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三.塔の内にて

 さて、蕎麦も食べ終えたことで、サスケとサイゾウは塔へと戻ってきました。

 やはり、塔は氷漬けで雪が降り続けます。

「サイゾウ、あの塔のてっぺんを見てみろ。窓が一つだけ凍っていない」

「ああ、しかしあれほどの高さでは鉤縄も届かない。壁面は完璧なこおりで忍法雪苦無を使っても刃が立たず登りきれぬのだ」

「なあに、任せろ。サイゾウ、窓に向かって鉤縄を投げるんだ」

 サイゾウは言われた通りにとても長い長いロープの先にくくりつけた鉤を投げます。

「蕎麦を食べて体が温まった今なら使えるぞ、それ。春忍法東風こちかぜ!」

 サスケが何やら呪文を唱えると、なんと、足元から空に向かって強い風が吹き、宙に投げられた鉤がぐんぐんと風に乗って上へ上へと行くではありませんか。

 ちゃきん、と音がして。鉤爪は窓にしっかりと食いつきました。

 サイゾウが驚きます。

「しめた、これでロープを伝って塔へと入れるぞ。しかし春風を呼び込む忍法とはすごいものだな。春の里の忍者は皆こんなことができるのか?」

「いいや、平和な世の中だから、こんな忍法の修業をする変わり者はおいらくらいだなあ。でも、その変わり者が役に立ったというわけだな」

「よし、塔を登ってるのが目立たない様に忍法雪迷彩だ」

 と言って、サイゾウが雪を拾ってサスケに塗りたくります。

 しかし、全然冷たくありません。

「おういサイゾウ。体中が雪で真っ白なのに、冷たくないぞ」

「そういう忍法だからな」

「冬の里の忍者は皆こんなことができるのか」

「いいや、平和な世の中になってしまったから、このような忍法は数えるほどしか使えなくなってしまった。心もとないことだ」

 そうして、二人はロープを伝って塔を登るのでした。

 流石は二人とも忍者ですので、すいすいひょいひょい塔のてっぺんまで来てしまいます。並の者ではありません。

「サスケ、お前は忍法が使えない忍者が増えていることをどう思う?」

「それは平和な証だな、着いたぞサイゾウ」

 二人が窓を壊して中に入ると、そこは外よりもとても冷たい部屋でした。

 見渡すと、どうやらここが祈祷の間のようです。

「なんだいこの部屋は。これなら外の方がまだマシだ」

「むむむ、女王様は御無事だろうか」

 すると、部屋の奥から、きれいな透き通った声が聞こえました。

「その声は、サイゾウですか?」

 声のした方を見ると、それはそれは綺麗な女の人が立っていました。少しやつれて、肌も冷え切って白いですが、それでもとても綺麗な人です。

「ああ、女王様御無事でしたか、よかった」

 その人が、冬の女王様のようでした。

「おお、この綺麗な人が冬の女王様なのかい、随分と綺麗な人だなあ」

「こらサスケ、女王様に無礼な口をきいたら許さないぞ。だ。お綺麗なばかりでなく、とてもお優しいのだぞ」

 サイゾウはまるで自分のことのように女王様を自慢します。これだから顔のいい男は困ります。

 サイゾウはころころと顔を変え、とても心配そうに女王様にたずねます。

「女王様、何故塔の中に閉じこもり、冬を終わらせないのですか? ああ、こんなにお肌が冷え切ってしまって、このままではいくら冬の女王様でもお風邪を引いて倒れてしまいます。里の姫様も大変心配しておられるはずです。早く里に戻って不思議の国の皆を安心させてあげてくださいませ」

「そうだぜ、女王様。そうでないとおいらも家に帰ってごろごろできないんだから」

 サスケも余計な事を言って説得に努めます。

 しかし、女王様は哀しげに顔を横に振るのです。

「それはできません。私がこの城から出られないのには、わけがあるのです」

 女王様は告げます。

「私がこの祈祷の間に入り、秋の女王と交代して御祈りを始めてしばらくして、部屋の中に置き手紙があったのです。私の娘である冬の姫を誘拐した。命を助けて欲しければ、部屋の外に出るな、と。私には、それが本当のことなのかわからぬ私は、言うことをきくほかなくこの部屋の中から出られませんでした」

 なんということでしょう。

 人質を取られていたと言うのです。

「そうして、どうすればいいのかわからずにいる内に、どんどん寒くなってしまい、扉まで凍ってしまったのです。今までこんなことはなかったけれど、冬が長く続いてしまったからでしょう。私は、どうすればいいのかわからず。この部屋の中で姫のことを案じるので精いっぱいで」

 やっと人に告げることができて安心したのか、おいおいと泣きだす冬の女王様。

 サイゾウはかんかんに怒ります。

「なんと、そうだったのか?! 誰だか知らんが姫様をかどわかすとは、ずっと塔の警備にいたためとは言え、里のことに気付かないとは不覚。おのれ」

 さらに。

「ということは、そんな置き手紙をした秋の女王が犯人に違いないな! 勘弁ならん、忍法雪刀の錆にしてやる」

 もう犯人も決めつけています。

 サスケが言います。

「おいおいサイゾウ。少し落ち着いて考えてみろ。本当に冬の姫様が誘拐されたのなら、今頃里は大騒ぎのはずだろう。特にお前のように忍法のうまい忍者にも教えないなんておかしいだろう」

「むむ、それはそうだが」

「まずは、姫様が本当に誘拐されたのか確かめてからでも遅くはない。姫様さえ無事なら、女王様も塔を出られるし、冬も終わってばんばんざいだ」

「そうだな。ようし、姫様をお助けに行くぞ」

「そういうことだ、行こう」

「来てくれるか」

「行くとも」

「行こう」

「行こう」

 そういうことに、なりました。


 心配する女王様を励まし、二人が塔を降り、まずは冬の里に行こうとしたときです。

 太いしゃがれた声が聞こえました。

「見たぞサイゾウ。よその里の忍者を塔の中に手引きするとは、何を考えている」

 二人が声のした方を見ると、そこにはたくさんの冬の忍者達。

 そしてその真ん中に、一番年寄りの忍者がいました。

 この人が冬の忍者頭領です。

「おかしら様、聞いてください。今冬の女王様に会って話を聞いてまいりました。女王様が外に出られぬのにはわけがあったのです。全ては姫様を誘拐した何者かが仕組んでいるのです」

「何を言う、姫様が誘拐されたなどという話は知らないぞ。それにそやつは春の忍者だな? お前はいったい何をしていた! ええい、二人とも怪しい。捕まえてしまえ」

 頭領の命令で、冬の忍者達が一斉にサスケとサイゾウに飛びかかります。

「みんな、待ってくれ。話を聞いてくれ……。ええい仕方ない。サスケ、ここは俺がおさえるからお前は冬の里の姫様が無事かを確かめてくれ」

「おいらがか?」

「お前がだ」

 こういう時、忍びは迷ったり躊躇はしません。

 そう、信じられる友達かどうかも、迷わないのです。

「わかった任せろ!」

 サスケはまるで風の如く走り去って行きました。

 サイゾウはそれを見送ると、仲間に押さえつけられました。

 流石に、仲間相手に冬忍法は使いません。

「おかしら様、どうか私の話を聞いてください」

 懇願するサイゾウに頭領は言いました。

「いいや、サイゾウ。ワシの話を先に聞け」



 

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