第13話 はじめての魔力
【大魔道士エルディオンの石像】
製造年 : 精歴573年
生産者 : 多数
使用者 :
エルディオンの石像に触れた司は何となくスキルを使った。
(なるほど、流石に大部分を1人で作ったもの以外だとこんな表示になるんだな…。)
生産者が多数と表示されたのはこれが初めてだった。
また1つスキルについて検証できたと満足した司が手を離そうとした時。
『‥‥‥ワァァ‥』
「ッ?!」
再び脳内に直接響くような声を感じた。
前回とは違い大勢の人の声、まるで歓声を上げているような声が微かに聞こえた司は慌てて辺りを見渡す。
広場は先程までと変わらず大勢で賑わっている。
(周囲の音か……?)
あの自由市で手にしたナイフの時とは違い、はっきりとした言葉が聞こえた訳でもない。
しかし初めての感覚でもないので、不思議に思うがこちらを見るミーナの姿が目に入り考えを中断する。
「もしかして魔力上がった感じがするんですか?」
ミーナが少し考え込むような表情の司に問い掛けた。
自分の言った"迷信"が本当に起こったのかと期待したからだ。
「いや、それらしい気配は感じないな。そもそも魔力っていう物をあんまり理解できてないんだ。」
自らの中の疑念に蓋をして司が答える。
いまだに続けている瞑想の効果はまだ出ていないようだ。
「ならお昼からは魔法店にでも行ってみますか?」
「魔法店?魔道具屋じゃなくてか?」
「はい!魔法使いが使う杖や魔法書を置いている店です!初歩的な内容の物は値段もそんなに高くないので。」
「面白そうだな。」
「なら、馬車道に戻りましょうか!」
本来ならこの広場の出店で昼を食べるのがこの町のデートの定番だったりするのだが、時間はまだ昼前。
司の朝も遅かった事もあり、2人は先に馬車道にあるという魔法店に向かうことにした。
広場に来た道を戻るだけなのは味気ないので2人は先程とは反対側の歩道を歩くことにする。
「あ!見てください!ここのお花屋さんは種類も豊富で有名なんですよ!」
「この魔道具屋は冒険者の人や旅人が使う魔道具を置いてるんです!行商の人にも人気みたいです!」
「ッ見てください、ツカサさん!可愛いぬいぐるみが飾ってあります~!」
終始楽しそうに司に店を紹介していくミーナ。
トレードマークの尻尾もフリフリと左右に揺れている。
その様子を見て司どこか懐かしさを覚えていた。
(円花が中学生くらいの時はこうして色々連れ回されたっけ…)
円花は7歳年の離れた司の妹だ。
司が地元の大学に通っていた時、暇を見付けては良く買い物に付き合わされていた。
今は円花も大学生だが司が地元に帰れば、2人で出掛ける時もある程度に仲の良い兄妹だった。
(元気にしてるかな。)
元の世界に戻れるかは分からない。
しかし、もし戻れる日が来たのならば一度地元に顔を出そうと司は決心した。
「ここです!」
ミーナがあるの店の前で立ち止まる。
看板も出ていない、一見すると何の店か分からないこの世界では珍しいタイプの店だった。
「何も書いてないけど…?」
「ここの店主さんは変わった人で、あまり商売に頓着のない人なんです。」
「なるほど。」
ミーナが扉を開け、中に入る。
それに司も続いた。
店内は背の高い本棚がまるで図書館のように列になっている。壁付近にはスペースがあり、そこには杖や薬品の様なものが陳列されているようだ。
棚が光を遮るせいか、全体的に薄暗く、いかにも魔女の居そうな雰囲気だなというのが司の第一印象だ。
「カトリーヌさーん!ミーナでーす!」
ミーナが店の奥に向かって呼び掛ける。
どうやら知り合いの店のようだ。
棚と棚の隙間から見えるカウンターの方からゴソゴソと音がしたかと思えば、ひょこっと、とんがり帽子が姿を見せた。
「カトリーヌさん。またカウンターで寝てたでしょ!」
そう言いながらミーナはどんどん奥へと進んでいく。
「ウゥゥン…あら、ミーナじゃない。」
そう言ってようやく立ち上がったのは黒いローブを羽織った女性だった。
この世界でも珍しいグリーンのロングヘアー。
目は元々か寝起きのせいかは分からないが少しとろんとしているが間違いなく美人だとわかる。
ローブの下に着込まれたシャツの胸元が大きく膨らんでおり、更にボタンが上から2つ程開いているため司の場所からでもシャツの隙間から見える素肌に1本の縦線が浮かんでいるのが見える。
年齢は司より年下にも見えるし、上にも見えると言う不思議な雰囲気の美女だ。
「あら、じゃないですよ~。もうお昼前なんだからちゃんと起きてください。」
「"まだ"お昼前じゃない。この店にこんなに早く人が来ることも滅多いないのよ。」
そこまで言うとカトリーヌと呼ばれた女性はミーナの後ろに見慣れない青年が立っていることに今更気が付いたようだ。
「あら、連れがいたのね。」
「初めまして、ツカサと言います。ミーナのいる旅人の止まり木に滞在している者です。」
「あら、ご丁寧にどうも。私はカトリーヌ。ここの店主でミーナの両親とは旧知の仲でたまに食堂にも行っているのよ。」
カトリーヌはそう言うとニッコリと司に微笑む。
勝手に魔法使いは気難しい人が多そうだと思っていた司だったが、目の前カトリーヌはどちらかと言えば温和そうだと少し安心する。
「それでミーナ。今日はどうしたの?あなたがここに来るなんて随分久しぶりだと思うのだけど。」
「実はツカサさんが魔力について知りたいらしくて!ここならそう言う初心者向けの本もあるかと思って来てみました!」
「なるほどねぇ。あなた職業は?」
ミーナの説明を聞いたカトリーヌが再び司に顔を向けた。
「古物商です。やっぱり魔法系の職業じゃないと厳しいでしょうか?」
「そんなことないわよ。」
きっぱりとカトリーヌは断言する。
「ギルドカードの職業って言うのはその人の才能を示すもの。仮に剣士の才能が10、魔法使の才能が9ある人がいたとすれば職業には剣士と表示されるの。同じように剣士の才能が2、魔法使い才能が3の人なら魔法使い。けど前者と後者が同じように魔法を練習すれば前者の方が上達が早いの。職業は剣士だけどね。」
なるほど、と司は納得するように呟いた。
確かにどんなに多才な人物でもダブルジョブ等のケースを除けば表示される職業は1つだけだ。
しかしそれ以外の才能が全くないかと言うとそうではない。
「現にミーナの母親のエマは職業は料理人だけど、前衛としても一級品よ。」
「え?!エマさんって強いんですか?!」
まさかの事実に驚きの声をあげる司にミーナとカトリーヌが可笑しそうに補足する。
「うちのお父さんとお母さん、それにカトリーヌさんは元々同じ冒険者のパーティーだったんですよ!」
「アルベルトが格闘家、カトリーヌが斥候、私が魔法使い。あと1人剣士の4人パーティーだったの。」
「…知りませんでした。」
(どうりでアルベルトさんのガタイが良い訳だ…。)
司は胴着姿のアルベルトを想像する。
確かに、間違いなく強そうな見た目である。
「そういう例もあるから、あなたが古物商でも、魔法が使えない事にはならないの。」
ちょっと待っててね、そう言うとカトリーヌはカウンターから出て壁際の杖等が置かれている場所へ向かうとそこから1個の玉を持ってきた。
「これは魔力晶と言ってね、魔法の練習に使うの。見てて。」
カトリーヌは掌の上に魔力晶を乗せる。
すると半透明だった魔力晶が淡く発光を始めた。
一定の光量を保つ玉はまるで穏やかな光を放つ電球のようだ。
「これは注ぐ魔力によって光の強さが変わるの。だから常に一定の魔力を注がないとユラユラとした光になるのよ。」
そこまで説明すると魔力晶は光を無くし再び元の半透明の色味に戻った。
そしてその玉をそのまま今度はミーナに渡す。
「えぇぇ、私これ苦手なのにぃ。」
苦虫を噛み潰したような顔を見せるミーナが渋々と言った様子で同じように魔力晶を手に乗せるとすぐに玉は光り始める。
しかしカトリーヌの時のような一定の光ではなくかなりムラのある光り方だ。
繰り返される淡い光と強い光がミーナの手に光量の差で影を付ける。
10秒ほどで光が止まると、ミーナがだから言ったじゃないですかぁと言い魔力晶をカトリーヌへと返した。
「魔法を使うには魔力をある程度決まった量体外に放出しないといけないの。だからみんな最初はこの魔力晶を使って魔力をコントロールする練習をするのよ。」
カトリーヌが次は司の番だと言わんばかりに魔力晶を司に差し出した。
司はそれを受け取るが…
「そもそも魔力感じ取れないんですけど、どうやって外に出すんですか?」
「あら、そこからだったのね。」
少し驚いたような表情を見せるカトリーヌだったが、ふふっと柔らかく微笑んで、両手で魔力晶を乗せていた司の右手を包み込むように握った。
不意に触れた少し冷たい手の感触に思わずドキッとする司。
後ろではミーナが何かを言いた気に口をぱくぱくさせていた。
「今から私が直接ツカサ君の魔力に触れて動かすから、しっかりと集中してね。」
「分かりました。」
一瞬、至近距離に近づいたことで意図的に見ないようにしていたカトリーヌの胸元に視線が移りかけるが何とか自制した司は集中するために眼を閉じた。
少しして、司は冷たかったカトリーヌの手から仄かに暖かいナニかが体内に流れてくる感覚を感じる。
そのナニかは司の腕から胸の辺りまで進むと、グルグルと円を書くように周り始めた。
初めて味わう不思議な感覚だったが決して不快なものではなかった。
そのままそのナニかの動きに集中していると自分の体からそのナニかに呼応するように動き出す小さな気配を感じる。
微弱だったそれは、段々と大きくなりカトリーヌの手から出てきたナニかに続くように司の体をグルグルと周り始めた。
「…わかる?」
集中する意識の外からカトリーヌの声が聞こえる。
「…はい。ナニかがカトリーヌさんの手から出てきた物に続いて動いています。」
「それがあなたの魔力よ。」
「…これが。」
約10日瞑想しても感じなれなかった魔力と言う物の存在を確かに体内に実感した司。
「そのままあなたの魔力に意識を集中させて。私の後に続いて、あなたが動かすの。」
カトリーヌがそう言うと彼女の魔力がスピードを上げる。
司は遅れないように必死で自分の魔力に意識を向ける。
(動け。動け!)
すると司の魔力が司の意思に応えるようにスピードを上げた。
「そう。上手よ。私の魔力を戻すから、そのまま自分の魔力をコントロールして、そのまま右の掌に移動させて。そして魔力晶の中に注ぎ込む様なイメージで魔力を放出させるの。」
すると体内を回っていたカトリーヌの魔力が再び腕を通って身体の外、カトリーヌに帰っていくのを感じた司は体内を回していた魔力を右手に動かす。
魔力はまるで自分の新しい手のように司の意思通りに動き始めた。
右の先に集まると、司は更に集中する。
(出ろ。)
すると司の魔力が少し抵抗した後、右の掌の中心から魔力晶に向かってゆっくりと進む。
ピカッ
「ッきゃ!」
店内を明るく照らす魔力晶の輝きに思わずミーナが悲鳴にも似た声をあげる。
司もその光りに驚き、集中が途切れたことで魔力晶は光を無くした。
カトリーヌやミーナがやって見せた時よりも圧倒的に強い光りに司は興奮を覚える。
(今の光!これっておれの中の魔力がかなり多いって事なんじゃ…!)
この世界に来て、司が手に入れた力は残響読取と言う絶妙な内容しか分からない鑑定スキルだけだった。
司が思い描く異世界転移とは主人公がチートのような力を手に入れて、活躍する英雄譚の様なもの。
こちらの世界に来て、体力が増したわけでも、急に怪力になったわけでも無かった司だったがようやく異世界らしい特別な力を手に入れたと感動で胸を震わせていた。
「…くぅ。もう!ツカサ君!魔力込めすぎ!」
カトリーヌが叱咤にも似た声を出す。
「まあまあ、カトリーヌさん。誰でも初めてはあんな感じですよ。私も小さい頃に似たような感じになってしばらく目がチカチカしてましたもん。」
ミーナの言葉を聞いて、司の胸の震えがぴったりと止まった。
「…あの、これって俺の魔力が多いせいじゃ…」
「え?いや、魔力晶は魔力を通しやすい結晶だから少ない魔力でも結構強く光るのよ。昔は松明の代わりにしてたくらいだし。」
「あ、そ、そうなんですね。」
「まあツカサ君の魔力に触れた感じだと普通の人よりは多いと思うわよ?けど魔法使いになるにはちょっと物足りないかなって所ね。」
「……ウス。」
司の小さな返事は物が多く音が反響しやすい店内にすぐに溶けた。
カトリーヌの魔法店を後にした2人はその後馬車通りに面した若者に人気のカフェのような店で昼食を取った後(もちろん司が奢った)、色々な店を冷やかし半分に覗いて回った。
司は途中で寄った雑貨屋で今日のお礼も兼ねてミーナに水色のシュシュをプレゼントした。
最初は申し訳なさそうに断っていたミーナだったが最終的には満更でもない様子で、受け取ったシュシュの入った袋を大事そうに抱き締めていた。
あっという間に時は過ぎ、仕事帰りであろう、汚れた防具姿の冒険者の数も増えてきた時間に2人は行きと同じような乗り合い馬車に乗って宿に戻った。
ギリギリで夜の営業前に帰り着いたミーナは司に挨拶をして、カウンターの奥の扉へと消えていった。
「…息抜きになったか?」
カウンターにいたアルベルトが司に声をかけた。
「はい。ミーナのお陰でこの町を色々知れました。」
「そうか。あの娘も最近ずっと頑張ってくれていたからな。また良かったら遊びに連れていってやってくれ。」
「はい。」
アルベルトからの思いがけない言葉に少し驚いた司だったが、すぐに笑顔で応える。
強面だがこれでも娘想いの良い父親なんだな、そんな少し失礼なことを考えながら司は階段を登って、自分の部屋に入った。
まだ夜と言う時間でもない。
少しオレンジが混じった光が窓から差し混んでいるので、司は部屋のランプを付けることなくそのままベッドに腰を下ろす。
一息付いて、司は傍らに置いていた紙袋を開けた。
中にはあの魔力晶と1冊の本が入っていた。
本の内容は基礎的な魔法の使い方。
魔力晶の光がカトリーヌのように一定に出せるようになったら中を読むように言われたものだ。
もちろん2つともちゃんと購入した物だった。
ちなみに2つで銀貨3枚だった。
(さて、夕食までまだ時間もあるし、元を取るためにも練習しますか。)
司は魔力晶を手に取ると体内の自分の魔力に集中する。
昨日までが嘘かのように魔力はすぐに司の意思に応え動き始める。
(この魔力を右手に集中。そして少しずつ、一定に流す。)
ピカッ!
眩い光が室内を照らし、窓から一筋の柱のように空に向かって飛び出していく。
辺りが暗くなるまでその光柱は何度も司の部屋から放たれた。
「あ、ツカサさん!練習ご苦労様です!」
夕食を取りに1階に降りた司にミーナが笑顔で声を掛ける。
今日も司の特等席は空いていた。
「なんでそれを?」
ミーナに練習の事は特に伝えてなかったので、疑問に思う司だったがミーナの続けた言葉に思わず苦笑いを浮かべた。
「だって外の一部がピカピカ光るんですもん。最初は雷かと思いました!」
「ハハハ、夜にするのは止めとくよ。」
「それが良いかもですね!」
可笑しそうに可笑しそうに笑いながら、テーブル席の客に呼ばれてミーナは注文を取りに向かう。
珍しくハーフアップに上げられた髪は水色のシュシュで纏められていた。




