伯爵令嬢、世界にキレる
「……ああ、思い出した。」
ヒルダは遠い目をする。
「………どうしよ。草超えてジャングル……いや、青い彼岸花や。」
ゆっくりと顔を上げた。
(私、これから公爵令嬢の婚約破棄騒動の当事者になるってこと?)
彼女はしばらく黙り込んだ。
それから、静かに呟く。
「……やめてくれ。」
恋愛イベントはどうでもいい。
王太子の恋心も、原作ヒロインの恋路も、正直なところ知ったことではない。
だが…………。
王家と公爵家の政治問題に巻き込まれるのは、全力でお断りしたい。
「………場所、変えるか。」
ヒルダは全力で逃げることにした。
その日以降、ヒルダはお気に入りだった中庭を避けた。
「裏庭は………ダメだ。イベント発生する可能性が高い。」
学園内を彷徨いまくった結果、中等部と高等部のちょうど間に位置する庭園を見つけ、そこで読書していたのだが…………。
「やぁ、また会ったね。」
エドワードに出会してしまった。
(マジか……。)
ヒルダはにこやかに笑顔で応える。
王族であるエドワードを無碍にするわけにはいかず、適度に相槌を打ち、話をする。
(………偶然って可能性もあるけど。場所変えよ。)
そして、再び移動するのだが、そこでもエドワードに出会わす。
場所を変えてもエドワードに出会すこと、数回………。
ヒルダはキレた。
(おいぃぃぃ!!世界ぃぃぃ!!いい加減にせぇよぉぉぉ!!)
ヒルダは頭を抱えた。
(ぶっちゃけると、絶世のイケメンに声をかけられて悪い気はしない。
だけど……!!王家と公爵家の政治問題に巻き込まれるのは、まっぴらごめんなんだよぉぉ!!)
そして、ふと頭を上げる。
「このままだったら、私……公爵家から不貞行為と見做されて、慰謝料請求されんじゃね?」
前世では慰謝料を請求する側だったが、今世では慰謝料を請求される側に立つかもしれない……。
「……皮肉だな。」
ふっと笑う。
「いや!笑ってる場合じゃねえ!」
勢いよくベンチから立ち上がる。
「………お父様に、相談するか。」
ヒルダは腹を括った。
下校後、ヒルダは真っ先に父の執務室へと向かった。
「お父様は?」
「お庭で筋トレ後、ただいまシャワーを。」
「待ってていいかしら?」
「では、旦那様にお伝えいたします。」
執事に執務室を通され、ヒルダはソファで待つことにした。
暫くして、シャワーを終えたクロードが部屋に入ってくる。
「ヒルダ、どうしたんだい?」
「あの、お父様……ご相談が。」
「ん?どうした?」
クロードは向かいのソファに座る。
ヒルダは大きく息を吐いて、父を真っ直ぐ見つめた。
「私の、思い過ごしかもしれません。ですが……近頃、王太子殿下とお会いする機会が多くて……。」
「うむ。」
「殿下には、レティシア様という婚約者がいらっしゃいます。その……レティシア様が勘違いなされる可能性があると思いまして……。」
「ああ……。婚約者のいる男性と2人きりで過ごすのはまずいな。
お前に、その気がなかったとしても、公爵家がそう捉えるとは限らない。」
「ですよねぇ。」
「それで……レティシア様に弁明したいということか?」
「はい。」
クロードは腕を組んで考える。
「公爵家とは、小麦の売買で付き合いがあるとはいえ、親交のない令嬢に突然アポイントを取って、会いに行くのは失礼だ。それに、話を聞いてくれるとは限らない。
………まずは、レティシア様のお付きの令嬢に話を付けてみるのはどうだ?」
「………なるほど。」
ヒルダは立ち上がって、クロードに頭を下げる。
「ありがとうございます、お父様。まずはお付きの方に交渉してみます。」
「困ったら、いつでも頼りなさい。」




