温かい澪ちゃんを、今度は僕のこの腕で一生守れる男になってみせる。
だから覚悟しててね、みんな。
────────────────……
澪side
元気よくみんなを見送った後、私は律くんに朝食をいつも通り届けて午前中の家事を終わらせていた。
そして、あの日から毎日続く律くんとの二人きりのお昼。
今日はクリームパスタにした。
お昼になると律くんは降りてきてお皿の準備や飲み物を出したりしてくれる。
意外とマメで、片付けだっていつも一緒にしてから部屋に戻って行く。
そんな律くんに
【ありがとう】
私はニッコリ笑ってホワイトボードを見せると
「こちらこそありがとう」
そう言って優しく微笑む律くん。
二人で仲良くいただきますをすると律くんに聞かれる。
「そう言えば…澪は今月のレポート終わった?」
レポート………
やばいっ…この家に来ていろいろあって忘れてたっ…
口に運ぼうとしていたパスタがお皿に落ちていく…。
そして涙目になる私は
【どうしよう律くん…レポート忘れてた】
すると、目の前の律くんは涙黒子のある大人っぽい顔で少しびっくりしたような顔した後クスクス笑ってた。
「澪も忘れることあるんだね。いいよ…俺が手伝ってあげる」
そう言って律くんはクリームパスタを綺麗に食べる。
【ありがとう…ごめんね?】
私は申し訳なくて文字を書くと
「いいよ…別に。俺澪といる時間は…嫌じゃないから」
そう言って笑ってくれる律くんに私も嬉しくなって笑う。
「じゃあご飯食べたらレポートしよっか。提出もうすぐだし…急いだ方がいいね」
【おねがいします】
私はホワイトボードを見せて頭を下げると律くんはいいよって笑ってくれる。
そのあと二人でたわいも無い話をホワイトボードで話ながらご飯を食べた。
そして私と律くんは一旦部屋に戻るとレポート用紙を取ってからリビングに集合した。
そして静かなリビングで二人のペンを動かす音だけが響いていた。
レポート用紙とにらめっこしていると途中でペンが止まる私…。
するといつの間にか見られてたのか横から律くんが
「澪、そこ間違ってるよ」
と言われる。私はあまり勉強が得意じゃない。
【どこですか?…勉強苦手で…】
とションボリと落ち込む私に
すっと白くて綺麗な手が伸びてきてレポートの間違えた場所を律くんが指差す。
「ここはね─────こうやって────こうやったら──────で、こうなるんだよ」
真剣に聞いていた私は思いの外律くんの近くまで寄っていたみたいで…
優しく私に振り向いた律くんの顔が意外にも近い距離にあって、律くんの少し癖のある黒髪が私の頬に掠れそうになって…少しだけ私が慌てる。
律くんは少し照れると目線を少し外して
「ね?できたでしょ?」
そう言って自慢げに優しく笑った。
私は慌ててコクコクと何度も首を振って頷くと、ホワイトボードに文字を滑らせる。
【律くんすごいです! わかりやすくてびっくりしました】
「……別に普通だよ。澪は意外に…苦手なんだね?」
少し照れくさそうにしたあと、私のレポート用紙を見てくすっと笑う律くん。
なんだか…苦手なのバレて恥ずかしいな…と思いながら続きのレポートを進める。
それからしばらく、二人で静かにペンを動かしていると律くんは全て終わったようだ。
「はぁ……疲れた。ちょっと休憩」
律くんはそう言うとペンを置き、ソファの背もたれに体を預けて疲れた腕を天井に向かって伸ばした。
私は立ち上がるとパタパタとキッチンに走り律くんにお茶を注いでテーブルに置いた。
【おつかれさまです。ありがとう】
私はもうひと頑張り…!!とペンを持とうとすると
「……俺さ」
私が注いだお茶を見つめて律くんがぽつりと静かに喋り出した。
「…人の気持ちとか考えてることがなんとなく分かっちゃうんだよね。…だから学校とか人がたくさんいる場所ってすごく疲れるし苦手…」
初めて聞く律くんの本音だった。
私は初めて聞く本音に律くんを見つめてコクコクと頭を動かす。
「……でも」
律くんは私の方へ体を向けるとテーブルの上に置いてあった私の右手をぎゅっと握る。
「澪の隣にいる時は…大丈夫みたい。寮のメンバーも嫌いじゃないし…むしろみんないい奴で俺の大切な友達…だけどやっぱり人といるのは疲れるんだけど、澪とは毎日お昼一緒に過ごしてるけど…全然大丈夫なんだ」
重なる律くんの手からは熱い体温が伝わってきた。
「……なにより…いつも前向きでみんなの事ばっかり考えてて嫌な雰囲気が澪からは全然感じない…俺のこともそうだよ。手紙やご飯から優しさがつたわってくる…それがすごく心地いい…人にそんな風に思ったの俺はじめて…」
癖のある黒髪の隙間から覗く律くんの綺麗な顔が私をじっと見つめる。
そんな律くんにいろいろと話をしてくれたのが嬉しくて私はふんわりと微笑む。
「…澪、これからも俺と一緒にいてくれる…?澪となら俺大丈夫みたいだから」
そして私は遠慮がちに手を離すとホワイトボードに文字を書く。
【もちろんです。私はいつでもここにいますから】
そう言ってニコリと微笑んだ。
ここの寮にいるみんなはきっとなにかしら抱えてて、それは私だけじゃないと思うと私だって心強いんだよ。
私もみんなとずっとここにいたい。そんな気持ちを込めて律くんに私も優しく微笑んだ。




