四.冬の里にて
さて、サスケはあっと言う間に冬の里にまで来てしまいました。
やっぱり忍者は走ってナンボですね。
「さあて、冬の里に来たのはいいけれど、おかしいな。誰もいないぞ」
冬の里は、冬の静けさ厳かさを形にしたような落ち着いた里でしたが、人の気配が全くしないというのもおかしな話です。
「とりあえず、冬の姫様のいそうなところへ行ってみよう」
まずは里の女王様の屋敷を目指します。
歩いていると、サスケは驚きました。
人が倒れていました。
「大丈夫か?!」
と慌ててかけよって、さらにびっくり。
なんと、人が氷漬けになっているのです。あの、冬の塔のように。
「なんということだ。冬が長すぎて、元から寒い冬の里の人々までカチコッチになってしまったのか」
流石のサスケもシリアスにならざるをえません。
「早く姫様を探して冬を解かねば、この国中が氷漬けになってしまう」
走る足を速めます。
屋敷に到着し、一番偉い人がいそうな部屋を開けてみますが、凍っている人はたくさんいますが姫様らしい人はどこにもいません。
そもそも姫様の顔を知りませんが「まあ、あの女王様の娘なら、息も呑むような大層な美人だろう」とあたりをつけていましたから。
「さて困ったぞ。どうやら本当に姫様はいないらしい。もし誘拐されたとして、誰がそんなことをするというのか。冬がずっと続いて得をする者などいるだろうか? 国中が雪に包まれて得をするのは、冬忍法を使う冬忍者くらいではないか」
そこまで独り言をいって、背筋が凍りました。
「ふふふ、どうやら気付いたようだな」
太い、しゃがれた声が聞こえて慌てて外に出ます。
雪のしんしんとふる庭園のど真ん中に、冬の忍者達がたくさんいました。
そしてその真ん中に、一番年寄りの忍者が一人。
「まさか我々の追跡を振り切ってしまうとは、大層な足の早さではないか。春忍者」
サスケは、友達の姿を探しましたが、サイゾウはいませんでした。
「サイゾウは……どうした。まさか、殺したのかい」
「殺さんよ、あれほどの手練は、味方に引き込むに限る」
「やはり、姫様を誘拐したのはお前達なのか?」
「その通りよ」
「忍者が自分の主筋を誘拐するなんて、意味がわからないなあ。そんなことをしても戦争なんて起きないぞ」
頭領は驚きました。
「ほう、わかっていたのか。ワシらの狙いが」
「この国を雪だらけにしても、得するのは冬忍者だけだからなあ。そうして雪忍法でこの国を乗っ取ろうってんだろう。生憎だがからくりがばれた以上、企みは終わりだ。女王様に行をやめてもらえばすべて済む」
「生憎だがそうはならん。冬姫はもうじき死ぬ。かわいい娘が死ねば、女王は塔から出てくることなどできなくなるだろう」
「姫様はどこだい」
「くっくっく。今頃カチコッチンになっているだろう。そしてその姿を見て、女王は絶望する」
「……ま、まさか」
「そうよ、姫はあの大念塔の中におる。この世で一番寒い、塔の中よ。一つだけ中と行ききできる隠し出口から、中に放り込んでやったわ。くっくっく」
「女王様への脅迫状もそこから仕込んだのか。なんてことを」
「そして、もし女王が塔を出ようとして祈祷の間を抜けても、まず眼に入るのは凍死した己の娘の姿。己が念法で死んだ娘をみれば、いかな女王とも最早塔から出る気もおきず、この世は氷雪で覆われる。国は痩せ枯れ、混乱につつまれる。斬り裂かれぼろぼろになる。くっくっく。これこそが、最大の忍法、雪姫無惨剣の術なり」
そしてドヤ顔を放つ頭領に、サスケは無表情に訊きました。
「何のためにそこまでして世の中を悪くしたい」
「決まっている。忍者が忍者らしく生きられるのは、争いのある世の中だけ。お主とてそうだろう。このようなことがなければ、必死に修練して得た忍術を使うことはなかったのではないか」
「まあ、それはそうだが、な」
サスケは続けます。
「サイゾウは、納得したのか」
「噛むも何も、先ほどお主がいなくなった後、話をきかせてやると、喜んで姫を塔の中に放り込んだわ。あの男もまた、己の才能を発揮できる世の中を望んでおる」
「なるほどなあ」
すると、妙にすっきりした顔をします。
「ところでさ、冬忍法に本物そっくりの雪人形を作って騙す術とか、ある?」
「何を……! まさか、あ奴!」
しかし、頭領だった男は最後まで台詞を言えませんでした。
その前に、積もった雪の中から影が一つ飛びだしました。
それは雪姫様を小脇に抱いたサイゾウで、彼の放った冬忍法雪百手裏剣の術によって、冬忍者頭領はめった刺しになったからです。
そして、周りにいた連中も巻き添えをくらって、全員やっつけられてしまいました。
「サスケ、無事か」
「ああ、無事だ。やはり、塔の中に放り込んだのは姫様の姿を真似た雪人形か何かだったのか」
イケメンの小脇に抱えられたお姫様はそれは大層綺麗な女性でしたが、気絶しているようです。
「しかし、サイゾウ。お前こいつらとは一緒に忍者として忍法使い放題の世界を望まなかったのか」
「そんなもの望んでどうする」
さらっとサイゾウは言いました。
サスケは、本当はちょっと悩んだことは黙っていることにしました。
「とにかく、早く冬姫様の無事を女王様に教えて差し上げ、冬を終わらせねば。寒くてかなわんよ」
サスケは誤魔化すように踵をかえそうとして。
忍者頭領だった男の体が、雪でできた偽物であることに気付きました。
「むむむ、これは冬忍法雪分身の術?! まさか、逃げたのか」
「サイゾウ、お前は早く女王様のところへ! 決着はこの春飛サスケがつける!」
脱兎のごとく、サスケは駆けました。




