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第8話 最初の仕入れと魔道具屋

クロフォード家を後にした司は馬車で宿の近くの道まで送ってもらった後、馬車通りを再び探索することにした。

アンナと出会った店の様な高級店ではなく、庶民的な店が建ち並ぶエリアだ。

時刻はまだ夕方前。

通りは買い物客で賑わっていた。

司の次の目当ては洋服店、とりわけ古着を扱っている店だった。

最初の店はすぐに見付かった。

昨日司が訪れた様な新品と古着を扱っている店だ。

店員に大まかな説明を聞いて、早速古着を手に取ってスキルを使っていく。

探すのは使用者の欄が空欄になっている物だ。


1つ目のラックを見終わり2つ目に移った時だった。

1枚のシャツの前で司は手を止めた。


【綿のシャツが】


製造年 : 精歴1100年

生産者 : モアナ・ローン

使用者 :


(見つけた。)


司は心の中で自分の考えが正しかったことに安堵しながら手に取ったシャツを観察する。


(コンディションは…なるほど少し汚れはあるな。だけど十分落ちる範囲だ。)


この世界では新品の服=汚れやシワのない完璧なコンディションとして扱われている可能性が高いと司は予想した。

それ以外の服は例え使われていないものでも何らかの過程で古着として弾かれるのだろう。

司は自分とこの世界の認識の差に商機を見出だしていた。


その調子で通りにあった服屋を片っ端から回っていく。

馬車通りが終わり、町の外へと繋がる大きな門の前まで出たところで司は道を引き返した。

両手には幾つかの麻袋が握られていた。


宿に戻ったのは夕日がタイル張りの道をすっかりオレンジ色に染め上げた頃だった。

夜の営業を始めたばかりの食堂にはまだ客はまばらだがせっせと料理を運ぶミーナと目が合うとにっこりとした笑みを向けてきた。

両手が塞がった状態の司も軽く笑って応える。

カウンターを見ると相変わらず仏頂面の店主アルベルトが立っていた。

司はアルベルトに軽く挨拶をしてカウンターの脇にある階段を上がり自身の部屋に入ると持っていた袋をテーブルの横に置いてベッドに腰掛ける。

丸1日歩き回った結果、かなりの疲労を感じていたが、元より買い付けの仕事を生業にしていた司にとっては慣れた感覚であった。


その翌日から3日間司はこの町の服をひたすら周り続けた。


ーーーーーーーーーー


この世界に転移して7日目の朝。

朝食を食べた司は4日間で集めた服を一旦整理することにした。

服の種類、コンディション別に慣れた手つきで分けていく。

それでも1枚1枚確認しながらの作業だ。

全てを分け終えるのには約2時間掛かった。

壁にずらりと積まれた服の山が並ぶ。

約100着。それが司が4日間で集めた服の総数だった。使った金額は総額約銀貨30枚程だ。

内訳は

シワがついているだけの良いコンディションのシャツやズボン、ワンピース全て含めて約70着。

僅かな汚れが付いている物が30着。



(ほとんどの物はシワを取ればすぐにでも売りに出せる。残りは汚れを多少は落とした方がいいだろうな。

…そうなるとアイロンと洗剤が必要だな。)



「アイロンと洗剤ですか?」


1階でランチ営業の準備をしていたミーナを捕まえた司は店の場所を尋ねた。


「アイロンってなんですか?」


「服のシワを伸ばす道具みたいな物なんだけど。」


「なるほど!シワ伸ばしの魔道具ですね!」


「魔道具?」


「はい!ちょっと待っててくださいね!」


心当たりがあるのだろうミーナが宿のカウンターの裏にあった扉を開けて中に小走りで入って行き、少しすると手に厚さ10cm程の円柱状の石のような物を持って現れた。


「これです!この持ち手を持って魔力を流すと下の部分が熱くなって、それを服やシーツに押し当てるとシワを伸ばしてくれるんです!」


ミーナがカウンターの上に魔道具を置く。

運んできた時には持ち手の部分がミーナの体に隠れて見えなかったがこうして置かれているのを見るとカーリングのストーンの様な見た目だ。


「なるほど、こういう魔道具があるんだな。」


この世界に来てギルドカードを発行する魔道具等、幾つかの魔道具と呼ばれる物を見てきた司は既に魔道具を『そう言う不思議な物』として受け入れていた。


(部屋にある灯りでさえ、壁のスイッチに触れれば付くんだから便利な世界だよな。)


そう言う司であるが今だに自身の中にある魔力等は全く認識出来ていない。

元の世界の創作物を思い出して夜な夜な瞑想したりはするもの今のところ意味があるように思えなかった。

とは言え一応魔道具に触れて念じれば問題なく作動するため特に不便さは感じていない。


(いつか使ってみたいけどな、魔法。まだ見たことないけど。)


「これで合ってそうですか?」


まだ見ぬ魔法に想いを馳せる司の心情に気付くはずのないミーナが問い掛ける。


「あぁ、これで問題ないはずだよ。どこに売ってるかな?」


「こういう日用魔道具だしたらこの道をまっすぐ自由市の方に進んだらすぐに扱っている店がありますよ!ついでに自由市を覗いてもいいかもしれませんね!」


たまに中古の魔道具を出している人もいるみたいですし、とミーナは続けた。


「あ!それと洗剤なんですけど、ちょうどうちで使っているやつも今朝で無くなったんです。午後の営業が終わってからで良かったら、お店に一緒に行きませんか?」


笑顔でそう提案してくるミーナ。

司も断る理由が無かったので了承した。



ミーナが言っていた魔道具屋は宿から200m程の場所にあった。

周りと同じくレンガ造りの建物に年季の入った看板が掛かっていた。


(本当に近かったな。『ローン魔道具店』か。)


建物の上部に小さな光を取り込むための窓があるだけのシンプルな外観で外から中の様子は分からない。

営業中かどうかも分からなかったが、待っていても仕方ない。

司はドアを押して店内に入った。


中は司が想像していたよりもずっと明るかった。

天井に付けられた無数のライトが店内を外と変わらない程度まで照らしていた。

店内には壁に沿ってテーブルが設置してあり、その上に様々な魔道具と思われる物が展示してあった。

店員の姿は確認できない。


(とりあえず色々見てみるか。)


司はまずは入り口のすぐ右側のテーブルの一番端の魔道具に目を止めた。


(これは湯沸かしポットか?)


素材は金属だが日本でも良く見掛けるポットのような形の魔道具だ。

司はそのポットの持ち手を握りスキルを使う。


【冷水製造の魔道具】


製造年 : 精歴1102年

生産者 : アンソニー・ドラフトス

使用者 :   


「いや冷やす方なんかい!」


見た目とは全く逆の性能に思わずツッコんでしまった司は慌てて周りを確認して、店内に他に客も店員もいない事を確認すると胸を撫で下ろす。


(ヤバイやつだと思われるところだった。)


気を取り直して隣の魔道具に移る。

次に並んでいたのは細長い楕円形の魔道具。

中は空洞になっている。


【送風の魔道具】


製造年 : 精歴1103年

生産者 : ヨハン・テネシー

使用者 :


(ダイ○ンのサーキュレーターかよ。)


流石に首振り機能は無さそうだが、言われてみれば元の世界でも広く使われているサーキュレーターと酷似した見た目だ。

これも素材は金属のようなのでまあまあな重量はありそうではある。


(意外と便利な物が多いが、その分値段も高いな。)


先程のポット(冷水製造の魔道具)は銀貨5枚。

このサーキュレーターは何と銀貨10枚もする。

この世界の一般的な収入は分からないが、食料品や衣服の値段を見る限り、恐らくは月収で銀貨15~25枚程だと思われる。

そうなると普通の家庭には最低限の魔道具はあっても何もかもが魔道具頼りの生活になるとは考えにくい。

その後も片っ端から色々見ていく。

庶民が多く利用するエリアなだけあってどれも生活に関わる物ばかりだ。

夢中で店内を物色していた司がここに来た目的を思い出したのは右半分を見終わった頃だった。


(あんまり時間を使いすぎるとミーナとの約束に遅れちゃうな。)


店内をもう一度見渡す。

司はそこでようやく目当ての魔道具が店の左奥に展示してあるのを見付けた。

宿でミーナが持ってきたのと同じ物だ。


(なるほど、銀貨4枚か。)


他の魔道具に比べると少し買いやすい価格なのは司からすると有り難かった。


(必要経費と思うしかないな。)


元々買うことは決めていたので、特に迷う事も無かった司。

しかし会計をしようにも店員の姿は見えない。

一応カウンターの奥に扉があるのでそちらに向かって声を掛ける事にした。


「すいませーん!」


少しすると扉の奥から物音が聞こえてくる。

不規則に数回何かと何かがぶつかったような音がした後、ようやく扉が開き中から小柄な老父が姿を見せた。

一見すると初めてこの世界に来た時に見たドワーフのようにも見えるが、全体的に筋肉量も少なく見た目の年の通りに頼り無さそうな印象の男性だ。


「いやいや、すまんのう。最近トイレが近くてな、用を足していたらそのまま眠ってしまっていたらしい。」


ハッハッハと笑い飛ばす老父。


(これで白衣でも着ていたらどこぞの発明家みたいだな。)


「誰も見えなかったので、悪いなとは思いつつ色々見させてもらいました。今日はこのシワ伸ばしの魔道具を探しに来たんです。」


「なるほど。しかし若いのによくこんな寂れた店に来てくれたものじゃ。」


(自分で寂れたなんて言うくらいなら看板くらい綺麗にしろよな。)


「滞在している宿がすぐ近くなんです。旅人の止まり木って所なんですけど、そこの娘さんに紹介してもらって。」 


「ほう!あの宿の。娘と言うことはミーナちゃんじゃな?」


「そうです。魔道具を探していたらここを紹介されて。」


「ほほぅ!流石はミーナちゃん!」


ミーナの名前を出して明らかにテンションが上がった店主に若干呆気に取られる司。


「ミーナちゃんの事は昔から知っておってのう。昔はたまに親御さんと店に来ておったのじゃ。今だと1人でお使いや魔道具の修理を持ってきてくれるようになったんじゃ~。」


司はへ~っと相槌を打つ。昔から今みたいに活発だったのだろうな等と考えた時だった、


「そしたらみるみるうちに素敵なおなごになってしまってな~ぁ。あの尻尾がまためんこい!あ、その顔、さてはお主耳派か?」


「…アハハ、そうですね。あ、これの会計お願いしてもいいですか?」


ヒートアップした様子の店主にこのままだと止まらなくなりそうだと感じた司は話を遮るように会計を促した。


「おぉ!そうじゃったそうじゃった!カードでいいかの。」


「はい。あ、この後自由市に行くので、帰りに取りに来てもいいですか?」


「もちろんじゃ、ただトイレで店にいないかも知れんのでの、もしあれじゃったらこの扉を開けて右にトイレがあるから一声掛けてくれ。」


「ははは、わかりました。その時は声を掛けさせてもらいますね。」


(トイレ行きすぎだろ。)


店を後にした司はキャラの濃いおじいちゃんだったな、と呟いて自由市に向かって歩き始めた。


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