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第3話 測定不能

「次より、第二段階ーー封印シグル適性検査を始める」


ざわっーー。


会場の空気が変わった。


身体適性検査よりも、こっちが本番だ。


封印シグル使いを目指す者にとって最も重要な試験。


「今から呼ばれたものから、順番に中央の前に出ろ」


体育館中央。


先ほどまで床だった場所が開き、下から一つの水色に光る水晶を乗せた台が、せり上がってくる。


「ドキドキしてきた」


花夏が呟く。


他のみんなも、どこか落ち着かない様子だ。


そりゃそうだ。これで最初の評価は決まるからな。


「この検査は封印シグルとの適性率を表す」


教官が続ける。


「適合率はE〜SSまであり、一般的な封印シグル使いはC評価が普通だ。A以上は優秀。S以上は国家級戦力だ」


その言葉に生徒は息を呑む。


「では始める」


相葉あいば 夏樹なつき


一人の生徒の名が呼ばれる。


相葉という生徒は前に出る。


そして、ゆっくり水晶に手を置く。


すると。


水晶の光が強くなる。


「適合率C」


「ちぇ、普通かよ」


相葉は少しがっかりする。


「あんまり落ち込むな。最初の測定にしたら悪くないぞ」


そう教官は告げる。


次。


「適合率B」


次。


「適合率D」


そうして試験は進んでいく。


「次」


教官が名前を呼ぶ。


黒須くろす 斧夜おのや


少し周囲がざわつく。


「あいつは、身体適性検査で大鳥さんと同じA評価を受けたらしいぜ」


一人のクラスメイトが言う。


「A評価!?大鳥さん以外にもいたのかよ」


これは注目しておきたい。


黒須が水晶に手を置く。


するとーー。


光が一気に強まる。


「適合率A」


周囲がざわつく。


「うぉー!」


「初の適合率Aだ!」


「すげぇ……」


黒須は周囲の歓声を気にした様子もなく、自分の席へと戻る。


表情は少しカッコつけているように見えた。


「すげぇな……」


「A評価だぞ」


生徒たちの視線が集まる。


だが当の本人は興味がないようだった。


「次」


教官が次の名前を呼ぶ。


御手洗みたらい 朱音あかね


一人の少女が前に出た。


つややかな金髪。


腰にまで届く、長い髪をなびかせている。


整った顔立ち。


堂々とした歩き方から上品さを感じる。


「あれが本物の御手洗家の令嬢か…」


「本物を見るのは初めてだな…」


周囲が注目するなか、ゆっくりと水晶に手を置く。


次の瞬間ーー


俺の視界が、強烈な蒼い光に埋め尽くされた。


「適合率S」


会場が静まり返る。


教官ですら目を細めた。


「御手洗 朱音、適合率S。ここまでとは驚いた。国家級戦力としては申し分はない」


「ありがとうございます」


教官に一礼しをし、そのまま席へ戻る。


その顔には感情はなかった。まるで適合率Sが当たり前のような表情だ。


会場はまだざわついていた。


「S……まじかよ」


「初めて見たぞ…!」


「国家級レベルって…スッゲェな」


誰もが興奮を隠せない。


それほどまでに適合率Sは特別で珍しいものだった。


新たな歴史を1ページを見たかのようなーー


俺は思わず息を呑む。


すごい場面に出会えたかもしれない。


「すごいね……」


隣で、花夏が呟いた。


いつも元気な花夏ですら、今は少し圧倒されている。


「あぁ。名家の令嬢とはいえ、これほどまでとはな」


そう。


正直別格だった。


今まで適合率Aの人は少なからずいた。黒須のAも十分凄かった。


だが、御手洗を見た前だと霞んで見える。


会場のざわめきは、まだおさまらない。


教官が咳払いをした。


「静かにしろ。まだ試験は終わっていない」


ざわめきが徐々に収まる。


そして再び名前が呼ばれていく。


「適合率C」


「適合率B」


「適合率E」


結果は様々だった。


そんな中ーー


「次」


教官が手元の端末へ目を落とす。


そして。


「大鳥 花夏」


「は、はいっ!」


花夏が元気よく返事をする。


周囲の視線は花夏に集まっていた。


身体適性検査A。


それに加え、明るい性格、可愛い顔ですでに目立っている。存在だ。


花夏は水晶の前に立つと、一度深呼吸した。


「よーし!」


そう気合を入れ、手を水晶にかざす。


するとーー


水晶が黄金色の光を放った。


光量は黒須と同量いや、それ以上かもしれない。


教官が一度目を擦る。


「適合率A」


また会場盛り上がる。


「またA以上だ!」


「身体適性検査Aで封印適性検査もAかよ!」


「いったい今年の新入生どうなってんだ!?」」


花夏は一瞬ぽかんとしていたが、


「やったぁーーーー!」


両手を大きく広げ喜びの感情を爆発させる。


その様子に何人かが思わず笑う。


会場には緊張した空気が流れていたが、少し和らいだ。


花夏は席に戻ってきてや否、開口一番に、


「見た!?見た!?」


と満面の笑みで語りかける。


「うん、見てたよ。流石だったな」


「えへへ。ありがとうー!」


まだ花夏の興奮は収まらない。


そしてーー


教官が下の名簿を見る。


「次」


なぜかその瞬間だけ、胸の奥がざわついた。


「舞鶴 蒼志」


俺の名前が呼ばれた。


俺は一度深呼吸をし、ゆっくりと立ち上がる。


周囲の視線が集まる。


だが、身体適性検査では平均以下並。誰も蒼志に注目している様子はない。


「そうちゃん、頑張って!」


隣で花夏が小さく応援してくれる。


「ありがとう」


頑張る要素なんてない。


ただ手を置くだけだ。


そう思いながら歩き出した瞬間ーー


来賓者客に座っている、一人の男が目を大きく開いた。


「まさか…」


男の表情が凍りつく。


「どうかしましたか?」


隣に座っている女性が不思議に思って声を掛ける。


「いや、そんなはずがない…」


男は蒼志の顔を凝視する。


忘れるはずがなかった。


十年前。


あの日。


燃え盛る街。


響き渡る悲鳴。


眼獣ガントに踏み荒らされる人々。


そしてーー


家族の亡骸の前で立ち尽くし、泣き叫ぶ一人の少年。


男は鮮明に覚えてある。


その少年の眼には絶望の光が映っている。


次の瞬間ーー


蒼い光が街全体を埋め尽くした。


それは一瞬だった。


空も。


陸も。


建物も。


眼獣も。


街そのものも。


全てを蒼い光が飲み込んだ。


そしてその光が消えた時、そこには最初から何もなかったように大地が広がる。


俺は、ギリギリ蒼い光の範囲外にいた。


生存者はほぼゼロ。


後に国家最高機密として封印された事件。


通称――


蒼光そうこう消失しょうしつ事件』


「まさか、あの少年が…」


男の額を、冷や汗がしたたる。


「生きていたのか…」


何も知らない蒼志が、水晶へ向かって歩いている。


男の手が震える。


俺は唯一あの事件を目の前で目撃した。


だからこそ、その危険性を十分に理解している。


もし再び暴走すれば。


十年前の比では済まない。


「止めろ!」


男は思わず立ち上がる。


「その検査を中止しろ!!」


静まり返っていた会場に、男の怒号が響いた。


      * *    *


「止めろ!!」


突然、来賓席の男が叫んだ。


会場の空気が凍る。


俺の足も一瞬止まった。


「その少年は――!」


男が俺を指さす。


「十年前の“蒼光消失事件”の中心にいた存在だ!!」


ザワっと体育館が揺れる。


「消失…事件…?」


「何言ってるんだあの人は?」


誰もその男の言っている意味は分からない。


だが男は続ける。


「奴は街を消した!人も、眼獣ガントも、建物もーー全部あいつが消した!」


会場の空気が重くなる。


「……は?」


俺はつい、声が漏れてしまった。


何言ってんだこいつは。


なんにも身に覚えがない。


何も知らない。


それなのに、その言葉だけがやけに引っかかる。


「そこまでだ」


突き刺すような声が割り込んだ。


教官が一歩前に出る。


「学園側でも身元確認は済んでいる。その件は学園の管轄外だ。発言を続けることは許さない」


「ふざけるな!こいつは危険なんだ。放っておくわけにはいかない!」


男が強く叫ぶ。


「警備係」


教官が短く言った。


その瞬間ーー


ガシッ。


男の腕が後ろから掴まれる。


「やめろ!まだ話は――!」


「退場処分だ」


抵抗する男を、強い力で強制的に連行していった。


会場には再び静寂が訪れる。


だが、明らかに空気は変わっていた。


会場全体の視線が俺に集まっている。


今はもう、誰よりも注目されているらしい。


だが、男の言ったことには、何一つ見覚えがない。


(……俺が、危険?)


そんなはずはない。


俺はただの、何もできなかった普通の人間だ。


そう思いながらも――


心の中にあるモヤモヤっとした気持ちが消えることはなかった。


「舞鶴蒼志」


教官の声が再び響く。


「検査を続行する」


俺は水晶の前に立つ。


そして再び、大きく深呼吸をする。


目の前には、静かに光る水晶。


ただ手を置くだけなのに…


それが今はとても緊張する。


指先が震える。


だが、置かなければならない。


俺には何も特別な封印シギルがないということを証明するために。


蒼志は心の中で覚悟を決める。


そうして、ゆっくり水晶に手を伸ばす。


何も起きないでくれ!と心の中で願いながら。


蒼志の手が水晶に触れた。


その瞬間ーー


何も起こらない……?


水晶は光らない。


揺れない。


反応もしない。


ただ、静かにそこにあるだけ。


「測定不能……?」


教官が眉をひそめる。


「故障か?」


教官はもう一度確認するように命令する。


「再測定しろ」


蒼志はその場に立ったままもう一度水晶に手を置く。


またしても何も起きない。


会場に流れる沈黙。


だが、次の瞬間ーー


ビィィィィィィ!


警報音が体育館全体に鳴り響く。


「異常検知、異常検知」


封印シギル反応、登録外」


「測定システムーー解析不能」


パキッ――


微かな音が響く。


水晶の表面に一本の亀裂が走った。


その瞬間。


今まで一度も表情を変えなかった御手洗みたらい朱音あかねが、わずかに目を見開いた。


「……ありえない」


小さく漏れた声は、誰にも届かない。


教官が固まる。


「んな……バカな」


会場の空気が凍る。


そして、蒼志ゆっくり手を離す。


誰も何も言わない。


ただただ、全員の視線が俺に向けられる。


教官が言う。


「ただいまの調査結果」


息を呑む。


「保留。舞鶴 蒼志ーー暫定指定コードーー規格外個体」


そして問う。


「お前は何者だ」


俺にはその明確な答えがない。


だから、今の俺の状況通り言う。


「ただの、男子高校生です」

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