伯爵令嬢は、公爵邸の維持費の方が気になる
そして、運命の土曜日。
ヒルダはローゼンベルク公爵家の迎えの車に乗り込んだ。
「手土産は持ったか?」
「はい。」
「お前の事だから、心配はしていないが……。
粗相のないように。」
「かしこまりました。」
「しっかりと事実のみを伝えなさい。」
「はい。」
クロードに見送られ、ヒルダはローゼンベルク公爵邸へ向かった。
(………うわっ!豪邸……。田園調布とか芦屋の高級住宅街よりデカい……。)
公爵家の広大な敷地面積に、ヒルダは圧倒されていた。
やがて車は、本館の車寄せに停車する。
運転手がドアを開けてくれたので、そっと降りると、1人のメイドが出迎えてくれた。
「ようこそ、おいで下さいました。ハワード伯爵令嬢。」
「こ、こんにちわ……。」
「こちらへ。お嬢様がお待ちでございます。」
「よろしくお願いします。」
案内役のメイドの後ろを澄ました顔で歩いているが………。
(固定資産税、エグそう……。億はいってるなぁ……。資産価値幾らぐらいかな?)
銀行員ならではの事を考えていた。
渡り廊下を抜けると、植物園でしかお目に掛かれなさそうな温室へと入った。
(お屋敷だけじゃなくて、温室まで……。
これだけの規模のお屋敷を維持するなら、使用人の人件費と修繕費も相当なものやなぁ。
公爵家の年間維持費って、いくらぐらいなんだろう?)
完全に職業病である。
「ヒルダ・ハワード伯爵令嬢をお連れいたしました。」
メイドの声に我に返ったヒルダは、慌てて姿勢を正す。
「ヒルダ嬢、ようこそ。」
レティシアが穏やかな口調で、ヒルダを出迎えた。
ヒルダはカーテシーをし、レティシアに挨拶をする。
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。」
「そんなに緊張しないで。学年随一の才女と名高いヒルダ嬢とは、一度お話したかったのよ。
さぁ、座って。」
「失礼します。」
顔を上げて、テーブルに視線をやる。
レティシアの側近であるアリスと、レティシアによく似た超絶美人が居た。
(…………まさか。)
ヒルダの背中に冷や汗が伝う。
「ようこそ、ヒルダ嬢。レティシアの母のパトリシアです。今日はゆっくりしていってちょうだい。」
「お招きいただき、光栄にございます。」
澄ました顔で挨拶するヒルダだが…………。
(ああああーーーー!!お母様出てきたよぉぉぉ!!なんなん!?私、もう既にやらかしたぁぁ!?)
内心、パニックになっていた。
メイドは緊張するヒルダに気付き、そっと背中を押す。
「どうぞ、お掛けください。」
「ありがとうございます。
………あ、そうだ。つまらぬものですが、どうぞ。」
ヒルダは手に持っていた箱を差し出す。
「これは?」
「我が領の特産品である、スミレのハチミツです。お口に合えば、良いのですが……。」
「まぁ、気を使わせてしまったわね。」
パトリシアは穏やかに告げる。
「い、いえ!手ぶらでお邪魔するのは失礼だと、父が申しておりました!」
「ふふふ。では、遠慮なく頂こうかしら。
ハワード伯爵領のハチミツは王都であまり出回っていないから。貴重なものをどうもありがとう。」
ヒルダはカチカチに固まりつつも、席に着くと、4人だけのささやかなお茶会がスタートした。
(私の胃………持つかな?)
最初に切り出したのは、レティシアだった。
「実はね……。殿下が貴女と会っていること、知っていたわ。」
「そう、なんですか。」
「ええ。貴女に失礼なんだけども………。
王太子の女官候補か、公妾候補だと思っていたのよ。」
ヒルダはお茶を吹き出しそうになった。
(公妾って………公式の愛人ってことよな?ベルばらで読んだ。)
レティシアは小さく息を吐く。
「アリスから報告を受けて、私の勘違いだと分かったわ。」
レティシアは、そっとティーカップを置く。
「貴女は………王太子殿下にお近付きになりたいとは考えていない。そうよね?」
ヒルダもティーカップを置き、レティシアへ姿勢を正す。
「王太子殿下には、レティシア様という婚約者がいらっしゃいます。
婚約者がいる殿方と2人きりになる、という迂闊な行動を取るべきではないと考えております。
それに………私が迂闊な事をしたせいで、社交界や学園内であらぬ噂が広まり、王太子殿下やレティシア様のお立場が悪くなるのを、避けたいと思っております。」
暫く沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのも、レティシアだった。
「………その危機管理能力、素晴らしいわ。」
ヒルダは目を見開く。
(まさか……褒められた!?)
驚くヒルダを他所に、レティシアもパトリシアも笑顔で、アリスは深く頷いていた。




