そして神々は、オッズの前で唸る
天界では、女神と全王神が水晶板を覗き込んでいた。
水晶板に映し出されているのは、王太子エドワードとレティシアの盛大な結婚式である。
「私の筋書きとは違いますが……。幸せそうで何よりです。」
女神が微笑む。
「本当にね〜。」
全王神も、のんびりと頷いた。
水晶板の映像が切り替わる。
そこに映っていたのは、王太子夫妻の結婚式に参列しているヒルダとジョン。
そして、ジョンの腕に抱かれた、小さな女の子だった。
「あら、子供が生まれたのね。」
「女の子のようだね。」
「ふふふ。ジョンが抱いているから、豆粒みたいで可愛いわ。」
ジョンの大胸筋を枕にして、赤ん坊はすやすやと眠っている。
ヒルダがその頬をつつき、ジョンが困ったように笑った。
女神は、満足そうに目を細めた。
「……よかったわ。私の考えた筋書きとは違っても、みんな幸せになれたのね。」
「そういうことだね。」
その時だった。
「ちょっと聞いてぇぇぇーーー!!」
天界の扉が勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、別の世界を担当する女神である。
「世界チャンピオンの悪役令嬢に、ヒロインがリベンジマッチを挑んだわぁぁーーー!!」
「……あの、今それどころでは………」
「歴代のWBCチャンピオンたちすら唸る、世紀のタイトルマッチよ!!」
「君、性格変わってね〜。」
全王神が呆れたように呟く。
「こんな歴史的瞬間、見逃せませんわ!!」
「……はいはい。私どもも立ち会いますわ。」
女神は深々とため息をついた。
「皆様、ごきげんよう」
二神の背後から、優雅な声が響いた。
振り返ると、別の女神が一枚の大きな羊皮紙を抱えて立っていた。
「試合のオッズが確定いたしましたので、お持ちしましたわ。」
「「「……はい?」」」
「世界チャンピオンの悪役令嬢が勝つ方に三倍、ヒロインが勝つ方に二・五倍。引き分けは八倍ですわ。」
「ちょっと、お待ちください。」
女神が片手を上げた。
「なぜ、オッズが存在するのです?」
「なぜって……。賭けが成立しているからですわ。」
「誰が始めたのです!?」
「最初は観戦していた神々が、ちょっとした余興として……。」
「余興!?」
「それが今では、複数の世界の神々が参加する一大興行に。解説席の予約も埋まっておりますわ。」
「天界で何をやっているんですの!?」
「ちなみに、全王神様の予想は?」
オッズ担当の女神が、全王神へと視線を向けた。
全王神は腕を組み、真剣な顔で答えた。
「……悪役令嬢かな。前回の試合を見た限り、ヒロインはまだ踏み込みが甘い。」
「全王神様ぁぁぁ!?」
「いや、純粋な戦力分析だよ?」
「そうですわ! これは戦力分析ですわ!」
オッズ担当の女神が、ものすごい勢いで羊皮紙に書き込んだ。
「全王神様の予想が出ました!悪役令嬢のオッズを修正いたします!!」
「ちょっと待てぇぇぇ!!私の発言を相場に反映するなぁぁぁ!!」
天界に、全王神の叫びが響き渡った。
女神は額を押さえた。
「……創造主の斜め上どころか、天界そのものが斜め上に進んでおりますわ。」
「では、女神様も賭けますか?」
「賭けません!!」
「では、観戦席のご予約を。」
「……最前列でお願いします。」
「かしこまりましたわ!」
「何やってんの君ぃぃぃ!!」
こうして天界は、今日も平和だった。
――完!!!――




