京街散策 弐
八兵衛の反物屋で、朱音の新たな服の布地を購入して帰った 2日後。
今度は衛実・朱音・弥助の面々で、弥助の知り合いの仕立て屋を訪れる為、一行は祇園へと向かっていた。
「なんとなく、不思議な気分じゃ。衛実とは共におることが多かったが、弥助も一緒なのは、中々新鮮じゃな!」
道を歩きながら、朱音は少し楽しげに話し始める。
それを聞いた弥助も、首を縦に振って同意を示した。
「そうだねぇ。あっしもこうして衛実と並んで歩くのは、久しぶりだぁ。」
そして、茶化すような顔で衛実の方を向いて話しかける。
「ほらぁ、衛実もそんなに間を空けないでぇ。恥ずかしがらなくてもいいんだよぉ?」
衛実は、若干眉をひそめながら弥助の方を一瞥し、すぐにまた明後日の方へと顔を向けた。
「だからさ、弥助はいつまで俺の保護者気取りなんだよ。そんなに俺たち関わり深くねえだろうが。」
衛実の口調はどこか不機嫌そうと言うか、居心地悪そうというような感じである。普段の 2人の会話から受けた印象にしては、今の状況が上手く飲み込めない朱音は弥助に尋ねた。
「弥助は、何か衛実の弱みでも握っておるのか?」
「う〜ん? あっしとしては、そんなことはないつもりだよぉ。衛実とは、いつだって対等な立場さぁ。」
飄々とした顔で請け負う弥助。すぐさま衛実のツッコミが入る。
「んなわけねえだろ。お前はいつも報酬をかさに、仕事の主導権を握るじゃねえか。そんなのが『対等』なわけあるか。今だって、どんな無茶振りがあるのか気になってしょうがねえんだ。」
「やだなぁ衛実、そんな事ないだろう? 朱音ちゃんに変な事を吹き込むのは辞めてくれないかい?」
口調の割には、やけに引っかかる笑みを顔に浮かべる弥助が衛実をじっと見つめる。
「…おい弥助、そんな見えすいた笑顔なんて作るんじゃねえ。目が笑ってねえぞ。」
「衛実、嘘は、良くないよ?」
弥助の発する圧に、衛実は「おっかねえやつ…」と捨て台詞を吐いたきり、それ以上言い返すのを諦め、今まで2人のやり取りを黙って見ていた朱音も、何となく弥助は敵に回さないようにしようと心の内で決めた。
それから他愛もない話を繰り広げている内に、一行は目的の仕立て屋に辿り着いた。
朱音が仕立て屋に身体のサイズを測って貰っているのを、衛実と共に眺めながら、弥助はおもむろに口を開いた。
「……特に言う必要もないとは思うけど、朱音ちゃんの体つきは、あまり戦闘向けじゃないねぇ。」
弥助の隣で、同じく朱音を見守っていた衛実も頷く。
「そうだな…。あいつは今まで戦った経験がない。生きる術を少しは身につけてるみたいだが、あれじゃあ、いつか戦場で命を落とす。どうしたもんか…。」
「いつか鍛えないといけないかもねぇ。良かったら、あっしが紹介しようか?」
「お前にそんな当てがあったのか? ホントにお前って奴は、一体全体、何者なんだよ。」
弥助の思いがけない提案に、衛実は驚きと共に、改めて『弥助』という人物の底知れなさに小さく身震いした。
そんな衛実を知ってか知らずか、弥助はどこかとぼける様子で答える。
「ただのちょっと顔の知れた商人だよぉ、あっしは。それで、紹介は要らないのかい?」
「いや、せっかくだから頼もう。ちなみにそいつは男か?」
「『涼音』っていう女の人だよぉ。でも、舐めてかかると返り討ちに合うかもねぇ。」
「お前にそこまで言わせる人物なのか…。世の中、知らねえ事ばっかりだな。」
「そうだよぉ。世の中は広いもんなのさぁ。
あ、でも衛実も朱音ちゃんも、まだ本調子じゃないだろう? さっきの話は、衛実達の怪我が治った後にしようねぇ。」
弥助は衛実の身体を一通り見ながらそう言った。
実際、衛実の身体には、所々包帯が巻かれており、初めに比べれば大分減ったとはいえ、まだまだ本格的に戦える身体ではない。
衛実もそういったことに関しては、きちんと認識しており、決して無理はしないと心に決めていた。
その上で、改めて弥助に念を押す。
「そうだな。だが弥助、絶対に無茶な仕事だけは振ってくんなよ。流石に断るからな。」
すると弥助は、『悪い大人の顔』で衛実を覗き込んで、意地悪くからかいだした。
「おっとぉ、それは何かのフリなのかなぁ?」
「勘弁してくれよ…。」
引き気味な顔を浮かべる衛実を見て、それ以上いじるのを辞めた弥助は、笑いながら手をヒラヒラとさせて話題を変える。
「冗談だよぉ。
ところで、この前の反物屋さんを覚えているかい? あそこから仕事の依頼が来てるから、任せたいと思っているんだけど、どうかなぁ?」
『冗談』と言われても、素直に飲み込めない衛実は、一応、仕事の内容を確認する。
「なあ、それはこの前みたいな危険な仕事じゃないんだよな?」
「大丈夫だよぉ。
多分だけど、向こうの仕事内容は、お店の用心棒って感じだと思うし、あっしも八兵衛さんの人となりには、ある程度、信頼を置いてるからねぇ。
万が一、衛実と朱音ちゃんが危ない目に合いそうなら、あっしが止めることを約束するよぉ。」
弥助の口から『約束する』という言葉が出たことに、衛実はいくらか安堵する。そして、反物屋の主人に少なからず『借りがある』という意識もあってか、その仕事を受けることを弥助に伝えることにした。
「分かった。それじゃ、八兵衛さんに伝えといてくれ。『明日にでもやらせてもらう』ってな。」
「了解ぃ〜。後でしっかりと伝えておくよぉ。」
そうして仕事の話が一段落した所に、服の採寸を終わらせた朱音が帰ってきた。
「衛実、弥助、ただいまなのじゃ。」
「おう、おかえり朱音。何か変わったこととかはあったか?」
「大丈夫じゃ、特に何の問題もない。
あ、じゃが一つだけ頼みがある。せっかく測ってくれたのじゃが、服の大きさを今のわらわの身体よりも若干小さめに作って欲しいのじゃ。」
「ん? それはどうしてだい?」
朱音の要望に疑問を抱いた弥助が、その理由を聞き出す。衛実も同じように思ったが、すぐに合点がいき、朱音のフォローをし始めた。
「あれだ、弥助。
こっから先、朱音が前みたいな討伐任務を俺と一緒にやるってなった時に、今の背丈に合わせると動きずらいだろ?
戦闘で動きが拘束されんのは致命的だ。
だから、いざという時のために、小さく作った方がいいと俺も思う。」
本当は、朱音が素の姿、いわゆる『鬼』の姿になった時に、少しばかり身体が小さくなるので、服が大きいと動くのに邪魔になるのである。
だがもちろん、朱音の正体なんてことは衛実も朱音も口が裂けても言えない。
「ああ、なるほどぉ。確かにそうだよねぇ。ごめんねぇ朱音ちゃん。あっしの考えが至らなくてぇ。」
「大丈夫じゃ。では、わらわの頼みを聞き入れて貰ったという事で良いのじゃな?」
「任せてぇ。あっしが言ってくるよぉ。朱音ちゃんはここで衛実と一緒に待っててねぇ。」
そう言うと弥助は、仕立て屋の主人に話をつけるべく、奥へと向かって行った。
弥助が納得してくれたことに、胸を撫で下ろす衛実と朱音。
「弥助が話が分かる者で助かったのじゃ。」
「ああ、そうだな。でもあいつの勘は鋭いからな。気をつけろよ。」
「そうじゃな。」
2人が互いを向き、確認し合うように頷いた所で、弥助がこちらの方に戻って来た。
「お待たせぇ、2人とも。店主さんに、朱音ちゃんの注文を聞き入れてもらえたよぉ。
出来上がるのは、また後になるみたいだから、その時はあっしが受け取りに行くからねぇ。」
「それは良かった。ありがとうなのじゃ、弥助!」
「いいんだよぉ。朱音ちゃんの為なら、あっしはなんでもするからねぇ。」
朱音には、甘々な態度を取る弥助を面白がった衛実は、今までの仕返しをするかのように茶化し出した。
「その言い方だと、俺には何もしてやらないっていう風に聞こえるのは気のせいか?」
衛実の嫌味に、どこ吹く風といった様子で切り返す弥助。
「ひねくれて素直じゃない衛実には、やってあげないもんねぇ。前みたいに素直になるんだったら、優しくしてあげてもいいけどぉ?」
「やめろ気持ち悪い。」
衛実が本気で嫌そうな顔をした所で、やり返しに満足した弥助は、話を切り上げるようにパンっと両手を合わせる。
「さて、用事も済んだことだし、今日はもう帰ろうかぁ。それとも、2人はまだ他にやる事があるかい?」
弥助の問いに『特にないな』、『わらわもないぞ』と答える2人。
「じゃあ、途中で美味しいものでも食べて帰ろうかぁ。朱音ちゃん、何か食べたい物はあるかい?」
「そうじゃな……。」
朱音があれこれと悩んでいるのを衛実と弥助が優しく見守りながら帰途に着く。それはまるで父・兄・妹が仲良く休日を過ごしているかのようで、とても微笑ましい光景だった。
ありゃ?気づけば4月ももう終盤?こんばんは。
どうも、流れゆくモノです。
というわけで、なんと1ヶ月空きました。本当にごめんなさい。もしかすると、もう読んでくださっている方もいらっしゃらないかも知れませんね。
自分でも、ここまで間隔が空くとは思ってませんでした。中々ヤバいですね…。言い訳にはなるのですが、やっぱりここ最近、新年度を迎えるであったりとか、ラノベ小説大賞とかに申し込みしようとかでゴタゴタしていた所がありました。
なので今後は、今までの反省を踏まえて、自分が出来る範囲の中で活動していこうと思っております。
前の話の後書きでも書きましたが、自分はこの物語を最後まで書き続けていくつもりですし、決してエタらないように致します。
ですので、この「鬼と傭兵の物語」を呼んでくださっている読者の皆様、出来れば最後まで見放さず、お付き合い頂けると幸いです。
長々と書く形にはなりましたが、読者の皆様、どうか今後ともよろしくお願い致します。
【ps.皆様、お身体の健康には、重々お気をつけくださいませ。大丈夫です。いずれ必ず、また元の日常に戻る時が来ます。その日を笑って迎えられる為にも、今は自分を大切になさって下さい。】




