第7話
心が踊る。こんな感覚は初めてだった。一つの攻撃を当たるだけで致命傷となるだろうという強敵との戦い。ここが俺の”生きてる”感覚を手にすることができる唯一無二の場所であると感じた。顔のニヤケが止まらない。止めることは出来ない。死を常に感じることができる喜びがここにある!
「楽しいな! 魔王!」
「驚いたな……ここまで人間に押されるとは……だが!」
ドラゴン化した魔王はブレスで俺を牽制する。そんなことを気にせず、刀で左右に斬り流しながら突進し続ける。魔王はそれを見たのか、人型に戻り刀を受け止める。
「くっ……」
「どうした、魔王! 先の戦いで消耗したか!」
競り合いになるが、魔王が競り負けて俺の攻撃が止まらない。右から左から刀を魔王の体へ致命的なダメージを与え続ける。この感覚は不思議で既に体は限界を超えているはずなのに、研ぎ澄まされている。相手が取ろうとしている行動が自分の手のひらにあるような感覚に陥れる。
危険だ。
相手は魔王。そして、俺自身が極致を目指すなら、この感覚に陥ってはいけない。この感覚は、堕落へ導く人間の本能だと思った。俺は魔王を吹き飛ばして、距離を取る。
眼前に敵がいる。その姿を目に焼き付け、目を閉じる。
自然と体が動いて、納刀し右足を前に左足を引き、中腰になって刀の柄に手を添える。
目で追わず、耳で追わず、攻撃の気配だけで敵を潰す。
目を開けば、玉座の間は外から丸見え。赤い月と吹き荒れる暴風。その先に玉座の間の最後の壁とも言える部分に魔王は倒れていた。遠目でもわかる程の傷だった。右脇腹から左肩に向かって斜めに斬り上げられた刀傷だった。
魔王に向かって歩き、魔王の側に立って見下ろす。
「見事な技と力だった……」
「そうかい」
その言葉の応酬にはなんの意味もなさない。ただ俺は魔王の言葉に耳を傾けていた。
「勇者と英雄、騎士によって倒されない限り、儂は死ぬことができないということか。お主との戦いは無駄だったようだの……もう傷が治りかけている」
その言葉を聞き、魔王の体を見る。確かに魔王の体の傷は治りかけている。しかし、治りが異常に遅くなり始めていた。
「確かに致命傷は治った。そこからはあんたの生命力次第だろうさ」
壁に足をかけて、飛び降りようとする。しかし、魔王はつぶやくように言った。
「殺さんのか」
俺は体の重心が前に進んでいた。そして俺は伝える。
「必要悪なら突き通せよ。世界はお前を必要としてるだろ」
そう言いながら、重力に身を任せて落ちていく。勇者と英雄、騎士とはここでお別れ。ここからはもう俺の自由。俺はオメーらのように世界平和は望んじゃいない。世界平和なんぞできるはずない。俺は精々、武の極致と機工の極致を目指してひた走って、死んでいくさ。
「出逢えば、戦うことになるだろうな。その時まで、強くなれよ勇者様」




