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第2話 身体適性検査

「これから封印シグル適性検査を開始する」


その言葉と同時に、この体育館の地下が低く唸った。


ガコン――!


重々しい金属音が響き、前方の床面がゆっくりと開いていく。


その奥から黒い機械がせり上がってきた。


生徒たちの間に緊張が走る。


「なにこれ…ちょー本格的じゃん」


花夏が小さな声で呟く。


「遊びじゃないってことか」


俺も目の前の光景から目を離せなかった。


ーーやっぱりこの学園は普通じゃない。


何が来ようと俺は、与えられた試験をこなすだけだ。


「では、各クラス一列に並べ」


教官の声が響く。


「まずは第一段階、身体適性検査を行う」


生徒たちは急いで列を作る。


「検査方法は単純だ。前方の装置に入ると本人の意識だけが仮想空間へと接続する」


そんな技術があるのか。驚きだ。


「接続後、お前たちの前には眼獣ガントが現れる。制限時間内にどれだけ対応できるかによって、身体能力、判断力、反射神経を測定する」


眼獣ガントーー


その名が出た時、生徒たちに緊張が走る。


「では各クラス先頭の者から前へ出ろ」


各クラス一人ずつ装置へ向かう。


俺のクラスからは男子生徒が挑戦するようだ。


会場の視線が前へと一斉に集まる。


そしてーー


黒い装置の扉が静かに開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「開始」


眼獣ガントが襲いかかる。


男子生徒は咄嗟に剣を構え、眼獣ガントの一撃を防ぐ。


「っ…!」


勢いを利用して後ろに下がる。


そして剣を下段に構えた。


「ーー神閃しんせん!」


強い踏み込み。


刃が閃光のように輝く。


「いっけぇぇ…!」


しかしーー


眼獣ガントはそれを容易たやすく回避した。


「は!?」


次の瞬間、眼獣ガントの爪が男子生徒を吹き飛ばす。


「がはっ!」


男子生徒が地面に強く体を打ち、転がった。立ち上がることはできない。


「戦闘不能。測定終了」


そうして男子生徒は装置から出てくる。


「評価C」


会場がざわつく。


「いきなり負けたぞ……」


眼獣ガントってあんな強いのかよ…」


そして


教官が淡々と告げる。


武藤むとう秀治しゅうじ。お前の反射能力は十分だ。だが、技を放つことに意識を向けすぎたな。相手を見ていない。相手の動きを見ていれば、攻撃を当てる余裕は十分にあった」


そうして試験はどんどん行われる。


「夢羽はこの試験どう思う?」


「んー、そこまで難しくはなさそうね」


夢羽は余裕そうに笑みを浮かべる。


「次」


教官に呼ばれ、一人の女子生徒が前へ出た。


耳元で切り揃えられた短い銀髪。


整った横顔。だが、少し冷たい印象を受ける。


入学してから誰とも話していない生徒だった。


「誰だ、あの子」


「さぁ…?」


俺が首を傾げる横で夢羽は小さく目を細める。


「ふーん、面白そうね」


装置起動。


「開始」


開始と同時に眼獣ガントが襲いかかる。


しかし、女子生徒は微動だにしない。


「えっ」


「何やってんだ、あの子…」


「諦めたのか?」


眼獣ガントが目の前まで襲ってくる。


だが、次の瞬間。


「ーー斬訝ざんが


銀色の刃が閃いた。


次の瞬間。


蒼い軌跡が空間を切り裂く。


「討伐確認」


眼獣ガントは何が起きたのか理解できないまま、その場に崩れ落ちた。


戦闘時間たったの三秒。


会場が静まり返る。


「……は?」


「えっ今何が起きた?」


誰もが何が起きたのか分からない。


女子生徒は装置から出てくる。


「評価A」


教官が告げる。


水沢みずさわ しおり。申し分のない技術だ。無駄もない」


水沢は何も言わずに席へ戻る。


その横顔に感情はない。


「花夏、今の見えたか?」


「いや……」


俺も何も見えなかった。


「水沢 栞、か…」


覚えておく価値はありそうだな。


まだまだ試験は続く。


太刀打ち出来ずに負けてしまう者もいれば、少し抗って負けてしまう者、紙一重で眼獣ガントを討伐した者など実力には差がありそうだ。


そうしていると花夏の出番が来る。


「いよいよだな」


「うぅ…緊張する」


花夏がここまで緊張するのは珍しい。


「大丈夫だ。いつものお前なら勝てる」


「そうちゃんありがとう。頑張ってくるね」


「あぁ、応援してる」


「次」


教官が告げる。


「はーい」


そう言って花夏は黒い装置の中に入っていく。


不思議と不安はなかった。


あいつが負ける姿だけは、どうしても想像できなかったからだ。


「開始」


眼獣ガントが花夏に向かって突進。


普通の生徒なら身構えるだろう。


だが。


「えーいっ!」


花夏も眼獣ガントに向かって突進。


会場はざわつく。


「な!?」


「突っ込んだぞあいつ!」


眼獣ガントの爪が花夏に向かって振り下ろされる。


花夏は紙一重で回避。そしてーー


「とっりゃー!」


勢い任せで眼獣に剣を振り回す。


だが、一撃が当たらない。


「無茶苦茶な動きだ」


教官が呟く。


それでも花夏は止まらない。


「えいっ!、まだまだぁ!」


その連続攻撃が眼獣ガントを追い詰める。


あいつの剣術と動きは素人同然だ。


でも、花夏には他の生徒とは一目瞭然な違いがある。


それはーー圧倒的な身体能力だ。


「危ない!」


誰かが叫ぶ。


しかし、花夏は笑っていた。


「これで終わりだぁーーー!」


渾身こんしんの一撃。


眼獣ガントが真っ二つに割れる。


「討伐確認」


『うぉーーー!』


会場が沸く。


「ほう……」


教官が呟く。


「あんな無茶苦茶な動きで…」


確かな誰が見ても動きは素人だ。


「評価A」


教官は続ける。


「大鳥 花夏。同学年でも上位クラスの身体能力だ。戦闘勘も優秀、だが、動きがまるで素人だ。きたえ甲斐がありそうだ」


「やったよ、そうちゃん!」


「おめでとう。お前なら勝つと思ってたぜ」


「えへへ、ありがとう」


花夏が嬉しそうに笑う。


「大鳥さん、おめでとう。素晴らしい戦いぶりだったわ」


「ありがとう!」


「あれだけ速ければ、多少動きが雑でも押し切れるものね」


「えへへ、よく分かんないけど勝てちゃった!」


「それも才能よ」


「夢羽ちゃん、出番もうそろ?」


「ええ、次よ」


「次!?頑張ってね!」


「心配はご無用よ」


そう言って、夢羽は前に向かっていく。


「開始」


眼獣ガントが襲いかかる。


夢羽は慌てることなく横へ動く。


まるで相手の攻撃を読んでいるかのように回避する。


「すごい……」


「全然当たらないぞ」


だが。


夢羽は攻撃しない。


いや、できないのか。


制限時間終了。


「測定終了」


会場がざわつく。


「倒してないぞ?」


夢羽が装置から出てくる。


「評価B」


「毛呂夢羽。判断力と分析能力は優秀」


教官は結果を確認する。


「だが決定力不足だ。回避に徹しすぎている。敵を倒す意思が足りない」


夢羽は困ったように笑う。


「だって痛そうだったんだもの」


「仮想空間だ」


「それでもよ」


夢羽は回避力でいえば、誰よりも勝っていた。


そして、いよいよ俺の番が近づいてきた。


高ぶる緊張感。心を落ち着かせる。


「そうちゃん、もうそろそろだね。緊張している?」


「あぁ、少しな。俺にやれることだけやってくる」


「無理はしないでね」


「仮想現実だから大丈夫さ」


そうして俺の番がやってくる。


ゆっくりと足を踏み入れ、身体に集中を入れる。


今、始まる。


「開始」


「よし、やるか」


眼獣ガントが飛びかかってくる。


俺は必死に剣を振るった。


一撃。


二撃。


だが当たらない。


次の瞬間。


眼獣ガントの爪が俺を吹き飛ばした。


試験はあっという間に終わった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぁんだ。大鳥さんは強かったから、お前もてっきり強いもんだと思ってたよ」


「悪かったな弱くて」


結果は言わずもがな惨敗だった。


一撃、二撃、三撃と必死に食らいついたものの、眼獣ガントにはかすりもしない。そして次の瞬間には吹き飛ばされていた。


評価はDだ。下から2番目だった。やっぱ俺には特別な技術も才能もないんだと改めて自覚した。


ーーーだが、この時の俺はまだ知らない。


俺の中に眠る封印シグルが、学園中を震撼しんかんさせることになると。

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