第20話 真夏の月(その2)
開店から1時間で客席はかなり埋まった。どう見ても200人はいる。しかも、軽く1杯だけ飲んで雰囲気だけ味わって帰って行く客も結構いたから、回転率を考えると、もう400人近く来店しているのではないか。
開店時間の17:30にはまだ真昼のような太陽だったが、18:30を回り、大都とこのイベントスペースのアーケードとは反対側にある、神社へ向かう真っ直ぐな道が、光の道になるような感じで、オレンジ色の夕陽の光が脇を通り過ぎる。そして、その光の道からおこぼれをいただくように、BARたかいにもオレンジの光がきらきらと流れ込んでくる。この夕陽の光は神社の鳥居とお社の屋根のぎりぎりの位置にあり、まさに今、日が沈まんとしているところだった。
因みに、僕たちはちょっと大人っぽいステージ衣装を着ている。
僕は父親から借りた、クールビズ用のシャツとパンツを身に着け、高校の入学式の時に一度だけ履いた革靴を引っ張り出してきた。結局は借り物だが、なんだか、身が引き締まるような感じはする。大人っぽい、というよりは、サラリーマンぽい恰好、ということだろうが、まあ、客もそうなのだから、いいだろう。加藤も武藤も似たようないでたちで、やはり父親から借りたと言っていた。
咲も大人っぽい服装だが、男三人とはまったく違う。やはり別格だ。
上は襟元に簡単なフリルのついた白いブラウス。フリルは‘子供っぽさ’と‘可愛い大人’とのぎりぎりの絶妙なセンス。下は光沢のない黒の細身のスラックス。そして、これが凄いところだが、履いているのはオフィシャルなシューズではなく、靴紐を通していない、洗いざらしの真っ白なデッキシューズだ。これは、咲にしかできない、いや、咲の容姿でしか許されない着こなしだ、と、勝手に思った。
「ブラウスはピアノの発表会で着たやつ。スラックスは従妹に借りた。デッキはいつも履いてるやつ」
特に自分がどう見えているかということも考えずに無造作にこういうファッションができるということは、咲が音楽につけ何につけ、‘センス’を持ち合わせていることの証拠だろう。




