第28話 面接
司のいる部屋の扉がノックされ、司は手にしていた書類をテーブルに置き、その場から立ち上がる。
最初に入ってきたのはリチャード、その後ろに体格の良い人族の男性が続いた。
「ツカサ様お待たせしました。1人目の候補者を連れて参りました」
「ありがとうございます」
司はリチャードに礼を言うと、隣に立つ男性へ目を向けた。
司の視線に気が付いた男性が口を開いた。
「はじめまして。今回応募したマルダン・ナートスと言います」
「司です。応募していただいてありがとうございます。どうぞお掛け下さい」
司はマルダンと名乗った男性に着席を促すとソファに腰を下ろす。
マルダンもそれに習ってドカッと言う音を立ててソファに座った。
元冒険者らしく、乱暴とまではいかないが、所作には荒さが目立つ。
司はマルダンの書類を手に取り、面接を始めた。
「早速ですが、まずは簡単な自己紹介をお願いします」
「先程も名乗りましたが、マルダンと言います。剣士として冒険者をしていましたが、体力の衰えを感じて引退して、去年からこの人材派遣店で経理等の指導を受けてきました」
「なるほど。店は服をメインで扱う予定です。接客もしてもらうと思いますが、その点はどうですか?」
「接客はしたこと無いですが、冒険者時代からパーティーのまとめ役をする事が多かったのでコミュニケーション能力はある方だと思います」
少し話を聞いて、司は再び書類を見ながら考える。
マルダンの見た目はワイルドなイケオジといった感じだ。
日本の古着屋のスタッフとしては問題ないが、この世界で扱う服はどちらかと言えばシンプルなデザインがほとんどだ。
勿論マルダンに似合わないことは無いのだろうが、販売員としては若干の違和感を感じる。
「冒険者時代のランクはCですか」
「はい。パーティーのアタッカーを担っていました。そんじょそこらの小悪党には負けません」
「ありがとうございます。一応こちらとしても聞きたいことは以上です」
「了解しました。ありがとうございます」
そう言うとマルダンは立ち上がり、リチャードの方を確認するとそのまま退室した。
「いかがでしたか?」
リチャードが司に問い掛ける。
「護衛としての力は十分だと思います。経理面も俺も計算が出来ないわけじゃないので、一緒にやれば問題ないと思います。ただ、販売員としては少し違和感がありますね」
「左様ですか。彼の一番の長所は護衛としての側面です。今回ご紹介する3人の中では一番の戦闘力があります」
リチャードはそう言うと次の候補者を迎えに行くために部屋を出た。
司はマルダンの資料に気になった所や、良かった点等を書き込んでいく。
時間にすると5分にも満たないような時間だったが、司はそもそも面接なんてものは皆多少は猫を被る物だと考えている。
普段から接客を仕事にしている司にとっては、5分というのは、その人の第一印象を掴むには十分な時間だった。
そして第一印象と言うのは接客にそのまま影響を与える。
程なくして、再びドアがノックされた。
次に連れて来られたのは元冒険者というにはやや線の細い男性だ。
奇しくも司が最初に書類を見た順番通りの入室らしい。
「どうも、レナードって言います。今日は宜しく」
「司です。宜しくお願いします」
肩に掛からない程度に伸ばした男性にしてはやや長めの金髪に少し気だるそうな雰囲気だが、覇気が全くないわけではない。
自分を優秀だと思っている人間特有の余裕の様なものを司はこのレナードから感じていた。
司はレナードに着席を促し自らもソファに座る。
「では簡単に自己紹介をお願いします」
「レナード・アイス。歳は27でツカサ君とは同い年だって聞いてます。元冒険者でランクはB。ただ斥候だったんで直接的な戦闘力はD~Cって所だと。得意なのは情報収集と経理とかの計算って感じですね。」
「接客についてはどうですか?」
「接客はしたことないですけど、多分何とかなるんじゃないかなと。」
「分かりました。もし採用されたとして、どういう所が自分の強みになると思いますか?」
「う~ん、そうですね。情報収集は得意なのでマーケティングや流行の調査、仕入れの市場把握等は役に立つんじゃないかなと思いますよ」
「ありがとうございます。とりあえず以上で大丈夫です」
レナードとリチャードが退室した後、司はレナードの書類にメモを書き込む。
少しダルそうな仕草はマイナスだが、本人が言っていた情報収集能力が本物なら、この世界で司に足りていない知識面を埋めるのに十分な働きをしてくれるかもしれない。
少なくともマルダンより、司の印象はよかった。
その後少しして、再度扉がノックされた。
「最後の1人を連れてきました」
「し、失礼します!」
リチャードと一緒に入室してきたのは少し小柄な女性だった。
資料だと22歳と言うことだが、見た目はそれより少し若く見える。
印象的な緑のロングヘアーは首の後ろで纏められている。
これで眼鏡をしていれば、図書館の司書でもやっていそうな印象だ。
声は大きいが少し緊張しているようだった。
「はじめまして、クロエ・ロングフィールドと申します!」
「はじめまして、司です。あんまり緊張しないで、楽にしてもらって良いですよ。とりあえず座りましょうか」
「は、はい!」
司に促されるまま、着席したクロエだったがその動きは固いままだ。
その様子に司も少し困ったように笑いながらソファに座る。
「まずは、自己紹介をお願いします。だけどまずは深呼吸でもして落ち着きましょう」
「は、はい…」
そう言われ、クロエはゆっくりと深呼吸を始めた。
息を大きく吸って、ゆっくりと吐き出す。
その動作を3回繰り返したところで、クロエが話し始めた。
「改めまして、クロエと言います。歳は22歳で少し前まで冒険者をしていました。パーティーが解散してしまい、他のパーティーに移る気にもなれなくて、どうせなら違う仕事を、と思って。
あとはずっと洋服屋さんで働いてみたかったんです。普通なら私よりもっと可愛い子を採用すると思いますが、今回は護衛の能力も必要と言うことだったので、私にもチャンスがあるんじゃないかと思い応募しました!」
「なるほど。何か得意な事はありますか?」
「経理や書類の作成みたいな細かな仕事は好きです。接客も頑張ります!」
それを聞いて司も頷く。
3人の候補者の中では1番熱意を感じていた。
「魔法使いと言うことですが、何かあった時には咄嗟に魔法は使えますか?」
「杖さえあれば、短い詠唱でも魔法は使えます。私には才能がなくて高火力の魔法は使えないんですけど、それでも護衛の依頼を受けることも多かったですし、大丈夫だと思います」
「ありがとうございます。では最後に、ちょっとだけ聞いてみたいんですけど…」
「何でしょうか?」
司はそこで少し言葉を溜めた。
勿体ぶったわけではなく、これから話す内容が仕事とは直接関係ないことだと認識していたからだ。
「もし、俺に魔法を教えて欲しいって言えば、教えてくれますか?」
司は初めてカトリーヌの店で魔力晶を買ってから、毎日欠かさずに魔力を流す練習をしていた。
最近は魔力晶の光りもかなり安定して、そろそろ次の段階に進めるのではと考えていたのだ。
カトリーヌの店に行っても良いのだが、もしもっと身近に魔法を使える人がいれば魔法の習得も楽になるのではないかと、司は考えていた。
「私はあまり人に教えたりしたことはないんですけど、使い方を説明したりするのは大丈夫だと思います」
クロエは司の言葉に少し困惑した表情で答える。
対してその返事を聞いた司の表情は明るかった。
「本当ですか!」
司は内心で歓喜する。
やる気も感じられ、第一印象も悪くない。
少しテンパっていた所はあるが、そのくらいの方が人間味があって、むしろ客に受け入れて貰いやすいだろう。
自分の中の考えを纏めると、司が再度口を開いた。
「ありがとうございます。クロエさん、あなたを採用します」
「ぇえ!?」
司のいきなりの採用発言にクロエが驚きのあまり声を上げる。
横に控えていたリチャードも目を見開いて困惑していた。
「宜しいのですか?」
リチャードからの問い掛けに司は笑顔で答える。
「はい。クロエさんからは熱意も感じましたし、魔法を教えてくれるっていうのも嬉しいです」
「あ、ありがとうございます!」
司がそう言うと、クロエが立ち上がって礼をする。
そういう素直さも司は評価していた。
「では、ここから契約内容について詰めていきましょうか」
「はい!お願いします!」
再び礼をするクロエをソファに座らせて、司は契約内容について話し始めた。
クロエの希望を聞きながら、大まかな内容を決めていく。
リチャードは前の2人に不採用を告げるために部屋を出ていた。
5分程して、リチャードが部屋に戻ってきた時には契約内容は纏まっていた。
2人から契約内容を聞きつつ、リチャードはいつの間にか手にしていた契約書に要項を書き込んでいく。
「では、確認致します。給金は月に銀貨22枚と売上が良い場合や護衛がある際は別途報酬をプラス。休みは週に1度。年間で20日まで希望休を与える。以上で宜しいですか?」
「はい、お願いします」
「ではお二人とも、こちらに署名を。」
まずは司がリチャードから受け取った契約書に署名をする。
次にクロエが、司から受け取った羽ペンで署名した。
それを確認したリチャードが契約書を回収する。
トラブル防止のために契約書はこの店で預かるシステムのようだ。
「さて、以上で契約終了になります。お疲れ様でした」
リチャードが2人を労う。
それに司が「ありがとうございます」と返すと、クロエの方を向き手を差し出した。
「これから宜しくね、クロエさん」
司もすっかり砕けた口調になっていた。
「クロエで大丈夫です。宜しくお願いします」
司から出された手を見て、それが意味することを察したクロエは自分も手を出して、司と握手を交わす。
2人は満足そうに笑い合った。
クロエもすっかり緊張が解けた様子だ。
「じゃあ今日はこのくらいで解散しようか」
「分かりました。早速明日から出勤していいですか?」
「そうだね、店もまだ完成してないけど、今後の予定を話し合おうか」
挨拶が済むと、クロエは退室するため席を立つ。
司に「それではまた明日」と言うとリチャードにも一礼して扉の方に歩いていく。
司とリチャードに見送られながら、扉を開ける。
「では、失礼します」
礼儀正しく2人を向いて再度頭を下げ、クロエは退室していった。
司もこれ以上長居するつもりもないため、テーブルに置いたままの3人の資料を纏めて持ってきておいた鞄に入れると席を立つ。
それを見たリチャードが扉を開け、2人揃ってその場をあとにした。
「それにしても即断で驚きました」
廊下を歩きながらリチャードが司に語り掛ける。
「こう言うのはフィーリングだと思って。前の2人も良かったんですけど、クロエさんの柔らかな雰囲気の方が何となく俺のイメージしている店に合いそうだったんです」
「なるほど。実は会長も恐らく彼女になるだろうと言っておりましたので、そう言う意味でも驚きました」
「エドワードさんが?」
「はい。ツカサ様は能力だけではなく、内面で人を選ぶだろうと」
「ハハハ。ぴったり当てられちゃいましたね」
この人選をエドワードが直接した訳では無いだろうが、まんまと思惑に乗せられた様な不思議な気分だった。
しかし嫌な感情ではない。
大商会の会長の人選と同じと考えれば、悪い選択肢では無かったのだろう、と司はプラスに考えた。
「この後は店までお送りしても?」
「いえ、もし良かったら西の馬車通りにお願いします」
「西、ですか?どちらまで?」
「知り合いに教えてもらったんです。良い家具を作る職人がいるって」
「かしこまりました。ではその工房まで送らせて頂きます」
「ありがとうございます」
司の鞄には今朝書いたばかりの図面が入っている。
理想の店を形作るのに重要なピースを埋めるため、司たちは西へと向かった。




