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第14話 声が聴こえる


司とミーナが一緒に東の馬車道に遊びに出掛けた翌日。

今日は1日仕入れに充てる予定だった司は日が昇った頃に目を覚まし、窓の外が十分明るい事を確認して、魔力晶を使った練習に取りかかる。

新しい玩具を与えられた子供のように、司は自分の中に宿る"魔力"に夢中だった。

何せ上達すれば魔法が使えるようになるのである。

日本出身の若者としては憧れないはずがなかった。

1度寝たからか、昨日よりも光量の調整に手応えを感じた司はその2時間程練習を続けた。


朝食を終え、出掛ける準備を終えた司は空の台車を引いて仕入れに出掛ける。

その後司が宿に戻ってきたのは日がすっかり落ちた後だった。


「…ハァァ。」


夕食を終えた司は食後に貰った果実水を前に深いため息をついていた。


(まさかこれ程集まらないとは。)


司は今日1日掛けて、徒歩で回れる範囲の服屋全てを回った。

前回は両手で持てる分の服を集めて、1度宿に戻って、もう1度出掛けるという方法しか取れなかったが、今回は台車があるのでかなり効率良く回れる計算だった。

具体的には前回3日掛けて集めた分くらいは2日掛からず集めるつもりでいた。

しかし今日買い付けた服は僅か20着。

前回の1日分にも満たない量だ。


(まさか、商品がほとんど替わってないとは。)


各店の店員に話を聞いたが、大体古着の入荷は多くて月に1回程だと言う。

前回から日が経っていないので、新しい商品が店側も在庫として用意できていなかった。


(こうなったら西側まで行くか。いや、結局西も入荷のペースが変わらないなら結局ジリ貧だ。)


いくら西にも店があってもこの入荷ペースじゃアルカムと言う町の中だけでは限界が来る。

何せ司が仕入れるのは古着の中でも未使用のコンディションの物だけだ。

1店舗で見つかる数には限りがあるし、安定した仕入れは難しいだろう。

薄々気が付いていたが、こんなにも早く仕入れの問題と直面するとは司としても予想外だった。


(どうするかな。)


「どうしたんですか?何か戻ってきてからずっと元気無さそうですけど…?」


仕事に一段落をつけたミーナが司の近くに寄ってくる。

今日の髪型はポニーテールの様だ。

髪は水色のシュシュで纏められていた。


「実は仕入れが上手く行かなくてね。まあ元々並みのある仕入れ方だったから仕方ないんだけどさ。」


「なるほど。古着を集めるのも大変なんですね。」


司の真似なのかうーんと考え込む仕草をするミーナ。

そこでふと疑問に感じた事を司に聞くことにした。


「そう言えば、なんでツカサさんって古着だけを売ってるんですか?」


「それは元々売ってたからだけど…?」


「それは前にも聞いたことあります…けど、ツカサさんの職業って古物商じゃないですか?」


「うん。」


「ツカサさんが古着が好きなのは知ってますけど、何も古着だけに拘る必要はないんじゃないですか?折角古物商って出てるのに。」


「それは……。」


ミーナにそう言われて、司はハッとする。

確かに司は元の職業が古着屋で、この世界でも職業欄に古物商と出たから、古着を売ることしか頭に無かったが、そもそも古物商の定義はもっと広い範囲に及ぶはずだ。

本当に古着屋に才能が限定されていれば、職業欄には古着屋や服屋と出るのではないか。


(俺のスキル残響読取の効果が及ぶ範囲は検証した限り、食料品や生き物を除くこの世界で作られた物。新品でも後に中古品として古物商が扱える範囲の物なら使えた。そもそも日本の古着屋でも雑貨をメインで扱っている店も多いし。)


まさに雷に打たれたような衝撃を受けるとはこう言うことなのだろう。


「…ツカサさん?…私余計なこと言っちゃいました?」


不安げな表情を浮かべたミーナが黙ったままの司に声を掛ける。

彼女の耳と尻尾は今までで一番垂れ下がっている。

しかしそうとは気付かない司はミーナの声に顔を上げると、突然ミーナの手を両手で掴んだ。


「ありがとう!ミーナ!そうだよな。何も服に拘る必要なんて無いんだ!」


「ッ!えっ!あのっ!」


急に繋がれた手を見てミーナがパニックを起こすが司はお構い無しに両手をハハハと笑いながら振り始めた。


「よし!そうと決まれば明日も仕入れだっ!少し早く出るから今日はもう休むよ!」


言い終えるや否や司はミーナの手を離すと、カウンターテーブルの上に置いてあった果実水を一気に飲み干し、駆け足で2階へと続く階段を昇っていった。


「…へ?」


後にはあまりの司の豹変ぶりに呆然とするミーナだけが残された。



部屋に戻ると司は状況を整理し直した。

まず手元にあるのは元々の在庫の洋服46着と今日仕入れた20着、合わせて66点。

基本的な商品構成は服がベースになるだろう。


(服と一緒に置くならやっぱりアクセサリーは欠かせない。)


司はアクセサリーならこの世界に来てから新品の相場も掴んでいるので、当然の選択と言える。


(アクセサリーを買うならやっぱり自由市か?いや馬車道に古物店や脇道にガラクタ屋っていうのも見掛けたな。)


次なる仕入れについて、脳内でイメージを固めていく。

普段使い出来るヴィンテージの小物なんかも良いかもしれない。

この世界にはヴィンテージと言う概念あまり根付いていない。

さすがに数百年前の有名な画家の絵や、彫刻等には眼が飛び出るような値段が付いている物もあるらしいが、名も無き作家や生産者が産み出した過去の物に希少性を見出だしていないのだ。

中古品=安いと言う方程式がほぼ全ての物に当てはまる世界と言える。

その価値観はこの世界において、商機になり得ると感じていた。


翌朝、司の姿は馬車道にある古物店にあった。

司と同じ古物商の老人が営んでいる店で、多種多様な物が雑多に置かれている。

あまりジャンルに分けられている雰囲気でも無かったので、司は片っ端から見ていくことにした。

時には壺の中を覗いたり、タンスの引き出しを開けたりしたが、RPGのようにそこからアイテムが出てくることもない。

諦めて店を後にしようとした時、視界の端にキランと輝く物が映る。

ちょうど店の角の小さな棚の上に置かれた皿に幾つかのアクセサリーが纏めて置かれていた。

司はさっそくその中から1つを取り出し、スキルを使用した。


【銀の指輪】


製造年 : 精歴1055年

生産者 : マギース・レコンス

使用者 : アルバ・マネスト


(これだ。)


司は残響読取の有用性の1つに物の名前に素材が含まれる事に気が付いていた。

銀なら銀の~、鉄なら鉄の~と。

それによりその物がどんなに形を変えようが、汚れやくすみがある状態でもその物の素材を司は知ることが出来る。

現に司が手にしているリングも表面にかなり汚れやくすみがあり、このままだと正確な素材の判別が難しい状態だが、スキルにはそんなことは関係なしだ。

続いてネックレス。


【錫合金のネックレス】


製造年 : 精歴1082年

生産者 : ケイ・アンダーソン

使用者 : スティービー・アテム


このネックレスはくすんだシルバーに見えるが、中身は錫合金(すずごうきん)

この世界でも安価な金属として鉄や鋼同様に比較的馴染みの深いものだ。

その後も売れそうなデザインの物を探す。

結局その店ではシルバーのアクセサリーを3点購入した。

値段は3つで銅貨35枚。

店主も素材が不明だったのだろう、破格と言えた。

その調子で他の店も回っていく。

古物店の数は服屋に比べればそんなに多くはない。

しかし得られる粗利は服と比べてもかなり多い。 

町の東側の古物店を見終わった司は1度宿に戻って次は西の馬車道に移動しようか迷ったが、ガラクタ屋に行っていないことに気が付いて、馬車道から脇道、路地に入っていく。

馬車道程ではないが路地にも小ぢんまりとした店が並んでいる。

ガラクタ屋は大抵がこう言った場所にあると司は把握していた。


最初に入ったガラクタ屋は、名前の通り本当にガラクタとしか思えない物しか無かった。

穴の空いた箱や、立て付けの悪いテーブルなど、本当に需要があるのか分からない物ばかりだ。

店主に話を聞くと、自分で直して使ったり、パーツを取ったりする職人が買って行くようだ。

小物を探していると伝えると、今いる場所よりもっと北側の路地にあるガラクタ屋には小物が多いと親切に教えてくれた。

さっそく教えて貰ったガラクタ屋に向かう。

紹介された店のある路地はかなり狭く人が2.3人並ぶのがやっとといった具合だ。

幸い今日は小物しか買わない予定だったので台車は置いてきているが台車ではこの先に入るのに一苦労しそうではあった。

司は臆すること無く、薄暗い路地を進んだ。


目的の店はレンガ造りの建物が多数を占めるこの町では珍しく木造だった。

レンガ造りの建物に挟まれるようにしてポツンと佇むその店はこの路地の中でも浮いていた。

カトリーヌの店と同様に営業中かは外からは分からないようになっているが、司はとりあえず扉を開けてみることにした。


「…こんにちは~」


何とも薄暗い店内だが、意外にも棚は規則的に並べられており、棚の上には様々な小物が整然と並んでいた。


「おう、いらっしゃい。」


店の奥から声がする。

司が少し店の中央に歩を進めるとツンツン頭に大きなゴーグルのような物を乗せた青年が、作業台の様な物の上でなにやら箱のような物を工具を使って弄っている最中のようだった。


「何かお探しかな?」


青年が手を止めて司を見る。


「何かアクセサリーのような小物を探してて。」


「だったら右の奥の棚に纏めて置いてあるよ。」


「ありがとうございます。」


言われた棚に向かうと色々な種類のアクセサリーが棚に綺麗に並べられている。

これまでに司が買ったアクセサリーと比べてもくすみなどが少ないものが多い印象だ。

ガラクタ屋とは名ばかりのしっかりとメンテナンスのされた物を販売しているらしい。

司は1つのブレスレットを手に取る。


【銀のブレスレット】


製造年 : 精歴876年

生産者 : アンジー・ルース

使用者 : ミート・スカイ


(古いな。)


司が読み取った物の中ではエルディオンの石像に次ぐ古さだ。

これは銀貨1枚と今日買った物と比べて割高だがアンティークとしての価値を含めると、悪くないと司は考えた。

続いてブレスレットの隣に置いてあるリング、その後は更に隣のリングと、司はスキルを使いどんどん情報を見ていく。


(基本的に全ての100~200年程前のアクセサリーのようだな。)


最後に司は一番端に置かれたネックレスを手に取る。

シンプルなチェーンの先に小さな石が付いている。

石は恐らくモンスターから取れる魔石だろうと司は予想する。

価格は他の物よりかなり安く、銅貨20枚。

少し傷もあるようだが研磨材で磨けば十分取れそうな小さな物だった。

ある程度のコンディションを確かめた司はスキルを使う。


【錫合金のネックレス】


製造年 : 精歴1050年

生産者 : ジニー・ロックス

使用者 : ポール・ロックス


(なるほど。素材が錫合金なのか。)


司は値段の安さに納得する。

大した利益は出せないと思い、手にしていたネックレスを元の場所に戻そうとした時。

また司の頭に声が響いた。


『‥‥‥帰りたい‥。』


司は不意のことにビクッと体を一瞬震わせると慌てて周囲を確認する。

店内に客は司だけ。

店主の青年も先程と同じ場所で作業に没頭している様子だった。

それに何より、司の聞いた声は先程話をした店主の声ではなく、もっと歳も上な低い男性の物だった。

司は自信の掌の上のネックレスに目を向けた。


(まさか、これから…?)


今まで声が聞こえたタイミングはいつも残響読取を使った時だった。


(もしかして、残響読取って物の情報を"視る"だけのスキルじゃないのか?)


司は再びネックレスにスキルを使ってみることにした。


【錫合金のネックレス】


製造年 : 精歴940年

生産者 : ジニー・ロックス

使用者 : ポール・ロックス


見える情報は先程と変わらない。

しかし今度は声は聞こえなかった。


(何か条件の様なものがあるのか?)


確かめる必要がある。

そう思った司はそのネックレスと、他にも数点を持ってカウンターに向かった。


「まいど。お兄さんアクセサリーが好きなの?」


会計の際に店主が司に話しかける。


「好きと言うより、仕入れなんです。」


司は正直にそう答えた。

この町で仕入れをする時には必ず仕入れとして買うことを店員に伝えるようにしていた。

自分の店の商品を後々に転売されていると知った相手が不快に思わないようにと言う司なりの配慮だった。


「なるほどね。じゃあお兄さんも商人なんだ。うちとしては仕入れでも何でも、買ってくれれば有り難いけどね。」


そう笑顔で答える青年は商品についている値札を一つ一つ外していくと、あのネックレスで手を止めた。


「…これ。銀じゃないけど大丈夫?」


「はい。どうしても気になってしまって。」


「おれもね、普段は銀製の物や金しか仕入れないんだ。だけど、これは何かこちらに訴えてくるような不思議な感覚を感じてね。」


お兄さんも似たような感じかな、と青年は呟いた。

商品の入った小さな袋を受けとると会計を済ませる。


「まいどあり。おれはフィン。お兄さんの名前は?」


「司といいます。」


「ツカサ、だね。敬語はいらないよ。歳も近そうだし、今後もツカサとは"縁"がある気がするから。」


「ありがとう。宜しくフィン。」


軽く挨拶をした後、司はフィンの店を後にした。


馬車通りに出た後、司は西に向かう乗り合い馬車に乗り込み、西の馬車通りでも同じように古物店やガラクタ屋を回った。

あれ以降、声がするアイテムとは出会っていない。

それでも結果からいえばそこそこの数のアクセサリーを手に入れた司は辺りが暗くなり始めた頃、旅人の止まり木に戻った。


夕食を済ませて部屋に備え付けられたテーブルに今日の収穫を広げる。

約30点程のリングやブレスレット、ネックレスがくすんだ光を放っている。

司は西の馬車道で途中に寄った鍛冶屋で譲って貰った木灰が入った袋を取り出して、布に灰を付けて磨き始める。

黒ずんだリングがみるみるうちに銀本来の輝きを取り戻していく。

この灰を使ったシルバーのメンテナンス方法は司がアメリカのシルバースミスに教えて貰った方法だった。

現代はそれこそ100均にもシルバー磨きが売っているが昔は灰を使って磨いていたと。

そのシルバースミスの彼は今も昔の製法に拘る職人だった。

司は一つ一つ丁寧にアクセサリーのメンテナンスを続けた。

"ほぼ"全ての作業が終わったのはそれから3時間程経った時だった。

テーブルには新品同様の輝きを取り戻したアクセサリーがランプの魔道具の光を反射して、燦々と輝いている。

その光景に満足した司は、最後の1つ。

あのネックレスに手を伸ばす。

そしてネックレスを持ったままベッドまで移動すると、ふうっと息を吐いてベッドに転がった。

司は仰向けの状態でネックレスを掲げてスキルを使う。

しかし結果は変わらない。

ネックレスの情報が出るだけであの声は聞こえなかった。


(本当に何なんだろうな。)


顔の上に上げていた手を大の字を描くように体の両側に落とす。

すると司は右手に何かが当たった感覚を覚えた。

見ると今朝練習した後に放置していた魔力晶が司の手に当たったとこでころっと僅かに転がりながら移動していた。


(そう言えば今朝の練習だと光の量を抑えるところまで出来たんだよな。)


明日も自由市に行く前に少し練習するか、と考えた司はあることを思い付く。


(もし、このネックレスに魔力を込めたらどうなるんだろ…?)


それはただの偶然だった。

しかし魔力晶に魔力を通せるなら他にも通せるのでは?と考えるのはある意味必然だったのかもしれない。

司は上半身を起こし、右手に魔力を集中させる。


(今朝の様に魔力を込めすぎず、少しだけ身体から切り離して、それをネックレスへ…!)


司の身体から放出された僅かな魔力がネックレスへ吸い込まれた時だった。

司の視界が光に覆われる!


「うわ!」


司は突然の光に思わず声を上げる。

光源はネックレスかと思ったが、眼を閉じても光は収まらなかった。

光は視界の端、ネックレスの情報が記載されている、スキルによって生まれた文字から出ている。


(なにが…?!)


光が一瞬のうちに更に強くなる。

そうして司の意識はその光に吸い込まれていった。



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