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【改稿中】猫系女子は俺にだけ当たりが強い、たまに優しい。  作者: うにパスタ
第三章 いつか見た海、初めての夏祭り  
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3-21 主導権争い

久々の更新になってしまい申し訳ないです。


 結局、三人目が公園に姿を現したのは十分くらい過ぎてからだった。


「ごめん。メイクしてたら遅くなっちゃった!」

 手ぶらの竹浪さんがやってきて赤坂と俺に手を振る。動きやすそうな広めの裾のショートパンツ。上半身は肩だけ穴の開いたギャルみたいな緩い布地のシャツを着ている。(まあ、竹浪さんは俺からすればどう見てもギャルなんだけど)

 赤坂の前に来ただけでこちらまで柑橘系の香水が匂ってくる。どうしよう、早くも挙動不審だ俺。


「工藤君に連絡しても反応無いみたいだって」

「えー。あいつ寝てるんじゃない?」

 ベンチに座ったまま何も言えないでいると、赤坂の方が勝手に話を進めてくれる。

 竹浪さんはスマホを取り出すと鬼電を始めた。


「見てて。絶対、あいつ起きてるから」

 そう言って何度もかけ直しながら、十度目くらいの電話でようやく反応が見られた。


「ああ。舞人? 皆もう来てるから。あんたもすぐ来て」

 サバサバしているけど声のトーンが低い。もしかして怒っているんだろうか。

 俺と赤坂はスマホを耳に押し付けている竹浪さんをしばらくの間、見守る。


「今から支度するって。本当バカだね」

 竹浪さんがスマホを軽くタップして電話を終える。と、それまでの引き締まった顔つきがふわっと解ける。


「そーいえば赤坂ちゃん。この前の期末の数学。クラスで一番だったってマジ?」

「何で竹浪さんが?」

「千葉ちゃんから聞いた!」

 驚いたように顔を上げる赤坂に、竹浪さんは白い歯を見せて嬉しそうに笑う。

 その後、ずっと試験の点数の話をし始める女子二人。

 違うグループだから入ってこない情報もあるんだろうか。しきりに誰々が何位だったとか、そんな立ち話をしている。

 横で交わされる女子同士のトークを聞いて時間を潰していたら、ようやく工藤が現れた。


「ほんっとごめん!」

「――死ねッ」

 竹浪さんが明るい口調できつい一言をお見舞いする。

 本人はそこまで怒っていないっぽいけど、工藤はしょんぼりする。まあ、自業自得だ。

 工藤の見た目はラフなTシャツに膝下の短いズボン姿。

 休日の動きやすそうな服装だけど、俺よりずっとお洒落な部類だと思う。諌矢の影に隠れがちだけど、流石リア充グループに属するだけある。

 特に、工藤が履いている青と黄色のスウェーデンの国旗みたいな配色のランニングシューズは、スポーツ向けの軽そうな作りで、見るからに高そうだ。

 俺も買おうとしたけど、数万だったので諦めたブランドと同じやつ。

 工藤は俺の姿も見つけると、近づいてくる。


「一之瀬もう来てたんだな。結構待った?」

「帰る所だった。ここ暑いし」

 言った後で少しだけ申し訳なさそうにする工藤を見て、後味が悪くなる。


「悪い。言い過ぎたよ。ごめん」

「ううん、いいよ。一之瀬。言ってやって」

 竹浪さんは俺に加勢するけど、こういう事を面と向かって言えないのが俺だ。

 どうすればいいか分からず戸惑っていると、微妙な間を感じ取った竹浪さんがぽんと肩を叩く。


「一之瀬って腹黒いからね。きっと、心の中だと怒ってるよ」

「そうなのか?」

 工藤が慌てたように俺に問いかける。それを見た竹浪さんが一層楽しそうに笑う。


「ほらほら、こういう時くらい毒吐かないと、大変だよ?」

 冗談めかした調子で温かい言葉をかけてくれる竹浪さん。

 俺は気を取り直して、今も申し訳なさそうにしている工藤に向き直る。


「工藤……寝坊?」

「この公園で、暑さに耐え蓄えた一之瀬の『毒』がこの一言なの? こんなもんじゃないでしょ?」

 知ったような口で赤坂が指摘する。

 多分、俺が本音言えないの知っててからかってるんだろうけど、黙っててくれよ。本当俺に対しては容赦ない。


「……」

 工藤はじっと俺を見て、


「いんや。忘れて動画見てた」

 即答。てへぺろと舌を出してこつんとこめかみを小突いてみせた。


「工藤。それ男がやると駄目なやつ」

「やっぱり許さない」

 竹浪さんのツッコミに後押しされてみぞおちを小突く。工藤は変な鳴き声を出して笑う。


「うっは」

 楽しそうな表情を見た所、竹浪さん達も含めてそういうフリだったようだ。

 手を出した直後にそれを悟った。


「さ。行くよ! 野郎ども!」

 そう言って竹浪さんは女海賊みたいな口調で先導していく。

 何なんだろうな、このノリ。

 普段ならここまで深く関わらないクラスメートと今日は一日過ごす。自分が上手くやっていけるかという不安よりも、放心状態に包まれる。


「何してんの? 一之瀬。置いてくよ?」

 ちらりと振り返りながら言い放つ赤坂のキツイ一言。でも、その一言が何故か心強く感じてしまうのだった。





 公園を出て、駅までの道を歩く俺達。

 竹浪さんと赤坂が隣り合って前方を行き、その後を工藤と俺が続く。

 街路樹が並べられた歩道の縁石は所々崩れていて、道路沿いに並ぶ家々も、どこか年季が入っている。

 この辺の街並みは昔から続いている家が多いらしく、駅前なのに妙に古臭い。これが地方都市特有の問題、駅前の空洞化現象か。


「この辺って風晴の家もあるんだっけ?」

「そうだね。さっきの道路をもう少し行った先の新しめの住宅地だったよ」

 竹浪さんに聞かれて答えると、横の工藤が『へー』とか相槌を漏らしている。

 この前、桜川さんと三人で勉強会をやった賜物だ。

 バリバリの陽キャの竹浪さんと工藤。それに上手く順応できるコミュ力を兼ね備えた赤坂。いつもの俺ならこの面子に太刀打ちできず地蔵と化しているけど、今日はいい感じ。

 俺は人数が増える程コミュ力が減退していく特性スキル持ちだ。

 逆に人が少なかったり、初対面の相手だとどうでも良い事までべらべら話してしまう傾向がある。ソースは赤坂と初対面時の本音を言い合った会話。


「竹浪さんは自転車で来たの?」

「そうそう。うち二中の学区だから遠いんだよね。チャリは駅に置いて来た感じ」

 一方の赤坂は竹浪さんと仲良さげに雑談を交わしていた。どことなくその足取りもタップダンスみたいに軽く、別々のグループに属している間柄とは思えない。

 ぱたぱたすたすたと、軽やかな靴音がアスファルトを叩く。


「へえ。赤坂ちゃんって鷹越だったんだ。ね! あそこの中学の制服ってブレザーだっけ?」

 その横を通り過ぎていく運送会社のトラック。轟と排気音と共に、熱の塊が顔を打ち付ける。


「――じゃあ竹浪さんはセーラーだったの? なんかイメージと違う」

「あはは!」

 うだるような熱波が過ぎ去ったその後で、女子二人の楽しそうな笑い声が響いた。

 そこで俺は気づく。

 あれ、工藤は――?


「 」


 そうだったな。俺の隣にいたんだったな。

 工藤は前を歩く華やかな女子二人を死んだ魚のような目でぼんやりと追っている。


「どうしたの?」

 まさか、こいつも何かにつけて腹が痛くなる体質だったりしないよな。念のため声を掛けておく。

 しかし、返事がない。いつも須山と一緒にバカ騒ぎしている面影は皆無。


「なあって。どっか具合悪いの?」

「いや……そういう訳じゃないけど」

 工藤は俺に気づいて肩を揺らして笑うのだけど、心ここにあらずっていうような顔。そもそも口許が笑っていない。俺がよく教室で笑う時と同じ表情。


「なあ。もしかして、時間に遅れたの気にしてる?」

「それもそうなんだけどさ……」

 何故か浮かない顔の工藤。あれだけ竹浪さんを連れ出したいと言っていたのに。

 前を向いて歩く女子二人は本当に楽しそうだ。周囲を花柄のフレームが囲んでそうなくらいのズッ友オーラが出ている。ここまで簡単に打ち解けるって女子のコミュ力は本当にすごいや。


「なあ、一之瀬。この後、どこ行けばいいと思う?」

「えっ?」

 安堵していた所に思いもしないボディーブローみたいな一言。

 このダブルデート(俺と赤坂はカモフラージュ扱いだけど)の発案者の工藤は、他人任せ全開のムーブをかます。


「行きたい所があるから誘ったんじゃないのかよ」

「駅前でもぶらぶらしようかと思ってはいたよ。でも、よく考えたら定番の所だと、クラスの誰かと鉢合わせにならない?」

「西崎とか?」

 具体的な名前を挙げると工藤の顔が青ざめる。図星か。というか、こいつも俺と同じくらい西崎を恐れているのを知れたので、何故か親近感がわく。


「はあ……」

 工藤は溜息をしながら俺の横をとぼとぼと歩き続ける。

 リア充っぽいバンドのロゴTシャツに、脛を出した夏感のあるクロップドパンツ。見た目は俺よりも遥かに垢ぬけて見えるのに、ここまでの言動行動がどうにもパッとしない。

 普段は須山と二人で馬鹿やってるさしねえ(うるさい)のが工藤だ。本当なら、俺達三人を引っ張れるようなタイプの人間。


「ねえっ!」

 不意にスコーンと頭を叩き抜かれるような軽い一言。

 振り返りながらも歩は止めず、竹浪さんは続ける。


「ここまで来たのはいいけどさ。何すんの?」

 割と何の予定も無く、とりあえず顔出したみたいな言い方だ。赤坂はそういう誘い方をしたらしい。

「工藤」

 俺は本来ならこのメンバーに召集をかけた言い出しっぺ、工藤舞人に伺いを立てる。


「うーん。俺としてはだな……」 

 陽に透かされた栗色の短髪を掻きながら、工藤は何か言おうとする。


「一之瀬は? どっか行きたいとこある?」

 しかし、工藤の声があまりに小さかったのか、竹浪さんが被せるように俺を指名して聞いてくる。

 街路樹の木漏れ日を浴び、脱色された髪は淡い翡翠色に煌めいていた。首を傾げて返答を待つ仕草は可愛くてしょうがない。

 隣の工藤は黙りこくったまま。


 ――分かったよ。工藤が駄目なら、ここは俺が意思をはっきり示さなきゃ。

 このメンバーを引っ張って工藤を後押しするんだ。元々、これはそういう計画で立ち上げられた集まりの筈だ。


「俺は――」

「水族館」

 しかし、今度は赤坂が被せてきやがった。

 これだからコミュ障の会話は。さっさと口を開くべきだったんだ、工藤を笑えない。


「せっかくだし、いいでしょ?」

 赤坂がなおも重ねる。目を見ると割とマジだ。球技大会で全力投球してた時みたいに瞳の中が燃えている。本気で『自分自身』が行きたかったっぽい。


「えっ。赤坂ちゃん水族館行きたいって本気だったんだ」

 竹浪さんは赤坂の要望を事前に知っていたような言い方。困りつつも楽しそうに微笑んでいる。あくまでも冗談として受け取っていたらしい。


「でも、ちょっと待ってよ。水族館って遠くない?」

 俺は工藤をチラ見しながら二人に意見する。これに乗ってこいと目線で促すけど、工藤は何も言わない。

 頼むから会話に参加してくれ。何で俺がキャラに反した言動を繰り返してるんだろう。


「ここからだと電車使うし……?」

 俺は()()()()と言い続ける。

 常日頃の俺なら黙って成り行きに任せるしかないけど、工藤を何とかせようと必死なのだ。

 ギャルの竹浪さんと果てしなくギャルに近い気質の赤坂に意見し続ける。


「まー確かに。かなり距離あるかも」

 赤坂もそれは十分承知なのか、俺と工藤見て今一度自分の考えを改めているようだった。

 ちなみに、水族館がある海沿いの町までは、電車で小一時間程かかる。

 工藤はすぐ横の街路樹から垂れ下がった枝葉をつまみながら、例の如く何も言わない。おいこらまだ伸び始めたばかりの若葉を千切るんじゃない。


「私はいいかな? って思ってて、竹浪さんに話してたんだよね」

 いつもとは明らかに違う様子の工藤を一瞥しながら、赤坂は小さく頷いた。


「まあ、一之瀬達が近場で良いなら、私は大丈夫だけど」

 その異様さが赤坂にも伝わったのだろうか。俺の提案に同調してくれる。

 ついでに言えばツーサイドテールを垂れ込ませるように半身を傾けていてあざとい仕草。こうやって見ると、本当正統派系美少女の皮被ってるなこいつ。


「ううん! それ良いかもっ!」

 しかし、竹浪さんはふるふると首を振って、


「赤坂ちゃん行きたいんでしょ? なら、遠慮なんてしなくていいし! せっかくだし行こうよ!」

「「え」」

 これまでの流れを全てぶった切る竹浪さんの一言。

 思いもよらぬ展開に俺だけでなく、工藤も流石に反応を見せる。


「瑛璃奈とか美由たちと遊ぶ時っていつもショッピングメインだったし。水族館なんて絶対行かないから逆に新鮮で面白いかも!」

 額を出した爽やかな笑顔が眩しい。竹浪さんが振り向いて完全に立ち止まると、その反動でポニーテールがぶわっと揺れた。


「一之瀬達もそれで良いっしょ? 」

「俺は……」

 もう一度だけ工藤を見るのだが、やっぱり反応は無い。

 別に俺自体目的があって顔を出した訳でもない。竹浪さんが行く気満々で、赤坂も行きたかったというなら反対する理由も無い。


「まあ……いいんじゃないかな」

 小さく肺から息が漏れ、張り詰めていた肩の筋肉が降りる。


「水族館なんて小学校の遠足以来だし、いいかも」


 ――な、工藤もいいだろ?

 俺は合図するように工藤の肘を小突く。


「お、おう。そうだな」

 工藤はこれ以上無いコミュ障の呪いでも受けたような顔で頷く。

 駄目だこいつ、早く何とかしないと。


「そーいう事で! はやくいこ!」

 そう言って竹浪さんは走り出す。くしゅっとさせた短いソックスからくるぶしを見せながら、陸上のスタートダッシュ並みの早さだ。


「悪いな、一之瀬」

 数馬身ほど女子に離されたところで、工藤が再起動する。


「俺もプラン……考えてはいたんだけどな。愛理に押し切られちまった」

 そう言って、捨てられた猫みたいな目で俺を見る。


「じゃあ、プラン変更だな」

 俺は労う気分で工藤の肩を叩く。しゃーない切り替えて行けってやつだ。


「すまん」

 それに頷いた工藤は、意を決したように歩き出す。

 俺はそれを笑顔で見送りながら心の中で呟いた。


 ――ああ。俺には何もかも分かってる。

 多分、工藤のプランはノープランって言うシロモノなのだと。


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