公爵令嬢の側近は、仕事が早い
翌朝。
ヒルダは隣のクラスのドアの前に立っていた。
(……逃げるな、私。我が伯爵家の未来の為……!)
ヒルダは意を決して、教室へ一歩踏み出す。
教室をキョロキョロと見渡すと、近くにいた女子生徒が声を掛けてくれた。
「どなたか、お探しかしら?」
「あ、あの……アリス・ウィンヤード子爵令嬢は、どちらに?」
「少しお待ちになって。」
女子生徒は窓際で本を読んでいる少女に声を掛けた。
黒髪に赤い瞳の少女がヒルダを見て、キョトンと首を傾げる。
アリス・ウィンヤード子爵令嬢、レティシアの乳姉妹であり、側近でもある。
少女は立ち上がって、ヒルダの前に立った。
「お呼びでしょうか?」
「あ、あの……突然申し訳ございません。
私、隣のクラスのヒルダ・ハワードと申します。」
「ええ、存じておりますわ。学年トップ5の才女ですもの。……どうかされましたか?」
「あのですねぇ………おりいって、お話がありまして……。」
言い淀むヒルダの雰囲気を察したアリスは、そっと腕に手を添える。
「こちらへ。」
「はい。」
アリスはヒルダを連れて、人通りのない校舎の裏庭へと連れ出した。
「ここなら、お話出来ますわね。」
「お気遣い感謝いたします。」
ヒルダは数回深呼吸をする。
「あの、ですね。………自惚れてんじゃねぇぞ!って思われるかもしれませんが………。」
少し間を空けて、続ける。
「……近頃、王太子殿下と、お会いする機会が多くてですね。」
アリスは黙って話を聞く。
「殿下にはレティシア様という婚約者がいらっしゃいます。
ですから………私と、殿下が2人きりになるのは、良くないと思うんですよ。」
「……まぁ、そうですわね。婚約者のいる殿方と、迂闊に2人きりになるべきではありませんわね。」
「そう思って、極力お会いにならないようにしてるんですが…………。必ず、遭遇するんですよ。」
アリスは僅かに眉を上げる。
「………どちらで?」
「高等部の中庭で、初めてお会いいたしました。
それから、中等部と高等部の間の庭園、高等部校舎の庭園、図書館、中等部の図書館に中庭………。」
「まるで、吸い寄せられるかのように、殿下が現れになると?」
「はい。」
アリスは腕を組んで考える。
「………それ、付き纏われてるのでは?」
「………マジっすか。」
「一度や二度なら偶然と捉えられますが……。毎度毎度となると………。」
「ああ………。」
「………レティシア様からは私からお話いたします。おって、連絡いたしますわ。」
「ありがとうございます!」
「それから………なるべく、お一人にならぬように。放課後はすぐに下校された方がよろしいかと。」
「分かりました。」
その日からヒルダは、なるべく1人にならないようにして、授業が終わると、目にも止まらぬ速さで下校した。
「お嬢様、ローゼンベルク公爵家より、お茶会の招待状が届いております。」
「………ほんとう!?」
「はい。今週の土曜日にと。」
(取り敢えず、第一関門クリアかな……。)




