昼② 異能シャッフル宝探し
まぜます
「全員揃いましたね。ではこれより、バトルロイヤル3回戦を開始します!」
よく通る声で高らかにそう宣言する女神。
ついに3回戦が始まるのか。
「んで? 3回戦は何やるんだよ」
「今から説明するので黙って聞いてください」
「わーったよ。じゃあ踊りながら聞いてるわ」
俺は腰を高速で振り、股間の竜を上下に動かす。
そして軽くターンを決め、女神に手を差し伸べた。
「Shall we dance?」
「それでは3回戦のルールを説明させていただきます」
わー冷てー。この人俺に頼み事してるの忘れてるよね? ダンスくらい大目に見ろよ。
「アンタ……この緊迫した場面で何やってんのよ。一回死んだのに薬物抜けきってないんじゃないの?」
「クレアお前、そのイジリは中々ブラックだな。ちなみに今はシラフです」
「じゃあ余計ヤバいじゃない……」
何やらドン引きしているクレア。今更なリアクションだな。
下半身マッパで股間から竜が生えてる時点で、とっくに俺は終わってんだよ。
……何故か少しドヤ顔してしまった。
そんな俺たちを通常運転で黙殺し、再度女神は口を開く。
「3回戦の対戦内容は……『異能シャッフル宝探し』です!」
「シャ、シャッフルやと!?」
女神の一言に真っ先に驚いたのは、エセ関西弁の空木勇馬だった。
何をそんなに驚いてるんだか。
「では3回戦の前に、今まで皆さんが使ってきた異能を一度回収させていただきます」
女神が指をパチンと鳴らす。
すると、俺の股間の竜が一瞬で姿を消した。
「おっ……おぉぉぉぉぉ!?」
大木の様な竜が股間から姿を消し、俺の脳裏を最初によぎった言葉は「圧倒的解放感」だった。
「久しぶりだな……この感じ」
俺は空気を大きく吸い込み、そして吐き出す。
股間が圧倒的に軽い。僅か2日程度だったが、股間に竜を生やして生きるというのは、想像以上に困難な事だった。凄く走りづらいし、まぁまぁ重いから腰を少し痛めるし……とにかく散々だった。
でも、ついに解放された! 3回戦の間だけかもしれないけど、俺、ついに解放されたんだ!
「きもちいいいいいいいいっっ!!」
気持ちよく心の叫びを放出していた、次の瞬間だった。
ドゴッ!
重く鈍い音が俺の股間から聞こえてきたのも束の間、俺の視界がぐらぐらと揺れ、気付けば地面に倒れていた。
それが股間を思い切り蹴られた痛みだと実感できたのは、数秒後の事だった。
「ぐっ……ごがああっ!?」
言葉にならない鈍い痛みが、股間から全身に響き渡った。
「はッはァ! 異能を奪われたって事は小間ァ! オマエを守る鬱陶しいドラゴンはもういねェって訳だ!」
ぐらつく意識の中聞こえてきたのは、海藤咲夜の死神の様な声……そして、慌てふためくクレアの声だった。
「小間!? しっかりして! 海藤アンタ何やってんのよ! まだ3回戦前でしょ!?」
「あはははァ! やっと! やっと殺せるッ! 昨日からずっとテメェをグチャグチャにしたくてたまらなかったんだぜェ! 小間ァ!!」
海藤は俺の首を掴むべく、素早く片手を突き出してきた。
「死ねェ! 小間ァ!」
俺は死を覚悟した。
しかし次の瞬間。倒れていたはずの俺はいつの間にか元の位置に立ち尽くしており、襲ってきたはずの海藤も、俺と同じ様に元いた位置に戻されていた。
「海藤さん、小間さん。次に私の進行を邪魔したらその時はきちんと処理させて頂きますので、気を付けてください」
「ククッ。おっかねェなァ女神サマは。ハイハイ、気を付けますって。ククク……」
何が起こったのかは理解できなかったが、どうやら女神の力で事なきを得たみたいだ。
股間に響く鈍器で殴られたような激痛がなくなってる。
「どうなってんだ……。あれ、いつの間にかズボン履かされてる」
女神の力なのか、いつの間にか俺の下半身にズボンが履かされていた。ありがとう女神様。これでリアルフルチン事故は避けられた。
しかし海藤の野郎、まさか伝説の竜の力が解除された瞬間に襲ってくるとはな。ルールお構いなしの凶暴性。やっぱりアイツは危険すぎる。しかも、がら空きになった股間を真っ先に潰しに来るなんて、恐ろしい事この上ない。
「さて……では改めてルール説明に参ります。こちらをご覧下さい」
女神のその一言と共に、例によってモニターの様な映像が俺たちの上方に映し出される。
はいはい。口頭で説明するのが面倒くさいから勝手に読んどけってことね。こんなものがルール説明と呼べるのかねぇ。まぁいいけど。
映像に記載された内容は以下の通り。
〜 異能シャッフル宝探し ルール説明 〜
① 各プレイヤーにランダムに配られるカードに記載された異能(以下ターゲット)を、ステージ上に配置された宝箱から探していく。
② ターゲットを回収し、再び自分のスタート地点に戻ったプレイヤーは、いかなる状況であっても4回戦進出とする(以下ゴール)。
③ ゴールできるプレイヤーは最大4名。
④ ライフが0になったプレイヤーは当然、脱落とする。脱落したプレイヤーが異能を1つ以上所持していた場合、その異能が再び宝箱としてステージ上に設置される。
⑤ プレイヤーが所持できる異能の数に制限はない。
⑥ 複数の異能を所持しているプレイヤーがゴールした場合、ゴールしたプレイヤーのターゲット以外の異能が、再び宝箱としてステージ上に設置される。
⑦ 制限時間は無し。生存プレイヤーが4人未満の場合であっても、全生存プレイヤーがゴールするまで3回戦続行とする。生存プレイヤーが1人になった場合、そのプレイヤーがバトルロイヤル優勝者となる。
〜 宣告について 〜
① プレイヤーは1度だけ、半径10メートル以内の他プレイヤー1名に対して「宣告」を行う事ができる。
② 宣告したプレイヤー(以下「宣告者」)は、10秒以内に宣告対象のプレイヤー(以下「対象者」)のターゲットを言い当てなければならない。(この間「宣告者」と「対象者」への攻撃は無効とする)
③ 「対象者」のターゲットを言い当て「宣告成功」した場合「対象者」は残ライフに関わらず脱落とする。「宣告成功」した「宣告者」はライフ全回復&脱落した「対象者」の異能を手に入れることができる。
④ 「対象者」のターゲットを外し「宣告失敗」した場合「宣告者」は残ライフに関わらず脱落とする。「宣告回避」した「対象者」はライフ全回復&脱落した「宣告者」の異能を手に入れることができる。
⑤ 一つの「宣告」が終了するまで、ステージ上の全プレイヤーは「宣告」をすることができない。
……うわ、読むのめんどくせー。
映像をぱっと見て、俺が最初に感じたのはそれだった。
まぁ要は、自分のカードに書いてある異能をステージ上から探し出してスタート地点に戻れば勝ち……って訳だ。俺たちの異能をシャッフルしたのは、今回のターゲットとやらに使用する為か。
この3回戦は基本的にシンプルなルールだが、まず異能が使えない状態でスタートすること。そして、その救済措置とも取れる「宣告」の存在。これらが3回戦を勝ち抜く上で鍵となってくるだろう。
極端な話、「宣告」を上手く使えば一つも異能を所持していないプレイヤーが、全ての異能を所持しているプレイヤーを倒すことも可能になってくるということだ。まぁ、逆に外せば即脱落という大きなリスクもあるが。
さらにもう一つ気になったのが、ルール②のゴールについての説明だ。いかなる状況とは、一体何を想定しているのだろうか。例えば、ゴールした瞬間にライフがゼロになったとしても4回戦に進出できる……とか? 何にせよ、少し引っ掛かる言い回しだ。
「……竜騎君。先ほどは大丈夫でしたか?」
俺が3回戦のルールを眺めていると、横から小声で天上ミコトが話しかけてきた。
整った顔立ちに、女性の色気がムンムンなナイスバディ。普段なら、こんな美女に話しかけられたらテンション上がっちまうが、昨日の海藤の件もあって、俺はこいつを警戒していた。
「あぁ、女神さまのおかげでな。つか顔色悪いけど大丈夫? 昨日ちゃんと休めたか?」
正直、ミコトの顔色が悪いようには全く見えない。これは適当についた嘘だ。
だが、俺は敢えて何も知らないフリをして、ミコトが昨日何をしてたか探りを入れてみた。
「えぇ大丈夫ですよ。昨日は疲れてずっと部屋で休んでましたから。けど、やっぱり緊張はしてますね。正直怖いです」
「……そうか」
ずっと部屋で休んでいた……か。やはり海藤と会っていたことは話さないか。万丈や鳥皮は、ミコトが魔王キルである可能性はほとんど無い……と言っていたが、こうなってくるとますます怪しいな。仮にミコトが魔王キルでないにしても、海藤の仲間である可能性は大いにある。それこそ、魔族が光属性の力を使えないのであれば、魔族以外の仲間だったりとかな。まぁ何にせよこいつの正体は分からないが、警戒するに越したことはないだろう。
「よろしいでしょうか。ちなみに、ステージ上にはモンスターが配置されており皆さんの邪魔をしてきますが、モンスターを倒しても特に勝敗には影響はないのであしからず」
さらっととんでもない情報をぶっこんできた女神。
おいマジかよ。異能を持っていない状態でモンスターに出くわしたらシャレになんねーぞ。
「それでは今から皆さんを各スタート位置に飛ばします。スタート位置に飛ばした直後にカードをお配りしますので、ターゲットはその際にご確認ください」
モンスターたちへの危惧の念を抱く暇すら与えず、淡々と話し続ける女神。
「さぁ、それでは『異能シャッフル宝探し』! スタートです!」
女神がそう言った直後、目前の景色が一変……とまではいかないか。相変わらずコンクリートジャングルである事に変わりは無いが、先ほどとは少し雰囲気の違う場所に飛ばされる。
「ここがスタート地点か」
俺のスタート地点は、緑色に発光する半径3メートル程の円状の光に囲まれていた。なるほどね、ターゲットを所持した状態でこの緑の光に入ればゴールって訳か。しかし、周囲は大して変わり映えのしないコンクリートジャングル。道を覚えておかないとマジで迷いそうだ。
続けて辺りを見渡していると、目前の何もない空間から一枚のカードが出現する。
『そちらが皆さんのターゲットが記入されたカードになります。中身をご確認下さい』
ステージ全体に響き渡る女神のアナウンス。
俺は女神の言う通り、カードを手に取り内容を確認する。
「えーっと……『B-01 : 噓八百』……誰の異能だこれ?」
そこには、全く詳細が分からない異能の名前が記載されていたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、懐かしい方たちが登場するかも?




