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第5話 買い物とこの世界


商業ギルドを出た司は次の目的地に向かって歩き始めるが視線は手に持ったピカピカのギルドカードに釘付けだった。


【ツカサ・ヤマノウエ】

所属 : 交易都市アルカム商業ギルド 準市民


種族 : 人族


職業 : ・古物商 ・来訪者


スキル : ・残響読取 ・言語理解


所持金 : 1700ルピー


本登録を終えたことで所属の欄がこの町のギルドになり、入金した銀貨が既に残高として反映されていた。


(ギルドの男が本登録の準備をしている間にも考えていたが、職業の古物商と言うのは間違いなく古着屋としての経験から表示された物だろう。…来訪者はやっぱりおれがこの世界とは別の世界から来たことで得た職業って事なのか)


確証はなかった。しかし見当外れではないだろうと司は考えていた。


(そしてスキル。言語理解はこの世界の言葉が通じたり、文字が読めるようになるってことだろう。現にそれは実感している。けどもう一つの残響読取、これに関してはさっぱりだ。)


てっきり鑑定だと思っていた能力の正体。

恐らくそれがスキル : 残響読取なのだろう。


(やっぱりこの世界で生きていくにはもっと知識が必要だ。)


自分の考えが全て予想の範囲を出ず、その原因がこの世界に関する知識不足であると痛感する司。

しかし同時に次の目的地である程度の知識が得られることを期待していた。

準市民になったことで、解放される施設の中にあったある場所。


(図書館。どの程度の規模かはわからないが色々と分かるはずだ。)


司は商業ギルドの男にギルドを出て右に伸びる道を真っ直ぐ進んだ先に図書館があると言われてそれらしき物を探して歩いている最中だった。


5分程歩くが、まだそれらしき建物は見当たらない。

この商店街の様な通りを抜けないと無いかもしれないなと考えた所で司はすれ違う人間が皆司の方をチラリと見て行くことに気が付いた。


(図書館に行く前に、服を変えた方が無難か。)


司の格好はこの世界に来た昨日のまま、足元はレザーのワークブーツ、色の濃いデニムに、少し生地の厚い無地の白いTシャツ。

シャツに綿パンスタイルが主流と思われるこの世界だと、若干浮いた見た目ではあった。

どうするか、と周りを見渡す司。

商店街と言うこともあって、目当ての服屋は直ぐに見つかった。


「いらっしゃい!」


店員の声が15坪程の店内に響く。

入り口から見て右手にメンズ、左手にレディースの服が置いてある事を瞬時に確認した司は右側に進みながら店員の女性に声を掛ける。


「すいません。普段着で着れる上下のセットを2.3着、それと下着もお願いします。なるべく丈夫な生地だと助かります。」


いくらアパレル業界にいたからと言っても、ここは異世界。組み合わせのルールや、流行などの知識もないまま自分で選ぶよりは、店員にある程度任せた方が良いだろうと司は考えた。


「はいよ!見たところ異国の人みたいだね。あんたが着ているやつほど丈夫そうな物は残念ながら無いけど、ちょっと待ってな!一応新品と古着の両方あるけどどっちがいい?」


「服は激しく破れて無ければ古着で大丈夫です。下着は新品でお願いします。」


再び、はいよ、と言うと女性は服を選びにラックへ向かった。

司も女性が選んでいる間近くのラックに掛かっている服を物色し始めた。


(やっぱり基本的には天然素材のコットンやリネンの物がほとんどだな。縫製に僅かなバラつきがある。ミシンの様な道具ではなく手縫いの証拠だ。使われているボタンも木製か。)


流石に慣れた手付きで手に取ったシャツを見る司。

ここで切ったままにしていた、鑑定(残響読取と思われる)の能力をオンにした。


【綿のシャツ】


製造年 : 精歴1094年

生産者 : マーサ・グレン

使用者 : トム・ドラス


司は視界に現れた文字を確認する。

僅かに服に使用感と汚れがあることは確認済みだった。

続いて別のラックの比較的綺麗なように見える服を手に取った。


【麻のプルオーバーシャツ】


製造年 : 精歴1102年

生産者 : ハンナ・ハート

使用者 :


このシャツは使用者の欄が空欄になっていた。

と言うとこは思った通りこれは新品だから使用者に名前が出ないのか、と司は判断した。

その後も何着か手に取って情報を確認していく。

そうしているうちに店員の女性から声が掛かった。

どうやら商品を選び終わったらしい。


「多分サイズは問題ないはずだよ。試着するなら奥の試着室を使っておくれ。」


「見てみてもいいですか?」


そう言うと服を女性が持っていた服を受けとる。

見たところ前開きタイプのシャツが2枚プルオーバーシャツが1枚、パンツが3本の様だ。

一応全てに能力を使ってみる。


【綿のシャツ】


製造年 : 精歴1098年

生産者 : エルマ・フェンス

使用者 : ガベル・ドスト


【麻のシャツ】


製造年 : 精歴1094年

生産者 : サーシャ・トーク

使用者 : マル・サイス


【綿のシャツ】


製造年 : 精歴1099年

生産者 : ハンナ・ハート

使用者 :


【綿のズボン】


製造年 : 精歴1097年

生産者 : ローラ・ワグナー

使用者 : トイ・ワグナー


【綿のズボン】


製造年 : 精歴1101年

生産者 : ベルタ・スチュアート

使用者 : ドンキ・テール


【麻のズボン】


製造年 : 精歴1100年

生産者 : ロッテ・トラスト

使用者 :


「…これって全部古着ですが?」


出てきた情報に違和感を覚えた司は店員の女性に尋ねる。


「そうだよ!なるべく丈夫で綺麗なやつは選んだけどね!」


「そうですか。」


きっぱりと断定する女性。

司は使用者の欄に名前の入っていなかった2着に触れる。


(確かに長年放置されていたことによる埃汚れの様な物もあるし、シワもあるが…水が通っていない。)


生地には綿だろうが麻だろうが、未洗い特有の張りがある。

これまでの経験と、残響読取の力によって司は古着と言って差し出された服が未使用品(古着業界ではデッドストックと呼ばれている)物であると見抜いた。


(この世界、古物商と言う職種は認知されていそうだけど、古着という分野の知識に関してはまだまだ未発達のようだな。)


古着を扱っている店の店員でさえも、未使用品と状態の良い古着の差が分かっていない。

司にとってその事実は今後この町で生きていくために大きな強みになる、そう予感する物だった。


サイズが全て問題ないことを確認した司は早速買った綿のシャツとパンツに着替えて支払いを済ませた。

女性のギルドカードに自らのギルドカードを合わせて金額を念じると互いのギルドカードが僅かに発光し決済が終了する。

この世界において初めてのキャッシュレスでの支払いに軽い感動を覚えた司はその日着ていた服と残りの買った服を麻袋に入れて貰いそれを担いで店を後にした。

料金は先程の6着と下着3着で銀貨3枚だった。

それが安いかどうかは分からないが確かに司の注文通り丈夫で、しっかりとした縫製の物を選んでくれていた。

司はすっかりこの世界の住人として溶け込むことが出来たぞと満足そうに通りを再び進み始める。

本来の目的地である図書館は思いの外すぐ見付かった。


図書館の入り口に設置された魔道具からピッと言う音が鳴る。

入り口の横に立っていた警備と思われる胸当てを付け、腰に剣を携えた男もその音を聴くと、ヨシ!と言い司の入場を認める。

学校の体育館程の大きさの図書館の中に入ると司の身長よりも高い本棚が整然と並んでいた。

利用者の数は多くはないようだが、目当ての本を探すのは一苦労だぞと思った司は気合いを入れて本棚に進んだ。

結果、大した苦労もなく本は見付かった。暇を持て余した司書が司の希望を聞くなりせっせと注文の本を探し当てて持って来てくれた。

席に着き本を並べる。

『大陸地図』『大陸全歴史』『職業とスキル』の3冊だ。

まずは一番薄い『大陸地図』の最初のページから読み始める事にした。



「そろそろ閉館の時間ですよ。」


司書から声を掛けられた司は読んでいた本を閉じて一言礼を言うと図書館を後にした。

外に出ると既に夕日が辺りのレンガ造りの建物とタイル張りの道をオレンジに染めていた。

帰り道までの道中、司は今日得た知識を頭の中で整理していた。


(まずは地理。

この世界は一つの大きな大陸で、ほぼ中央に俺が転移してきた交易都市アルカムがある。この交易都市アルカムは独立国家のような立場で都市と言いながらその周辺一帯をそれぞれ豪商が納める巨大経済圏を持っている。

アルカムの東側に位置するのは国の西の広い平野に穀倉地帯、東の巨大山脈から鉱山資源を得ているヴァルディア帝国。

西側に位置するのは、海岸線から得られる漁業と塩の生産、肥沃な土地を活用した農業で繁栄したエストラ共和国。

南側に位置するのは、面積程先の2国と比べて広くは無いが広大な森林が天然の要塞と化しており、古い遺跡やダンジョンが各地に点在する大陸で最も歴史のある国シルヴェリア精王国。

そして北側には霊峰アストラを含む巨大山脈が横たわっている。


続いて大陸全歴史。この本が一番分厚く、正直飛ばし飛ばしでしか読めていないが、個人的に気になったのは数百年に1度のペースで訪れていると言われている魔物の大量発生スタンピード。

そのタイミングで人類は大きな転換期を向かえている。

読んだ本に乗っていたスタンピードは2回。

1度目は今から約1100年程前。

大量発生したモンスターはそれまで大陸に10数個あった国の半数を飲み込んだと言われている。

そのスタンピードを止めたのは大精霊と契約したエルフの女性シルヴェリア・エル=フェイン。

彼女と周りのエルフ達は少数ながら数年を掛けて大陸の魔物を討伐し、その後シルヴェリアはたった1人で霊峰アストラを越え北の大地にてスタンピードの元凶を絶ったと言われている。

南の大森林に戻った彼女を讃え興されたのが今に続くシルヴェリア精王国である。

そして気になるのは、そのスタンピードの後、当時はエルフ族が精霊と契約することでしか使えなかった魔法を、徐々にではあるが他の種族も使えるようになったことだ。

この事は歴史の転換点として、本の中でも大々的に取り扱われていた。


そして2回目のスタンピードが起こったのは精歴538年。

魔法と言う力を得た人類は前回のような一方的な蹂躙は避けたものの、それでもなお各国の力を総動員してようやく戦線を維持できる程度であった。

再び英雄の登場を願った人々。

そして現れたのは3人の人族のパーティーだった。

大魔道士エルディオンと剣士ローガンと商人トップ。

このパーティーは幾つもの戦場で功績を挙げた後、シルヴェリアの様に霊峰アストラを越えスタンピードを治めたとされる。

しかし戻ってきたのは大魔道士と剣士の2人だけであったそうだ。

スタンピード後、大魔道士はこの交易都市アルカムの設立に尽力。

天命を全うするまでに様々な魔道具を残し、現在の文化の礎を築いたと言われている。

大小様々に乱立していた国家はスタンピードと言う未曾有の脅威に対抗するため団結、現在の3か国と中央のアルカムと言う形に落ち着いた。

以降500年以上この世界では国家間の戦争は起きていない。


スタンピードと言う脅威は在るものの、思っていたよりは平和な世界のようだな。


続いては職業とスキルについて。


職業はスキルカードに示されるが、これは現在の職業と言うよりもその人の情報を読み取って一番適正のある職業が示される、言わば指標の様なものらしい。

その他にも称号のような側面もあり、職業欄に2つ目の職業が表示される場合もあるみたいだ。

有名な例だと国王や騎士団長、英雄等があるらしい。

獲得の詳細は解明されていない。


スキルは職業や経験を元に得られる技能。

適正のある職業に関連したスキルは獲得しやすく、その他の職業に関連したスキルは獲得にかなりの時間が掛かる。

スキルには魔力を消費する『アーツ』と魔力を消費しない『グレイス』がある。

職業とスキルについて、一覧と各説明も載っていたが、古物商以外の来訪者、残響読取、言語理解についてはどれだけ探しても見付からなかった。

しかし、魔力というものがどういうものかはわからないが、少なくとも何かが減ったような感覚はない。ならば俺の残響読取と言語理解は、おそらくグレイスなのだろう。)


今日知れたのはこんなところか、と司が自分の中で纏める。

ちょうど視界の先に旅人の止まり木を捉えた司は今日の晩飯は何かなと無意識に期待している自分に気が付いた。

1泊の間で思ったよりもあの宿の事を気に入ったようだ。

司は心の中で宿の延長を決める。


(一週間分で560ルピーか。明日からは本格的に金を稼ぐ方法を考えないとな。)


ギルドカードの中の残高を思い出しながら、旅人の止まり木のドアを開いた。





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