↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿中】猫系女子は俺にだけ当たりが強い、たまに優しい。  作者: うにパスタ
第三章 いつか見た海、初めての夏祭り  
PR
96/163

3-22 きっかけ作り

「着いたーっ。あっつ!」

 中心部の駅からローカル線に乗って小一時間。目的地の水族館の最寄り駅に降り立った。

 この辺は湾に面した海岸線だ。熱を帯びた風は潮の匂いに満ちていて、夏の日差しが俺達を出迎えた。


「ほら、赤坂ちゃんも早くっ!」

 駅舎を出た竹浪さんは、諸手を大きく振って赤坂を呼びつける。肩とかヘソとか太ももとか見えている服で激しく動き回るので、周囲の大人達、主に男の人達が何事かと見ていて何とも恥ずかしい。


「竹浪さんのテンションの高さの源はなんなの……」

 赤坂は溜息混じりに言うけれど、楽しそうな笑顔。竹浪さんの後を追って歩いていく。

 駅の前は広場になっていて、左右には高層ホテルがいくつか立ち並んでいた。


「赤坂ちゃん。せっかくだし、二人で撮ろうよ!」

 スマホを片手に赤坂に駆け寄る竹浪さん。女子二人は遠くの海を背景に自撮りをする。

 彼女達のバックには海が広がっていて、そこには緑が生い茂った島が浮かんでいる。

 この温泉街の名所だ。ぐりとぐらの絵本に出てくるパンケーキみたいな、本当に綺麗なまんまるに膨らんだ輪郭は車で通るたびに窓から見えるので、子供の頃から印象に残っていた。

 ここはひなびた温泉街で東北の熱海とかいう異名まであるらしい。熱海がどれくらいすごい温泉街なのかはよく知らないけど、市街地からこの海岸線に抜ける時に見える青い海は感動する事間違いなしだ。


「早く行こうよ!」

「ちょ……待って、竹浪さん!」

 すっかり旅行気分の女子二人。夏の海と陽ざしをきらきら浴びながら笑顔満面で歩いて行く。

 俺もその後に続こうとするけど、隣にいる筈のもう一人がいない。


「工藤?」

 遅れて改札から出てきた工藤。既に表情は熱に当てられてグロッキー状態。


「言い出しっぺなんだから、工藤が仕切れ」

「でも、愛理のやつ、赤坂とばっか話してるじゃないか」

 工藤は不満げに俺を見上げながら言う。

 たった二両の電車内は乗客全員が座っても席に余裕がある程空いていた。その中で終始はしゃいで話し込んでいた竹浪さんと赤坂だけど、俺達野郎二人は対面から無言で眺めるだけだった。なあ、これ本当にダブルデートなんだよな。


「工藤だって、普段はずっと竹浪さんと話してるじゃないか。普段通りのテンションでいけよ」

「だああああっ。分かってるって! くそ」

 工藤はふるふると頭を振り、俺の前に出て歩く。


「とにかく水族館だ。行くぞ」

 ふと、遥か前方の赤坂が振り返って見ている事に気づく。

 赤坂も工藤の事情は知っているので、このやり取りを気に掛けているんだろう。


「何とか進展すればいいんだけどなあ」

 そんな事を思いつつ、俺も水族館へと向かった。




 水族館の入場口は家族連れやらカップルで長蛇の列になっていた。

 夏休みでもないのに、結構な盛況ぶりだ。


「しっかし、混んでるなあ」

 工藤もうんざり気味。思わずそんな口が漏れる。順番を待ちきれずバタバタと走り回る子供とそれを止める母親。どこを見てもそんなやり取りが交わされている。


「ここは昔から土日の家族連れの定番だったからね」

「え、おう。そうなのか?」

 いきなり赤坂が工藤に話しかける。


「この辺ってお年寄り向けの温泉、若者や家族連れは水族館に行くのが定番みたいな感じだけど、昔は遊園地もあったの。バブルの頃らしいけどね」

「へ、へえーっ」

 工藤が間の抜けた相槌を打つ。その顔には驚きと戸惑いが見えた。

 そりゃそうだ。赤坂は普段は工藤とは全く接点が無いのだ。話した事のない女子がいきなり饒舌に語りはじめたら俺だってビビる。

 つーか、バブルとか平気で口にするとか、赤坂は一体人生何周目なんだろうか。中学で上手くやっていたのも、その辺の二週目故の経験のお陰なんじゃないかとか妄想してしまう。


「な、なによ。一之瀬」

 俺の眼差しに気づいた赤坂が気前悪そうに咳払いをする。


「母親が言ってただけだし。小さい頃はそういう風に栄えていた街だったのよ。ここは」

 何も聞いていないのに弁解を始める。本当に郷土愛と青森県への造詣が深い奴だ。


「遊園地あったら、そっち行くんだろ? 愛理は」

「あったりまえじゃん。つーか、うちの親もそんな事言ってたっけ。観覧車とかジェットコースターあったんだって」

 竹浪さんが工藤と楽しそうに雑談を始めた。

 赤坂が工藤に話しかけたのがきっかけになったのかもしれない。それでも、さっきよりかは緊張は解けているみたいだ。

 土曜日というのもあってか、水族館内はそこそこに混んでいた。ウミガメ、ペンギンといった人気者の水槽は大抵家族連れが陣取っていて、なかなかじっくり見る事が出来ない。

 結局、俺達がまともに見る事ができたのは暗い熱帯の淡水魚ブースに入ってからだった。


「そう言えば」

 水槽に顔を近づけ、南米の色とりどりの魚を観察していたら、赤坂が口を開く。


「この水族館ってさ。ラッコいないのかな」

 こちらを見て首を傾げる赤坂。白色に照らされる水槽の光が瞳に反射している。


「ラッコ?」

「うん。小さな頃に来た時はラッコもいたと思ったんだよね。もういないのかな」

「ああ。確かに昔はいたような気もするな」

 この水族館は市内だけでなく県内の他の街からも客が訪れる。俺も小さな頃に家族と来た事があるけど、その頃は確かにラッコを見た記憶がある。


「今はいなくても、また見れるんじゃないの?」

 隣で見ていた竹浪さんが俺達の会話に入ってくる。


「確か、ラッコってナントカ条約で保護されてるんだよ」

「ゼツメツしそーってこと?」

 たどたどしい言い方で竹浪さんが首を傾げる。俺は頷いてそれに答えた。


「うん。条約に引っかかる貴重な動物だと、海外から持ってこれないんじゃないかな。だから今、日本の水族館で飼ってるラッコが寿命とかで死んじゃったら、それっきりだって聞いたよ」

 つまり、日本の水族館でラッコを見る事はできなくなるかもしれない。俺は赤坂、竹浪さんとそんな重めの話をしているのだが、工藤が入ってくる気配は無い。

 そうだよな。ラッコの話いきなりされても困るよな。


「えー。じゃあ、今日本でラッコ見れる水族館ってどこなんだろ」

 真横で居づらそうにしている工藤には気にも留めず、竹浪さんは俺の話に予想外に喰いつく。動物好き系女子なんだろうか。

 俺はおもむろにスマホを取り出した。混んでいるからスマホの電波が悪いのか分からないけど、いつもよりもわずかに長い読み込み時間を経てグーグ〇先生の結果が示される。


「ほら、今国内でラッコを見れるのは四つの水族館だけだって。三重と和歌山と、あとは――」

 そう言って三人にスマホ画面を見せた。誰も何も言わない。工藤は文字通り、言わずもがなだ。


「い、いかがでしたか……?」

 その沈黙に耐えられなくて、俺はページに表示された動物園を紹介する記事の最後を、そのまま読み上げた。


「生き物の事になると詳しすぎてきもい」

 三人を代弁するかのように、にっこり笑顔で赤坂が辛辣に言いきった。


「あはは。でも、調べてくれてありがとね、一之瀬」

 そう言って慰めるように竹浪さんが肩を叩いてくれるけど、これって多分引かれてるんだよな。

 次のコーナーに向かっていく女子二人。その後を追う工藤と目が合う。


「……何だよ」

 工藤はその横で笑いをこらえるように口許を緩めていた。

 今の俺の達のやり取りを見て何か感じる物でもあったのかな。


「それなら、工藤の方から話題触ってくれよ」

「笑ってないって!」

 そう言いながら俺達は赤坂達の後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。